妖精王の双剣-愛する兄弟のために身売りした呪われは妖精王に溺愛される

大田ネクロマンサー

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第2章 花王の庭

第4話 花の咲き乱れる部屋

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シーバルの用意してくれた服は、俺の住む地方では見たことのない意匠だった。しかしとても肌触りが良く柔らかい。辺境住まいだから流行りには疎いが、これが高級なものだ、ということくらいはわかる。

垂れ下がる袖が少々動きづらいと感じるが、上下ともに、ゆったりしていながら、しかし細い俺でも履き物がずり落ちないように紐で縛り上げられる工夫が凝らされていた。


「シーバル、この服、とても上等な物なんじゃない?」


さっきは脂汗を浮かべ目を瞑っていたからわからずにいたが、部屋に戻った時、甘い匂いの根源を理解する。部屋中のそこかしこに花が飾られていたのだ。花瓶に挿しているなんていう生易しいものではない。どうなっているのか不明だが、天井から吊された玉のようなものからも花が咲き乱れていた。


「すごい……きれいだ……。夏なのにこんなに花が咲く地方があるなんて……! シーバルは花が好きなの?」

「うん。リノはお花好き?」

「好きだよ!」


まるで楽園のようだ。建物も服も上等で、浮き世離れしている。それに窓辺に腰掛けるシーバルも、黙っていれば昔の面影など感じられないほど、素敵な紳士だった。その豪華絢爛さで思い出したことがあった。


「あ……そういえば……」

「な、なに?」


シーバルは急に慌てだす。その取り乱しようがなにかを隠しているようで不安が募る。


「シーバルは国王って本当?」

「うん。次の国王。これは本当だし、生贄とか奴隷とか、酷いことしないから安心して」

「陛下……? でいいかな。ごめんそういった教養がなくて。俺は今日からどんな勤めをすればいいのか……教えてほしい……」

「呼び方は、シーバルの方がいいな……」


それきり、シーバルは黙ってしまった。俺が呆然と立ち尽くしていると、シーバルは俺を椅子に座るよう腕を上げる。ビショビショの袖から雫を垂らしながらも、その所作は優雅なものだ。


「友達として……遠慮とかしなくてもいい。ちゃんと今日ここに招集された意味を知りたいんだ」

「百年だと人間は5世代変わるんだもんね」


人間の儚さに憐憫を感じているのか、忘却の薄情さに憤りを感じているのか、シーバルの口ぶりからは推測することさえできない。ただ彼が濡れた服をわずかに握ったのだけは見逃さなかった。


「形骸的なしきたりなんだ。だから事細かくは決まっていないんだけど、今日からリノはここで暮らさないといけない。それで……そうだな……側近っていえばわかるかな? 催し物とかがあるんだけど、それを俺と一緒に観戦する……とかかな?」


随分と歯切れが悪いが、つまりは護衛兼、秘書官といったところだろうか。しかし国の仕事とはいえ、一括であんな金額だ。召し抱えるにはあまりあるような気がする。


「本当にそれだけ……?」


シーバルの硬く握られた拳の力が抜けない。きっとなにかを隠しているのだ。


「それだけだから……困るんだよな……」

「困る? 隠さずに言ってほしい」


少し語気が強かっただろうか。まるで怯えるように震える手が伸びてきて、俺の指先にそっと触れる。さっき濡れたからであろう、シーバルの指は冷たかった。それに驚き手を引っ込めると悲しい声が響いた。


「まだアンドリューが好き?」


夏の熱気が窓から入って、花の匂いが舞い上がる。


「ごめん、昨日の今日で。こんなこと言われても困るよね。着替えてくる。誰かが大暴れしたせいでビショビショだよ」

「それはシーバルがくすぐったからだろ!」


彼は笑って席を立つ。しかし、その後ろ姿にまだ隠し事があるようで、胸から不穏な影が消えない。
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