18 / 80
第3章 揺れるカーテン(アンドリュー)
第1話 御伽噺
しおりを挟む誰もが女の股から生まれるというが、俺はそれを御伽噺だと思っていた。
「お前の父親は領地に所属しない騎士で、賞金を稼ぎに出場しては負けて帰ってくるボンクラだった」と、所属していた窃盗団員が笑っていた。しかし息子は物心ついた時には剣で馬車を襲っていたのだから、父が騎士であったことは間違いないのであろう。
俺の父親は窃盗団の男たちが作り上げた虚像だったが、母親については虚無だ。
そんな俺の前に、母親になるという女が現れた。物心ついた時に拾われたのだから、本当の母親でないことくらいわかる。俺を拾った女をキリーという。
キリーは窃盗団に詐欺を働き、集団暴行に遭っていた。子どもの作り方を教えてやると連れてこられた俺はその光景が歪に見えた。御伽噺にしては醜く歪んでいたのだ。
だから犯していた団員すべてを殺した。そうした暴力で、俺は虚偽の母親を手に入れた。暴力で子を成すのだから、その逆をやったまでだ。
「アンドリュー様。本日の叙任の儀式について、お話ししたいことがあります」
中央階段で肖像画を眺めていたら、使用人カルロに呼び止められ、行く手を阻まれる。この家の中央階段には当主が愛した妻、そしてリノールの母の虚像が飾られていた。
「応接間までお越しください」
「カルロ、リノはどこへ行った」
今日は胸騒ぎで起きた。正確には夜中走りだした馬車の音が気になってあまりよく眠れなかった。
「そのお話でございます」
「今、ここで言え」
「リノール様は、この家に古くから伝わる百年に一度の招集に発たれました」
疑問符が浮かぶ。それを払ってカルロの胸ぐらを掴んだ。
「アンドリュー様。貴方の激情ではどうにもならないこともございます。だから手立ても講じ、今こうして説明の機会を……」
「なぜ貴様はそれを……!」
「貴方が放り出した決断を、私に求めるのはおやめください! 一刻を争う、だから大人しく応接間に来いと言っている!」
余裕のないカルロの怒声が真実たらしめる証明だった。階下の女中の視線を避け、応接間へ急ぐ。
俺が応接間の椅子に腰掛けるなり、テーブルにいくつもの古い書類を投げ出した。
「家中をひっくり返しましたよ。招集の書簡が届いてから2年。集められた情報はそれだけです」
「2年……?」
「国とシュトラウス家の契約を知ったのは書簡が届いた時、アンドリュー様が遠方の領地へ旅立ったすぐ後です。国の招集は百年に一度。シュトラウス家もしくはキルステン家のどちらかの長子を国王に献上する。男女は問わず、国王との婚姻を前提としない。任意なのはキルステン家の子息もご存命だったからです」
「ではなぜ」
「困窮。表向きはそう仰っていましたが、私はそのようには思えません。それにはアンドリュー様にも心あたりがございましょう」
お互い理解していることは話す手間も惜しい。そうカルロは視線を投げ出し、俺の八つ当たりを回避した。そうした態度の端々が、俺を馬鹿にしているようで癪に障る。
「国王……エルフ族になぜ人族の献上など……婚姻が前提でないのなら、なにが目的なのだ……」
「アンドリュー様の意思にかなう契約なのか、私もそこを重点的に調べましたが、詳細は不明でした。しかし、キルステン家に問い合わせてみて、わかったことはひとつ。任意と謳い、婚姻を前提としないとしながら、これまで献上された令息、令嬢のほとんどが国王と婚姻を結んでいます」
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる