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第3章 揺れるカーテン(アンドリュー)
第6話 国の契約
しおりを挟む窓からの風がカーテンをゆらりと揺らす。その度に部屋の明るさがゆらゆらと変化した。
「なぜ百年に一度の契約は2つの家とだけ結ばれているのだと思いますか?」
カルロの暴露話の衝撃が頭をかき混ぜ、問われたところで整理ができない。
「保険では……ないのか?」
「そう、条文の任意ということを考えれば保険なのでしょう。しかしそれにしては少ないと感じませんか? 百年に一度ではあるが召し抱えられた長子は子をなさない。男であっても女であっても」
話の行方が見えない。カルロだけが知る道を後ろから眺めることしかできなかった。
「私の勝手な推測ですが、昔はもっと契約していた家があったのではないでしょうか」
つまりは、不妊や事故などの予期せぬ全滅の保険にしては契約を結ぶ家が少ない。現在のシュトラウス家とキルステン家は淘汰された結果だ、とカルロは推測する。
「王族はエルフですしね。人間なんてただの道具くらいにしか思っていないのでしょう。だからその宿命で被る不幸なんて見向きもせず、家が滅びようとお構いなし。なかなか腹立たしいじゃないですか」
確かに先代やリノールが順当に子孫を増やせるようには思えなかった。それは性別というより、過度な魅力は身を滅ぼすといった理由の方がしっくりくる。先代がこの家を離れゆっくりと狂っていったのも、そうした望まぬ関係を避けて孤独になったから、といえるのではないか。
「どうせ滅びるのだったら、せめて愛する人と人生を謳歌してほしい。人間を道具のように扱うエルフが、貴方ほどリノール様を愛せるとは思えない」
話している内容にはそぐわない爽やかな風がカーテンを揺らし続ける。リノールの肌が、揺れているようなのだ。
「王宮に書簡を送付します」
「俺に自由意志はないのか」
「内容はお任せください。リノール様が恐れることは大体わかっています。ただし、一度召し抱えられた者は自らの意思で王宮からは出られないでしょうから……」
「俺に……」
「そういえばアンドリュー様は馬上槍試合ではどの程度の腕前なのです?」
とりつく島がないとはこのことだ。しかも今、なぜ馬上槍試合が関係あるのだ。
「来月から定期的に国営の試合があるそうです。賞金もはずむようですし慣例的に次期国王と伴侶も観覧されるそうです。ちなみに国王は厳格な任期制で、リノール様を召し抱えたのは次の国王です」
「俺は……」
「まさか赤の他人が、リノール様の財産に手をつけるわけではございませんよね? どの道、賞金を稼がなければならないのです。腕に自信がないのであれば、来月までにその辺の領地で小金を稼いでください」
意思どころか、発言権さえ奪われた。
「欺くための方便に、あんな甲冑など無駄だと止めたのですが。いやはや、リノール様の先見の明には感服いたします。剣はこの家に代々受け継がれるものがございますので」
カルロは畳みかけるように喚き散らしながら歩きだし、乱暴に扉を閉める音で最後を飾った。
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