夢✕恋グラフィティ

星乃びこ

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7.タイミング

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「ただいま~…。あ!お母さん、あのね」

「あら、おかえりなさい。遅かったわね。学校で勉強でもしてたの?」

学校から帰ってきた私は、台所で夕食の準備をしている母に声をかける。

笑顔で「勉強してたの?」と聞いてくる母に苦笑いを浮かべつつ。

「あ~うん。まぁね…。あの…!お母さん、実は話したいことがあって…」

私は、話をはぐらかしながらも意を決して口を開いた。

言わなきゃ、グラフティ部のこと。
そして、入部届けにサインをもらうんだ。

そう思って、話をしようとした時――。

「あ!そう言えば悠花、お隣の雅俊(まさとし)くん!大学の推薦もらえなかったらしいわよ。あの子、たしか中学の時からサッカー部入って、勉強は二の次だったものね~。サッカーだって、スポーツ推薦もらえるほど上手ってわけじゃないみたいだし。部活にかまけて、勉強を疎かにするとやっぱりそうなっちゃうのね…」

「……っ」

母の口から出たその言葉を聞いた私は、言いかけていたセリフをグッとのみこんでしまう。

「雅俊くん、小学校の時はそれなりに頭良くて勉強できる子だったのに、残念ね~。でもその点、悠花は勉強しっかり頑張ってるし、部活をしてるわけでもないし。お母さんも安心だわ」

「う…ん。勉強はちゃんとしてるよ」

「次のテストも1位とれるように頑張るのよ?そういえば、何か言いかけてたわよね?どうかしたの??」

ニコニコと機嫌の良い母は、お皿に今日の夕食を盛り付けながら私に優しい声で尋ねてくる。

"部活にかまけて勉強を疎かにするから"

そんなことを言われた手前、今更「部活に入りたいと思ってる」なんて口が裂けても言えない雰囲気で…。

「えっとね、土曜日の塾の自習なんだけど早めに出ようかなと思って。もうすぐ期末テストも近いし頑張りたくて…。それで、お昼は近くのファミレスとかで食べるからお弁当は大丈夫だよっていうことを言いたかったの」

頭をフル回転させて、それっぽい言い訳とミーティングに参加できるよう土曜日のお弁当がいらないことを母に伝えた。

「あらそう?そうね。たまには気分転換にお昼くらい好きなもの食べたいわよね~。わかったわ。じゃあ、これ土曜日のお昼ご飯代渡しとくわ!好きなの食べなさい」

「ありがとう。お母さん…」

母は、財布から千円札を2枚取り出し、笑顔で私に手渡す。

そして、「ほら、もう夕食できるから荷物置いていらっしゃい」と言葉を紡ぐ。

「はーい…」

私は素直にコクリと頷き、足早に自分の部屋へと続く階段をのぼった。

入部届けは先生に少し待ってもらおう。

それで土曜日は塾の自習室をこっそり抜け出して、ミーティングに参加すればいいよね…?

もちろん、お母さんに内緒でミーティングに参加することは、良くないことだってわかってはいるけれど、話をするにもタイミングが大事だもん。

どう考えてもさっきは、話すタイミングじゃなかったし…。

私は小さくため息をこぼすと、自分の部屋のドアを開けたのだった――。
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