妖精王の双剣-愛する兄弟のために身売りした呪われは妖精王に溺愛される

大田ネクロマンサー

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第4章 鎺に鞘

第8話 風と水が流れる場所

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神殿への道も両側の垣根で鬱蒼としていたが、ニールさんが立っていた先も鬱蒼としていた。中央の庭園と対をなす形で造られたのだろうが、俺はこの道に足を踏み入れたことがなかった。配置的にこの先は庭園からも繋がっていたし、シーバルも敢えて行かないことから、使用人の宿舎などがあるのだろうと勝手に思い込んでいたのだ。

だから道を進むにつれて川のせせらぎが聞こえてきた時には困惑した。庭園にも噴水や石製の水路など張り巡らされていたが、こんな音を出せるほどの水量ではない。

道を進み垣根が途切れた時、音の正体がわかった。滝が流れていたのだ。人工的に造られたであろう大きめの池に、滝の水が注ぎ込んでいる。池も滝も驚くほどの大きさではなかったが、その造形が美しくて思わず息を飲んだ。

池はここの水路と同じように石畳のようなもので縁取りされていて、そのすぐそばまで花や草が咲き乱れている。庭園が楽園ならば、ここは神聖な美しさがあった。

俺が通り抜けた道の斜め先に、見慣れた巨体が半分見えた。一瞬池の中に入っているのかと思ったが、多分、縁に腰掛けているのだろう。その先に別の垣根が見えたから、やはりここは庭園からも繋がっていて、シーバルはそこを通って来たのだ。それにしてもまるで天使が休憩しているような神秘的な光景だった。

その美しい景色を見れば、ニールさんはなにに配慮していたのだろうか、という疑問を拭いきれない。俺はところどころに生えている大きな木に身を潜めながらゆっくりとシーバルに近づいていく。

そしてシーバルに1番近い木に寄りかかった時、滝の音に紛れて不思議な音が紛れていることに気づいた。

木から頭だけを出してシーバルの様子を窺う。近くで見るとシーバルは揺れていた。そして右腕が上下していることを認識した時に、すべてを理解した。

荒々しく、切羽詰まった息遣いの合間に、俺の愛称。


──俺、まだそういうの、わからなくて……でも……。


俺は確かに人の思惑というものを推測する能力が乏しい。しかし今、この光景を見て理解できないほど、愚かでも薄情でもなかった。

シーバルはアンドリューに遠慮しているわけではない。俺があの時顔を逸らしたことに気づいていたのだ。

いても立ってもいられなくなり、俺はさっきと同じように、息を潜め、来た道を戻る。途中ニールさんの横を通ったが声をかける余裕がなかった。

思えば俺がここに来たあの夜もニールさんはここに立っていた。


──なんだか……大人の恋愛って感じだね……。


きっとあの夜、シーバルはこの先で泣いていたのだ。

不意に胸が熱くなって、込み上げそうになる。

どうしてこんなに愛してくれるのに、応えることができないのだ。なんであんなに寂しそうな背中を見なかったことにして帰ってこられるのだ。


──淫売が。


こんな時にまでアンドリューを思い出す薄情さに辟易する。

でも、アンドリューも今の俺と同じ気持ちをずっと抱えていたのだろうか──。


閃きのような気づきを得て、吹き荒れる自分の中の激情は行き場を失い、そして闇に消えていった。

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