特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第15章 -2ndW_アルダーゼの世界-

†第15章† -21話-[炎帝樹ヴァーミリオと聖獣バルディグア]

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 赤で染色された異世界を探索し始めて半年が経とうとしていたある日から地震が止まらなくなった。
 最初こそ微振動で地精ノイティミルにしか感知出来なかったが彼女の示す震源地と竜眼で確認した際の巨大な魔力が存在する方向が一致している事から世界樹のある場所を特定したと判断した。
 ——そして。

「振動の正体は大猿だったか。それにしてもあそこまで大きいとは思っていなかったなぁ……」
 隣でアルカンシェが宗八そうはちの呟きに同意する。
「聖獣イグナイト様もご自身を大鳳おおとりと仰せでしたから小鳥の姿は偽りだったのでしょうね。本来の姿はあの大猿の聖獣バルディグア様と同等なのかもしれません」
 探索組の視線の先。そこには神々しく燃え盛る世界樹とその傍で辺りをうろつく瘴気モンスターを片っ端から殴り掛かり吹き飛ばしては忙しなく巡回を繰り返す赤と白でグラデーションされた体色の大猿が居た。その巨体は世界樹には届かなくとも十分に異常な巨大生物だった。
「確かに猿、っていうかゴリラだけど……。あれは味方なんですよね?隊長」
 マリエルの不安そうな声音は全員が考えていた事を代表した質問だった。
「聖獣だしこんな世界でも元気に走り回っている様子から破滅側の存在じゃないと思うけど、情報は聖獣イグナイトからの話だけだ。近づいただけで同じような対応をされる可能性は十分にあるだろうさ」
 宗八そうはち達は敢えて堂々と高い位置から世界樹と聖獣バルディグアを観察していた。意図した通りこちらの存在を認識しながらも世界樹の周りを掃除する事を最優先にずっと動き回っている。
 ここまでの道中で幸か不幸か魔神族と出会わなかった。苛刻かこくのシュティーナが新たな亀裂が開いてから一度も接触して来ていない事で魔神族側の情報が手に入らない事も警戒度を上げる要因だ。

 聖獣バルディグアは世界樹から離れないながらも宗八そうはち達の存在を気にしている。
 接触は早いに越したことは無いけれど自分達の目的である世界樹の破壊と世界樹の守護をしている聖獣バルディグアとでは明らかに相反している事は明確だ。聖獣イグナイトは世の終わりを受け入れていたが敵対する確率は100%と見ているがどうだろうか?

「まぁ……でしょうね。私も同意見です。あれほど厳重に守っていれば敵対はやむなしかと……」
 アルカンシェも同意した。うちの世界で魔物の強さはSランクが最大だがそれ以上に強い魔物が確認されなかったが為にそこが最大となっている。実際はSS~SSSランク相当の[キュクレウス=ヌイ]が先日確認されたが産まれ方が問題でそうホイホイ個体が確認される訳もなく結局のところSランクが最大値となっている。ここには[猪獅子ヤマノサチ][海恵丑ウミノサチ][竜]などが当てはまる。
 そして聖獣バルディグアは巨体さに見合った強さで瘴気モンスターを寄せ付けていない事からも[キュクレウス=ヌイ]と同等かそれ以上の化け物だ。つまりSSSランクと仮定すると完全体に至る前の魔神族並みに厄介というわけだ。

「とりあえず日を改めて今日の所は撤退しよう。もう夕刻だしな」
 数時間様子をみて時刻は帰宅時間に迫っていた。振り返り始めて気付いたが全員が戦う気マンマンの好戦的な視線を聖獣バルディグアに向けていた。何故そんなに好戦的なのかと聞けば「だって魔神族は宗八そうはち達が相手するだろ。だったらその他の障害は俺達が相手取るのが筋だろ」とはセーバーの言葉だ。「隷霊れいれいのマグニだけが私達の目当てですから今回はお譲りします。なのでアレは私達が相手します」とはフランザの言葉。

「……ねぇ隊長。あの世界樹って瘴気に蝕まれている様には見えなくないですか?」
 ゲートを開こうとしていた宗八そうはちの背に声が掛かる。マリエルだ。仲間達が聖獣の様子を見ている間、マリエルは世界樹に注意を向けていた。遠めなので確実な事ははっきりしなかったものの以前の世界樹との違いを感じて報告したのだった。
「本当にそうなら神族が残ってるかもしれないけど姿現さずに聖獣に任せっきりなのは謎だな。敵対して居なけりゃ尚良い話だが……、遠目じゃ世界樹の状態もはっきりしないな。明日バルディグアに接触した時にでも確認してみよう」
 確かにバルディグアも聖獣らしくイグナイト同様に浄化の力を持っていた。自身の周囲のみという範囲は狭いものの世界樹の周辺を頻繁にうろついている所為か瘴気はかなり少ない。この世界の魔神族が出て来てくれればはっきりとするのに、と後ろ髪を引かれながらその日は退散した。

 ——翌日。
 宗八そうはちとアルカンシェは先に聖獣イグナイトに接触していた。ゲートを新たに設置しイグナイトの前で世界樹と繋げたのだ。
「お久しぶりですイグナイト様。覚えておいででしょうか?」
 小鳥はまだ死に体の止まり木に居た。アルカンシェが挨拶すると瞳を開きイグナイトが念話で答える。
『(久しい、という程に時は経っていないだろう。覚えているぞ異世界人)』
 アルカンシェは会話を続けた。
「助言の通り進み無事に世界樹へと辿り着けました。改めてご助言ありがとうございました。感謝の気持ちに世界樹への訪問のお誘いに参りました。このゲートの向こうが世界樹が見える近場となります」
 アルカンシェの言葉に興味を示したイグナイトの視線がゲートの向こうへと注がれる。ゲートの向こうからは聖獣バルディグアの咆哮と移動音も響くので嘘偽りが無いと判断したイグナイトは熟考する。記憶の彼方で今も色鮮やかに燃ゆる世界樹から自分は逃げたのだ。異世界人にどのような思惑があろうと少し羽根を伸ばせば以前よりも悲惨な状態となった世界樹を目にする事になるかもしれない恐怖に足が竦む。しかし、今も友が抗っているという事実がイグナイトに恐怖に対抗する力を与える。
 瞳を閉じて考え込んだイグナイトに様子に宗八そうはちもアルカンシェも声を掛けずに静かに待った。滅亡寸前の世界なのだ、色々な想いがあるのだろう。

『(行こう。だが状況次第で我は貴様らに敵対するぞ)』
 アルカンシェは微笑み承諾する。
「えぇ、構いませんとも。この世界の住人は貴方がたです。ですのでもし敵対した場合は私達も手加減いたしませんのでお互い全力で抗いましょう」
 それはそれで大変だから出来れば敵対せずにバルディグアをイグナイトが説得してくれるのがベストではある。二体の聖獣を相手にするのであれば戦力的に厳しいかもしれない、という不安を胸に宗八そうはちとアルカンシェはイグナイトを伴ってゲートを越える。イグナイトも羽ばたき越えた先で視界に捉えた友と世界樹の姿に複雑な感情が幾重にも交差する。

「どの様な結果になろうと俺達は目的を果たす為に動きます。世界樹の守りはひとまずこちらで受け持つので俺と共にバルディグアの元へ赴いていただけますか?」
 今まで会話を女に任せきりだった男が語り掛けて来た事に小鳥は意外な感情を浮かべた。
『(多少ヘマをしても我とバルディグアが揃えば浄化する事は容易い。友が許してくれるのであれば、だが……)』
「では、行きましょう。手筈通りだ!バルディグアの代わりに魔物を近寄らせない様動いてくれ!」
 弱気な言葉を吐くイグナイトの心情を無視して話を進める宗八そうはちに悲し気な視線を送るイグナイト。しかし宗八そうはちはそれも無視した。アルカンシェと仲間たちは指示通りに分散して世界樹の周囲を囲む。複数人の気配が世界樹に近寄った事で警戒心を露わにしたバルディグアは一瞬にして意識を一か所に持って行かれた。

『イグ、ナイト……。その者たち、何者……?』
 小鳥は大鳳へと姿を変え大猿の前で羽ばたき答える。
『(異世界人だ。この世界を破壊しに来た、な……。数百年振りだなバルディグアよ)』
 再会の挨拶に殺意が飛んでくる。イグナイトの紹介に高い目線から降り注ぐ殺気を一身に受けるが宗八そうはちは屁の河童と気にした様子を見せない。イグナイトは宗八そうはち達異世界人の目的も踏まえて理解を示してくれたけれどバルディグアはこちらの配慮などは分かる訳もない。
『(焦るなバルディグア。彼らは宣戦布告をして来たのだ。異世界から態々わざわざ乗り込んで来たのに話を通して来た点は評価出来るだろう)』
『だから、何? 侵略、来た事、変わらない。敵は排除、するのみ』
 仰る通り。それでも戦争にも手順が必要なのだ。今から攻撃するよと布告する事で戦う準備をしてから正々堂々と攻撃と防衛で分かれぶつかり合う文化。それが戦争だ。

 ただし、こちらの目的は世界樹の破壊でそこに異世界の事情などを考慮する気はない。
 生き残りがいなければそのままお仕事を遂行すれば良いだけなのだがこうも世界樹の関係者が生き残っていると後悔の無い様に選択させることくらいはさせてあげたい。動けなくなるまで攻撃されて世界樹も目の前で破壊されてもバルディグアには精一杯抵抗したという結果は残される。
 イグナイトはその辺りの機微を理解しているらしい。ここまで瘴気に侵された世界でどんでん返しが起こせるわけも無いのでイグナイトは宗八そうはちと同じ様に無駄な事は極力したくないタイプなのかもしれない。

『(アルダーゼ様が姿を消して幾百年。いつまで同じ事を繰り返す? 我は疲れた。もう良いのではないか?)』
 バルディグアは頑なに同意しない。
『関係ない。アルダーゼ様、力の消費抑える為、眠った。我、待つだけ』
 二人の会話を傍で聞いている宗八そうはちはある程度の事情が呑み込めてきた。
 どうやら元々二匹は現在のバルディグアの様に世界樹を守護し浄化する役目を担っていたらしい。そして神族アルダーゼが世界樹の力の消費を抑える為に休眠状態に入った。その後数百年と長い間続けて来た改善の兆しも無く終わりの見えない仕事に疲れたイグナイトはここを離れて最も遠い反対の地で世界の終焉を待っていたのだ。
 それでも折れず曲がらず真面目にバルディグアは役目を全うし続けた。ならば、ここでイグナイトがいくら説得したところで考えを変える事は無いだろう。

 宗八そうはちがタイムアップを告げようとした、その時。両の耳元から幼子の声が聞こえた。

『お兄ちゃん誰?』
『だれだれ?』
 宗八そうはちも子供達も誰もが接近に気付かなかった。イグナイトも気付かず唯一反応を示したのは目の前でこちらを視界に収めているバルディグアだけだ。
嬰児やや様……。お久しぶり、でございます』
 驚きつつも膝を折り宗八そうはちの左右に浮かぶ赤子の姿をした炎にバルディグアは挨拶する。
『猿、久しぶり』
『鳥も久しぶり。このお兄ちゃんは?』
 バルディグアに遅れてイグナイトも精一杯頭を下げ聞かれた事に素直に答える。
『(この者は異世界より来訪した世界の破壊者です。世界樹を破壊し魔神族の発生と侵略を防ぐことが目的と聞いております)』
 紹介された宗八そうはちは膝を折らず頭も下げない。二匹の態度からアルダーゼ様とは別枠の重要人物と判断は出来たが自分の立ち位置から手下みたいな態度は取れない。炎は子供達と同じ様な精霊に近しい存在かと想像しながら様子を見守る。
『瘴気は関係ない?』
『なら、母様起こさないと!』
 イグナイトの返答に顔を見合わせた炎の赤子二人は宙を舞って世界樹へと慌てて飛んで行った。状況が呑み込めたわけではない宗八そうはちだが、なる様になると考えてひとまず仲間達に神族が出現すると連絡を入れるのであった。
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