12 / 80
第2章 花王の庭
第3話 最悪な再会
しおりを挟む腹の痛みには心あたりがあった。
原因はアンドリューのとの行為だ。
対処法はわかってはいたが、昨日は2年ぶりだったし、なによりも時間がなくてそのまま放置してきてしまった。
担ぎ入れられた部屋はやけに明るく、甘い匂いがさらに強い。シーバルは俺をベッドに寝かせると、薬を取りに行くのか立ち上がろうとした。
「シーバル、原因はわかってるんだ。沐浴をさせてくれないかな……」
「沐浴……? お腹が痛いのに体を冷やしちゃダメだよ。汗が気持ち悪いなら拭いてあげるから……」
痛みは最高潮に達して、ベッドの中でさらに丸まる。原因をはやく掻き出したい衝動と、止まらぬ脂汗に喘いでいたら、服の中になにかが侵入してきた。
「え……?」
「人間よりは病に詳しい。一応エルフなんだから」
妙に説得力のある物言いで、シーバルは俺の腹を押し、そして上下の服を取り払った。男同士とはいえ羞恥から腕で前を隠したところで、シーバルが息を飲む。
「アンドリュー……?」
おそらく俺の尻から流れ出た白濁を見たのだろう。その洞察力に驚いている間に、俺はまた宙に舞った。シーバルが俺を抱えて、途中の扉を片足で開ける。その先に用意された大きな桶にシーバルの腕ごと入った。水溜まりかと思って身を縮めたが、入ってみれば人肌くらいに暖められたお湯であった。
「シ、シーバル、袖が濡れてる!」
「うん。リノ、恥ずかしいかもしれないけど、よく見せて」
お願いしているようでいて強制的に俺を桶の淵に追いやり、そして腰を掴んだ。湯面から出た尻の両頬をそっとかき分けて、シーバルはそこを眺めているようだ。
「アンドリューは随分と乱暴にリノを抱くんだね。少し腫れてるから薬草を持ってくる」
「だ、大丈夫! 掻き出せば治るから」
「アンドリュー以外には触られたくない?」
少し険のある声色に驚いて振り返ると、シーバルは顔を背けていた。ごめん、と短い言葉を置いたら、ゆっくりと指を差し入れられる。少しの不快感に歯を食いしばっていると、シーバルは掻き出したものを大きな桶の外で流しはじめた。
「へ、部屋に水を撒いて大丈夫なの!?」
床に汚水をばら撒く暴挙に驚きの声をあげると、シーバルは声をあげて笑った。
「リノ、こっちをよく見てみて。ここに排水溝っていうのがあって、ほら。台所と同じ原理だよ。この部屋全体がこうなってるから、どんなに暴れ回っても……」
そう言いながら、シーバルは俺の脇腹をくすぐった。
「あははははっ! っやめ、やめろ! やめて!」
水飛沫をあげて抵抗しているのに、シーバルはくすぐることをやめない。だから予想以上に暴れ回ってしまい、結果シーバルの服をビショビショに濡らしてしまった。
2人顔を見合わせ大笑いをしたら、急に馬上槍試合を思い出した。
「アンドリューはシーバルに一度も勝てなかった。いつもすごく悔しそうにしてて」
「うん……俺も必死だったからね」
シーバルはなんだか困ったように笑った。
「アンドリューは領地の当主になることをずっと拒んでいたんだ。だから叙任の儀式をするって嘘をついてアンドリューを呼び戻した。きっとシーバルが来てくれたら、ひと時の嘘でも喜んでくれるかと思って……」
「それで俺を探してたんだ」
まるで聞きたくないとでも言わんばかりに、シーバルは俺の言葉を遮る。
「シーバルはアンドリューに会いたくなかった?」
「さあね……」
急に冷たい物言いで会話が途切れる。てっきりシーバルとアンドリューは固い友情で結ばれていると思っていたから、寂しい気分になる。あの抱擁と祝福のキスにずっと憧れていたのに。それが幻想とは俄に信じ難かった。
「少し体を温めた方がいい。少し浸かったら出てきて。新しい服、そこに置いてあるんだ。気に入ってくれるといいけど」
シーバルは寂しそうに呟いて、そのまま部屋を後にした。
1
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる