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18. 私の夢と恋模様①
しおりを挟むそれは、ある日の放課後のこと。
日直当番だった私は、クラスの席で1人黙々と、日誌を書いていた。
『御井、俺たち今日は先に部室に行っとくな』
『御井ちゃん、またあとでね~』
『うん!私ももうすぐ書き終わるから、日誌提出したらすぐそっちに行くよ』
真田くんたちとそんなやりとりがあったのは、数十分前。
2人が先に部室に行ってしまったあと、教室に残っていたのは私と、角の席で集まって話している女子生徒数名だけになっていた。
ワイワイと楽しそうに話しているクラスメイトの女子を横目に私はシャーペンをはしらせる。
よし、書けた!
あとは日誌を職員室に出しに行けば今日の当番の仕事は終わりだ。
早く部室行かないと!
たしか今日は次の活動について話すって真田君チャットで言ってたもんね。
そんなことを考えつつ、日誌を手に取り、私が職員室へ向かおうと席を立った。
その時だった――。
「ねぇ、御井さん…。ちょっと今いいかな?」
私が日誌を書き終わるタイミングを見計らっていたのか、教室に残っていたクラスの女子たちが声をかけてくる。
しかも、私に話しかけてきたのはクラスでも目立つ3人の女子生徒。
1人目は、フワフワの色素の薄いボブヘア、クラスで1番可愛いとウワサのある高梨里桜(りお)ちゃん。
パッチリした二重の目と、可愛いえくぼがチャームポイントの彼女は、女子の私から見ても抜群に可愛らしい。
2人目の永野綺羅莉(きらり)ちゃんは、日焼けした肌とボーイッシュなショートカットを耳にかけている元気な女の子。ソフトテニス部に所属していて、運動神経抜群なんだとか。
そして、3人目。腰までの長さの綺麗な黒髪をなびかせたスタイル抜群の彼女の名前は、早川結依(ゆい)ちゃん。なんと読者モデルの経験もあるらしい。
3人とも急にどうしたんだろう…?
普段、あまり接点のない彼女たちからの突然の声かけに、内心困惑しつつも、私はコクリと頷いた。
「う、うん…。大丈夫だけど…。何かな?」
私が了承してくれたことに安心したのか、早川さんが綺麗な笑顔を浮かべて「ほら。里桜、ちゃんと聞いとかないと!」と2人よりも一歩後ろに下がっている高梨さんの背中を押す。
どうやら私に用事があるのは、高梨さんのようだ。
「結依ちゃん。わ、わかってるから…。あの御井さん突然ゴメンね。私、ちょっとあなたに聞きたいことがあって…」
オドオドしつつも、私の瞳を真っ直ぐに見つめてくる高梨さんに合わせて、私も高梨さんをジッと見つめ返した。
「……えっと、その」
「…?」
けど、言いづらそうに口ごもる彼女に、私はコテンと首をかしげる。
「あ~もうっ!里桜ってば!ズバッと聞かないと!!あのね、御井さん。実は、里桜ってば最近、真田と仲良しな御井さんのことが気になっててぇ~」
しびれを切らしたのか、永野さんが私と高梨さんの間に割って入って口を開いた。
「私と真田くん…?」
パチパチと目をしばたたかせる私をよそに。
「ちょ、綺羅莉ちゃんっ…!そんなストレートに言わないでぇ~」
ボンッと顔を真っ赤にする高梨さんは、恥ずかしいのかバシバシと永野さんの腕を叩いている。
「え~。だって、そんな遠回しに言ったってしょうがないっしょ?ね、結依」
「まぁ、そうねぇ。でも、綺羅莉の場合はもう少し気遣うことも覚えたほうがいいと思うけどね。あれじゃ、里桜が真田のこと好きってモロバレだから」
「な、な…っ。2人とももうやめてってばぁ。御井さん、驚いてるから」
…え?
楽しげに話す3人…いや、高梨さんをからかう永野さんと早川さんの様子を見ながら、私は曖昧に微笑んだ。
私の存在忘れられてるんじゃ…。
「あの…」
「わわ…!ご、ゴメンね。御井さん…。実は私、い、唯月くんのこと前から好きで…。最近、御井さんと唯月くん仲良いから、もしかして付き合ってたりするのかなって…」
チラッと聞きづらそうに呟く高梨さんの姿を見て、私は思わずブンブンと首を横にふる。
「へ!?い、いや付き合ってないよ!部活が一緒ってだけで…」
「そっか~…。よかった」
心からホッとした様子で笑顔を浮かべる高梨さんの様子に、なぜか私はチクンと胸が痛むのを感じていた。
「えっと…。ごめんね。そしたら、もういいかな?私、早く日誌を出しに行かないとだから…」
なんだかその場に居づらくて、わざと話を切り上げようとそんな声かけをしてしまう。
すると。
「あ!待って。あと、もう1つだけ。私も、その…唯月くんと仲良くなりたくて、グラフィティ部に入りたいの!御井さん、よかったら私も部活に入れないか聞いてくれないかな…?」
予想外のお願いに、私の体はピタリとかたまってしまった。
「御井さん、副部長なんだよね?里桜のことグラフィティ部にいれてあげてくれないかな?里桜さ、本当に真田のこと好きで、頑張りたいんだって」
永野さんが口を開いた瞬間、ハッとする。
「そう、なんだ。でも、とりあえず、私だけじゃなんとも言えないから部長の真田くんに聞いてみないと…」
女子メンバーが増えるのは私も嬉しいのだが、なぜかモヤモヤとした気持ちがぬぐえなかった。
「そうだよねっ!じゃあ、とりあえず聞いてみてくれるだけでもいいからよかったら、お願いしますっ!」
高梨さんの無垢な笑顔に、私も「うん…」と小さく頷くことしかできなくて。
「御井さん急にゴメンね。日直頑張って…!綺羅莉ちゃん、結依ちゃん帰ろ~」
「はいよー」
「えぇ。行きましょうか。御井さん、バイバイ」
それだけ言い残し、カバンを持った3人は私に手を振って教室を出ていってしまった。
❥
「御井ちゃん、どうかした?なんか元気なくない?」
「え…!あ、ううん。ゴメンね、ボーッとしてた」
鈴城くんが心配そうに声をかけてきて、私はビクッと肩を揺らす。
「ガリ勉、勉強のしすぎでおかしくなってんじゃない?」
「御井、大丈夫か?」
岸くん、真田くんも続けざまに声をかけてくれた。
わぁ…。やっちゃった。ミーティングの途中でボーッとするなんてよくないよ。
職員室に日誌を提出した足で、部室にやって来た私。
高梨さんたちとの一件から、さっきのことが気になって話がうわの空になっている。
それに高梨さんのこと、ちゃんと伝えないと…だよね。
「あのっ!ごめん。ちょっといいかな…?」
意を決して、口を開いた私に一気に3人の注目が集まった。
「さっき、教室で高梨さんから、グラフィティ部に入りたいって相談されて…。他の入部希望者ってどうなのかなと…」
おずおずと物を言う私に。
「高梨ちゃんが?」
「…は?高梨って誰?」
「……」
反応を示したのは目を見開いた鈴城くんと、興味なさそうな様子の岸くん。
そして、ほんの一瞬、真田くんが眉をひそめたのを私は見逃さなかった。
「高梨ちゃんは、うちのクラスの子だよ。でも、なんでまたグラフィティ部に?」
「え、えっと。私もよくわかんないけど、うちの部活に興味持ってくれたんじゃないかな?アハハ…」
さすがに私の口から、"高梨さんが真田くんのことを好きだから"なんて言えるはずもなく…。
ごまかすように答える私の様子をジッと見つめる真田くんの視線を横目に感じる。
そんな彼の視線にタラリと冷や汗が頬を伝った。
まるで全てを見透かされているような気分になって、内心ソワソワと落ち着かない私。
「わかった。じゃあ、明日にでも俺から高梨に声かけてみるよ」
「だな。部長の唯月にまかせるわ」
「真田、よろしく」
真田くんの言葉でその話は終了となり、ミーティングが再開された。
「はいはい!次、ボクのやりたいやつね!秋にオンラインゲーム大会あんだけどさ。チーム戦でたいんだけど」
ワイワイと次の活動について提案をする岸くんの話を聞きながら、私はソっと真田くんを盗み見た。
普段と変わらず、話を聞いているように見えるのに、なんだか目の奥が笑っていない気がしてほんの少し不安になってしまったのだった。
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