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閑話休題 -破滅対策同盟《アルストロメリア》大報告会-
閑話休題 -109話-[世界戦力強化案、始動!]
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報告会は夕方前には終わったのだが参加者の疲労が酷く溜まっていた為にその日は皆が早々に部屋に引っ込み、翌日に改めて今後の方針を決める王族会議を行う運びとなったのだ。
——翌日。
流石に兵士は参加しなかったが、王達の傍らには相談役として参加する将軍や客将の姿があった。報告会に続き精霊王やギルドマスターも参加しており、精霊と冒険者も今後の対策に参加する為の情報共有を行う予定だ。
「皆々方、疲れは取れましたか?」
ドラウグド王が席に座った王族ならびに代表と相談役の面々に問いかける。多くが苦笑いを浮かべる中で聖女クレシーダだけが元気に返事を返した。
「ドラウグド陛下のお気遣いに感謝します。私は皆様に比べて若いので随分と疲労を抜く事が出来ました。教皇様は如何ですか?」
聖女クレシーダが隣に座るこの場で一番老いている教皇オルヘルムに会話のパスを出す。
「流石に疲労の全てが抜けたわけではない。しかし、夕食と朝食が大変に美味しかったからか今はすこぶる快調ですわい」
ヴリドエンデ側がホストとして色々気遣った点は各国が理解をしていた。何より一番心労を受けているのがホスト側だったのでこれ以上話題を広げる事なくさっさと会議に移れる様に会話が回り始めた頃に宗八が到着する。
コンコンコン。
「水無月宗八殿が到着致しました!」
「入れ」
兵士が扉を開けると宗八が入室する。映像を観ただけなのにいまだに疲れが残る面々をみてニヤリと笑いながら用意された席に着いた。
「あまり王が国を空ける訳にもいかない。さっそく水無月宗八の提案を聞きたい」
ホスト国としてドラウグド王が率先して進行役を務める様だ。全員の手元にはメリーと闇精クーデルカが用意した資料が揃っていた。
「ありがとうございます。では、破滅への対抗策として私が提案するのは兵士や冒険者のステータスの底上げ方法についてです」
「それは俺達も教えてもらったダンジョンのモンスターを倒すという手段ですか?」
この度の勇者強化にも宗八が口添えしていたので勇者プルメリオは察して質問して来る。
「その通り。ただ、勇者や私達みたいに少数ではなく大勢の強化をするには色々と問題があります。特に時間関係ですね」
宗八が肩を竦めながら問題点を伝えると一様に皆が頷いた。
まず城下町にあるダンジョンであれば兵士などは休日に潜ってその日のうちに帰宅して翌日出勤出来る。しかし、遠方のダンジョンとなると移動時間に称号を獲得するまでの滞在時間などの縛りがかなりキツイ。やるにしても長期休暇を利用して仲間内でPTを組むなど細かな計画が求められる。
「先に説明しますがステータス強化方法として案内するのはモンスターや魔物の討伐系称号になります。1種類の魔物を300体倒せば2~3種類のステータスが10近く上がりますのでこれをダンジョン毎にコンプリートしていただこうと考えています」
そして、この討伐数も問題となる。
「いいだろうか?」
拳聖エゥグーリアが律義に挙手をして質問して来たので宗八は続きを促した。
「その討伐数はPTではなく一人ずつで計算されるはずだ。つまり五人PTを組んでも攻撃役に偏ってしまう。この点はどうするつもりなのだ?」
「良い質問ですね、エゥグーリア。答えはダンジョンを鍛錬用に調整する事にしました」
「ダンジョンを調整? 詳しく説明しろ」
ラフィート君さぁ……。これから説明するから慌てるなって。
「ダンジョンの最奥。人の入れないエリアにはダンジョンコアがあり、冒険者の減ったHPやMPをエネルギーに変換して魔物のリポップや宝箱の再配置を行っているんです。それを意図的に行うダンジョンマスターも居ますのでその方と交渉して調整してもらいます」
ダンジョンは管理する国の資産の扱いだ。なので、ダンジョンを管理しているつもりになっていた王族たちは寝耳に水な情報に困惑した。ダンジョンの絡繰りを知らないのだから無理も無いのだが、考えて見れば無限に資源が湧くダンジョンについて出現する魔物を調べてランク付けを行う程度で詳しい事は何も理解していない事に今更ながら思い起こす面々を眺める宗八に聖女クレシーダが問い掛ける。
「水無月さんはどこかのダンジョンを管理しているのですか? 若しくはダンジョンマスターに心当たりがあるのでしょうか?」
「私自身でダンジョンの管理はしていませんが、ダンジョンマスターの知り合いは居ます」
宗八が知るダンジョンマスターとは、闇精王アルカトラズだ。精霊王が纏まって座るエリアに白いローブを身に纏った黒いスケルトンが鎮座していた。普段はがしゃどくろの姿なのにこの度ダンジョン外に招待したらあの姿で合流して来たのだ。
「それと今回の提案はずいぶん前から草案はあったのですが実現の為に色々とギルドにも協力いただきました。その節がありがとうございました」
宗八がお礼を言うとアインス達筆頭ギルドマスターがそれぞれ手を挙げたりなど反応を返す。ギルドが把握しているダンジョン情報の確認と闇精王アルカトラズが掌握しているダンジョンのすり合わせをさせてもらう際に協力いただいた。ちなみに守護エリアを持たない闇精王がダンジョン管理の多くを担当しているのだが、他の精霊王も少数ながら守護エリア内に管理ダンジョンを所有している事が判明した為早い段階で話は通していた。
「無関係の冒険者も利用するので大きく仕様変更する事は出来ませんが、協力していただけるダンジョンマスターの計らいで一部ダンジョンを固定マップ、宝箱なし、魔物は規定数と設定いただきました。これにより実績解除の為のタイムアタックを繰り返す事が出来るようになります」
本体のダンジョンは階層ごとにマップパターンが複数存在する。
ただ、広さや宝箱設置位置の癖などがあるので慣れた冒険者であれば階段のある方向くらいは簡単に把握出来る。流石に上級ダンジョンになると癖の把握どころではないので階段捜索に時間が掛かる事になるので今回は固定マップに拘った。
宗八の説明に効率的だと納得する者が多い中で疑問を素直に口にする事を決めたラッセン第二王子が挙手した。
「何故もっと早くに実施出来なかったのかを聞きたい」
兄であるアルカイド王太子は理由に気付いている様子だが敢えて何も言わずに宗八に説明を任せた。
「今までこの世界に攻めて来ていたのは魔神族までです。この世界の人々から見て異常に強いと言っても私達が対抗出来る現実にどうしても積極性が欠けてしまいます。故に、皆さまを恐怖のどん底に落として必死に生き残る手段に縋りつく時期を見定めているうちに遅くなってしまいました」
宗八は笑みを浮かべた。楽しくて浮かべたわけではなく、予定通りに神格禍津大蛇《ウロボロス》が宗八の前に想像よりも絶望的な力を見せつけつつ姿を現し、この度の報告会で魂に刻まれるほどに恐怖心を煽る事に成功した笑みだ。世界を救う為とは言え命を天秤に掛けてどれほどのギャンブルをするのかと多くの者が別の恐怖を感じていた。
「あ、それと今回のダンジョン調整は今回だけで封印しますので参加者全員に情報を漏らせば一族郎党皆殺しにされるとお伝えください」
続けて宗八が口にした皆殺しの言葉は事も無げに発された。一瞬聞き逃した面々も二度見をする。
強くなれる方法があるのに何故積極的に行わないのかと武で鳴らしたドラウグド王が問い掛ける。
「何故秘密にするのかがわからない。強くなれるなら強くなるべきだろう?」
多くの王族や教皇はドラウグド王の言葉に同意は出来ないらしい。微妙な表情を浮かべている。それは武力で国を盛り立てる火の国は当然求めるだろうが他の国は治世を中心に盛り立てているので高ステータスは必ずしも必要では無かったからだ。
「まず、私や勇者の様な異世界人が現れる前にここまで強い者は居ましたか? 居ても拳聖や剣聖でしょう?」
「そうだな」
ドラウグド王の肯定を確認して宗八は話を続ける。
「本来この世界はその程度の強さで十分回っていたんです。将軍やS級冒険者が出張ればほとんどの魔物は討伐できる。冒険者や兵士も普通にLev,100になれば十分に戦える戦士になるんです。そこに私や勇者という外来種が登場した。今だけなんです。この世界に本来以上の実力が求められるのは……。魔王の件や破滅の件が過ぎれば火種にしかならないなら、この世界を乱す火種は今のうちに文字通り消しておかないといけない。ご理解いただけますか?」
もしもダンジョン周回で強くなる方法が残された場合、その一族は早い段階から計画的にダンジョンを巡って頭角を現す事に成る。それこそ誰もが相手にならない程の高ステータスを携えて。その者の性格によっては最悪、国を乱し世界を乱す可能性が出る。
自分がこの世界にその身を埋める事となった以上、子孫が苦労する様な事はあってはならない。
宗八の覚悟が決まった視線を受けたドラウグド王は顔を青くして頷くのが精いっぱいとなった。
「調整するダンジョンは事前にギルドに協力してもらいその町の冒険者に向けて声明を出してもらいます。世界各地のダンジョンに異常が発生しており宝箱が全く出ない事例が起こっている。この町のダンジョンもその例に漏れず異常が確認されたので宝を狙うなら別のダンジョンのある街へ一時的に活動場所を変更する様に……みたいな内容ですね」
これにはアインスが真っ先に反応した。
「構いません。いつからいつまでと事前に打ち合わせが必要ですがアスペラルダは問題ありません」
続いてパーシバルが同意を示す。
「フォレストトーレも問題ありません。冒険者の選定も済んでおります」
この言葉にフォレストトーレ国王でもあるラフィートは聞いていないぞと睨みを利かす。その視線を受けてもパーシバルは気にする様子を一切見せなかった。ダンジョン情報収集の際に筆頭ギルドマスター達には計画を話していたのでユレイアルドのプレイグも、アーグエングリンのリリトーナも次々と同意を宣言していく中で宗八と唯一親交の無かったヴリドエンデの筆頭ギルドマスターであるカルミオンは戸惑っていた。
「カルミオンさんもご協力をお願いします。ダンジョン情報は他のギルドから横流してもらったので既に揃っていますから後は貴方が積極的に協力いただけると助かるのですが……」
カルミオンは迷った末にドラウグド王に視線を送るが先ほどから青い顔で固まったまま反応を返してくれない。次に隣のアルカイド王太子へ視線を送るとすぐに気が付き頷いたのを見て返答する。
「私のところももちろん協力させていただきます。後程他国のギルドマスターには色々と話を聞かなければなりませんが……」
「ありがとうございます。あまり普通の冒険者や市場を乱してもいけませんので基本的に一ヵ月程度で調整を解除して次のダンジョンの調整が始まります。スケジュールはこの後詰めていただければ私から協力者に伝えておきます。移動距離を考えて自国のダンジョンを巡って頂く様にお願いします。ダンジョンのある町に各地を繋ぐゲートの設置も行います。あと、出来れば二人組でダンジョンアタックを推奨します」
ダンジョンの内部がPT毎のインスタントダンジョンとなるのか、複数PTが混在するインスタントダンジョンになるのかはダンジョンマスター次第になる。今回は各PT毎のインスタントダンジョンになるので魔物の奪い合いは起こらない。一国の軍団は複数あるので二軍団二万人ずつならなんとかなると聞いている。
二人組の部分ですぐに理解し正解に辿り着いたのは魔法使いミリエステだった。
「回転率を上げる為……でしょうか?」
「その通りです。この調整ダンジョンに入ダンする人間は精鋭となる必要があります。選出されるほどなのですからLev.は当然高いので後は戦闘センスを磨くのみです。だからこそのタイムアタックです。二人で出来ることに限りはありますが連携や選択肢でいくらでも周回は早くなります。精霊契約はさせる予定なので前衛は魔法の選択肢が増えますし、後衛は囲まれた際に必然的に近接戦闘術が求められます。そして、中級や上級に上がる頃にはステータスは十分に釣り合い二人でも十分に安全マージンを保ったまま攻略を進められるでしょう」
もちろん宗八が語る言葉は理想論だ。後衛が必要に迫られたからと言って近接戦が急激に上手くなるわけはないし、前衛は魔法を当てるのも大変ですぐに剣を手に前進するだろう。だからこそ中級で挫折する。魔物が連携を取り始めるので二人では上手くやらないと戦闘毎に被害が出てしまうが、ステータス上昇の影響で耐久力が上がっているのですぐに致命的な状況にはならない。一戦すれば冷静に自分達の状況を嫌でも理解する話し合いが行われる。互いが意見を出してより慎重にダンジョンを攻略して、夜に食事をしながら別グループからどれだけ早くクリアしたのか話を聞くのだ。明らかに自分達よりも早いクリアタイムを聞いて焦らない奴はいない。何故ならタイムアタックと事前に伝えているのだから。
その早いタイムでクリア出来たグループも上級で挫折するだろう。魔物の連携練度は更に上がり攻撃も鋭く強力になり、単純に数でも負けて挫折する。そこから各グループがどの様な戦術を組んで周回出来る様になるのか……。今から楽しみだ!
その後は宗八の提案と資料を元に各国で話し合いが持たれた。
宗八は質問には答えるしゲートの設置などで協力はするが、自分達の鍛錬もあるのでいつまでも強さ下々の者に構っても居られない。各国にはアスペラルダの諜報侍女部隊の様に闇精契約者を育成して、いざという時並びに他国のダンジョン遠征などに用いて欲しい事も付け加え、数日に及ぶ破滅大報告会はこれにて閉会するのであった。
——翌日。
流石に兵士は参加しなかったが、王達の傍らには相談役として参加する将軍や客将の姿があった。報告会に続き精霊王やギルドマスターも参加しており、精霊と冒険者も今後の対策に参加する為の情報共有を行う予定だ。
「皆々方、疲れは取れましたか?」
ドラウグド王が席に座った王族ならびに代表と相談役の面々に問いかける。多くが苦笑いを浮かべる中で聖女クレシーダだけが元気に返事を返した。
「ドラウグド陛下のお気遣いに感謝します。私は皆様に比べて若いので随分と疲労を抜く事が出来ました。教皇様は如何ですか?」
聖女クレシーダが隣に座るこの場で一番老いている教皇オルヘルムに会話のパスを出す。
「流石に疲労の全てが抜けたわけではない。しかし、夕食と朝食が大変に美味しかったからか今はすこぶる快調ですわい」
ヴリドエンデ側がホストとして色々気遣った点は各国が理解をしていた。何より一番心労を受けているのがホスト側だったのでこれ以上話題を広げる事なくさっさと会議に移れる様に会話が回り始めた頃に宗八が到着する。
コンコンコン。
「水無月宗八殿が到着致しました!」
「入れ」
兵士が扉を開けると宗八が入室する。映像を観ただけなのにいまだに疲れが残る面々をみてニヤリと笑いながら用意された席に着いた。
「あまり王が国を空ける訳にもいかない。さっそく水無月宗八の提案を聞きたい」
ホスト国としてドラウグド王が率先して進行役を務める様だ。全員の手元にはメリーと闇精クーデルカが用意した資料が揃っていた。
「ありがとうございます。では、破滅への対抗策として私が提案するのは兵士や冒険者のステータスの底上げ方法についてです」
「それは俺達も教えてもらったダンジョンのモンスターを倒すという手段ですか?」
この度の勇者強化にも宗八が口添えしていたので勇者プルメリオは察して質問して来る。
「その通り。ただ、勇者や私達みたいに少数ではなく大勢の強化をするには色々と問題があります。特に時間関係ですね」
宗八が肩を竦めながら問題点を伝えると一様に皆が頷いた。
まず城下町にあるダンジョンであれば兵士などは休日に潜ってその日のうちに帰宅して翌日出勤出来る。しかし、遠方のダンジョンとなると移動時間に称号を獲得するまでの滞在時間などの縛りがかなりキツイ。やるにしても長期休暇を利用して仲間内でPTを組むなど細かな計画が求められる。
「先に説明しますがステータス強化方法として案内するのはモンスターや魔物の討伐系称号になります。1種類の魔物を300体倒せば2~3種類のステータスが10近く上がりますのでこれをダンジョン毎にコンプリートしていただこうと考えています」
そして、この討伐数も問題となる。
「いいだろうか?」
拳聖エゥグーリアが律義に挙手をして質問して来たので宗八は続きを促した。
「その討伐数はPTではなく一人ずつで計算されるはずだ。つまり五人PTを組んでも攻撃役に偏ってしまう。この点はどうするつもりなのだ?」
「良い質問ですね、エゥグーリア。答えはダンジョンを鍛錬用に調整する事にしました」
「ダンジョンを調整? 詳しく説明しろ」
ラフィート君さぁ……。これから説明するから慌てるなって。
「ダンジョンの最奥。人の入れないエリアにはダンジョンコアがあり、冒険者の減ったHPやMPをエネルギーに変換して魔物のリポップや宝箱の再配置を行っているんです。それを意図的に行うダンジョンマスターも居ますのでその方と交渉して調整してもらいます」
ダンジョンは管理する国の資産の扱いだ。なので、ダンジョンを管理しているつもりになっていた王族たちは寝耳に水な情報に困惑した。ダンジョンの絡繰りを知らないのだから無理も無いのだが、考えて見れば無限に資源が湧くダンジョンについて出現する魔物を調べてランク付けを行う程度で詳しい事は何も理解していない事に今更ながら思い起こす面々を眺める宗八に聖女クレシーダが問い掛ける。
「水無月さんはどこかのダンジョンを管理しているのですか? 若しくはダンジョンマスターに心当たりがあるのでしょうか?」
「私自身でダンジョンの管理はしていませんが、ダンジョンマスターの知り合いは居ます」
宗八が知るダンジョンマスターとは、闇精王アルカトラズだ。精霊王が纏まって座るエリアに白いローブを身に纏った黒いスケルトンが鎮座していた。普段はがしゃどくろの姿なのにこの度ダンジョン外に招待したらあの姿で合流して来たのだ。
「それと今回の提案はずいぶん前から草案はあったのですが実現の為に色々とギルドにも協力いただきました。その節がありがとうございました」
宗八がお礼を言うとアインス達筆頭ギルドマスターがそれぞれ手を挙げたりなど反応を返す。ギルドが把握しているダンジョン情報の確認と闇精王アルカトラズが掌握しているダンジョンのすり合わせをさせてもらう際に協力いただいた。ちなみに守護エリアを持たない闇精王がダンジョン管理の多くを担当しているのだが、他の精霊王も少数ながら守護エリア内に管理ダンジョンを所有している事が判明した為早い段階で話は通していた。
「無関係の冒険者も利用するので大きく仕様変更する事は出来ませんが、協力していただけるダンジョンマスターの計らいで一部ダンジョンを固定マップ、宝箱なし、魔物は規定数と設定いただきました。これにより実績解除の為のタイムアタックを繰り返す事が出来るようになります」
本体のダンジョンは階層ごとにマップパターンが複数存在する。
ただ、広さや宝箱設置位置の癖などがあるので慣れた冒険者であれば階段のある方向くらいは簡単に把握出来る。流石に上級ダンジョンになると癖の把握どころではないので階段捜索に時間が掛かる事になるので今回は固定マップに拘った。
宗八の説明に効率的だと納得する者が多い中で疑問を素直に口にする事を決めたラッセン第二王子が挙手した。
「何故もっと早くに実施出来なかったのかを聞きたい」
兄であるアルカイド王太子は理由に気付いている様子だが敢えて何も言わずに宗八に説明を任せた。
「今までこの世界に攻めて来ていたのは魔神族までです。この世界の人々から見て異常に強いと言っても私達が対抗出来る現実にどうしても積極性が欠けてしまいます。故に、皆さまを恐怖のどん底に落として必死に生き残る手段に縋りつく時期を見定めているうちに遅くなってしまいました」
宗八は笑みを浮かべた。楽しくて浮かべたわけではなく、予定通りに神格禍津大蛇《ウロボロス》が宗八の前に想像よりも絶望的な力を見せつけつつ姿を現し、この度の報告会で魂に刻まれるほどに恐怖心を煽る事に成功した笑みだ。世界を救う為とは言え命を天秤に掛けてどれほどのギャンブルをするのかと多くの者が別の恐怖を感じていた。
「あ、それと今回のダンジョン調整は今回だけで封印しますので参加者全員に情報を漏らせば一族郎党皆殺しにされるとお伝えください」
続けて宗八が口にした皆殺しの言葉は事も無げに発された。一瞬聞き逃した面々も二度見をする。
強くなれる方法があるのに何故積極的に行わないのかと武で鳴らしたドラウグド王が問い掛ける。
「何故秘密にするのかがわからない。強くなれるなら強くなるべきだろう?」
多くの王族や教皇はドラウグド王の言葉に同意は出来ないらしい。微妙な表情を浮かべている。それは武力で国を盛り立てる火の国は当然求めるだろうが他の国は治世を中心に盛り立てているので高ステータスは必ずしも必要では無かったからだ。
「まず、私や勇者の様な異世界人が現れる前にここまで強い者は居ましたか? 居ても拳聖や剣聖でしょう?」
「そうだな」
ドラウグド王の肯定を確認して宗八は話を続ける。
「本来この世界はその程度の強さで十分回っていたんです。将軍やS級冒険者が出張ればほとんどの魔物は討伐できる。冒険者や兵士も普通にLev,100になれば十分に戦える戦士になるんです。そこに私や勇者という外来種が登場した。今だけなんです。この世界に本来以上の実力が求められるのは……。魔王の件や破滅の件が過ぎれば火種にしかならないなら、この世界を乱す火種は今のうちに文字通り消しておかないといけない。ご理解いただけますか?」
もしもダンジョン周回で強くなる方法が残された場合、その一族は早い段階から計画的にダンジョンを巡って頭角を現す事に成る。それこそ誰もが相手にならない程の高ステータスを携えて。その者の性格によっては最悪、国を乱し世界を乱す可能性が出る。
自分がこの世界にその身を埋める事となった以上、子孫が苦労する様な事はあってはならない。
宗八の覚悟が決まった視線を受けたドラウグド王は顔を青くして頷くのが精いっぱいとなった。
「調整するダンジョンは事前にギルドに協力してもらいその町の冒険者に向けて声明を出してもらいます。世界各地のダンジョンに異常が発生しており宝箱が全く出ない事例が起こっている。この町のダンジョンもその例に漏れず異常が確認されたので宝を狙うなら別のダンジョンのある街へ一時的に活動場所を変更する様に……みたいな内容ですね」
これにはアインスが真っ先に反応した。
「構いません。いつからいつまでと事前に打ち合わせが必要ですがアスペラルダは問題ありません」
続いてパーシバルが同意を示す。
「フォレストトーレも問題ありません。冒険者の選定も済んでおります」
この言葉にフォレストトーレ国王でもあるラフィートは聞いていないぞと睨みを利かす。その視線を受けてもパーシバルは気にする様子を一切見せなかった。ダンジョン情報収集の際に筆頭ギルドマスター達には計画を話していたのでユレイアルドのプレイグも、アーグエングリンのリリトーナも次々と同意を宣言していく中で宗八と唯一親交の無かったヴリドエンデの筆頭ギルドマスターであるカルミオンは戸惑っていた。
「カルミオンさんもご協力をお願いします。ダンジョン情報は他のギルドから横流してもらったので既に揃っていますから後は貴方が積極的に協力いただけると助かるのですが……」
カルミオンは迷った末にドラウグド王に視線を送るが先ほどから青い顔で固まったまま反応を返してくれない。次に隣のアルカイド王太子へ視線を送るとすぐに気が付き頷いたのを見て返答する。
「私のところももちろん協力させていただきます。後程他国のギルドマスターには色々と話を聞かなければなりませんが……」
「ありがとうございます。あまり普通の冒険者や市場を乱してもいけませんので基本的に一ヵ月程度で調整を解除して次のダンジョンの調整が始まります。スケジュールはこの後詰めていただければ私から協力者に伝えておきます。移動距離を考えて自国のダンジョンを巡って頂く様にお願いします。ダンジョンのある町に各地を繋ぐゲートの設置も行います。あと、出来れば二人組でダンジョンアタックを推奨します」
ダンジョンの内部がPT毎のインスタントダンジョンとなるのか、複数PTが混在するインスタントダンジョンになるのかはダンジョンマスター次第になる。今回は各PT毎のインスタントダンジョンになるので魔物の奪い合いは起こらない。一国の軍団は複数あるので二軍団二万人ずつならなんとかなると聞いている。
二人組の部分ですぐに理解し正解に辿り着いたのは魔法使いミリエステだった。
「回転率を上げる為……でしょうか?」
「その通りです。この調整ダンジョンに入ダンする人間は精鋭となる必要があります。選出されるほどなのですからLev.は当然高いので後は戦闘センスを磨くのみです。だからこそのタイムアタックです。二人で出来ることに限りはありますが連携や選択肢でいくらでも周回は早くなります。精霊契約はさせる予定なので前衛は魔法の選択肢が増えますし、後衛は囲まれた際に必然的に近接戦闘術が求められます。そして、中級や上級に上がる頃にはステータスは十分に釣り合い二人でも十分に安全マージンを保ったまま攻略を進められるでしょう」
もちろん宗八が語る言葉は理想論だ。後衛が必要に迫られたからと言って近接戦が急激に上手くなるわけはないし、前衛は魔法を当てるのも大変ですぐに剣を手に前進するだろう。だからこそ中級で挫折する。魔物が連携を取り始めるので二人では上手くやらないと戦闘毎に被害が出てしまうが、ステータス上昇の影響で耐久力が上がっているのですぐに致命的な状況にはならない。一戦すれば冷静に自分達の状況を嫌でも理解する話し合いが行われる。互いが意見を出してより慎重にダンジョンを攻略して、夜に食事をしながら別グループからどれだけ早くクリアしたのか話を聞くのだ。明らかに自分達よりも早いクリアタイムを聞いて焦らない奴はいない。何故ならタイムアタックと事前に伝えているのだから。
その早いタイムでクリア出来たグループも上級で挫折するだろう。魔物の連携練度は更に上がり攻撃も鋭く強力になり、単純に数でも負けて挫折する。そこから各グループがどの様な戦術を組んで周回出来る様になるのか……。今から楽しみだ!
その後は宗八の提案と資料を元に各国で話し合いが持たれた。
宗八は質問には答えるしゲートの設置などで協力はするが、自分達の鍛錬もあるのでいつまでも強さ下々の者に構っても居られない。各国にはアスペラルダの諜報侍女部隊の様に闇精契約者を育成して、いざという時並びに他国のダンジョン遠征などに用いて欲しい事も付け加え、数日に及ぶ破滅大報告会はこれにて閉会するのであった。
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いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
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ここでようやく破滅への認識が確信になったわけだ
ここまで長かったなぁ
破滅という存在に気づいてその対策として精霊使いを増やして……etc…
なかなかに難しい難題を今1個クリアしたって感じ
これからだもんね破滅との戦いは
久しぶりに全話見返したわー
今まで情報確認の為に所々しか見返ししなかったから
最初から見返すと面白いところいっぱいあるからやっぱり楽しかったな読んでて
また今度最初から読み返そ
話しが長くタイトル考えるのも面倒なので①とかで誤魔化してますけど、自分でも忘れた設定を読み返す時に本当に困りますw
読み返すのも一苦労ww
万彩カリスティア呼びが普通になってきたね
余りにも違和感無くなってたからちょっと気づかなかった
正直、精霊使いが多くなってきた状況で二つ名の使い勝手が良すぎるんですよねw
人間同士なら個人名でいいけれど、精霊や竜からすれば基本的に人間は関係性が薄いその他大勢扱いですので、主人公だけを二つ名で統一すれば違和感は無いかなという感じです。人外で呼ぶキャラが徐々に増えている状況ですね。