14 / 21
14. 浴衣カップルコンテスト①
しおりを挟む「ん~。こっちか?いや、御井ちゃんにはやっぱりこっちの方がいいかな?母さん、どう思う?」
「そうねぇ。ピンクも可愛いけど悠花ちゃんには、ちょっと子どもっぽいかしらねぇ~?」
真剣な表情で浴衣を選んでいるのは、鈴城くんと鈴城くんのお母さん、聖羅さんだ。
あいかわらず、私と同い年の子どもがいるとは思えないくらい綺麗な聖羅さん。
可愛らしくうーんと小首をかしげている。
実は、かれこれ1時間ほど2つの浴衣で迷っている2人。
私はそんな2人に気づかれないようにソっと肩を落とした。
お祭りってたしか、17時半からだったよね?
この調子で間に合うのかな…?
現在の時刻は17時少し前。
チラリとスマホで時間を確認した私は、だんだんと不安になってくってくる。
でも、キラキラと瞳を輝かせ、楽しそうに浴衣選びをしている鈴城くん親子に水を差したくなくて、声を掛けることもできずにいた。
すると。
「宙ー。そろそろ浴衣決めないとコンテストの時間に間に合わないぞ。てか、御井なんかすでに疲れ切ってるから」
私を気遣ってか、真田くんが鈴城くんに向かって声をかけてくれる。
「あ。もうそんな時間か。んー…決めた!こっちにしよう。母さん、着付けよろしく」
「えぇ。任せてちょうだい。悠花ちゃんをうんと可愛く着付けてあげるから」
「お願いします…!」
パチンとウインクする聖羅さんに、私はペコリと小さく頭を下げた――。
本日、7月7日の七夕。
私たちは、第15回夢望(ゆめみ)夏祭りの当日を迎えていた。
「ふふ。宙ったらね、今日の日のために色々準備してたみたいなの。だから、私も協力してあげたくってね~。悠花ちゃんもモデル引き受けてくれてありがとね」
別室で浴衣を着付けながら、ふんわりとした笑みを浮かべる聖羅さんはどことなく嬉しそうに見える。
「いえ、私こそこんな素敵な浴衣貸していただいた上に、着付けまでしてもらって…。それに美容室の場所まで使わせてもらってありがとうございます」
そう。私と真田くんは、鈴城くんの家。
つまり、鈴城くんのお母さん、聖羅さんがやっている美容室にやって来ていた。
「いいのよ~。どうせ、今日は夕方からお店閉める予定だったの。それに、悠花ちゃんの可愛い浴衣姿見れておばさんも嬉しいもの。さ、できたわ…!」
「わぁ…。可愛いです」
聖羅さんの声を合図に、目の前にある大きな鏡に視線を向けてみる。
鈴城くんが選んでくれたのは、白をベースに水色の紫陽花が描かれた可愛らしい浴衣。
「うん、我が息子ながらセンスは悪くないわね~」
ふふんと、満足そうにうなずいている聖羅さんに、つられて私もクスッと微笑んでしまう。
「さぁ、宙と唯月くんにもこの可愛い浴衣姿、見せに行きましょう」
「は、はい…」
自分の浴衣姿なんて、男の子の友だちになんて見せたことがないから、ほんのちょっと緊張する自分に気づいていた。
❥
「じゃじゃ~ん!どう?悠花ちゃん、可愛いでしょう」
聖羅さんのよく通る声が室内に響き渡り、一気に2人の視線が自分に向くのを感じる。
ドキドキ…。
一瞬の沈黙のあと。
「御井ちゃん、めっちゃ可愛いじゃん。な、唯月!」
「あ、あぁ…。うん、御井似合ってるよ」
ニコッと爽やかに微笑む鈴城くんと、優しい口調で褒めてくれる真田くん。
とりあえず、変ではないみたいでひと安心だ。
「えへへ。ありがとう…」
あんまり面と向かって褒められることがないので、ついはにかんてしまう私。
「じゃあ、こっち来て!ヘアアレンジもやっちゃうからさ」
鈴城くんから、美容室に備え付けられているカット用の椅子に座るよう促された私は、素直にその方向に向かって歩みを進める。
その時。
「あれ?そういえば、岸くん遅いよね…。そろそろ約束の時間なのに」
いっしょにコンテストに出場予定の岸くんの姿がまだ見えないことに気がついた。
そろそろ集合予定の時間から20分くらいの遅刻。
普段、遅れても10分程度の岸くんにしては珍しい。
「そうだな…。たしかに陽飛にしては遅いかも。ちょっと俺が連絡とってみるよ。御井たちはヘアメイク先に進めといて」
サッとスマホを取り出し、岸くんに電話をかける真田くんを横目に私は鈴城くんからヘアメイクを受けることに。
「岸くん、どうしたんだろうね?」
「連絡もなしに遅刻って、岸にしては珍しいよな」
私の髪をブラシでとかしながら、そう呟く鈴城くんに私も同意するように頷いた。
すると。
少し慌てた様子で、私たちの方にやって来たのは岸くんに連絡をとっていたはずの真田くん。
やや顔色が悪いように見えるのは気のせいだろうか。
「真田くん…?どうかしたの??岸くんなんて…」
そう私が問いかけた瞬間。
『ガリ勉…鈴城、悪い…。ボク今日は行けそうにない…ッゴホ、ゴホ』
真田くんの持っていたスマホから聞き覚えのある岸くんの声が聞こえてきた。
みんなに聞こえるようにスピーカーにしているみたいで、真田くんが私たちの方に自分のスマホを向けている。
それにしても…。
いつもの岸くんに比べるとだいぶ声が枯れているし、咳もしているし。
もしかして、風邪?
「岸!?お前、声ヤバいけど大丈夫か?」
私と同じ疑問を持った鈴城くんが、先に焦ったように問いかける。
『……悪い風邪引いたみたいで。薬は飲んだからなんとか…。朝、連絡しようと思ってたんだけど、薬飲んでいつの間にか寝てたみたいで…。真田からの電話で起きたんだ』
岸くん、落ち込んでる…?
心底申し訳無さそうな沈んだ声色で、言葉を紡ぐ岸くん。
いつも毒舌な彼からは信じられないくらい弱々しい声になんだかすごく心配になった。
「岸、声もヤバいし、ゆっくり休めよ。こっちは俺らでなんとかするから」
「岸くん、こっちは大丈夫。気にしないで!お大事にね」
私も鈴城くんに続いてそう声をかける。
最後に『マジで悪い。あとは頼んだわ』と呟いた岸くんは辛そうに咳をしながら電話を切った。
ツーツーと、スマホから聞こえる電子音。
私、真田くん、鈴城くんはその場で顔を見合わせる。
「大丈夫だから」なんて軽く言っちゃったけど、実際の所大丈夫ではないよね…?
「……」
「……」
そして、しばしの沈黙のあと。
「…唯月、岸の代役頼むわ」
と、最初に重い口を開いたのは鈴城くんだった。
「だな。それしかないよな…。宙はヘアメイク含めて忙しいし」
「ただ、岸用で選んでいた浴衣だと、唯月には可愛すぎるから。母さん、なんか落ち着いた色の男物の浴衣ないか?」
「ふふ。あるわよ…!すぐ持ってくるから唯月くんちょっとまってて」
バタバタと駆け足で美容室の2階に駆けていく聖羅さんの背中を見送り、私は小さく息を呑む。
岸くんじゃなくて、真田くんとカップル…。
急遽、真田くんと浴衣カップルコンテストに出場することになってしまい、なぜか変に緊張している自分がいることに気づいた。
岸くんの時と違う、ドキドキと高鳴るような心臓の鼓動。
その時の私は、その心臓の高鳴りの理由がなんなのかなんて、知るよしもなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
へいこう日誌
神山小夜
児童書・童話
超ド田舎にある姫乃森中学校。
たった三人の同級生、夏希と千秋、冬美は、中学三年生の春を迎えた。
始業式の日、担任から告げられたのは、まさかの閉校!?
ドタバタ三人組の、最後の一年間が始まる。

友梨奈さまの言う通り
西羽咲 花月
児童書・童話
「友梨奈さまの言う通り」
この学校にはどんな病でも治してしまう神様のような生徒がいるらしい
だけど力はそれだけじゃなかった
その生徒は治した病気を再び本人に戻す力も持っていた……
タイマヲマイタ 【園児・小学生時代】
テジリ
児童書・童話
若草市立ヒヲス小学校に転入してきた、時期外れの転校生・結尾咲人に回覧板を届けに行った柾谷は、異性装の彼に対面する。その姿に感動を覚えた柾谷は、咲人に瓜二つな彼の妹、樹に執着するが……その他、様々な人物達と学生生活を描いた群像劇
〈簡易あとがき〉
特に柾谷 稲穂と結尾一家のキャラクターは、完全なるフィクションである。何故なら元々タイマヲマイタは、柾谷と結尾 咲人を話の中心に据えた短編の予定で、
当初考えていたオチとしては、勤続何十年の高校教師となった柾谷が、勤務先の高校で結尾 咲良という名の女子生徒を受け持つこととなり、ひょっとしたら小学生時代に突如転出入してった咲人の娘か何か?
と思いつつ、教室で顔を合わせる場面で終わる、といった、雰囲気小説になる予定だったからだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる