夢✕恋グラフィティ

星乃びこ

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14. 浴衣カップルコンテスト①

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「ん~。こっちか?いや、御井ちゃんにはやっぱりこっちの方がいいかな?母さん、どう思う?」

「そうねぇ。ピンクも可愛いけど悠花ちゃんには、ちょっと子どもっぽいかしらねぇ~?」

 真剣な表情で浴衣を選んでいるのは、鈴城くんと鈴城くんのお母さん、聖羅さんだ。

 あいかわらず、私と同い年の子どもがいるとは思えないくらい綺麗な聖羅さん。
 可愛らしくうーんと小首をかしげている。

 実は、かれこれ1時間ほど2つの浴衣で迷っている2人。

 私はそんな2人に気づかれないようにソっと肩を落とした。

 お祭りってたしか、17時半からだったよね?
 この調子で間に合うのかな…?

 現在の時刻は17時少し前。

 チラリとスマホで時間を確認した私は、だんだんと不安になってくってくる。

 でも、キラキラと瞳を輝かせ、楽しそうに浴衣選びをしている鈴城くん親子に水を差したくなくて、声を掛けることもできずにいた。

 すると。

「宙ー。そろそろ浴衣決めないとコンテストの時間に間に合わないぞ。てか、御井なんかすでに疲れ切ってるから」

 私を気遣ってか、真田くんが鈴城くんに向かって声をかけてくれる。

「あ。もうそんな時間か。んー…決めた!こっちにしよう。母さん、着付けよろしく」

「えぇ。任せてちょうだい。悠花ちゃんをうんと可愛く着付けてあげるから」

「お願いします…!」

 パチンとウインクする聖羅さんに、私はペコリと小さく頭を下げた――。



 本日、7月7日の七夕。

 私たちは、第15回夢望(ゆめみ)夏祭りの当日を迎えていた。

「ふふ。宙ったらね、今日の日のために色々準備してたみたいなの。だから、私も協力してあげたくってね~。悠花ちゃんもモデル引き受けてくれてありがとね」

 別室で浴衣を着付けながら、ふんわりとした笑みを浮かべる聖羅さんはどことなく嬉しそうに見える。

「いえ、私こそこんな素敵な浴衣貸していただいた上に、着付けまでしてもらって…。それに美容室の場所まで使わせてもらってありがとうございます」

 そう。私と真田くんは、鈴城くんの家。
 つまり、鈴城くんのお母さん、聖羅さんがやっている美容室にやって来ていた。

「いいのよ~。どうせ、今日は夕方からお店閉める予定だったの。それに、悠花ちゃんの可愛い浴衣姿見れておばさんも嬉しいもの。さ、できたわ…!」

「わぁ…。可愛いです」

 聖羅さんの声を合図に、目の前にある大きな鏡に視線を向けてみる。

 鈴城くんが選んでくれたのは、白をベースに水色の紫陽花が描かれた可愛らしい浴衣。

「うん、我が息子ながらセンスは悪くないわね~」

 ふふんと、満足そうにうなずいている聖羅さんに、つられて私もクスッと微笑んでしまう。

「さぁ、宙と唯月くんにもこの可愛い浴衣姿、見せに行きましょう」

「は、はい…」

 自分の浴衣姿なんて、男の子の友だちになんて見せたことがないから、ほんのちょっと緊張する自分に気づいていた。


 ❥


「じゃじゃ~ん!どう?悠花ちゃん、可愛いでしょう」

 聖羅さんのよく通る声が室内に響き渡り、一気に2人の視線が自分に向くのを感じる。

 ドキドキ…。

 一瞬の沈黙のあと。

「御井ちゃん、めっちゃ可愛いじゃん。な、唯月!」

「あ、あぁ…。うん、御井似合ってるよ」

 ニコッと爽やかに微笑む鈴城くんと、優しい口調で褒めてくれる真田くん。

 とりあえず、変ではないみたいでひと安心だ。

「えへへ。ありがとう…」

 あんまり面と向かって褒められることがないので、ついはにかんてしまう私。

「じゃあ、こっち来て!ヘアアレンジもやっちゃうからさ」

 鈴城くんから、美容室に備え付けられているカット用の椅子に座るよう促された私は、素直にその方向に向かって歩みを進める。

その時。

「あれ?そういえば、岸くん遅いよね…。そろそろ約束の時間なのに」

いっしょにコンテストに出場予定の岸くんの姿がまだ見えないことに気がついた。

そろそろ集合予定の時間から20分くらいの遅刻。

普段、遅れても10分程度の岸くんにしては珍しい。

「そうだな…。たしかに陽飛にしては遅いかも。ちょっと俺が連絡とってみるよ。御井たちはヘアメイク先に進めといて」

サッとスマホを取り出し、岸くんに電話をかける真田くんを横目に私は鈴城くんからヘアメイクを受けることに。

「岸くん、どうしたんだろうね?」

「連絡もなしに遅刻って、岸にしては珍しいよな」

私の髪をブラシでとかしながら、そう呟く鈴城くんに私も同意するように頷いた。

すると。

少し慌てた様子で、私たちの方にやって来たのは岸くんに連絡をとっていたはずの真田くん。

やや顔色が悪いように見えるのは気のせいだろうか。

「真田くん…?どうかしたの??岸くんなんて…」

そう私が問いかけた瞬間。

『ガリ勉…鈴城、悪い…。ボク今日は行けそうにない…ッゴホ、ゴホ』

真田くんの持っていたスマホから聞き覚えのある岸くんの声が聞こえてきた。

みんなに聞こえるようにスピーカーにしているみたいで、真田くんが私たちの方に自分のスマホを向けている。

それにしても…。

いつもの岸くんに比べるとだいぶ声が枯れているし、咳もしているし。

もしかして、風邪?

「岸!?お前、声ヤバいけど大丈夫か?」

私と同じ疑問を持った鈴城くんが、先に焦ったように問いかける。

『……悪い風邪引いたみたいで。薬は飲んだからなんとか…。朝、連絡しようと思ってたんだけど、薬飲んでいつの間にか寝てたみたいで…。真田からの電話で起きたんだ』

岸くん、落ち込んでる…?

心底申し訳無さそうな沈んだ声色で、言葉を紡ぐ岸くん。

いつも毒舌な彼からは信じられないくらい弱々しい声になんだかすごく心配になった。

「岸、声もヤバいし、ゆっくり休めよ。こっちは俺らでなんとかするから」

「岸くん、こっちは大丈夫。気にしないで!お大事にね」

私も鈴城くんに続いてそう声をかける。

最後に『マジで悪い。あとは頼んだわ』と呟いた岸くんは辛そうに咳をしながら電話を切った。

ツーツーと、スマホから聞こえる電子音。

私、真田くん、鈴城くんはその場で顔を見合わせる。

「大丈夫だから」なんて軽く言っちゃったけど、実際の所大丈夫ではないよね…?

「……」

「……」

そして、しばしの沈黙のあと。

「…唯月、岸の代役頼むわ」

と、最初に重い口を開いたのは鈴城くんだった。

「だな。それしかないよな…。宙はヘアメイク含めて忙しいし」

「ただ、岸用で選んでいた浴衣だと、唯月には可愛すぎるから。母さん、なんか落ち着いた色の男物の浴衣ないか?」

「ふふ。あるわよ…!すぐ持ってくるから唯月くんちょっとまってて」

バタバタと駆け足で美容室の2階に駆けていく聖羅さんの背中を見送り、私は小さく息を呑む。


岸くんじゃなくて、真田くんとカップル…。

急遽、真田くんと浴衣カップルコンテストに出場することになってしまい、なぜか変に緊張している自分がいることに気づいた。

岸くんの時と違う、ドキドキと高鳴るような心臓の鼓動。

その時の私は、その心臓の高鳴りの理由がなんなのかなんて、知るよしもなかった。
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