林檎の蕾

八木反芻

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に『落下少女が夢に見たのは宙(そら)に浮かぶ月』

3 汚れた靴

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 超高層マンションが立ち並ぶ、その一棟の上層階に二人はいた。
 その部屋の表札にはローマ字で“HASE”と表記されている。
 ハルは鍵を回し開けたドアを押さえた。
「どうぞ」
「おじゃまします……」
 目に入った玄関先に靴はなく、サキはほっとしたが、これまたシンプルでなにもない玄関と、ハルの磨かれた光沢のある革靴に、自分の履きならしたローファーを見比べ恥じた。
「こっち」
 足元を気にするサキを気にもとめずハルは呼んだ。
 サキが案内されたそこは、バスルームだった。
「脱いで」
「えっ!?」
 まさかとうろたえるサキに、ハルは「汚れてる」と制服の染みを指差した。
「洗濯するから脱いで」
「いいいいいです! このままで……」と言ったあと、サキは彼の潔癖症を疑って強く拒めなくなった。
「あんたが風呂に入っている間に洗う。乾燥機にかけるから、帰る頃には乾いているはずだ」
「えぇ……」
「どうした。服さえもひとりで脱げないのか? だったら俺が脱がせようか」
「はえぇ!? だだ大丈夫です! ……脱げます! ひとりでも……!」
「そうか。だったら早くしなさい」
 あんな聞き方をされては断れないではないか。
「……後ろ、向いててもらってもいいですか……?」
「なぜ?」
「恥ずかしいので……」
「恥ずかしいことはないだろ、一度見ているんだ」
 怪訝そうなサキの顔がみるみる赤くなっていく。その様子にハルは「そういうものか」と背を向けた。
 ひと安心したサキだったが、今度は洗面台の鏡が気になった。覗くような人ではないとは思うが、
「できれば、目もつぶってくれませんか?」
「わかった」
 ハルは素直に聞いてくれた。
「脱いだ物は茶色の洗濯カゴへ、血のついている物はカゴの縁に掛けておいて。上がったらリビングに来なさい」
 返事をして、サキもハルに背を向けた。洗濯機の近くの棚の上に言われた茶色のカゴと白色のカゴがある。
(これかな)
 とはいえ、ここで脱ぐのはためらってしまう。サキはチラリとハルの様子をうかがい、目をつぶっているのを確認して、赤いスカーフを引っ張り、セーラー服の真ん中にあるファスナーを下ろした。
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