特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

文字の大きさ
上 下
387 / 413
第15章 -2ndW_アルダーゼの世界-

†第15章† -33話-[アルダーゼに幸多からん事を]

しおりを挟む
 宗八そうはちの浄化魔法で多少水量が減り黒紫こくしの煙を燻らしながら降る雨と魔力を貪る禍津小蛇が大量に振る最悪の天候の中で宗八そうはちはアルカンシェに連絡を取っていた。
「アルシェ、命令変更だ」
 通話は突入組全員に繋がっている。先ほど出した命令を撤回する宗八そうはちの声に誰もが一度は足を止め傘の様に各々が障壁を張りながら続きの言葉を待つ。中には宗八そうはちの言葉の続きを想定して聖獣の元へ向かう者とアルカンシェの元へ向かう者も居た。
〔簡潔にお願いします〕
 周囲を神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇ウロボロスで囲まれ、その囲いも徐々に狭まって来ている。当然アルカンシェも危機的状況と判断しているので最愛の相手からの連絡とは言え簡潔を求めたのだ。
「まず聖獣の保護を。次にかなり危険だけど全員を纏めて炎帝樹の奥へ向かってくれ。そこにゲートを再設置する」
〔わかりました。ご武運を〕
 必要最低限の指示を受けたアルカンシェは脱出の為にすぐに動き始めた。本当なら契約水精アクアーリィを宗八そうはちへ届けたいところなのだが、この絶望空間においては宗八そうはちの気遣いに感謝する。

 * * * * *
「マリエル。さっさと元の世界に戻ってお兄さんに精霊を集めますよ《アクエリアス》」
「りょーかい!」
 幸いマリエルが宗八そうはちの連絡時すぐ傍に来ていたので味方を癒やしつつ瘴気も浄化出来る魔法で自分達を包むと炎帝樹へ移動しながらアルカンシェはまず仲間の状況を確認した。
「お兄さんの言葉は聞こえていたわね? 聖獣の下に着いている者は居る?」
 回答は三名だった。
〔こちらセーバー。大猿バルディグアと行動中〕
〔こちらディテウス。トワインと共に大鳳イグナイトを保護しました〕
 自主的になのか宗八そうはちの言葉を予想したのかはわからないが、互いに戦った相手の下へ急行してくれていた点は大変に助かる。報告を受けつつ周囲を見回せば上級魔法じょうきゅうまほう[アクエリアス]を発動している場所があった。あそこにはフランザとライナーが居るのだろう。
「三人はそのまま炎帝樹へ向かえますか?」
 先ほどの順番を考慮してかセーバーが先に状況報告を始めた。
〔聖獣は炎帝樹の側で戦っていたのですぐ向かうのは可能ですが、説得が難しいです〕
「先の決着が着いていないと不服を言っているのですか?」
 確かに宗八そうはちとアルダーゼの戦いは苛刻かこくのシュティーナの介入によって中断されてしまった。だが、アルダーゼは最後に負けを認めるシナリオだったのではないかとアルカンシェは読んでいた。それは宗八そうはちも同様だった。
〔いえ、先の戦闘についてはアルダーゼ様の意思も理解して納得しているとの事ですが、魔神族が攻めて来た以上はここから逃げるわけには行かないと……〕
 つまり役目に殉じたいと? 頑固者はこれだから……。今は一分一秒が惜しい状況なのだから四の五の言わせてあげられない。あとで恨まれようと今までの経験で生きる方が戦いだと納得して欲しかった……。マリエルに視線を向けると頷きすぐにセーバーの下へ急行する。これで大猿バルディグアは大人しくなるだろう。

「次。イグナイト様はどうなっていますか?」
〔はい。元から師匠に協力的だった事もあり、こちらは小鳥に姿を変えて着いて来てくれるとの事です。ただ、アルダーゼ様の安否をとても心配しておられます〕
「生贄となったアルダーゼ様は救出する予定と伝えて炎帝樹へ連れて来なさい」
〔了解です〕
 ディテウスとの会話が終わると時を同じくして世界樹の側で——ドゴッ!という鈍い音が響いて来た。マリエルが仕事をした様だ。
 叢風むらかぜのメルケルスを鎧袖一触がいしゅういっしょくするマリエルの一撃は如何な耐久高い聖獣と言えど相手に成らないだろう。予定通り大人しくさせてくれた様なのでこのまま聖獣たちは炎帝樹へ集まる事を前提に次の指示に移る。
「フランザ。ライナーと一緒ですか?」
〔はい。こちらも炎帝樹に向かっていますので後程合流できるかと〕
 これで全員の動向は確認が取れた。あとは炎帝樹最深部に先回りをして仲間が集まるのを待つばかり……。
「わかりました。辿り着いた者から元の世界へ撤退しますからそのつもりで行動するように」
 アルカンシェは仲間へ指示を出し終えると高所で光る場所に視線を向ける。そこには宗八そうはちが剣を輝かせ、まさに魔法剣を振るうところであった。

 * * * * *
 七精剣しちせいけんカレイドハイリアが今まで見せた事の無いほど魔力を高めて輝いている。対象は炎帝樹全域だ。空から降る瘴気の雨と禍津小蛇が炎帝樹を苦しめているのは、雷帝樹の時と同様に震えている様子からも誰の目から見ても明白だった。
「《星光せいこうかがやけ!星光天裂破せいこうてんれつは!》」
 アルカンシェに他の事を丸投げ出来た事で宗八そうはちの頭から雑念んは全て取り払われ、振るわれる剣から一瞬で先ほどまでの輝きが無くなる代わりに炎帝樹の樹上から技名に相応しく天を裂いて降り注ぐ神々しい光の柱が炎帝樹を厄災から守る。
 結果的に少し延命するだけしか効果はない。だが、その少しでアルダーゼと聖獣をアルカンシェ達の世界へ逃がすことが出来るのだから末期世界を相手にしては上々の首尾だろう。

『(パパ。アルダーゼがこっちに来てるよ)』
 光精ベルトロープが神聖な存在の接近に気が付き警告を発する。いや、敵じゃないのだから只の報告か。
 報告の通り、暗闇の中で炎帝樹方向から地面を駆けて来る一筋の光がある。光はある程度まで接近してくると立ち止まった。アルダーゼが空を飛べない事を承知している宗八そうはちは気を利かせて自ら地面へと降り立つ。
『やあ、異世界人。いや、最後だしね。水無月みなづきさん……、殺されに来たよ』
 神人は贄となった人物の記憶や才能を引き継ぎ世界樹から供給される神力エーテルで身体を構築された高次元存在だ。敵を倒し世界樹を護る力は持っているが、残念な事に今回相手にしている瘴気に対しての浄化性能を持ち合わせていない。現にアルダーゼの姿は身体のあちらこちらに穴が開いており、皮膚の下に潜り込んだ禍津小蛇が動き回っている。
 瘴気の雨も天敵である。瘴気の濃度分だけ触れれば神力エーテルなり魔力を削られるのだから神族の身体を持たせられるのも時間の問題だ。
「どういう状態なのですか?」
 気丈な態度を振舞うアルダーゼを苦しみから解放するよりも情報収集を優先する宗八そうはち。この場に情に絆された者が居れば宗八そうはちの選択を責める事だろう。だが、今後も破滅を争うのであれば知らない事は少ないに越したことは無く、アルダーゼも理解を示して回答する。
『小さな蛇がアタシの身体を餌にしながら瘴気を生んで欠損分を補い始めているよ。今はアンタのおかげで炎帝樹も守られているが、あの光の柱が無くなればアタシと同じ様に炎帝樹も身体を作り変えられちまうだろうね』
 神族なのに顔色が悪い。神聖な存在として放っていた圧力も弱まっている様に思える。実際に病魔に侵されているような状態なのだから体調不良も当然と言えば当然だ。そして、これ以上は宗八そうはちも我慢ならなかった。
「ありがとうございました。アルダーゼ様のおかげで色々と破滅について知る機会を得られました。貴女と聖獣の行く末についてはお任せください」
『あぁ、アタシが目を覚ましたらよろしく伝えておくれ。この世界はここまでだ。アタシにここまで協力させたんだ、同じ轍を踏むんじゃないよ』
 猶予は短い。宗八そうはちは頷き一つでアルダーゼの願いに了承を示すと剣を構える。

「スタイルチェンジ/カレイドアクア!》《————水波能売ミズハノメ》」
 神々しく白い発光をしていた七精剣しちせいけんカレイドハイリアは剣先から急速に色が変わっていく。
 全身が水色の剣へと変わった事で効果も変わり周囲の空気が氷点下を越え、千度近くで熱されていた地面が抵抗虚しく氷原へと塗り替えられていく。自家発電の神力エーテルもいい加減溜まってきて宗八そうはちのステータスも十分に温まった。
『アンタ達に幸多からん事を!』
 アルダーゼの最後の言葉を聞き届けた宗八そうはちは、破滅の将へと作り変えられる前に必殺の一撃を放った。
「《蒼天そうてん穿うがて!氷刃剣戟ひょうじんけんげき!》」
 無抵抗なアルダーゼの身体に剣が沈み込み、視界の中で微笑むアルダーゼの笑みが焼き付く。

「《———氷竜聖剣グラキエルエクスカリバー!》」

 剣からチャポンと水が溢れていた。
 剣身よりも広範囲を斬り裂く水の刃がアルダーゼの背後の空間と振り抜き様に地面も両断した。切断面に残る水と飛び散る飛沫が気化する様に熱を奪い、アルダーゼの背中から巨大な氷柱を精製する。同じく地面にも巨大な氷塊が切断面から生えており、この一帯だけが氷が支配する別世界と化した。
 弱っていたとはいえ簡単に刃が通り過ぎたアルダーゼは全身を凍てつかせ絶命している。
 やがて、神族の肉体が維持出来なくなったのか構築していた神力エーテルが世界に溶けていく。その過程でアルダーゼの身体もボロボロと崩れてこの世から神族アルダーゼは完全に消滅するに至った。
 だが、まだ終わりではない。このままであれば炎帝樹が神族アルダーゼを再構築を始めてしまう。宗八そうはちは何度も仲間を殺したくは無いし、このまま炎帝樹を乗っ取られるつもりも無かった。
「次はお前の番だ」
 光の柱でその身を貪り侵略する破滅から守られ死を待つだけとなった炎帝樹を視界の中心に捉えた宗八そうはちはそう宣言した。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

処理中です...