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第1章 空の鞘
第5話 歪な兄弟 ※
しおりを挟むアンドリューの部屋へ上がる階段の正面に、母の肖像画がある。
実母は俺を産み落として亡くなった。だから俺にとってはこの肖像画が母だった。
父は母を心の底から愛していたから、亡くした悲しみを埋めるため女関係が乱れたのだ、とカルロは俺に言い聞かせていた。しかし俺が8歳の時、同じ歳のアンドリューと母のキリーが現れたことにより、その理論は崩れ去った。誕生日が3日違い、つまりは母が存命の頃から父は色狂いだったのだ。
一方アンドリューの母、キリーは気丈で政治に才のある女性だった。この屋敷を空けて奔放に遊び回る父に代わり、領地の切り盛りをしてくれた。
だから次期当主はアンドリューと屋敷中の人間が疑わなかった。その屋敷の雰囲気がキリーとアンドリューを優しくさせていたのか、今となってはわからない。
「アンドリュー……」
扉の前で声をかけるも、応答はなかった。時間も差し迫っていることから俺は扉を開けてしまう。月明かりに照らされたアンドリューの輪郭に、名前を呼ぶことすら許さない怒りが滲んでいた。
父が急逝後、俺はキリーにも、アンドリューにも当主交代を懇願した。当主の座を渡してでも彼と暮らしたかったのだ。しかしその甲斐虚しくキリーは行方をくらませてしまった。
それからだ。アンドリューが俺の言葉に耳を傾けなくなったのは。なにをやっても裏目に出て、今日というこの日にまで追い込まれた。
俺はアンドリューの座る椅子の前に膝を折って座る。そして両手を自分の背中に回して固く握る。これは無言、無抵抗という絶対服従を表す最大限の礼節だ。
頭を下げて後ろで握った両手を見せれば、アンドリューはゆっくりと股を開く。2年も前の暗黙の了解が通じた安堵で、心の端が焼けるように痛い。
俺は注意深くアンドリューの股間に唇を寄せる。そして服の上から彼の雄を呼び起こすのだ。
「カルロはこのことを知って、使用人を女にしたのか?」
俺はアンドリューの腿の間で首を振る。確かにカルロはなんでも知っているがこのことだけは知らない。
後頭部の髪の毛を下に引っ張られ、強制的にアンドリューの瞳を仰ぐ。
「それでは、お前がどこぞの男をたらし込んだからカルロは使用人を女だけにしたのか?」
俺は必死に首を横に振る。使用人のことなど、指摘されるまで気づかなかった。アンドリューは薄ら笑いを浮かべ、自身の履き物をずらした。そこから姿を現した雄々しい昂りを俺の口に突っ込む。
「では、2年も、どうしていたというのだ」
回答を求めているようでその実、なにも求めていない。俺を辱めたいだけなのだ。だから喉の奥で繰り返される嗚咽の痙攣を我慢しながら、アンドリューを何度も受け入れる。
父が逝去してからの3年間。この関係は唐突にはじまった。当然といえば当然だったのかもしれない。
俺は彼こそがこの屋敷の当主に相応しいと思っていたし、離れ難かった。だから当主になってもらうよう懇願したが、彼はそんなことよりも母を追いかけたかったのだろう。そんな彼の口にできない望みを封じ、家に縛り付けてきたのだ。
「うぅ──っ!」
唐突に陰茎を抜かれて、さっきの料理を吐き出しそうになる。それを堪えて肩で息をしていると、アンドリューの声が降り注いだ。
「どうしていたのか、と聞いている」
俺は自分の履き物を下ろして、膝立ちになる。これで許しを請えるかと思って見上げたが、彼はそんなものでは許されないという無言と視線を落とした。
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