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第4章 鎺に鞘
第18話 妖精王の咆哮
しおりを挟むシーバルは俺の無事を確認するかのように両肩を掴む。その瞳に息を飲んだ。今まで意識したこともなかった、暗く濁った何色かもわからないその瞳が、今は黄金に輝いている。
それに怯えていると、俺用の剣を鞘から抜いてそれを振りかぶって放り投げた。唯一の武器を放り投げる暴挙に驚き、その剣の行方を目で追いかける。しかし隣の巨体がとてつもない勢いでその後を追った。
シーバルの投げた剣は、すごい速さで回転して、その先にいた騎乗の男の首を刎ねた。かなり距離があったが、それがわかったのは飛び出した赤い血飛沫が空に舞い上がったからだ。
それに呆気に取られているうちに、シーバルはその男の場所まで駆けつけ、投げつけた剣と、男の武器を抜き取り、5、6人いた騎馬隊に次々と襲いかかっていく。
正確にいえば騎士だけに襲いかかったのではない。馬の足を斬り折って、落ちた騎士を切り裂き、俺にも使った体術で空に打ち上げた騎士を串刺しにする。
途中俺の足元に矢が刺さった。しかしそれが彼らの最後の抵抗だった。
空色の花畑に鮮血が舞う。さっきまで人間の形をしていた者たちが花びらを散らすように形を変えていった。
俺はその恐ろしさに腰を抜かして座り込んでしまった。それも束の間、背後から気配がしたような気がして、小さな悲鳴をあげてしまう。
次の瞬間、シーバルが俺の肩を抱く。なぜあんな遠いところから一瞬で。なにもかも理解できずにカタカタ震えていると、シーバルの向けた剣の先にニールさんがいた。
「袖付がなんの用だ!」
その咆哮に俺はシーバルを見上げる。シーバルの美しいプラチナブロンドが燃えるように赤く染まっている。そして顔も体も返り血で真っ赤だった。
「この下に馬車を手配しています。リノ様が怯えておりますので、妖眼をお鎮めください」
「シ、シーバル……矢が……!」
「リノ様。馬車で抜きます。ここは王宮外となっておりますので、どうか……」
シーバルは立ち上がるが、その影が揺らいだ。慌てて腕を自分の肩に回すと、俺の顔のすぐ横で荒々しい息が歯の隙間から漏れていた。いつも俺を軽々抱えるシーバルが、こんなによろめいているのは矢に毒でも塗布されていたのか。それに加え、温厚なニールさんが慌てふためいているのも俺の恐怖を煽る。
「シ、シーバルは……大丈夫……ニールさん、シーバルは……!」
「リノ様。大丈夫です。意識が混濁しているのは怪我のせいではありません。申し訳ございませんが馬車まで肩をお貸しください」
「はい、はい!」
ニールさんは反対側の腕を肩に回し、2人がかりで歩きはじめる。
ここに来るまで道らしい道なんてなかったのに、一体どこに馬車を乗り付けられるのだ、と焦燥感に駆られたが、丘を下ったすぐそばに街道とわかる道があり、少し歩いた先に馬車が停まっていた。
馬車にシーバルを乗せると、ニールさんは運転手側の壁をドンドン叩く。
「この馬車は結界が張られています。運転手が死亡しても馬が死亡しても、決してこの馬車から降りないでください」
「わか……」
俺の返事を遮り、馬車が急発進した。
「シルヴァル皇、失礼いたします」
ニールさんはシーバルの右腕の服を破いて、胸元から取り出したハンカチで右肩をきつく縛る。そしてなんの躊躇いもなく矢を引き抜いて、溢れだした鮮血を別のハンカチで押さえた。
俺はこの光景で、さっきの景色を思い出し身震いする。
「リノ様にお怪我はございませんか?」
「は、はい。シーバルが俺を庇って……」
言葉の隙間にカチカチと歯を鳴らしてしまう。
「よくご存知かと思いますが、シルヴァル皇はご自分の立場を弁えずリノ様のためになら無断で王宮をも抜け出します。リノ様もこういった行動はお控え……」
「黙れ! 貴様、つけてきたのなら、リノに責任がないことくらいわかるだろう!」
「幾度も申し上げておりますが、ご理解いただけないのでリノ様に……」
「リノには関係のない話だ!」
「関係ございます! シルヴァル皇、貴方の怪我など自業自得です! しかしその傷に心を痛めているのはリノ様です!」
灯が消えるようにシーバルの黄金の目が、スッと元の色に戻った。
「そうだな……すまなかった……」
瞳の色と同じように意気消沈したシーバルに、慌てふためいたのは他でもないニールさんだった。
「お、王宮の門をくぐれば記録が残りますが、抜け道を教えていただければそこで馬車を降ろすことができます。そうすればお父上に秘匿することができます」
ニールさんは早口で捲し立てる。しかしシーバルはその速度では回答しなかった。運転手が馬を急がせる鞭の音だけが響き渡る。
「どちらでもよい……」
「どちらでも……?」
ニールさんの困惑が、馬車の空気をかき混ぜる。彼の困惑は手にとるようにわかった。今日のシーバルはおかしかった。それが俺のせいだとわかっているのに、今この瞬間もシーバルが怖くて仕方がない。返り血が怖くて、彼を抱きしめることができなかった。
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