元婚約者の弟から求婚されて非常に困っています

星乃びこ

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番外編③きっかけ〈ノエルSide〉

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「…んっ。ちょっとノエル!?待って…っ!」


「何を今更、キスなんてもう何回もしてるじゃん。いい加減慣れなよ?」


真っ赤になるエレノアに僕はフッと不敵な笑みをこぼす。

結婚式も無事に終わり、僕とエレノアは、新婚旅行で隣国にあるコックス公爵家の別荘にやって来ていた。

それにしても、形式的な催事って本当に疲れるわ。

特に、公爵家と伯爵家の結婚式ともなれば、参加する貴族たちもかなりの人数になりその都度笑顔で対応しなければならないから余計にだ。

…まぁ、エレノアの可愛いドレス姿が見れたことで良しとしたけど。

というわけで、ようやくこの旅行で一息つけた上に、エレノアと二人きりというシチュエーション。

…そりゃ、少しくらいハメを外してもいいでしょ。

今までは兄の婚約者だったし、エレノアも兄のリアムを想っていたし…。
一緒にいる時にどれだけ手を出しそうになるのを我慢していたことか。

そんな僕の気持ちを知らないエレノアは、サッと一定の距離をとって警戒モード。
 
「と、とりあえず、落ち着いて?」


「…ハァ。落ち着くのはエレノアの方だよ。てか、キスくらいでそんなに警戒されちゃ困るな…。僕たちもう夫婦なんだけど?」

キス以上のことをしようものなら、エレノア卒倒するんじゃないだろうか。

まぁ、初心なところは勿論可愛いんだけど、拒否されるのは普通に傷つくし。


「それは、そうなんだけど…。だって、まだ慣れないし…。は、はじめてなんだもん。色々と…」
 
「……」


上目遣いで頬を赤らめるエレノア。
その声は緊張しているのか若干、震えていた。

エレノアって、無自覚で煽ってくるんだから、本当に質が悪い。

「…ハァ。わかった。とりあえず、今日のところは我慢する…。せっかくの旅行なのにそんな距離とられても悲しいし」


結局、折れたのは僕の方だった。

その言葉を聞いて安心したのか、エレノアはゆっくりと僕の側に寄ってくる。

「ね!ノエルせっかくだし、今日は色々話したいな」

「…話?例えば?」

「うーん…そうねぇ。あ!ノエル、私のこと前から好きだったって言ってくれたじゃない?それって具体的にいつからなの??」

…は?

彼女の口から出た予想外の質問に僕は、目を見開いた。

しかし、それと同時にあまりに可愛らしい質問に思わず笑みが溢れる。

「…へぇ。エレノアってそういうの気になるんだ」


「だって、ノエルってばそんな素振り全然なかったから…。いつからだったのかちょっと気になっちゃって…」

自分から聞いてきたくせに、恥ずかしいのか段々と声が、小さくなるエレノア。

本当、見てて飽きないよ。

コロコロと変わる表情を見ると、ついつい、誂いたくなってしまう。

いつもの僕であれば茶化してしまうところだが、今日くらいは、素直に話すのもいいかもしれない。


「…具体的にいつから好きだったのかは、覚えてない。気づいたら好きだったし。あ、でも…初めてエレノアのことが気になったきっかけはあったな」

「…きっかけ?」

「そう。きっかけ…」

そして、僕は語りだした。

エレノアに興味を持ったあの日の出来事を――。


❥❥


今日は、朝起きた時からなんだか嫌な予感はしていた。

その予感は、兄が僕の部屋を尋ねてきたことで確信へと変わる。

『兄さん…何か用?』

『ノエル。実は今日、折り入ってお前に頼みがあるんだ…』

兄であるリアムが、チラチラと時計を気にしながら僕にそう声をかけてきた。

時計を気にしてるってことはまた、どこかのご令嬢とでもデートの約束かな?

来るもの拒まず、去るもの追わずそんな兄の恋愛スタイルにも困ったものである。

『……で?頼みって何?』

『実はさ、エレノアとの約束をすっかり忘れて今日、他のご令嬢とお茶をする約束をしてしまって』

『じゃあ、そのご令嬢との約束断わんなよ。エレノアは兄さんの婚約者なんだから』

呆れたように目の前で肩を竦める兄を見つめ、僕は冷たくそう言い放った。

『そ、そうしたいのは…やまやまなんだが、今日だけはちょっと…な。もちろん、ご令嬢の約束が済めば、俺もすぐそちらに向かう!ただ、どうしても1時間ほど遅れそうなんだ…!だから、頼む!俺の代わりにエレノアのお茶につき合ってやってほしい。ノエルならエレノアとも面識があるし…』

一瞬、耳を疑いたくなるような言動に僕は頭が痛くなる。

『…あのさ、兄さん。流石にそれは…』

駄目でしょと、言いかけた時。

『ヤバい。時間が…!ノエル本当にすまない、エレノアにはうまいこと言っといてくれ』

僕に最後まで言葉を言わせないで、脱兎の如く部屋を後にする兄。

…ハハッ。冗談だろ?

残された僕は、あまりの出来事に呆然と兄が出ていった扉を見つめるしかなかった。



『あ!ノエル様いらっしゃい。今日はノエル様も顔を出してくださったのですね!……あれ?…リアム様は??』

『兄は少し急用が入って、1時間ほど遅れるそうで』


『そうだったのですか…。私ったらタイミングの悪い時にお茶に誘ってしまって申し訳なかったですわね』

シュンと、申し訳無さそうに肩を竦める彼女の姿に僕の良心がチクチクと痛む。

現在、僕は兄の代わりにビクター伯爵家に来ていた。

『ごめんね。代わりに僕がしばらく話し相手になるからさ』

本当は、お茶会なんて面倒だし、兄の尻拭いで行くのは御免なんだけど。

流石に彼女が待ちぼうけくらうのは可哀想だと重い腰を上げたというわけ。

目の前の少女に笑みを浮かべつつ、心の中で僕はそんなことを考えていた。

『代わりだなんて…!ノエル様が来てくださって嬉しいですわ。さ、こちらにどうぞ。お茶とお菓子の準備ができてますから』

そう言うと、エレノアは満面の笑みを浮かべる。

僕はそんな彼女に促され、素直に後ろをついていくと案内されやってきたのは、眺めの良いテラス席だった。

『ノエル様、お席にかけてくださいな』


『あぁ。ありがとう』

テラス席には、綺麗な花が飾られ、色とりどりのお菓子が用意されている。

きっと、兄のために準備をしたのだろう。

テーブルの上に並べられたお菓子はどれも兄の好物ばかり。エレノアが事前に調べ、用意したのだと僕でさえ気がついた。

『あ!ノエル様苦手な食べ物などありますか?すみません、もし、苦手なものがあれば下げますね』

へぇ。僕の好みまで把握していなかったこと気にしてるんだな。

そう察した僕は。

「大丈夫。どれも美味しそうだよ」

と、呟き、目の前に置かれていたクッキーを手に取り、パクッと口に放り込む。

『うん!すごく美味しいよ』

僕の突然の行動にエレノアは、大きな目を丸くして驚いていた。

…まぁ、マナー違反だしな。

普通は、主催者から勧められてからたべ始めるものだ。

『…ふふっ。ノエル様って面白い方だったのね。実はそのクッキー私が作ったんです。美味しかったなら安心しました』

クスクスと、肩を震わせて笑うエレノアは緊張が解れたのか少しだけ口調が柔らかくなる。

『へぇ、すごいな。というか同い年なんだし、様なんかつけなくていいよ、ノエルで構わない』

『じゃあ、私もエレノアと呼んでください』

その後は、二人で色々と話をした。

いつもは、リアムに気を遣ってあまりエレノアとと会話をしたことがなかった僕。

それにしても、エレノアって頭の回転が速いし、色々勉強もしてるからか知識が豊富で話してて楽しいな。

僕が素直にそう思えるほど彼女とは、会話が弾んだ。

『エレノアって、物知りだね。僕がこんなに会話が続くなんて思わなかった』

『本を読むのが好きなの。家に置いてあるものはほとんど読み尽くしちゃって…』

『へぇ。それなら今度、コックス家においでよ。僕のオススメ貸してあげる』

『え!?いいの!?ぜひ、伺うわ』

キラキラと瞳を輝かせて喜ぶ彼女が可愛くて、一瞬見入ってしまう。

コロコロと忙しなく、変わる表情は素直に好感が持てた。

……そう。

たぶんこの兄の代わりに行ったお茶会の日が、僕のエレノアに対する認識が、変わったきっかけだった。


❥❥


僕が話し終わると。

「うーん…?確かにそんなことあったような気がするけど。まぁ、リアム様にお茶会をすっぽかされたことは何度もあったし、どの時かと言われるとハッキリ思い出せないわね」

パッと思い出せなかったのかエレノアは小さく首を捻る。

「いいよ、思い出さなくて。ついでに兄との記憶も抹消してもらっても構わないし」

「ノ、ノエルったら…。また冗談に聞こえないから」

あははと、苦笑いを浮かべるエレノア。

まぁ、冗談じゃないけど、エレノアを困らせるだけだしこれ以上は言わないようにする。

「…でも、そんな前から想ってくれてたなんて全然気づかなくて…。私ったら」

そう言って、落ち込むエレノアを僕はそっと抱き寄せ、チュッと額に口づけた。

「いいんだよ、昔のことだし。それに、僕にとっては今、エレノアが僕の側にいることが1番重要だから」

やっと、僕のものになったんだ。

悪いけど、一生、離してあげないから覚悟してね?

心の中でそう呟き、再度頬を赤らめる彼女の姿を見つめ、僕は小さく微笑んだのだった。


*END*
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