妖精王の双剣-愛する兄弟のために身売りした呪われは妖精王に溺愛される

大田ネクロマンサー

文字の大きさ
上 下
5 / 80
第1章 空の鞘

第3話 乾杯

しおりを挟む


「アンドリュー……おかえりなさい!」


まだ酒を飲んでいないのに顔が熱い。それを誤魔化すためにやけに砕けた乾杯になってしまった。不安になってグラスを掲げた先を見つめると、アンドリューが困ったように笑っている。

2人、静かにワインを煽って再び目が合うと、どうしたらいいかわからなくなって料理に視線を落とす。我ながら立派な料理になった。荘園内の増税をすることもなく、困窮していることを使用人に悟られることなく、うまく乗り越えるには苦労の連続だった。うまい理由をつけて最近は1日1食で節約していたから、なおのこと料理が輝いて見える。


「知っている顔はカルロだけになってしまったな。やけに女が多いのはリノの趣味か?」


思ってもみないアンドリューの質問に、ついカルロを見てしまう。


「元来、女性の方が希望者は多いのです。先代がご存命の時には私の一存で男性を多く採用しておりました」


なるほどね。そう含みのある笑みを浮かべて俺を見やる。それが責められているようで視線を外してしまった。


「ぁ……アンドリュー、馬上槍試合に何度も出場していると聞き及びました」

「なぜ、今それが関係ある?」


失敗したと思った。俺とアンドリューとでは立場が違うのだ。それはたった3日違いの長男と次男といった立場ではない。


「気になる……貴婦人でもいるのかと……」

「なるほど。領地持ちの未亡人の気を引くために試合に臨んでいるとでも?」


隠せなていない怒気で空気が凍る。その冷気でせっかくの料理が冷めてしまうのが心苦しかった。嫉妬心を隠しアンドリューの本心を探りたかったが、これ以上深入りしても拗らせるだけだと観念する。


「いいえ。昔よく、馬上槍試合ごっこをしたのを覚えていますか?」


俺の本心を隠したまま今日というこの日を最良にしたい、その一心で童心に呼びかける。その唐突さからだろう、彼は不可解といった顔で呆然とした。


「よく荘園の子らも混じって本番さながらで試合をして……。俺はアンドリューと戦いたかったのに、いつもシーバルに邪魔をされて。覚えていますか? シーバル」

「あ、ああ……」

「父上が亡くなった頃から見かけなくなって、もう5年も連絡がつかない。今日、アンドリューが帰省するとなった段でもう一度探してみたのですが、ついぞ見つかりませんでした」


カトラリーが投げ出された音に驚き、テーブルの先を見る。


「く、口に合わないものでもありましたか……?」

「いいや、リノ。随分と痩せ細っていたから心配したが、いい暮らしをしているようでなによりだ。少なくとも俺は祝杯ですらこんな料理を食べたことはない」


アンドリューの後ろから声をかけようとした使用人カルロを、俺は睨みつけそれを制した。


「シーバル? 今更そんな小僧を呼び出してどうしたかったのだ? 俺が一度も勝てなかったシーバルとともに、次男の凋落を見て嘲笑いたかったか?」

「いいえ。シーバルはアンドリューを慕っていました。だから、きっとこの日を一緒に喜んでもらえると……」

「喜ぶ……? 相も変わらず、めでたい奴だ!」


乱暴に椅子を倒しながら立ち上がり、アンドリューはそのまま部屋を後にした。

その一部始終をどこか他人事のように眺めていたのは、自身の防衛本能かもしれない。それを証拠に、俺はナイフとフォークをテーブルに突き立てたまま動けなかった。
しおりを挟む
口なしに熱風| ふざけた女装の隣国王子が我が国の後宮で無双をはじめるそうです

幽閉塔の早贄 | 巨体の魔人と小さな生贄のファンタジーBL

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

口なしの封緘
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

不本意にも隠密から婚約者(仮)にハイスピード出世をキメた俺は、最強執着王子に溺愛されています

鳴音。
BL
東方のある里より、とある任務遂行の為カエラム王国を訪れたヨト。 この国の王子である、ルークの私室に潜り込んだものの、彼はあっさりと見つかってしまう。 捕縛されてしまったヨトは「密告者として近衛兵に渡される」「自分の専属隠密になる」どちらか好きな方を選べという、究極の選択に迫られた。 更にヨトを気に入ったルークは、専属隠密では飽き足らず、速攻で彼を婚約者へとしてしまう。 「常に傍に居ろ」というルークからの積極的なアプローチが不思議と落ち着く⋯そんなカエラム王国での平和な第2の人生生活を送っていたヨト。 そんな時、ヨトがこのカエルムに派遣された理由でもある「奇跡の鉱物タルスゼーレ」をめぐって、何やら良からぬ行動を取る連中が現れたという。 幼少期の因縁の相手でもある「黒龍」が召喚され、平和だったヨトの生活は、この先どうなってしまうのか⋯!?

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

処理中です...