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第2章 花王の庭
第1話 用意された別邸
しおりを挟む明朝、馬車は宮廷に入ったらしい。どこか他人事なのは、なにも俺が辺境の領主だったからではない。この国の領主のほとんどが国王及び中央法権に関わりがない。
なぜならば、王政の中枢はエルフと呼ばれる種族が担っているからだ。この大地は彼らが神との契約で得た地であり、いわゆる人族やその他種族は、エルフから間借りした土地で細々と暮らしているに過ぎない。
だから我が家のしきたりが不明なのだ。
「リノール様。到着いたしました。王は用意された別邸でお待ちしております」
馬車はすごい速度で飛ばしていたため、ガタガタ揺れて一睡もできなかった。開け放たれた扉の外の光が思った以上に目に染みる。
運転手が馬車の外で膝をついて待っている。昨日の夜は気づかなかったが、この運転手もまたエルフなのだ。長く尖った耳をそばだてて俺の行動を注意深く観察していた。
「昨日は、だいぶお待たせして申し訳ございませんでした。約束どおり到着させてくれて感謝申し上げます」
運転手の耳がピクッと揺れる。あまり膝をつかせたままでは、と返答を待つ間もなく、馬車の外に飛び出す。そして目の前に広がる美しい景色に絶句した。さまざまな花が咲き乱れる美しい庭園だったのだ。
「夏とは……思えない……」
領地の夏に咲く花もあるが、原色の強い限定された花だけだ。春を疑う色とりどりの花たちに圧倒させられる。よく見れば石造りの水路が張り巡らされ、ところどころに噴水があった。そこから噴き出す水の放物線が光を反射している。その光を辿って空を見上げた時、さらなる衝撃があった。
「ここは……屋外ではないのか……?」
それは空が格子状の不思議な線で区切られていたから出た言葉であった。俺の落とした感嘆を拾い上げるように運転手は立ち上がり、そして一礼をした。
「あれは結界でございます」
「結界……?」
「ここは王宮です。外敵からの防衛に、何重にも結界が張り巡らされております。ここは安全ですのでどうかご心配なさらず。この先の建屋で王がお待ちです。私はここまでと申しつけられております」
運転手が震える腕で示す右手には、確かに石造りの道があり、その先に白く美しい宮殿があった。
「ありがとうございます。あ……の……これを……」
運転手の震える手にわずかながらの報酬を握らせる。あまりの少なさに申し訳なさがたって、足早に道を急いだ。
先程のひらけた庭園から一転、道は左右が鬱蒼と茂る垣根の中心にあった。先に見える白い宮殿は、領地では見ることもない曲線で構成された珍しい建物だ。
昨日までの薄暗い想像を美しい景色が塗り替えていく。今日はてっきり衛兵に両腕を掴まれ、暗い運命の言い渡しをされる想像をしていた。
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