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15. 浴衣カップルコンテスト②
しおりを挟むガヤガヤ――。
『ただ今より、第15回夢望夏祭りの注目イベント、浴衣カップルコンテストを開催します…!審査員の投票、そして、この場にいらっしゃる皆様の投票で優勝者を決める参加型イベントになっておりますので、ぜひ最後までお楽しみください』
そんな司会者のアナウンスが聞こえてきて、舞台袖に佇む私は、チラリと観客席の方に視線を向けて、ゴクリと息を呑む。
私が考えていた以上に、たくさんのお客さんが来ているみたいで、観客席のパイプ椅子はほぼ満席状態。
そこからも、浴衣カップルコンテストの注目度が高いのが伝わってきた。
それに…。
周りを見回すと、色とりどりの浴衣がとっても似合うお姉さんたちばかり。
私…やっぱり場違いだったんじゃ。
いくら、鈴城くんに可愛くしてもらったからといっても元が私だし…。
気づけば心臓の音がこれでもかと言うくらいバクバク高鳴っている。
そして、不安からか徐々に血の気が引いていくのがわかった。
「…御井、大丈夫か?顔色悪いけど…」
突然、声をかけられてハッとする。
「……!?」
目の前には、私の顔を心配そうにのぞき込む真田くんと綺麗な顔。
予想以上に近い距離に思わず目を見開いて、カチンとかたまってしまった。
もともとの整った綺麗な顔と、鈴城くんが施したヘアアレンジ。そして、聖羅さんが持ってきた紺色の浴衣が、あまりにも似合いすぎていて、いつもの数倍の破壊力になっている。
髪の毛もワックスで少し毛先を遊ばせただけなのに、なんでこんなモデルみたいになるのだろう。
「ねぇねぇ、あの子カッコよくない?高校生かな…?」
「あ!私も思ってた~。後で声かけてみる?」
コンテストに参加するであろう控室に集まっている美人のお姉さんたちからも、キャッキャとウワサされてるし。
…まぁ、当の本人は気づいてないみたいだけれど。
実は、私的にはそこもちょっと肩身が狭かったりしていた。
きっと、周りから見れば「あの子がペアの子…?」と思われているに違いない。
そんなネガティブな考えが浮かんでしまうくらい、真田くんは目立っていた。
「控室も人多いし、もしかして人酔いした?まだ出番まで時間あるし、ちょっとあっちで休むか?」
気遣って、声をかけてくれる真田くん。
でも、これ以上迷惑をかけたくないのと控室で目立ちたくない私は首をぶんぶんと横にふる。
「だ、大丈夫!ちょっと緊張がピークに達してて…。普段、こういう大勢の人の前に立つことってないからさ。それに、出場する人達みんな可愛いし、私、大丈夫かなって思っちゃったり…」
曖昧な笑みで呟いた私に対して、なぜか真田くんは一瞬、綺麗な三日月型の目を丸くした。
そして、次の瞬間、フッと優しく微笑むと。
「何言ってんの?御井だってすっごく可愛いんだから、自信持ちなよ。少なくとも俺はこの中で1番だと思うよ」
「…ッ!?」
なんて、恥ずかしげもなく言うものだから、思わず一気に顔が赤く染まった。
真田くんにとっては、私を勇気づけるために言ってくれたんだろうけど、そんなこと言われ慣れていない私にとってはまさに、クリーンヒット。
破壊力抜群の攻撃だ。
「あり、がとう」
ふいっと視線をそらし、なんとかお礼を言ったものの、恥ずかしさから視線を合わせられなくなってしまう。
今日の夢望夏祭りのイベント、浴衣カップルコンテストは、4つの部門に分かれて行われる。
未就学児~小学生が参加するキッズ部門。
13歳以上が参加するジュニア部門。
20歳以上のアダルト部門。
そして、60代以上のシニア部門。
そんな中、今回、私たちが参加するのは中学生~高校生をメインにしたジュニア部門になる、のだが…。
どうやら、今回の参加部門の中でいちばん参加人数が多いみたいで部門別で並んだ時も人数の多さに圧倒されてしまった。
「それじゃ、まずはキッズ部門からコンテストを始めるので、次のジュニア部門の参加者さんはこっちの舞台袖まで集まっておいてください。あと、参加ナンバーを浴衣につけるの忘れないように」
イベントスタッフのお兄さんに促され、私は真田くんといっしょに所定の位置へ移動する。
『皆さん、大変長らくおまたせしました~。それでは浴衣カップルコンテストをはじめたいと思います…!.
まずは、キッズ部門エントリーの皆さんの入場です!拍手でお出迎えください』
――パチパチ、パチパチ。
司会者の合図にあわせ、観客席からは割れんばかりの拍手が聞こえて私は圧倒されてしまった。
❥
『それでは、これにてキッズ部門の投票を終了とさせていただきます!発表は、全部門終了後に行いますのでお楽しみに…!さぁ、続いてジュニア部門の参加者の皆様の登場です。ステージにご注目ください!』
き、きた…!
キッズ部門と、入れ違いで呼ばれたジュニア部門参加者。
参加ナンバー順にステージへと進んでいく他の参加者を横目に私は気持ちを落ち着けようと小さく息をつく。
――その時だった。
「へ!?さ、真田くん…?」
私の手を優しく包み込み、ギュッと握りしめるものだから驚いて声を上げてしまった。
「せっかくだし、俺たちが仲良いってところ、観客に見せてアピールとかないと。さ、行くよ」
「わっ、真田くん、ちょっと待っ…」
ぐいっとやや強引に真田くんが引っ張るものだから、私たちは手を繋いだ状態で、ステージにでてしまう。
『おっと~!参加ナンバー13番のペアは、仲良く手を繋いでの登場です』
「おっ!いいぞ~!!」
「可愛いカップルね~」
司会者のアナウンスと、観客席からの歓声から私は顔から火が出るんじゃないかと思ってしまうくらい頬に熱が集まった。
『それでは、ただ今よりジュニア部門のコンテストを始めます。ジュニア部門は計15名、今大会で1番多い参加者数です。やっぱり、先ほどのキッズ部門参加者よりもちょっと大人な浴衣が多い印象ですね~。さて、まずはアピールタイムです。参加ナンバー1番のカップルから自己紹介をどうぞ!』
司会者の説明が終わると、参加ナンバー1番のペアへ、マイクが手渡される。
「エントリーナンバー1番、道枝密。中学3年生」
「ペアの…こ、小谷姫奈、高1です」
緊張した様子が伝わってくるエントリーナンバー1番のお姉さんの気持ちが、今の私には、痛いほどよくわかった。
1番目緊張するよなぁ…。
少しずつ近づいてくる順番、他の参加者の上手な自己紹介を見ていると、どんどん不安が増していく。
そして。
『はい。12番のペアありがとうございます!さてさて、次は13番目の……おっと!先ほどの手を繋いで登場したお二人ですね!』
とうとう私たちの番になり、司会者から真田くんが笑顔でマイクを受け取った。
その瞬間。
「さっきの仲良しカップルじゃん!頑張れぇ」
なんて、観客席からのエールを受けて内心目を見張る。
真田くん考案の手つなぎアピール作戦は、見事に成功したみたいだ。
「皆さん、応援ありがとうございます。中学1年生の真田唯月です」
「同じく中学1年生の…御井悠花…です」
まずは、無難に名前と学年を伝えた私たち。
パチパチとわき起こる拍手に対して。
『いやいや、登場から目立ってたお二人に注目が集まってますよ!学校は同じなのかな?』
司会者から、軽快な質問が返ってくる。
「そうですね。同じクラスです」
さすが真田くん…!
司会者のトークにも柔軟に対応していて、緊張の色を見せない彼に私は羨望の眼差しを向けた。
『仲良しなんだね!さてさて、では彼女さんから今回のコーディネートのアピールポイントをどうぞ~』
き、きた…!
「はい…!えっと、今回、私たちは"大人な浴衣デート"をコンセプトにしています。全体的に白と紺の落ち着いた色合いで浴衣を合わせていて…。あとは、私の着ている浴衣に描かれている水色の紫陽花も含め、小物や髪飾りも青系でまとめてペア感も出しています」
ところどころ棒読みになってしまったような気もするが、なんとか鈴城くんから言われたポイントは伝えることができたように思う。
『なるほど…!たしかに大人っぽさがすごく出てるね!』
その後は、司会者からの質問にいくつか答え、ようやく次のペアへと順番が回っていった。
とりあえず、終わったよ…。
ホッとして、目の前の観客席に視線を向けると、鈴城くん、聖羅さんの姿が目に飛び込んでくる。
大きく手で◯をつくっている聖羅さんに、私はようやく心からの笑顔を向けることができたのだった――。
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