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1. 従姉妹に婚約者をとられました
しおりを挟む「…リアム様、私、ずっと前からあなたのことだけを見てきました」
瞳に涙を浮かべるブロンドヘアの美しい少女はそう呟くと目の前の青年の胸に抱きついた。
「あぁ…シャーロット…それは私のセリフだ」
そんな少女を優しく受け止め、微笑む青年。茶色の髪がサラサラと風になびく。
まるでおとぎ話に出てくる王子様とお姫様みたい。
私だって何も関係のない赤の他人であれば、なんて素敵なカップルなのかしらと微笑ましく思ったことだろう。
そう、赤の他人であれば。
「…冗談でしょ?」
だけど、私、エレノア・ビクターにとってはそういうわけにはいかなかった。
だって、私の目の前でいちゃいちゃしているこのカップル…私の婚約者リアムと妹のように可愛がってきた従姉妹シャーロットなのだから。
私は、目の前で繰り広げられる光景に呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
…そもそも私はなぜこういう状況に出くわしてしまったのだろうか。
たった数分前まで私は幸せの絶頂にいたのに――。
「エレノアおめでとう。今日は君の16歳の誕生日だ。そんな素敵な日を祝えて私は嬉しいよ」
そう言って私の手の甲に優雅にキスをする青年は、3歳年上の婚約者リアム・コックス。
コックス公爵家の長男だ。
「リアム様、ありがとうございます。」
そして私、エレノア・ビクターは、ビクター伯爵家の1人娘。
リアムのエスコートを受け、楽しげにフロアでダンスを踊っていたのはたった数十分前のことなのに、今の私には遠い過去の出来事のように感じていた。
小さい頃から決められた結婚。貴族社会では珍しくもない。
私の母もその母だって幼少の頃から決められた相手がいたのだ。
恋愛結婚なんて難しいのは百も承知。でも、私はとても幸せだった。だって、優しくて素敵なリアムが大好きだったから。
なのに…。こんなのってあんまりだと思う。
よりによってリアムの浮気相手が妹のように可愛がってきた従姉妹のシャーロット・テイラーだなんて。
私はグッと唇を噛み締める。そうしないと涙が溢れてしまいそうだった。
シャーロットは、私の母の弟の子どもで私より2歳下の14歳。テイラー子爵家の1人娘だ。
お互い1人っ子だったこともあり、本当の姉妹みたいに育ってきた。
「エレノアお姉様!16歳おめでとうございます。お姉様大好きです。どうかお幸せに」
ギュッと私を抱きしめて頬にキスをしてくれたシャーロット。
今は、その可憐な腕で私の婚約者を抱きしめている。
あぁ…こんな光景を見る羽目になるのなら2人の姿が見えなくなったからって庭なんか探しに行かなければよかった。
そう思った瞬間、私の心はギュッと締め付けられる。
もう見ていられない…
私は踵を返し、その場を離れようとした、その時。
ガサッ
ドレスが茂みにひっかかり、大きな音が立つ。
その音に驚いたようにリアムとシャーロットは抱き合っていた体を瞬時に離した。
「…お姉様…」
先に私の姿を捉えたのはシャーロット。
ついで
「エレノア…」
リアムが驚いたように私の名前を呟く。
「…ち、違うんだエレノア。これは…」
何故か慌てて取り繕うリアム。
その横では、私と合わす顔がないのかサッとシャーロットは、リアムの背中に隠れた。
いやいや、先程ばっちり熱い抱擁交わしてるところ見てますから。
先程まで泣きそうだったのに彼の慌てぶりを見ると心がスッと冷めていく。
…私、こんな人を好きだったのね。
私の冷めた視線にようやく気づいたのか、リアムも口を閉ざした。
シャーロットも一向に口を開く気配もなく、しばらくその場に流れる重苦しい空気。
その空気を壊したのは
「…ハァ」
私の小さなため息だった。
ビクッ
私のため息1つに過剰な反応をするシャーロット。
「…2人の気持ちはわかりました。こんなことになる前に言ってくださればよかったのに」
努めて冷静に、私は言葉を紡ぐ。
そして。
「まだ結婚まで至ってなくてよかったです。リアム様、この婚約なかったことにいたしましょう。これがお互い最善ですわ」
ニコッと、微笑んで言い放つ。
そんな私に、顔面蒼白になるリアム。
そして、あろうことか
「ま、待ってくれ。エレノア、私は…君と婚約破棄する気はない」
なんて言い出す始末。
流石にシャーロットも今のリアムの発言に驚いたのか目を見開いた。
そりゃそうだ。先ほどまで愛を語り合っていた相手だ。自分を選んでくれると思っていただろうから。
「…私と婚約破棄する気がないとおっしゃいますけどでは、シャーロットとの関係はどうなさるおつもりですか?」
「これは一種の気の迷いというか、私が本当に愛しているのは君だけだ」
自信満々に言い放つ彼。
…何を言ってくれてんのかしら、この人。
私は呆れて言葉も出てこなかった。
「ひどい、リアム様…。私のことお姉様より愛してるって言ってくださったじゃない」
ハラハラと美しいブルーの瞳から涙を流し、シャーロットは顔を手で覆う。
いや、一番泣きたいのは私なんだけど。
「な、何を言うんだシャーロット。君は、私の妹みたいなもので…そ、そうだ!妹として愛しているという意味であって」
しどろもどろになりながらシャーロットを宥めるリアム。
もう言い訳が支離滅裂だ。
「妹としてだなんて…じゃああの夜のことはどう説明なさるの!?」
「エレノアの前でなんてことを…」
リアムは、シャーロットの発言に絶句する。
「…ハァ。もう結構です。後は2人で話し合いでもなんでもして解決してください。私には一切関係ありませんので」
未だに私を引き止めようとするリアムとリアムに食って掛かるシャーロットを無視して私は屋敷へと歩みを進めたのだった。
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