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第2章 花王の庭
第3話 最悪な再会
しおりを挟む腹の痛みには心あたりがあった。
原因はアンドリューのとの行為だ。
対処法はわかってはいたが、昨日は2年ぶりだったし、なによりも時間がなくてそのまま放置してきてしまった。
担ぎ入れられた部屋はやけに明るく、甘い匂いがさらに強い。シーバルは俺をベッドに寝かせると、薬を取りに行くのか立ち上がろうとした。
「シーバル、原因はわかってるんだ。沐浴をさせてくれないかな……」
「沐浴……? お腹が痛いのに体を冷やしちゃダメだよ。汗が気持ち悪いなら拭いてあげるから……」
痛みは最高潮に達して、ベッドの中でさらに丸まる。原因をはやく掻き出したい衝動と、止まらぬ脂汗に喘いでいたら、服の中になにかが侵入してきた。
「え……?」
「人間よりは病に詳しい。一応エルフなんだから」
妙に説得力のある物言いで、シーバルは俺の腹を押し、そして上下の服を取り払った。男同士とはいえ羞恥から腕で前を隠したところで、シーバルが息を飲む。
「アンドリュー……?」
おそらく俺の尻から流れ出た白濁を見たのだろう。その洞察力に驚いている間に、俺はまた宙に舞った。シーバルが俺を抱えて、途中の扉を片足で開ける。その先に用意された大きな桶にシーバルの腕ごと入った。水溜まりかと思って身を縮めたが、入ってみれば人肌くらいに暖められたお湯であった。
「シ、シーバル、袖が濡れてる!」
「うん。リノ、恥ずかしいかもしれないけど、よく見せて」
お願いしているようでいて強制的に俺を桶の淵に追いやり、そして腰を掴んだ。湯面から出た尻の両頬をそっとかき分けて、シーバルはそこを眺めているようだ。
「アンドリューは随分と乱暴にリノを抱くんだね。少し腫れてるから薬草を持ってくる」
「だ、大丈夫! 掻き出せば治るから」
「アンドリュー以外には触られたくない?」
少し険のある声色に驚いて振り返ると、シーバルは顔を背けていた。ごめん、と短い言葉を置いたら、ゆっくりと指を差し入れられる。少しの不快感に歯を食いしばっていると、シーバルは掻き出したものを大きな桶の外で流しはじめた。
「へ、部屋に水を撒いて大丈夫なの!?」
床に汚水をばら撒く暴挙に驚きの声をあげると、シーバルは声をあげて笑った。
「リノ、こっちをよく見てみて。ここに排水溝っていうのがあって、ほら。台所と同じ原理だよ。この部屋全体がこうなってるから、どんなに暴れ回っても……」
そう言いながら、シーバルは俺の脇腹をくすぐった。
「あははははっ! っやめ、やめろ! やめて!」
水飛沫をあげて抵抗しているのに、シーバルはくすぐることをやめない。だから予想以上に暴れ回ってしまい、結果シーバルの服をビショビショに濡らしてしまった。
2人顔を見合わせ大笑いをしたら、急に馬上槍試合を思い出した。
「アンドリューはシーバルに一度も勝てなかった。いつもすごく悔しそうにしてて」
「うん……俺も必死だったからね」
シーバルはなんだか困ったように笑った。
「アンドリューは領地の当主になることをずっと拒んでいたんだ。だから叙任の儀式をするって嘘をついてアンドリューを呼び戻した。きっとシーバルが来てくれたら、ひと時の嘘でも喜んでくれるかと思って……」
「それで俺を探してたんだ」
まるで聞きたくないとでも言わんばかりに、シーバルは俺の言葉を遮る。
「シーバルはアンドリューに会いたくなかった?」
「さあね……」
急に冷たい物言いで会話が途切れる。てっきりシーバルとアンドリューは固い友情で結ばれていると思っていたから、寂しい気分になる。あの抱擁と祝福のキスにずっと憧れていたのに。それが幻想とは俄に信じ難かった。
「少し体を温めた方がいい。少し浸かったら出てきて。新しい服、そこに置いてあるんだ。気に入ってくれるといいけど」
シーバルは寂しそうに呟いて、そのまま部屋を後にした。
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