特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第15章 -2ndW_アルダーゼの世界-

†第15章† -28話-[セーバーは心のメモを記す]

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 主戦場に宗八そうはちが戻ると各地で各々が先頭を開始していた。
 そんな中でただ一人、手透きとなっていた苛刻かこくのシュティーナが大規模な魔法を展開している姿を見上げる事となった宗八そうはちだが、既に魔法が発動してしまった事を察した。
 世界樹を囲む様に空に複数の切れ込みが入り、それが入口の様に広がり始めると隙間から何かがポロポロと零れ落ちるのだ。いや、何かではない。禍津核まがつかくモンスターが大量にどこからか流入して来たのだ。

「リッカ。禍津核まがつかくモンスターの倒し方は理解しているな?」
 揺蕩う唄ウィルフラタを強制的に接続した先はリッカだ。突然の連絡にいつも通り慌てつつも返事が返って来る。
〔は、はい!大丈夫です!〕
「じゃあ空から落ちて来る禍津核まがつかくモンスターの強固体を邪魔にならない様に片っ端から片付けろ。小物は他に回す」
〔か、かしこまりました!〕
 続けて弟子のトワインとディテウスに接続する。
「ヤバそうな奴はリッカが倒すからお前らは小物を倒せ。世界樹に近づかせないのは当然として戦場を綺麗にするのが仕事だ」
〔〔了解!〕〕
 禍津核まがつかくモンスターの多くは瘴気を振り撒く能力を有していない。しかし、時折汚染担当が見つかるので世界樹へ近づけさせない事は絶対条件だ。シュティーナのこの一手で手が余っていた仲間にも世界樹に専念するという余裕がなくなってしまった……。

 三人が如何に優秀でも敵の数は膨大だった。
 指示出しを終えた今この時もボトボトとどこからか送り込まれる禍津核まがつかくモンスターは数万はくだらないほどに軍勢が膨らんでいた。シュティーナが鎌の上に座って上空からこちらを眺めている様子から流入を止める手段の中に【シュティーナを害する】は外されるのだと理解した。最悪、1時間後に自動的に切れ目が閉じるのを待つ他ない可能性もある。
「《氷神嵐閃ひょうじんらんせん!》」
 宗八そうはちはシュティーナに接触する前に世界樹から最も離れている団体に魔法剣を放ち氷刃が飛び交う竜巻がモンスターの飲み込んでは凍らせ破壊し数を減らして行く様を見送って空へと上がる。
「少し見ないうちにまたずいぶんと成長した様ね。今までの生半可な魔法だと足止めにもならなさそうだわ。ちなみにアレは時間経過か全て吐き出すかしないと止まらないわよ」
「じゃあ、お前がこれ以上活躍しない様にここで消えてもらうしかないな。マティアスが今回は手が抜けないとか言っていたしな……」
 両者構えを取る。宗八そうはちはシュティーナに集中し過ぎない事を心に留めながら戦いをはじめたのだった。


 * * * * *
 五組の戦闘が同時に行われていたが、その内マティアス以外で地上戦を行っていたのは新顔の魔神族[狂操きょうそうのライラズマ]だった。相対者はセーバー。
「おら!吹き飛ぶッス!」
 重量感のある斧槍を軽々と振り回すライラズマの薙ぎ払いに剣を合わせて防御したセーバーは想定以上の衝撃を受けて地面から足が離れてしまった。そのまま宣言通りに飛ばされたセーバーに驚異的な身体能力で追い付いたライラズマは再び横薙ぎを振るい更にセーバーは吹き飛ばされて体勢が崩れてしまう。だが、ダメージには繋がっていない点がセーバーを冷静たらしめていた。
「(ノックバックが強力過ぎるし重力を感じ辛いな……リュースィはどう思う?)」
 念話で語り掛けて来たパートナーに[ユニゾン]している契約風精リュースライアが回答する。
『(宗八そうはちが以前模擬戦で一度だけ試していた重力操作に似ていると思いましたわ)』
 ここまで見事なまでに転がされたわけでは無かったけれど、宗八そうはちが戦闘手段のひとつとして試していた際の内容をセーバーは思い出す。自分の武器には重量増加を、対象には重量軽減を付与して防御をすれば態勢がほぼ確実に崩れるうえに回避しても普段よりも体が軽いのでちょっと跳んだつもりが滞空時間が延びる事で無防備を晒すハメにもなる。宗八そうはちが言うには重量軽減中の対象は攻撃速度が上がってしまうのでカウンターを気にしなければならない、等の言葉をセーバーは朧気ながら思い出した。
『(問題点は重力制御が難しく、自身の移動に利用する程度なら兎も角戦闘中に高頻度で切り替えるのは至難との事だったはずですわ)』
 宗八そうはちですら難しいと言わしめる戦術を近接全てで行うとなれば魔神族はやはり粒揃いなのだ。言葉尻が軽くとも今もこうして手遊びの様に地面に足が着地しない様に飛ばされ続けている様子からも異常に高い戦闘力を狂操きょうそうのライラズマも持っている事は確認が取れた。

「ほらほらどうしたッスか!? 良く防いでいるとは思うっスけど、このままじゃ何も出来ないまま終わるっスよ?」
 ライラズマの攻撃を防ぐ度に身体が回転して視界が上下反転する。宗八そうはち主導のステータス増強が効いてライラズマの言う様な状況にはいつまで経っても陥ることは無さそうだとセーバーは冷静に情報収集に専念する。
「……逆にいつまで遊んでいるんだ? この程度じゃあ終わらせるなんて出来ないぞ。魔神族なのに情けない奴だな」
「なんだとっ!? って、若い奴なら飛びつくんだろうけど俺様も古い将の一人ではあるからそんな簡単に乗らないっスよ。流石にシュティーナの姐さんに比べれば若いっスけどね」
 激高の真似事と共に手を止めたライラズマ。当然遊ばれて宙を舞っていたセーバーもその動きを止めて地面にようやく着地することが出来た。いきなり空を飛んで奇襲を仕掛ける手も思い浮かんではいたが相手は新顔の魔神族だ。宗八そうはち達がしてきた様にまずは手札の確認をするべく我慢をして次の行動に移る。
「《グラヴィタリーパー!》」
 分かりやすい意図した誘導に乗り攻撃を飛び越えるとセーバーの重力は完全に切り離された。途端に無重力となったセーバーは先ほど以上に踏ん張りが効かない状態に驚く。もちろんポーカーフェイスで隠しはしたが宗八そうはちでもここまでの事を試さなかったので初体験に驚いたのだった。
「リュースィ、羽だ!」
『《戦空閃翼スカイウォーカー!》』
 風精リュースライアの発動した魔法によりセーバーの背中から鋭角な三対六枚羽が出現して身体の制御を取り戻す。羽から出力する風と身体を覆う風の相乗効果で宙に停滞して安定した斬り結びも可能。更に前に進んで加速度を攻撃力に上乗せするしか考えていないマリエルの[天羽あまはね]とは異なり、細かな動きで瞬間的な加速で回避や攻撃にも転用を可能としている。

「そりゃ無いっスよ!? せっかく重力を切り離したのにまさか解決する魔法があるなんて!?」
「自分が戦いやすい様に整える魔法くらい誰でも持ってるだろうがっ!」
 今度はセーバーから斬り込み剣戟が開始される。それでもインパクトの瞬間にセーバーの剣は軽くされ、ライラズマの斧槍は重くなるので木剣で鋼鉄の棒を殴っている様な感触が手に返って来る。だがその差を埋める高ステータスで攻撃を重ね、そのうえで速度も上げて行く。
「え? ちょ、ちょちょちょ、どうなってるっスか!?超低重力になっている剣がなんでこんな重いんっスか!?」
 困惑顔を晒すライラズマにセーバーが先ほどの言葉を返して煽る。
「どうした? このままじゃあ何も出来ずに終わるんじゃあないか? あぁん?」
「は、はぁ!? コイツ調子に乗りやがってっ!今すぐ手足を斬り飛ばしてやるっス! 《グラビティセンティス!》」
 煽り耐性が低いのか煽ればすぐに乗って来たライラズマは全身から黒紫こくしのオーラを漏らすと上半身を全力で引き絞る。大き目の斧槍であるのに片腕で突くつもりだと判断したセーバーの攻勢への切り替えは早かった。閃翼が煌めくと一瞬でライラズマの懐に飛び込み剣ではなく拳で土手っ腹を深く抉り飛ばす。
「おごぉぉぉぉっ!!」
 咄嗟に自身を軽くしたライラズマはフワリとした面白い吹き飛び方をした後に重力を戻して綺麗な着地をする。叫び声は大げさであったがダメージは殆ど無く立ち上がったライラズマは突き出した深緑の腕を戻しながら深緑の籠手の調子を確かめる様に手を見つめるセーバーに強い興味を惹かれていた。
 一方でセーバーも初導入した[緑竜の翠雷籠手クァイアオーグナ・ブレイサー]の殴り心地に悦に浸っていた。宗八そうはちの[青竜の蒼天籠手フリューアネイシア・ブレイサー]と兄弟装備の様に似通った意匠と濃い色合いをした籠手は竜の長が生成した高濃度魔石を用いた宗八そうはち推奨の装備品だ。とある者は鎧に、とある者は手足の防具を作製している中でセーバーは宗八そうはち同様に籠手を選択してこの度の戦闘に間に合った為ひとまずライラズマ相手に殴打を打ち込み出来を確かめてみた結果、大満足の一品だった。高濃度魔力砲ロアも撃てるし気軽に五閃も放てるし防御力も非常に高く故に攻撃にも転用出来る超激レアで超有能な防具にニヤニヤが止まらず戦闘中だというのに口の端が緩み始めていた。

『(セーバー、いい加減に敵に集中しないと思わぬ痛手を受けても知りませんわよ!)』
 あわや口端の緩みから涎が溢れるか、という段階で契約風精リュースライアから警告が発せられセーバーは現実に戻って来た。
「はっ! そうだったな、すまんすまん。どっちにしろ新顔相手にする場合は防御に徹して出来る限り煽って手札を晒させろとのお達しだし、今回の俺の仕事は順調だろ?」
『(否定はしませんわ。それでも今みたいに敵から意識を外すのは問題ですわよ)』
 リュースライアの忠告を真摯に受け止めたセーバーは改めて視線の先に佇むライラズマに意識を戻す。が、その表情を見た途端に背中に冷や汗がどっと流れるのを感じた。瞳がガンギマリなのに真っ直ぐに自分を見つめているのに口元だけが楽しそうに口角を最大まで引き上げた表情。ステータスではおそらく負けは無いので余裕があるはずなのにこういう不気味な雰囲気を放つ魔神族の怖さをセーバーは今回初めて実感したのであった。
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