元婚約者の弟から求婚されて非常に困っています

星乃びこ

文字の大きさ
上 下
23 / 26

番外編②ノエルとの出会い〈アルバートSide〉

しおりを挟む


「おい。あっち見みろよ。エレノア様だ!」

「ほんとだ、いつ見てもめちゃくちゃ綺麗だよな~。それにすっごく優しいし…あぁ、お近づきになりたい!」

「バーカ、俺たちみたいな平民じゃ身分違いだって。つか、そもそも…。“あの方”が隣にいる限り彼女に近づける男はいないって」

「だよな…」

放課後の教室で、そんな会話をしながらハァ…と、大きなため息をつくのはハリーとマルロ。

アカデミー内でよく一緒にいる俺の友人たちだ。

二人共平民出身ではあるが、アカデミー内での成績も上位に入るし、何より気さくで付き合いやすい。

肩を落として、意気消沈している二人に対し。

「クラスメートなんだから、普通に話しかければいいだろ?そんな気を遣わなくたってさ」

俺は不思議そうに首を傾げ、そう答えた。

「…ったく、それはお前だから言えるんだろうなぁ。アルバート」

マルロがなぜかジトッと、恨みがましい視線を向けてくる。

「そうそう。お前は、平民って所は俺らと一緒だけど、あとは月とすっぽんだもんな。イケメンだし、成績は常に上位で、運動神経抜群……。それに、女子人気もある」

続け様に、ハリーが指折り数えながら列挙していく。

「何言ってんだよ、二人だって成績上位だし、運動神経だって悪くないじゃん」

「嫌味か!お前含め、いつも成績上位TOP3の牙城は崩れないだろーが。俺らがどんだけ必死になってもな…」

マルロが、半ば諦めたようにフッと遠くを見つめると。

「だよな~。アルバート含め、本当に凄いよ。エレノア・ビクター様とノエル・コックス様は。お前ら3人、常人とは出来が違うわ」

うんうんと、ハリーもマルロに同意するように頷いた。

今、二人の話題に上がっているのは、アカデミー内でちょっとした有名人コンビ。

一人目が、エレノア・ビクター。
ビクター伯爵家の一人娘。
頭脳明晰、容姿端麗、運動神経も良いと三拍子揃っており、さらには、優しい性格でアカデミー内で男子生徒の圧倒的支持を得ている。

そして、二人目が、ノエル・コックス。
コックス公爵家次男。
こちらも、頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群と、三拍子揃っているが、性格は一匹狼タイプで基本的にエレノアと話しているのしか見たことがない。しかし、学園の女子生徒人気、堂々の第一位はおそらく彼だ。

「…並べてもらって申し訳ないけど、俺もあの二人にはちょっと勝てそうにないかな~」

ハハッと俺は当たり障りなく笑い、少し茶化すように言い放つ。

「そんなことないって!アルバート時々、エレノア様抜いて、2位になったり、ノエル様よりも化学の成績は常に上じゃん?」

「そうそう。あの二人に対抗できるのってアルバートくらいなもんだし。アルバートはら俺ら平民の期待の星だって!」

キラキラと、俺を尊敬の眼差しで見てくる二人に対し、チクチクと痛む良心。

二人には悪いけど、俺も本当は平民じゃないんだよなぁ…。

アルバート・ミラーズ。

それが、アカデミー内での俺の名前であり、身分としては平民。

しかし、本名は、アルバート・ミラー。

ミラー公爵家の一人息子である。

訳合って、アカデミーの中では身分を隠している俺の正体を知っているのは、学園長と一部の教師陣のみ。

つまり、俺は本当の意味で平民期待の星にはなれないというわけ。

まぁ、二人には言えないんだよなぁ…。
評価してくれるのは嬉しいんだけど。

内心苦笑いを浮かべて二人を見つめていると。

「てか、アルバート…!お前、エレノア様に話しかけてみろよ~。ノエル様に対抗できそうなのお前しかいないし…お前が仲良くなれば必然的に友人である俺らもお近づきになれるだろ~!」

マルロがニヤニヤしながらそんなことを言い出した。

「お!それ賛成!!」

ハリーまで、マルロの提案に賛同しテンション高めに頷いている。

「あのなぁ。お前ら、あんまり調子にのってると…」

後で痛い目見るぞと、言葉を続けようとした時だった。

俺の目の前に立つマルロとハリーの顔色が、何か恐ろしいものでもみたように、急激に青ざめていく。

…急にどうした?

不思議に思い、俺が二人に声をかけようとした途端。


「ねぇ、君たち面白そうな話をしてるね?」

ビクッ。

背後からそんな声が聞こえてきた。

聞き覚えのある声に恐る恐る振り返ると、そこには、笑顔で佇むノエル・コックスが立っている。

…コイツ、表情は笑ってるけど目が全く笑ってねぇ。
というか、気配全く感じなかったんだが!?

突然のノエルの登場に、思わず固まってしまう俺。

まるで、蛇に睨まれた蛙のようにピクリとも動けなかった。

しかし、そんな俺とは対照的に。

「「す、すみませんでした~!」」

ハリーとマルロは命の危機を感じたのか、脱兎の如くその場を逃げ出す。
 
アイツらあんなに素早く動けるんだな…。
てか、俺を置いてくなよ!

逃げていく二人の後ろ姿を、俺は驚き半分、怒り半分という何とも複雑な気持ちで見つめていた。





「声をかけただけなのに何で逃げるんだろうね…?君もそう思わない?」


二人の姿が見えなくなった頃肩をすくめて、やれやれと言った感じでノエルは俺に声をかけてくる。

「はは……。まぁ、そうかもしれないですけど…」

言葉にはしてなくても、確実に態度で示してたからなあ。

苦笑いを浮かべ、俺はノエルを見据えた。

「ま、いいか。君の友達なんだろ?君から後で言っといてよ、彼女にちょっかい出したら後が怖いよって」

ニコッと不適に笑うノエルに俺はゴクリと息を呑む。

そのくらいノエルから出る威圧感が凄まじかった。

…え、俺もしかして今日死ぬ?

未だに威圧を続けてくるヤツの態度に、本気でそう考え始めた時。

「あ!ノエルいた!!もう、どこに行ってたの?探したのよ??あら、そちらの方は…??」

救世主が現れたのだ。
 
「…エレノア、なんでもないよ」

彼女が姿を現した途端、一瞬で消えた威圧感に俺はホッと胸を撫で下ろす。 

た、助かった…。

「なによ、なんでもないって…。こっちは、ノエルが私以外の生徒と話してるの珍しいからビックリしてるのに。もしかしてお友達??」

エレノアは、俺とノエルを交互に見つめ、そんな的はずれなことを聞いてくる。

「……まさか」

ボソッと、彼女に聞こえないくらいの声量で呟くノエル。

思わず口元が引きつりそうになるが、俺はなるべく態度に出さないように気をつけつつ。

「こんにちは。アルバート・ミラーズです。一応、隣のクラスで…」

エレノアに向かって挨拶をした。

「…!!あなたがアルバート・ミラーズ様!?この前の試験で私、負けちゃったからどなただろうって思ってたんです。はじめまして。エレノア・ビクターです。仲良くしてくださいね」

パアッと表情を明るくし、可愛らしい笑顔を向けてくる彼女に俺は呆気にとられてしまう。

俺のこと知ってたんだな…。 

「……エレノア、彼のこと知ってるの?」

「知ってるというか、校内掲示板でね。いつも上位に名前があるじゃない。それにノエルだって化学はいつもアルバート様に負けてるでしょう?」

ピクッ。

一瞬、ノエルの表情が引きつったのを俺は見逃さなかった。

…こ、これ以上、ヤツを煽るのはやめてくれ。

エレノアに悪気がないのはわかるが、ヤツを怒らせるのは得じゃないと先程の経験で嫌というほど思い知らされていた俺。

「いや、この前はたまたまヤマが当たったんですよいつもは、エレノア様に勝てないですし…。あと、化学は唯一の得意教科なので…」

しどろもどろになりながらもそんなフォローに入る。

「まぁ。アルバート様は謙虚な方ね。私も見習わなくては」

「いや、謙虚だなんて…。あはは」

俺がエレノアと話す度に突き刺さるノエルの視線が痛い。

なるほど、ハリーとマルロが言っていたのはこのことかと、今更ながら思い知らされた。

これじゃ、いくらエレノアにちょっかいをかけたくてもかけられるはずがない。

というか、そもそも、そんな勇者はこの学園にはいないだろう。
 
とにかく話題を変えなくては…!

そう思った俺がひねり出した話題は「お二人は本当に仲がよろしいようで…。恋人同士という噂もあるくらいですよ」といもの。

これだけあからさまに嫉妬しているのだから、おそらく恋人同士のはずだ。

確かコックス家とビクター家は、婚約してるって誰かが言ってた気がするし。

そう宛を付け、ノエルの機嫌がなおるような話題を出したつもりだった。

しかし…。

「…まぁ、そんな噂がありますの?私達は幼なじみです。それに、私はノエルのお兄様、リアム様と婚約しているので…」

クスクスと可笑しそうに笑い、エレノアはバッサリと否定する。

…ま、マジか…。

どう見ても、ノエルはエレノアのことが好きなはず。

というか、彼女はあんなにわかりやすいノエルの行動に気づいていないのか…。

流石に不憫になり、ちらりとノエルを見ると彼は、諦めに似たような、何とも言えない複雑な表情を浮かべていて。

…!?

その瞬間、俺は初めてノエルの人間らしい部分を垣間見たような気がして興味が湧いたのだった。





斯くして、この日をきっかけに、俺はノエルにちょっかいを出すようになる。

「ノエルー!一緒に勉強しよーぜ」

「……」

最初は、完璧に無視されてたし、威圧感にビビってたりもしたが、しつこく話しかけているうちに、ノエルも諦めたのか、俺と少しずつ会話をしてくれるようになった。

「ノエル、この公式って…」

「……教科書のここに書いてあるだろ」

そうすると、ノエルの人となりもなんだかんだわかってきたし、普通にいいヤツだってこともわかった。 


…ここまでが俺とノエルが仲良くなるきっかけの話。


*END*

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...