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16. 浴衣カップルコンテスト③
しおりを挟む『それでは皆さんお待ちかねの浴衣カップルコンテスト、結果発表にうつりたいと思います。まずはキッズ部門から…!』
全ての部門の投票が終わり、いよいよ結果発表のとき。
舞台袖に待機している参加者たちは、いまかいまかと結果を待っている状況だ。
『キッズ部門優勝、エントリーナンバー5 春田愛ちゃん、中川光くん…!』
「やったぁ~」
「わーい!」
そんな風に名前を呼ばれ、スタッフに促されたキッズ部門の優勝者は、キラキラと目を耀かせステージ上へとあがっていく。
『…続いて、ジュニア部門!優勝は…』
大丈夫、落ち着いて…。
精いっぱいできることはしたんだもん。
ひとりそんなことを考えながら、ドキドキと祈るように私はギュッと胸の前で両手を組んだ。
次の瞬間。
『エントリーナンバー1番、小谷姫奈さん、道枝密くんのペアです!』
司会者の口から飛び出したのは、ジュニア部門で1番最初に登場したペアの名前。
ダメ…だった…。
「え、うそっ!?」と目を丸くして喜ぶ1番のお姉さんとは対照的に私は、ズンと肩が重くなるのを感じていた。
真田くんは、審査員からも観客の人からも、すっごく注目されていたし受け答えも完璧だった。
ということは、やっぱり私が足を引っ張っちゃったんじゃないの…?
そんな考えにたどり着いた途端、サーッと血の気が引いていく。
鈴城くんにも、聖羅さんにもこんなに可愛くしてもらって。原くんには、「まかせて」なんて言っちゃったくせに…。
結局、結果を出すことができなかった。
キュッと唇を噛みしめ、私はサッと下を向く。
本当に申し訳なくて、隣に立つ真田くんの顔も見れない。
その時――。
『えー…。そして、ここで皆さんに朗報です。基本的に浴衣カップルコンテストでは優勝者のみの表彰になりますが、今回ジュニア部門の参加者が例年より多かったこと、優勝者のカップルと接戦だったことを考慮し、特別にジュニア部門のみ特別賞を設けることにいたしました!それでは、ジュニア部門の特別賞を発表します』
特別賞…?
「へぇ…!そんなのあるんだ~」
「たしかに、ジュニア部門の参加者多かったもんね」
予想外のアナウンスに会場も少しざわついている。
『特別賞は、エントリーナンバー13番、御井悠花さん、真田唯月くんペアです。どうぞステージへ』
へ…?
一瞬、状況が読み込めなくてポカンとした表情をうかべていた私。
「御井、俺たちだよ」
「う、うん…!」
嬉しそうな真田くんに声をかけられ、ハッとする。
未だに、頭が追いついていない中、彼に手を引かれ、ゆっくりと私はステージへあがった。
『お~!13番は今回も、手繋ぎでの登場です!いやいや、仲良しですね~。皆さま特別賞の2人に大きな拍手をお願いします』
司会者に冷やかされ、会場からは拍手とともに、どっと笑いも巻き起こる。
本当に特別賞…とったんだ。
会場からの拍手と声援で、ようやく少しだけ実感が湧いてきた私は、ペコリと会釈をすると、優勝した1番のペアの横に並んだ。
「ねぇねぇ、えっと、悠花ちゃん?だっけ??隣の彼すっごく優しそうだね。私、実はあなた達に投票したんだ~。浴衣もすっごく似合ってたし。なにより2人がすっごく可愛かったもん」
コソッと優勝した1番のお姉さんが素敵な笑顔で私に声をかけてくれる。
「あ、ありがとうございます。あ、あのっ。優勝おめでとうございます。私、お姉さんたち、すっごくお似合いで…素敵だなぁって思いました!」
「ふふ。ありがとう」
照れたようにはにかんだお姉さんにつられて、私もつい微笑んでしまった。
❥
「悠花ちゃーん、唯月くん!おめでとう~。おばさん感動しちゃった~」
「聖羅さん…!」
コンテストが終わり、戻ってきた私に向かってギュッと抱きついてきたのは、鈴城くんのお母さん、聖羅さんだ。
「やーね。年取ると涙腺も弱くなっちゃって~」
言葉通りうるっと瞳を涙でにじませている彼女に私はクスッと笑顔を向ける。
「唯月、御井ちゃん…!マジですげーよ!特別賞おめでとう」
続いて、私に声をかけてくれたのは、鈴城くん。
いつもはどちらかと言えば、穏やかでどこかのらりくらりとしたイメージだけれど、今日は珍しく興奮したように前のめり状態。
きっと、それだけ嬉しかったんだろうな。
「何言ってるの~。鈴城くんのコーディネート、審査員の人もベタ褒めだったよ!私たちだけの力じゃないよ。ね、真田くん」
「そうそう。でも、悪いな宙。特別賞は東京で行われるファッションショーは行けないみたいだし…」
申し訳無さそうに呟く真田くん。
そう。彼の言う通り、優勝の特典、金一封や東京行きのチケットに関しては特別賞には与えられなかった。
特別賞は賞状のみ。
急遽決まった賞みたいだし、しょうがないところはあるけれど…。
「いや、俺にとしたらあれだけいる参加者の中で賞を取れたことがすげー自信になったよ。2人のおかげだ。本当にありがとな。それに来年に良い目標ができたわ」
「鈴城くん…」
今まで見たことがないくらい明るい笑顔の鈴城くんは、私たちから賞状を受け取ると、「顧問にも自慢しないとな~」となんだかふっきれたような表情をうかべている。
私、少しでも鈴城くんの夢を叶えるお手伝いできたのかな?
部活を始める前だったら、考えられないくらい胸にじんわりと広がる心地よさ。
ほんの少しだけ、自分自身も誇らしい気持ちになった。
「よ~し。お祭りはまだまだこれからだよ~。おばさんが車で帰りは送ってあげるし。今日はお祝い!皆、何でも買ってあげるから好きなもの食べなさい」
「マジで!?やった~。母さん太っ腹~。じゃあ、俺、たこ焼き」
「じゃあ俺は、やきそばで…!ありがとうございます」
聖羅さんのそんなひと声に、鈴城くんと真田くんさ目を輝かせている。
そして。
「「御井(ちゃん)、行こう」」
2人からほぼ同時に手を差し出され、私は一瞬驚きつつも、「うん」と微笑みながらその手を取ったのだった。
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