過剰投与の美学(1話完結SS集)

大田ネクロマンサー

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違う星空

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「優等生がこんな時間に出歩いていいんですか?」

声をかけられ、振り返ったらそこには学校では考えられないほど風紀の乱れた橘君の姿があった。冬休み限定なのか髪の毛は何色かわからない色に染められ、ダボダボのダメージジーンズに両手を突っ込んでこちらを見ている。

「橘君……ちょっと自由すぎない? その格好」

「学校の外でも風紀委員か」

「別に……っていうかその傷どうしたの?」

「さっき怖い人と喧嘩しちゃってぇ……委員長ぉ……心配してくれるんだったら、この傷舐めてよぉ」

その見掛けに似合わない語尾で、切れた唇を指差し挑発している。

「あのさ、僕も別に好きで風紀委員してるわけじゃないし、好きで抜き打ちチェックとかしてるわけじゃないんだ」

委員会の当番の時に、抜き打ちチェックの係になったことがある。その時に全然クラスの違う橘君に違反を通告したことで、こうやって絡まれるようになった。

「でも見逃してくれなかったよな。コンドームくらい健全な男子高校生はみんな持ってるだろ」

「そういうわけには……」

「本当に融通が利かねぇよな。で、優等生がこんな時間にどこ行くんだよ? 人のコンドームは取り上げて、まさか女のところに行くわけじゃねぇよな?」

「星を見に行くんだよ」

話題を変えたくて遮って言った僕の言葉に橘君は驚愕し、次第に顔が綻び爆笑に変わった。

「この曇天模様の中! 星! 乙女か! ぎゃはははは!」

おかしな音量で大爆笑する橘君に何も思わないわけではなかったが、もうこれ以上話すこともなかったので歩き出した。次の瞬間腕を掴まれ逃げられないことを悟る。

「あぶねーから一緒に行ってやるよ」

橘君と一緒にいる方が喧嘩に巻き込まれやすく危ない気がしたが、もう時間もなかったので腕を掴まれたまま歩き出す。

「なぁーー、そんなプリプリ怒るなよぉ。なんでいっつもそんなに怒ってんだよぉ」

「怒ってないよ、いつも橘君忙しい時に話しかけるからさ」

「今日も星を見るのに……? 忙しいわけ……?」

笑いを堪えて橘君は俺を見つめる。

「しぶんぎ座流星群が極大なんだ」

「なに急に優等生の本領発揮してるの? 日本語で喋って」

「流れ星がいっぱい見られるかもしれないんだ。橘君もいっぱい願い事できるよ」

「ね……願い事……ふふっ」

橘君はまた肩を震わせ笑い出した。僕はもう面倒なので先に歩き出した。近所に小高い丘があり、上が公園になっている。坂道を登っている間、晴れることを祈ったが、頂上の公園に到着しても晴れ間はのぞかなかった。

さっきから後ろのベンチに座ってる橘君が、寒い寒いとぼやいている。

「橘君、寒いなら帰っても大丈夫だよ。あとここに2時間はいるからね?」

「2時間!? 委員長なんでそんな薄着できたの?あっためてあげるからこっちおいでよ」

「あのさ、僕、委員長じゃないし寒くないから。大丈夫」

「こっちこいって!」

急に腕を引っ張られたが、それを振り解いたら橘君が立ち上がった。

「今そんなに忙しくねぇだろ。曇ってんだよ」

急に凄まれて、少し一緒に来たことを後悔する。不良グループでよく先生に呼び出されている橘君が、なぜかこんな真面目そうな僕に絡んでくる。僕はそれに甘えていた。

「橘君はさ、僕の名前知ってるの?」

いつも委員長とか優等生とか形容詞めいたものでしか呼ばれない。橘君は無言で近づいてきて、俺の両腕を掴もうとしたので、俺はそれを払った。次の瞬間。

「ったぁああーー!」

頭突きをされたと気がついたのは地面に膝をついた時だった。

「橘君さ、いつもなんでそんな僕に絡むの? なに考えてるか全くわからないし、本当に君のそういうところが嫌いなんだよ!」

そうやって特別扱いのように絡んで、時々勘違いしちゃうような冗談言って、結果これだ。橘君を見上げると、視界が彼の顔だけになる。橘君が僕にキスをした。

頭突きのダメージか、それとも急に顔を上げたからか、目の前に星がチカチカと輝いてるみたいだった。曇りなのに満天の星空の下2人がキスをしてるみたいで笑う。

「お前のそういう隙がないところ、俺も大嫌いだよ」

唇を離す時にそう言われ、笑いも引っ込んだ。

「あ……」

その時、橘君の向こう側の空の裾から少しだけ雲がちぎれた。でもその視界も台詞も遮られ、僕は閉じた目の中で違う夜空を眺めた。

―――――――――――――――――――――――――
お題:隙/夜空の下/「君の嫌いなところ」
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