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第15章 -2ndW_アルダーゼの世界-

†第15章† -34話-[エクソダス]

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 一方アルカンシェは道中を邪魔してくる禍津核まがつかくモンスターをなぎ倒しながら炎帝樹の入り口まで向かっていた。
「《水竜愕天撃ドラゴンダイブ!》」
 高水圧で構築された水の竜に飲まれたアルカンシェは槍を構えたまま腰のリボンからブーストが開始されると、水竜と一体と成り地上に群がる禍津核まがつかくモンスターを食い荒らしながら道中を進む。液体窒素の様に水竜の頭部に触れた者は一瞬でその身が凍り付き水圧でそのまま潰される。Aランク程度までならば水竜だけで殺せるがSランク以上になると水圧に耐える個体も出て来る。そもそも瘴気の鎧も込みでこの強さを誇るアルカンシェの水竜は、元の世界で放てばSランクの[猪獅子ヤマノサチ]ですら若い個体ならば一撃で討伐せしめる威力を持っていた。
 長い身体をくねらせて絶大な被害をもたらしたアルカンシェは水竜の中から脱出すると炎帝樹の入り口に降り立った。水竜はアルカンシェが抜けた為攻撃力が劇的に落ち積極的な攻撃行動をしなくなるものの、そのまま炎帝樹の周りを自動的に巡って仲間の合流に一役買ってくれる。
 既に宗八そうはちが魔法剣を発動している為、大変に眩しい状況であるがこれは仕方ない。
「《アクエリアス!》」
 上級魔法じょうきゅうまほうアクエリアスを唱えるとアルカンシェの足元から大量の水が発生して通路に勢いよく流れ込んでいく。この魔法は仲間を癒やし敵に状態異常を付与する魔法だ。最奥に居るリッカやアルダーゼが飲まれたとしてもダメージは無いし息も出来る優れものなので、万が一にも邪魔が入り辛いように炎帝樹内部の通路は全てアクエリアスで埋める算段で発動させたのだ。
 アクエリアスの中も眩しくはあった、が。中心部ならまだ我慢が出来るレベルに抑えられているので魔法の中を歩くことも出来るところを泳いで通路を進むことにした。

〔マリエル、セーバー、バルディグア。リッカさんと合流しました〕
〔ディテウス、トワイン、イグナイト。途中でフランザとライナーとも合流して通路を進んでいる途中です〕
 三つに分かれていた仲間達が続々と合流を果たした報告が入って来る。あとは宗八そうはちが合流して最奥にてゲートを設置して再接続をすれば脱出を始められる。
『(アル、パパが後ろから来てるよ~!)』
 水精アクアーリィの申告を受けてアルカンシェは足を止めずに後方を振り返ると、確かに凄い勢いで迫って来る宗八そうはちの姿を捉えた。となれば……と考えたアルカンシェは自ら体勢を整える。——ガシッ!
 次の瞬間にはアルカンシェの身体は宗八そうはちの腕の中でお姫様抱っこされていた。
「さっきゲート閉めたんだけど残留組はまた三日か四日待つのかな?」
「仕方ありませんよ。時間の流れに差がある点もゲートの更新をせざるを得ない点もどうしようもありませんもん」
 宗八そうはちは風魔法を推進力としてアルカンシェが通っていた水路の中心部を通り追い付いて来たのだ。そのままアルカンシェを伴って最奥まで宗八そうはち達が到着するとマリエル組も同じ要領の水中機動で来たのかほとんど同じタイミングで到着して来た。

 すぐにアルカンシェは宗八そうはちの腕の中から飛び降りリッカの傍へ寄る。
 宗八そうはちもすぐさまゲートの再設置と再接続をしながらリッカに声を飛ばした。。
「リッカ!炎帝樹にアルダーゼを解放する様に伝えてくれ!」
「は、はい!」
 リッカが炎帝樹へ語り掛けている間に宗八そうはちは再接続したゲートを通り直接残留組に指示を飛ばす為に世界を越えた。
「全員居るか!?」
 宗八そうはちの掛け声に代表してゼノウが答える。言葉よりも行動派のタルテューフォとフリューアネイシアは宗八そうはちに抱き着いて来た。再度開かれたゲートからは五日前には流れ出ていた超熱気が漏れてこない事を確認していたゼノウは二人を止めず、自らも宗八そうはちの前に出て来て居た。
「残留組は揃っているぞ」
「よし、すぐに脱出を始める。悪いが此処を離れる準備は整えておいてくれ!」
「了解だ」
「おら!離れろ!」
 ゼノウの言葉を確認した宗八そうはちは自身に抱き着いていた二人を蹴散らしゲートの向こうへと戻っていく。

 宗八そうはちの指示の意味はわからない。
 だが、以前よりもゲートが閉まっていた期間が長かった事も加味すると、おそらく決戦中なのだろうとゼノウは想像した。つまり宗八そうはちが懸念しているのは……。
「ラッセン殿下!すぐに城へ戻って下さい!我々もすぐに離れます!」
 この数日はゲートが閉まっていたこともあり戦闘風景の見学が出来なかった王族と兵士達だが、それでも代わりに模擬戦をする残留組の戦い方を見学する事で時間を潰していた。当然アルカンシェ達の安否を心配もしている面もあった為、毎日指定の場所で観察していたのだ。
 珍しく張り上げたゼノウの言葉に只事ではない、と判断したラッセンは返事もせずに兵士へ指示を飛ばし城下町へ向けて駆け出した。
「全員城下町へ移動!」
「「「了解!」」」
 残留組の仲間達は四の五の言わなかった。すぐに指示に従った行動に移ったのを確認したゼノウは宗八そうはちの残したゲートの側に近寄ると自分のゲートを設置して城下町に繋げる。これで脱出して来た仲間達もすぐにこの場を離れる事が出来るだろうと考えてゼノウは自分が接続したゲートから城下町に移動するのであった。

 * * * * *
 元の世界で指示出しを終えた宗八そうはちが戻って来るとアルダーゼを覆っていた樹脂が融けアルダーゼが救出されている所だった。リッカの呼び掛けに応えてくれた様だ。アルカンシェが[コキュートスルーム]をアルダーゼに施しリッカが抱え上げる。
「全員揃ったか?」
「大丈夫です。皆、お兄さんの事お願いね……」
 確認しながら見渡せば先ほどまで辿り着いていなかった弟子とフランザ、ライナーの姿も確認出来る。アルカンシェが胸に手を当てながら語り掛けるとアルカンシェ、マリエル、リッカの三人のユニゾンが解けて水精アクアーリィ、風精ニルチッイ、火精フラムキエが姿を現した。
『アクアにお任せ~♪』
 無い胸を張るアクアーリィの左右で同じポーズを取る仲の良い精霊姉弟。時間が無い事は子供達も理解はしているのでそれ以上に無駄口は叩かずに宗八そうはちの精霊纏いに次々と参加していく。
『《混交精霊纏クロスエレメンタライズ!》』
 四属性の精霊を纏った宗八そうはち肩マントペリースに更に三属性が加わり角度によって七色に煌めいている。
 アルカンシェ達副契約者はこれ以上ここに留まっても危険なだけで足を引っ張る事となるので仲間達は続々とゲートを越えて元の世界へと脱出していく中、聖獣バルディグアは気を失った状態でセーバーが担いで脱出する。リッカに抱えられたアルダーゼは以前のナユタと同じく意識を取り戻すのに時間が掛かるのだろう。ぐったりとしている彼女に小鳥となった聖獣イグナイトが寄り添いゲートを越えて行った。
 残るはアルカンシェとマリエルのみ。
「お兄さん、無理はしないでくださいね」
「わかっている」
 この後にやるべきことは少ないが、一旦ゲートを閉じなければならない事を考えると宗八そうはちだけまた数日後の再会となる。ゲート関係なく神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇ウロボロスが世界を渡って元の世界に出現する危険性は残るのであちらに戻ったとしてもアルカンシェ達は警戒を解除することは出来ない。何しろ現時点でに破滅が顕現しているのだから何が起こってもおかしくはない。

 別れの時。宗八そうはちはアルカンシェと抱き合い惜しむ。
「わかってると思いますが、ちゃんと帰って来て下さいね。いつまでもお待ちしています」
「出来る限り遅くならない様に帰るから待っていてくれ」
 抱擁が緩みアルカンシェは背伸びをする。宗八そうはちも顔を下げると二人の唇が重なった。重なりは1秒程度の短いものだったが互いに大事にしている1秒であることは傍でよそ見をしているマリエルにも分かる事であった。
「ご武運を」
「行ってくる」
 二人が声を掛け合うとアルカンシェは駆け出しマリエルも追従してゲートを越えて行く。アルカンシェは振り返らず、宗八そうはちも二人の脱出を確認した直後にゲートを閉じた。ここからは孤軍奮闘の場面だ。
『(アクア達がいるでしょ~!)』
 奮起した宗八そうはちに水を差す長女の叱責に心強さを感じながらアルダーゼが眠っていた窪みに足を踏み入れて行く。中は樹木で足場がしっかりしており、アルダーゼを守っていた樹液が解放した際に液状化して窪みで波打っている。楕円状に窪んでいるのか一番深い中心部で足を止めた宗八そうはちの太ももまで樹液が濡らす。

「——炎帝樹よ、奪われない為に使わせてもらうぞ!」

 炎帝樹の内部で宗八そうはちが剣先を地面に向けて両手で握り叫んでいる時。
 外では巨大な身体を活かして炎帝樹ごと宗八そうはちを覆い結界を形成する神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇ウロボロスの三つある頭部が頭上に出現しこちらを品定めするかの様に不気味な三対六眼が炎帝樹を見下ろしていた。
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