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第4章 鎺に鞘
第3話 不意
しおりを挟む「シーバルは今日、全然汗をかかなかったね」
嫉妬とも羨望ともいえぬ他愛もない言葉を無視して、シーバルは俺を裸のままベッドに横たわらせる。
「薬草を塗るからちょっと待って」
「そんなにしなくたって大丈夫だよ」
「明日も馬上槍試合ごっこするんでしょ? そんなんだと明日、体中痛くなって動けなくなるよ」
自分でお願いした手前、そう言われてしまっては従う他ない。理不尽さを納得に変えていると、シーバルの熱い手のひらが俺の腕を掴んだ。ぬめりのある油のようなものだが、塗られたところがとても温かくなる。それに、手の力加減が絶妙で、俺の腕を搾り上げる時、血の流れる速度がはやまった気がした。
「シーバル、気持ちいい……ありがとう」
「腕はパンパンだね。明日はこんなになる前にやめよう。そんなに急がなくてもリノはちゃんと強くなっていくから」
「アンドリューがやろうって言いだしてから知ったんだ、馬上槍試合。でも実際の試合は見たことない……。シーバルは見たことある?」
「うん、ある。自分の動いてる姿って自分で見られないから、人の動きを見るとすごく勉強になるよ」
手首から肩にかけてぎゅーっと絞り上げられる。そしてパッと手が離れた時、とても気持ちがいい。
「本当は来月から国営の試合があるんだけど、来週あたりに前哨戦でも見に行ってみる?」
「ええ!? 行きたい! 行ってもいいの?」
「うん! よく来賓で呼ばれてるんだけど、人族同士の試合ってあんまり面白くないし……しかも観覧してると出場したくなっちゃうから、ずっと断ってたんだけど。リノと一緒だったらすごく楽しそう!」
「すごい……すごく楽しみ!」
シーバルは顔を紅潮させて笑うと、俺の片足を持ち上げた。
「いっ……」
「痛い!? 腕もすごいパンパンだったけど、足の方が疲労してるね……ちょっと我慢して、これは痛い?」
シーバルはゆっくり俺の片足を持ち上げて、自身の肩にかけた。動かすと痛いが、そうでなければ痛みはない。
「大丈夫、単なる筋肉痛だと思う」
「そっか、よかった」
なんてことはない。今までのシーバルの行動を考えれば、何気ない動作だった。シーバルは肩にかけた俺の片足を見るために顔を傾けた。プラチナブロンドの前髪が顔を傾けた拍子にサラサラと流れ、俺の片足に安堵の息が吹きかかる。
その時、体中がカッと熱くなってそれが急激に下半身に集まった。俺は慌てて手で前を隠そうとするが、自分が思っている以上に動きが遅い。
唐突に動きだした気配を不審に思ったシーバルの視線とぶつかる。その瞬間今度は顔が沸騰するほど熱くなった。
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