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第3章 揺れるカーテン(アンドリュー)
第1話 御伽噺
しおりを挟む誰もが女の股から生まれるというが、俺はそれを御伽噺だと思っていた。
「お前の父親は領地に所属しない騎士で、賞金を稼ぎに出場しては負けて帰ってくるボンクラだった」と、所属していた窃盗団員が笑っていた。しかし息子は物心ついた時には剣で馬車を襲っていたのだから、父が騎士であったことは間違いないのであろう。
俺の父親は窃盗団の男たちが作り上げた虚像だったが、母親については虚無だ。
そんな俺の前に、母親になるという女が現れた。物心ついた時に拾われたのだから、本当の母親でないことくらいわかる。俺を拾った女をキリーという。
キリーは窃盗団に詐欺を働き、集団暴行に遭っていた。子どもの作り方を教えてやると連れてこられた俺はその光景が歪に見えた。御伽噺にしては醜く歪んでいたのだ。
だから犯していた団員すべてを殺した。そうした暴力で、俺は虚偽の母親を手に入れた。暴力で子を成すのだから、その逆をやったまでだ。
「アンドリュー様。本日の叙任の儀式について、お話ししたいことがあります」
中央階段で肖像画を眺めていたら、使用人カルロに呼び止められ、行く手を阻まれる。この家の中央階段には当主が愛した妻、そしてリノールの母の虚像が飾られていた。
「応接間までお越しください」
「カルロ、リノはどこへ行った」
今日は胸騒ぎで起きた。正確には夜中走りだした馬車の音が気になってあまりよく眠れなかった。
「そのお話でございます」
「今、ここで言え」
「リノール様は、この家に古くから伝わる百年に一度の招集に発たれました」
疑問符が浮かぶ。それを払ってカルロの胸ぐらを掴んだ。
「アンドリュー様。貴方の激情ではどうにもならないこともございます。だから手立ても講じ、今こうして説明の機会を……」
「なぜ貴様はそれを……!」
「貴方が放り出した決断を、私に求めるのはおやめください! 一刻を争う、だから大人しく応接間に来いと言っている!」
余裕のないカルロの怒声が真実たらしめる証明だった。階下の女中の視線を避け、応接間へ急ぐ。
俺が応接間の椅子に腰掛けるなり、テーブルにいくつもの古い書類を投げ出した。
「家中をひっくり返しましたよ。招集の書簡が届いてから2年。集められた情報はそれだけです」
「2年……?」
「国とシュトラウス家の契約を知ったのは書簡が届いた時、アンドリュー様が遠方の領地へ旅立ったすぐ後です。国の招集は百年に一度。シュトラウス家もしくはキルステン家のどちらかの長子を国王に献上する。男女は問わず、国王との婚姻を前提としない。任意なのはキルステン家の子息もご存命だったからです」
「ではなぜ」
「困窮。表向きはそう仰っていましたが、私はそのようには思えません。それにはアンドリュー様にも心あたりがございましょう」
お互い理解していることは話す手間も惜しい。そうカルロは視線を投げ出し、俺の八つ当たりを回避した。そうした態度の端々が、俺を馬鹿にしているようで癪に障る。
「国王……エルフ族になぜ人族の献上など……婚姻が前提でないのなら、なにが目的なのだ……」
「アンドリュー様の意思にかなう契約なのか、私もそこを重点的に調べましたが、詳細は不明でした。しかし、キルステン家に問い合わせてみて、わかったことはひとつ。任意と謳い、婚姻を前提としないとしながら、これまで献上された令息、令嬢のほとんどが国王と婚姻を結んでいます」
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