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第2章 花王の庭
第5話 大人の恋愛
しおりを挟むシーバルは昼食を持った使用人とともに戻ってきて、食事に昔話の花が咲く。でもかつての馬上槍試合ごっこだけでは間がもたなくなって、自然と俺とアンドリューの5年間の話になっていった。
「なんだか……大人の恋愛って感じだね……」
「恋愛って……使用人にも大失敗って笑われたよ」
「なんで? アンドリューはきっとリノを取り返しにくるよ」
「シーバルにライバル心を燃やしていても、そんなことまでしないよ」
確かに昨日、馬上槍試合ごっこのくだりでアンドリューは異常なほど怒りだしたが、それは俺への敵意であって、いつまでもそんなことを引き合いにだすほど執念深くはないだろう。子どもの頃の話だ。
「でも甲冑か……。アンドリューはそんな態度だったかもしれないけど心の中ではきっと喜んでたよ。甲冑をもらうなんて、男は誰でも憧れるからな……。すごく、大人なプレゼントだよ……」
「そうだといいな……」
温かな陽気も相まって予期せずあくびをしてしまう。その口元を見てシーバルは笑った。
「昨日、あんまり寝てないんでしょ。少し横になりなよ」
また俺は宙に浮いてベッドに寝かされる。
「すごい大きなベッドだ。これ、シーバルのベッドなの?」
「う、うん」
「じゃあ一緒に昼寝しよう」
「お、俺は大丈夫」
「そっか……なんかひとりじめ、してるみたいで……」
まだ日が高いのに、今日までの疲労でスッと眠りに落ちてしまった。今日まで、と区切るには長い間重いものを引きずってきた気がする。祝福されるような光の中で微睡むことなんて、この5年間たった一度もなかった。
次に目覚めた時はすっかり日も暮れていて、その背徳感から夕食が喉を通らなかった。心配したシーバルが寝るまでそばにいると聞かなかったから、寝たふりをしてみたが、やっぱりこうやって夜中に目が覚めてしまう。
部屋を見渡してみると、さっきまでいたシーバルがいない。瞬間的に眠ってしまったのだろうか。それにしてもなぜシーバルは自分のベッドで寝ないのか不思議でならない。俺に遠慮しているのならば申し訳ないような気がして、ベッドを抜け出し探しに歩いた。
屋敷はとても広いのだが、夜ともあってか人っ子ひとりいない。普通、使用人くらいいそうなものだが、王の住まいともなると眠りを妨げないために夜は締め出されるのだろうか。
仕方なしに開け放たれたままの扉を通過して、今朝到着した庭園に足を向ける。空を見上げれば結界とやらに区切られた満月が煌々と輝き、やはりこれは作り物の天井ではない、と思い知らされた。
「リノ様?」
愛称と敬称が入り混じる不思議な呼びかけに立ち止まる。目の前には朝に別れた運転手が心配そうにこちらを窺っていた。
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