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さん『エンマ様が判決を下す日はお気に入りの傘を逆さにさして降ってきたキャンディを集めよう』
1 大嫌いな白いアイツ
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「4個しか入ってない」
サキは白色のキャンディをもう一度数え直し呟いた。
「この前は10個も入ってたのに?」
いつもは捨ててしまうあの刺激的な味のキャンディ。こんなにも君を求める日がくるとは思わなかった。
サキはいつもドロップスの缶を逆さにして広げると、各色ごとに一個一個数えて仕分ける。カラフルなキャンディたちの中でピンク色がたくさん入っている缶はアタリ、逆に白色はハズレだった。
一番好きなピンク色のリンゴ味を最初に缶へ戻すと、あとは適当に入れて蓋をする。食べるときはカシャカシャと軽くシェイクして、手のひらにランダムに飛び出したキャンディで今日の運勢を占いながら口に含む。その中に大凶である白色のキャンディは存在しない。真っ先に捨ててしまうからね。
「とっておけばよかったぁ……」と嘆くも、時すでに遅し。
うなだれながら皿にあけたキャンディを缶に戻していく。白色を一個残して。
「美味しくないんだよなぁ……」
食べようとして躊躇するサキは、タバコを吸うあの人の横顔を思い出してニヤついた。
記憶の彼に背中を押されたサキは意を決して口に放り込んだ。
「……うっ……うへぇ」
久々に口にしたあの味。やはり苦手だ。
キャンディを舐め、タバコを模した細い円柱形の砂糖菓子を唇に銜えてまねる。
あの時感じた激しいスモーキーさはないものの、サキは満足気に銜えた砂糖菓子をつまみ口から離して見えない煙を吐いた。
「ふぅ」
とはいっても、口が痛くなるような冷たい感覚と鼻から抜ける独特なかおりが嫌で、時おり歯で挟んで舌に触れないようにして、休みながら舐め続けた。
(美味しくない……)けど、そのオトナな味にサキは酔いしれていく……、
──プルルルル……──
「ッ、飲ンじゃった!」
音の方をみると、滅多に鳴ることのない携帯電話が光を点滅させ鳴っている。聞き慣れない着信音に毎回びっくりしてしまうサキは喉元に触れた。明らかなる違和感がそこにあった。
「どうしよう……!」
喉にひっかかっているキャンディの不安を抱きながら携帯電話を開くと、心臓がドキンッと跳ねた。
「うそっ!」
その着信は今まさにサキが想っていた人物からだった。
タイミングもタイミング。さっきまでの行為を悟られた気がして、やましい気持ちがあったわけではないのにとてつもなく恥ずかしくなった。
着信が切れる前に早く出ないと、とは思うものの、第一声はなんと返すべきなのか、余計なことをグルグルと考えてしまい一秒一秒無駄に過ぎていく。
このままだと本当に切れてしまうと意を決したサキは、咳払いをして震える指で通話ボタンを押した。
「……もしもしっ!」
『サキさん?』
「はい!」
『こんばんは、ハルです。傘のことでお電話いたしました』
「はい……!」
存在は電話越しの声だけ。それなのに、彼がすぐそばにいるような気がして顔が熱くなった。耳元で話しかけられる声がくすぐったくもあり、頭はいっぱいいっぱいでハルの話す内容はほとんど入ってこない。
『……よろしいですか?』
「あっ、はい!」
『ではその日に』
慌てて返事をしたが、何を聞かれたのかわからない。電話が水没しそうなほど溢れる手汗を、服でぬぐった。
「あの、もう一度教えてください……」
『近くに紙とペンはありますか? 覚えられないならメモを取りなさい』
「はい、すみません……ちょっと待ってくださいっ」
サキは急いで机の引き出しを開け、落書き帳を取り出し適当なページを開いてペン立てから赤いペンを取ると、スタンバイできたことを告げた。
一言一句聞き逃さないように集中してメモを取っていると、紙は汗が染みてシナシナになっていく。
『よろしいですね?』
「……はい!」
サキはメモを見返した。
番号を交換したけど、自分からかける勇気はないし、本当にかけてきてくれるなんて思わなかったし、自分のことを覚えていてくれて、今、こうして話ができただけでも幸せなのに、
『土曜日の午後3時、駅前のアベルで……』
(また会えるなんて、夢みたい……)
電話を切る頃には、喉に居座り続けるキャンディのことなどサキの頭から消えていた。
サキは白色のキャンディをもう一度数え直し呟いた。
「この前は10個も入ってたのに?」
いつもは捨ててしまうあの刺激的な味のキャンディ。こんなにも君を求める日がくるとは思わなかった。
サキはいつもドロップスの缶を逆さにして広げると、各色ごとに一個一個数えて仕分ける。カラフルなキャンディたちの中でピンク色がたくさん入っている缶はアタリ、逆に白色はハズレだった。
一番好きなピンク色のリンゴ味を最初に缶へ戻すと、あとは適当に入れて蓋をする。食べるときはカシャカシャと軽くシェイクして、手のひらにランダムに飛び出したキャンディで今日の運勢を占いながら口に含む。その中に大凶である白色のキャンディは存在しない。真っ先に捨ててしまうからね。
「とっておけばよかったぁ……」と嘆くも、時すでに遅し。
うなだれながら皿にあけたキャンディを缶に戻していく。白色を一個残して。
「美味しくないんだよなぁ……」
食べようとして躊躇するサキは、タバコを吸うあの人の横顔を思い出してニヤついた。
記憶の彼に背中を押されたサキは意を決して口に放り込んだ。
「……うっ……うへぇ」
久々に口にしたあの味。やはり苦手だ。
キャンディを舐め、タバコを模した細い円柱形の砂糖菓子を唇に銜えてまねる。
あの時感じた激しいスモーキーさはないものの、サキは満足気に銜えた砂糖菓子をつまみ口から離して見えない煙を吐いた。
「ふぅ」
とはいっても、口が痛くなるような冷たい感覚と鼻から抜ける独特なかおりが嫌で、時おり歯で挟んで舌に触れないようにして、休みながら舐め続けた。
(美味しくない……)けど、そのオトナな味にサキは酔いしれていく……、
──プルルルル……──
「ッ、飲ンじゃった!」
音の方をみると、滅多に鳴ることのない携帯電話が光を点滅させ鳴っている。聞き慣れない着信音に毎回びっくりしてしまうサキは喉元に触れた。明らかなる違和感がそこにあった。
「どうしよう……!」
喉にひっかかっているキャンディの不安を抱きながら携帯電話を開くと、心臓がドキンッと跳ねた。
「うそっ!」
その着信は今まさにサキが想っていた人物からだった。
タイミングもタイミング。さっきまでの行為を悟られた気がして、やましい気持ちがあったわけではないのにとてつもなく恥ずかしくなった。
着信が切れる前に早く出ないと、とは思うものの、第一声はなんと返すべきなのか、余計なことをグルグルと考えてしまい一秒一秒無駄に過ぎていく。
このままだと本当に切れてしまうと意を決したサキは、咳払いをして震える指で通話ボタンを押した。
「……もしもしっ!」
『サキさん?』
「はい!」
『こんばんは、ハルです。傘のことでお電話いたしました』
「はい……!」
存在は電話越しの声だけ。それなのに、彼がすぐそばにいるような気がして顔が熱くなった。耳元で話しかけられる声がくすぐったくもあり、頭はいっぱいいっぱいでハルの話す内容はほとんど入ってこない。
『……よろしいですか?』
「あっ、はい!」
『ではその日に』
慌てて返事をしたが、何を聞かれたのかわからない。電話が水没しそうなほど溢れる手汗を、服でぬぐった。
「あの、もう一度教えてください……」
『近くに紙とペンはありますか? 覚えられないならメモを取りなさい』
「はい、すみません……ちょっと待ってくださいっ」
サキは急いで机の引き出しを開け、落書き帳を取り出し適当なページを開いてペン立てから赤いペンを取ると、スタンバイできたことを告げた。
一言一句聞き逃さないように集中してメモを取っていると、紙は汗が染みてシナシナになっていく。
『よろしいですね?』
「……はい!」
サキはメモを見返した。
番号を交換したけど、自分からかける勇気はないし、本当にかけてきてくれるなんて思わなかったし、自分のことを覚えていてくれて、今、こうして話ができただけでも幸せなのに、
『土曜日の午後3時、駅前のアベルで……』
(また会えるなんて、夢みたい……)
電話を切る頃には、喉に居座り続けるキャンディのことなどサキの頭から消えていた。
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