特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

文字の大きさ
上 下
393 / 412
閑話休題 -破滅対策同盟《アルストロメリア》大報告会-

閑話休題 -102話-[破滅対策同盟大報告会②]

しおりを挟む
 ~Side Alkaid~

 ———竜を呼ぶ事になった。
 アルカンシェからその話題を振られた王太子アルカイドは最初冗談だと考えた。流石の宗八そうはちと言えど伝説上の生き物である竜とコンタクトが取れるとは思えないと脳裏に過ぎったその時。アルカンシェの背後で青竜と戯れる宗八そうはちの姿を視界に捉え思い出した。そういえば宗八そうはちはこの国を訪れた時から竜と共に在ったなぁ、と。
「今この国に揃っているのは青竜と白竜でしたか? 他の竜とはどの竜を指しているのですか?」
 務めて冷静にアルカンシェに質問するアルカイドにアルカンシェも冷静に答えた。
「黄竜のグリュエザール様と緑竜のクァイアオーグナ様に声を掛ける予定です」
「あ、名前まで知ってるんですね……」
 精霊信仰をしている国と言っても交流はおろか精霊の名前で知っているのは精霊王くらいなものなのだ。竜なんて物語の中にしか出て来ない存在で、カテゴリを分けるなら魔物に分類されるだろう竜に名前がある。それも衝撃的だった。実際、宗八そうはちが連れている青竜の名前は宗八そうはちが命名したフリューネだと認識していた。
「青竜はフリューアネイシア様が正式名称ですね。フリューネは略称です」
「あ、そうですか……」
 親密になると略称も許されるのか……。
 ともかくアルカンシェの話ではすでに事は進んでおり拒否は出来そうにない。それに我が国だけで応対するには限度もあり、それぞれの国も竜との交流を求めるのは必然と言えるので対応をどうするのかアルカイドの脳内が激しく駆動する。
「私はドラウグド陛下に伝えて参ります。アルカンシェ様は竜の件を各国に伝えてもらえますか? 実際に竜を連れてきたうえでどの立場に収まるのかは宗八そうはちと各国の王と竜の意思に任せます」
「わかりました。ではさっそく話が通しやすいラフィート陛下に話を持って行きますね」
 青竜はアスペラルダ陣営というよりは宗八そうはちに付いている様に見える。さらに先ほど見掛けた白竜も聖女クレシーダに懐いている様に見えた。この2名は竜と交流があったという前提だからこその関係だと想定したアルカイドは竜の立ち位置については強制しない方針で話を進める旨をアルカンシェに伝え、アルカンシェその考えを尊重して土の国の公王よりも話の分かる風の国の国王を優先することにした。

 * * * * *
 コンコンコン!
 フォレストトーレ国王、ラフィートの控室の扉をアルカンシェはノックする。
「アルカンシェです。追加の招待者について相談に参りました」
「入れ」
 招かれた部屋の中にはラフィートを始め、風の国の重鎮が同席しながら事前に渡していた今回の資料を読みこんでいる最中であった。その中心となっているラフィート王の前に堂々と進むアルカンシェの背後には宗八そうはちと侍女メリーの二人が控えている。
「アルカンシェ王女。追加の招待者とは何の話だ?」
 ラフィートの視線は宗八そうはちに注がれている。宗八そうはちが原因で面倒が発生したのだと考えている視線だった。
「今回は宗八そうはちの責ではありません。ユレイアルド神聖教国を招いた際に白竜が一緒に来てしまいまして……。対応の差を付けない様に他の竜も呼ぶべきだと判断したのです」
「俺の所に来たと言う事は風竜か、はたまた緑竜でも連れて来ようという訳か?」
 アルカンシェは肯定する。
「ご慧眼恐れ入ります。先日風精王セリアティア様の導きで協力を得る事が出来ました緑竜クァイアオーグナ様を誘う心積もりでありますので、その後のお相手などをお願い出来ればと訪問させていただきました」
「ゲストである俺達に負担をしろと? ヴリドエンデで対応は出来ないのか?」
 ラフィートの言い分は正しいし明らかに不満げな声音で喋ってはいるが瞳に怒りの色はない。これも王族の様式美なのかと宗八そうはちは内心溜息を吐いた。未だに王妃の立場に慣れていないのかラジアーデは少しオロオロしていた。
「重ねてお詫びいたします。これは確定情報では無いのですが私達も未接触の赤竜レッド・ドラゴンが他の竜の気配を察して強襲を仕掛けて来る予定ですのでそちらに集中したいと……。風精王セリアティア様とも顔見知りとの事ですし、よろしければご協力いただけないでしょうか?」
 アルカンシェが言葉と共に頭を下げるその様に室内に動揺が見られた。ここで言葉遊びに終止符を打つべくラフィートが動く。
「わかった。セリアティア様、我らと竜の懸け橋となっていただけますか?」
『良いでしょう。今後竜との協力得る場面を描くならばここで繋がりを作るのも一興でしょう』
 ラフィートと風精王セリアティアが了承した事でやっと動き出すことが出来る。

「固い話は以上だ。今後アルカンシェ王女ならびに水無月宗八みなづきそうはちに関してはこの部屋に限り無礼講とする。お前達もいちいち反応する事の無い様に気を緩めておけ」
「「「「「はっ!」」」」」
 兵士や重鎮の返事にラフィートは満足そうな表情で宗八そうはちに視線を送る。さっさとしろとと言っている様だ。
「その前に……」
 ラフィートの視線の意味を察していたアルカンシェが宗八そうはちを止めて王妃ラジアーデに挨拶をする。
「改めて、お目に掛かれて光栄ですラジアーデ王妃殿下。アスペラルダが第一王女、アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダです。こちらは私の護衛隊長をしている水無月みなづき宗八そうはちです。ラフィート陛下とは友人関係にありますので彼の言葉にご温情を何卒よろしくお願いいたします」
 アルカンシェの挨拶に椅子から立ち上がったラジアーデも返礼する。
「こちらこそ英雄王女にお目に掛かれて光栄ですわ。私は最近ラフィート陛下と結ばれたばかりでまだ勉強中の身ですが色々と教えてくださると幸いです。水無月みなづき様の事も陛下から伺っておりますので私から関係に口を出すことはしないとお約束いたしますわ」
 緊張状態だったラジアーデ王妃の相手をアルカンシェが率先して行う事で彼女の緊張はかなり解れて来ている。
 アルカンシェとラジアーデが挨拶後に雑談に花を咲かす一方で宗八そうはちはラフィートの側に近づいて声を掛ける。
「どこのお嬢さん?」
「若く見えるが俺より歳は上だぞ。一応王族の血縁者を調べたうえで権力に飢えた奴を省いた結果ラジアーデが浮かんだので彼女の実家に意思確認の手紙を出したら返事を持って本人がハルカナムにやって来たのだ。貴様らの様な恋愛などしている暇はないのでな。文官としても仕事が出来るからラジアーデにとっては今が一番忙しい時期だろう」
 宗八そうはちはその話を聞いて「ふ~ん」と返事をしていたが、実際のところ王妃教育、文官の手伝い、世継ぎの仕込みとラフィートの言う通りラジアーデは大変忙しい日々を送っていた。毎日の体調もケアしつつ食事も気を付けつつ家臣共々ラジアーデに気を使いながらも国の建て直しという大仕事を熟す予定のラフィートの手伝いが出来る事にラジアーデは生きがいを見出していた。だからなのか、ラフィートとラジアーデの関係は良好に見え宗八そうはちはこれも幸せの一つのカタチなのかと勝手に納得していた。

「じゃあさっさと行こうか。この後カンパネラ公の所にも行かなきゃならないし」
 宗八そうはちの意図を察したラフィートは挑発的な表情で微笑む。
「なるほど、そう言う事か。貴様らの事情を汲める俺のところに先に来たわけだな?」
「はいはい、そうですよ。カンパネラ公はごねて時間が掛かりそうなイメージなんだよ。先に緑竜を呼んでしまえば黄竜を呼ばざるを得ないだろう? ゴチャゴチャ言うならラフィートにも口添えしてもらえれば楽になりそうだし」
 ラフィートに事情を説明しながら手早くゲートを設置する宗八そうはち。その傍にラフィートと風精王セリアティアが準備を整えて寄る。ゲートを繋げた先は巨大な雲の中で移動し続ける緑竜の巣だ。アルカンシェはこの場に残ってラジアーデの相手をするつもりでソファから立ち上がる動きを見せない。
「行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
 ラフィートの言葉にラジアーデが返答する。宗八そうはち達がアイコンタクトで同様の会話を交わしたと気付いたのは侍女メリーだけだった。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう
ファンタジー
旧題:手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚 〇書籍化決定しました!! 竜使い一族であるドラグネイズ公爵家に生まれたレクス。彼は生まれながらにして前世の記憶を持ち、両親や兄、妹にも隠して生きてきた。 十六歳になったある日、妹と共に『竜誕の儀』という一族の秘伝儀式を受け、天から『ドラゴン』を授かるのだが……レクスが授かったドラゴンは、真っ白でフワフワした手乗りサイズの小さなドラゴン。 特に何かできるわけでもない。ただ小さくて可愛いだけのドラゴン。一族の恥と言われ、レクスはついに実家から追放されてしまう。 レクスは少しだけ悲しんだが……偶然出会った『婚約破棄され実家を追放された少女』と気が合い、共に世界を旅することに。 手乗りドラゴンに前世で飼っていた犬と同じ『ムサシ』と名付け、二人と一匹で広い世界を冒険する!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

初めての異世界転生

藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。 女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。 まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。 このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...