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第4章 鎺に鞘
第11話 残りの2名の襟元
しおりを挟む──明日はシルヴァル皇の襟元5名が護衛につきます。
確かに5名と言っていたはずなのに、3名しかいなかった。俺の聞き間違いなのか、それともニールさんの勘違いなのだろうか。
「シーバル、襟元って呼ばれてる人たちは護衛なの?」
「ふふっ、そうだよ。俺専属じゃなくて、国の精鋭部隊で、父上の護衛をすることもあるし、戦争になれば前衛に配置されることもある」
戦争。その言葉で自分自身の契約についても思い返す。少なくともこの百年、領地同士の諍いはあっても、他国との戦争の記録はない。歴史に疎いが、この百年は前任者の魅了の呪いによって、戦力を集めそして平和が保たれたのだ。
「襟元って何人くらいいるの?」
「第一襟元は5名、第二第三とあるけど、俺がよく見るのは第一だけだよ」
「じゃあ今日はその中で3人だけなんだ」
「王宮を出たら、後の2人もついてくるから安心して」
「襟元は王宮の外に住んでるんだ」
「うん。後の2人は人族とオークだから。王宮には入れないから、こうやって王宮の外に出た時の護衛か、戦争の時にしか一緒に行動しないよ。第二から下は大体エルフ以外の種族が多いかなぁ……」
シーバルは、なんでもないことのように言うが、俺には衝撃だった。確かに王政の事情はよくわからない。エルフが神との約束で手に入れた土地、という概要のみで、実際の王宮や王家についてなんの情報も持ち合わせていない。しかし王宮に他種族が入れないとは想像だにしなかった。
「俺が王宮に入れるのは特別なんだ……」
ただその事実に感嘆しただけだが、シーバルはまたなにか慌てだした。
「王宮の外に出るには手続きが必要だけど、でも一生出られないわけではないし……王宮外で婚姻を結んだならば……他種族の襟元みたいに……」
つまりは人族同士で婚姻を結べば、後で合流する2人の襟元のように、行事の時にだけ外で合流するということか。
「じゃあ、なんで献上なんて……」
疑問が口をついて出る。しまったと思った時には遅かった。
「アンドリューみたいにリノを守ってくれる人は少ないんだ。厄災の冬を乗り越えるまで守り抜くために、王家が庇護をするのが慣例だけど……慣例であって絶対じゃないから」
俺の胸が痛くなる困った笑顔。それを見ていられなくて視線を馬車の外に向ける。
王宮は俺の持ち合わせている言葉や常識では言い表せないことが多い。それは王宮の門にしても然り。門といえば鉄格子が一般的だが、王宮の門にはそういったものがない。塀の切れ間に水面のような面がそびえ立ち、そこを通過するだけなのだ。
エルフの里は王宮だけではない。王宮を囲む形で宮廷があり、そこを抜けた先でようやく馬の蹄の音が増えた。
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