7 / 21
7.タイミング
しおりを挟む「ただいま~…。あ!お母さん、あのね」
「あら、おかえりなさい。遅かったわね。学校で勉強でもしてたの?」
学校から帰ってきた私は、台所で夕食の準備をしている母に声をかける。
笑顔で「勉強してたの?」と聞いてくる母に苦笑いを浮かべつつ。
「あ~うん。まぁね…。あの…!お母さん、実は話したいことがあって…」
私は、話をはぐらかしながらも意を決して口を開いた。
言わなきゃ、グラフティ部のこと。
そして、入部届けにサインをもらうんだ。
そう思って、話をしようとした時――。
「あ!そう言えば悠花、お隣の雅俊(まさとし)くん!大学の推薦もらえなかったらしいわよ。あの子、たしか中学の時からサッカー部入って、勉強は二の次だったものね~。サッカーだって、スポーツ推薦もらえるほど上手ってわけじゃないみたいだし。部活にかまけて、勉強を疎かにするとやっぱりそうなっちゃうのね…」
「……っ」
母の口から出たその言葉を聞いた私は、言いかけていたセリフをグッとのみこんでしまう。
「雅俊くん、小学校の時はそれなりに頭良くて勉強できる子だったのに、残念ね~。でもその点、悠花は勉強しっかり頑張ってるし、部活をしてるわけでもないし。お母さんも安心だわ」
「う…ん。勉強はちゃんとしてるよ」
「次のテストも1位とれるように頑張るのよ?そういえば、何か言いかけてたわよね?どうかしたの??」
ニコニコと機嫌の良い母は、お皿に今日の夕食を盛り付けながら私に優しい声で尋ねてくる。
"部活にかまけて勉強を疎かにするから"
そんなことを言われた手前、今更「部活に入りたいと思ってる」なんて口が裂けても言えない雰囲気で…。
「えっとね、土曜日の塾の自習なんだけど早めに出ようかなと思って。もうすぐ期末テストも近いし頑張りたくて…。それで、お昼は近くのファミレスとかで食べるからお弁当は大丈夫だよっていうことを言いたかったの」
頭をフル回転させて、それっぽい言い訳とミーティングに参加できるよう土曜日のお弁当がいらないことを母に伝えた。
「あらそう?そうね。たまには気分転換にお昼くらい好きなもの食べたいわよね~。わかったわ。じゃあ、これ土曜日のお昼ご飯代渡しとくわ!好きなの食べなさい」
「ありがとう。お母さん…」
母は、財布から千円札を2枚取り出し、笑顔で私に手渡す。
そして、「ほら、もう夕食できるから荷物置いていらっしゃい」と言葉を紡ぐ。
「はーい…」
私は素直にコクリと頷き、足早に自分の部屋へと続く階段をのぼった。
入部届けは先生に少し待ってもらおう。
それで土曜日は塾の自習室をこっそり抜け出して、ミーティングに参加すればいいよね…?
もちろん、お母さんに内緒でミーティングに参加することは、良くないことだってわかってはいるけれど、話をするにもタイミングが大事だもん。
どう考えてもさっきは、話すタイミングじゃなかったし…。
私は小さくため息をこぼすと、自分の部屋のドアを開けたのだった――。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
オオカミ少女と呼ばないで
柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。
空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように――
表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

秘密
阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)
占い探偵 ユーコちゃん!
サツキユキオ
児童書・童話
ヒナゲシ学園中等部にはとある噂がある。生徒会室横の第2資料室に探偵がいるというのだ。その噂を頼りにやって来た中等部2年B組のリョウ、彼女が部屋で見たものとは──。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
魔界カフェへようこそ
☆王子☆
児童書・童話
小さな踏切の前で電車を待つ一人の少年。遮断機がおり警報機が鳴りだすと、その少年はいじめという日々から逃れるため、ためらいなく電車に飛び込んだ。これですべて終わるはずだった――。ところが少年は地獄でも天国でもない魔物が暮らす世界に迷い込んでしまう。

魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】
小平ニコ
児童書・童話
中学一年生の稲葉加奈は吹奏楽部に所属し、優れた音楽の才能を持っているが、そのせいで一部の部員から妬まれ、冷たい態度を取られる。ショックを受け、内向的な性格になってしまった加奈は、自分の心の奥深くに抱えた悩みやコンプレックスとどう付き合っていけばいいかわからず、どんよりとした気分で毎日を過ごしていた。
そんなある日、加奈の前に突如現れたのは、魔界からやって来た王子様、ルディ。彼は加奈の父親に頼まれ、加奈の悩みを解決するために日本まで来たという。
どうして父が魔界の王子様と知り合いなのか戸惑いながらも、ルディと一緒に生活する中で、ずっと抱えていた悩みを打ち明け、中学生活の最初からつまづいてしまった自分を大きく変えるきっかけを加奈は掴む。
しかし、実はルディ自身も大きな悩みを抱えていた。魔界の次期魔王の座を、もう一人の魔王候補であるガレスと争っているのだが、温厚なルディは荒っぽいガレスと直接対決することを避けていた。そんな中、ガレスがルディを追って、人間界にやって来て……
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる