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番外編②ノエルとの出会い〈アルバートSide〉
しおりを挟む「おい。あっち見みろよ。エレノア様だ!」
「ほんとだ、いつ見てもめちゃくちゃ綺麗だよな~。それにすっごく優しいし…あぁ、お近づきになりたい!」
「バーカ、俺たちみたいな平民じゃ身分違いだって。つか、そもそも…。“あの方”が隣にいる限り彼女に近づける男はいないって」
「だよな…」
放課後の教室で、そんな会話をしながらハァ…と、大きなため息をつくのはハリーとマルロ。
アカデミー内でよく一緒にいる俺の友人たちだ。
二人共平民出身ではあるが、アカデミー内での成績も上位に入るし、何より気さくで付き合いやすい。
肩を落として、意気消沈している二人に対し。
「クラスメートなんだから、普通に話しかければいいだろ?そんな気を遣わなくたってさ」
俺は不思議そうに首を傾げ、そう答えた。
「…ったく、それはお前だから言えるんだろうなぁ。アルバート」
マルロがなぜかジトッと、恨みがましい視線を向けてくる。
「そうそう。お前は、平民って所は俺らと一緒だけど、あとは月とすっぽんだもんな。イケメンだし、成績は常に上位で、運動神経抜群……。それに、女子人気もある」
続け様に、ハリーが指折り数えながら列挙していく。
「何言ってんだよ、二人だって成績上位だし、運動神経だって悪くないじゃん」
「嫌味か!お前含め、いつも成績上位TOP3の牙城は崩れないだろーが。俺らがどんだけ必死になってもな…」
マルロが、半ば諦めたようにフッと遠くを見つめると。
「だよな~。アルバート含め、本当に凄いよ。エレノア・ビクター様とノエル・コックス様は。お前ら3人、常人とは出来が違うわ」
うんうんと、ハリーもマルロに同意するように頷いた。
今、二人の話題に上がっているのは、アカデミー内でちょっとした有名人コンビ。
一人目が、エレノア・ビクター。
ビクター伯爵家の一人娘。
頭脳明晰、容姿端麗、運動神経も良いと三拍子揃っており、さらには、優しい性格でアカデミー内で男子生徒の圧倒的支持を得ている。
そして、二人目が、ノエル・コックス。
コックス公爵家次男。
こちらも、頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群と、三拍子揃っているが、性格は一匹狼タイプで基本的にエレノアと話しているのしか見たことがない。しかし、学園の女子生徒人気、堂々の第一位はおそらく彼だ。
「…並べてもらって申し訳ないけど、俺もあの二人にはちょっと勝てそうにないかな~」
ハハッと俺は当たり障りなく笑い、少し茶化すように言い放つ。
「そんなことないって!アルバート時々、エレノア様抜いて、2位になったり、ノエル様よりも化学の成績は常に上じゃん?」
「そうそう。あの二人に対抗できるのってアルバートくらいなもんだし。アルバートはら俺ら平民の期待の星だって!」
キラキラと、俺を尊敬の眼差しで見てくる二人に対し、チクチクと痛む良心。
二人には悪いけど、俺も本当は平民じゃないんだよなぁ…。
アルバート・ミラーズ。
それが、アカデミー内での俺の名前であり、身分としては平民。
しかし、本名は、アルバート・ミラー。
ミラー公爵家の一人息子である。
訳合って、アカデミーの中では身分を隠している俺の正体を知っているのは、学園長と一部の教師陣のみ。
つまり、俺は本当の意味で平民期待の星にはなれないというわけ。
まぁ、二人には言えないんだよなぁ…。
評価してくれるのは嬉しいんだけど。
内心苦笑いを浮かべて二人を見つめていると。
「てか、アルバート…!お前、エレノア様に話しかけてみろよ~。ノエル様に対抗できそうなのお前しかいないし…お前が仲良くなれば必然的に友人である俺らもお近づきになれるだろ~!」
マルロがニヤニヤしながらそんなことを言い出した。
「お!それ賛成!!」
ハリーまで、マルロの提案に賛同しテンション高めに頷いている。
「あのなぁ。お前ら、あんまり調子にのってると…」
後で痛い目見るぞと、言葉を続けようとした時だった。
俺の目の前に立つマルロとハリーの顔色が、何か恐ろしいものでもみたように、急激に青ざめていく。
…急にどうした?
不思議に思い、俺が二人に声をかけようとした途端。
「ねぇ、君たち面白そうな話をしてるね?」
ビクッ。
背後からそんな声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声に恐る恐る振り返ると、そこには、笑顔で佇むノエル・コックスが立っている。
…コイツ、表情は笑ってるけど目が全く笑ってねぇ。
というか、気配全く感じなかったんだが!?
突然のノエルの登場に、思わず固まってしまう俺。
まるで、蛇に睨まれた蛙のようにピクリとも動けなかった。
しかし、そんな俺とは対照的に。
「「す、すみませんでした~!」」
ハリーとマルロは命の危機を感じたのか、脱兎の如くその場を逃げ出す。
アイツらあんなに素早く動けるんだな…。
てか、俺を置いてくなよ!
逃げていく二人の後ろ姿を、俺は驚き半分、怒り半分という何とも複雑な気持ちで見つめていた。
❥
「声をかけただけなのに何で逃げるんだろうね…?君もそう思わない?」
二人の姿が見えなくなった頃肩をすくめて、やれやれと言った感じでノエルは俺に声をかけてくる。
「はは……。まぁ、そうかもしれないですけど…」
言葉にはしてなくても、確実に態度で示してたからなあ。
苦笑いを浮かべ、俺はノエルを見据えた。
「ま、いいか。君の友達なんだろ?君から後で言っといてよ、彼女にちょっかい出したら後が怖いよって」
ニコッと不適に笑うノエルに俺はゴクリと息を呑む。
そのくらいノエルから出る威圧感が凄まじかった。
…え、俺もしかして今日死ぬ?
未だに威圧を続けてくるヤツの態度に、本気でそう考え始めた時。
「あ!ノエルいた!!もう、どこに行ってたの?探したのよ??あら、そちらの方は…??」
救世主が現れたのだ。
「…エレノア、なんでもないよ」
彼女が姿を現した途端、一瞬で消えた威圧感に俺はホッと胸を撫で下ろす。
た、助かった…。
「なによ、なんでもないって…。こっちは、ノエルが私以外の生徒と話してるの珍しいからビックリしてるのに。もしかしてお友達??」
エレノアは、俺とノエルを交互に見つめ、そんな的はずれなことを聞いてくる。
「……まさか」
ボソッと、彼女に聞こえないくらいの声量で呟くノエル。
思わず口元が引きつりそうになるが、俺はなるべく態度に出さないように気をつけつつ。
「こんにちは。アルバート・ミラーズです。一応、隣のクラスで…」
エレノアに向かって挨拶をした。
「…!!あなたがアルバート・ミラーズ様!?この前の試験で私、負けちゃったからどなただろうって思ってたんです。はじめまして。エレノア・ビクターです。仲良くしてくださいね」
パアッと表情を明るくし、可愛らしい笑顔を向けてくる彼女に俺は呆気にとられてしまう。
俺のこと知ってたんだな…。
「……エレノア、彼のこと知ってるの?」
「知ってるというか、校内掲示板でね。いつも上位に名前があるじゃない。それにノエルだって化学はいつもアルバート様に負けてるでしょう?」
ピクッ。
一瞬、ノエルの表情が引きつったのを俺は見逃さなかった。
…こ、これ以上、ヤツを煽るのはやめてくれ。
エレノアに悪気がないのはわかるが、ヤツを怒らせるのは得じゃないと先程の経験で嫌というほど思い知らされていた俺。
「いや、この前はたまたまヤマが当たったんですよいつもは、エレノア様に勝てないですし…。あと、化学は唯一の得意教科なので…」
しどろもどろになりながらもそんなフォローに入る。
「まぁ。アルバート様は謙虚な方ね。私も見習わなくては」
「いや、謙虚だなんて…。あはは」
俺がエレノアと話す度に突き刺さるノエルの視線が痛い。
なるほど、ハリーとマルロが言っていたのはこのことかと、今更ながら思い知らされた。
これじゃ、いくらエレノアにちょっかいをかけたくてもかけられるはずがない。
というか、そもそも、そんな勇者はこの学園にはいないだろう。
とにかく話題を変えなくては…!
そう思った俺がひねり出した話題は「お二人は本当に仲がよろしいようで…。恋人同士という噂もあるくらいですよ」といもの。
これだけあからさまに嫉妬しているのだから、おそらく恋人同士のはずだ。
確かコックス家とビクター家は、婚約してるって誰かが言ってた気がするし。
そう宛を付け、ノエルの機嫌がなおるような話題を出したつもりだった。
しかし…。
「…まぁ、そんな噂がありますの?私達は幼なじみです。それに、私はノエルのお兄様、リアム様と婚約しているので…」
クスクスと可笑しそうに笑い、エレノアはバッサリと否定する。
…ま、マジか…。
どう見ても、ノエルはエレノアのことが好きなはず。
というか、彼女はあんなにわかりやすいノエルの行動に気づいていないのか…。
流石に不憫になり、ちらりとノエルを見ると彼は、諦めに似たような、何とも言えない複雑な表情を浮かべていて。
…!?
その瞬間、俺は初めてノエルの人間らしい部分を垣間見たような気がして興味が湧いたのだった。
❥
斯くして、この日をきっかけに、俺はノエルにちょっかいを出すようになる。
「ノエルー!一緒に勉強しよーぜ」
「……」
最初は、完璧に無視されてたし、威圧感にビビってたりもしたが、しつこく話しかけているうちに、ノエルも諦めたのか、俺と少しずつ会話をしてくれるようになった。
「ノエル、この公式って…」
「……教科書のここに書いてあるだろ」
そうすると、ノエルの人となりもなんだかんだわかってきたし、普通にいいヤツだってこともわかった。
…ここまでが俺とノエルが仲良くなるきっかけの話。
*END*
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