特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第15章 -2ndW_アルダーゼの世界-

†第15章† -18話-[見学希望者スペア君]

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 翌日、いつもの朝練をこなしてそろそろ切り上げようとする宗八そうはちの元へ再びアルカイドとラッセンが近衛を伴って近づいて来た。良くもまぁ協力する事になってから宗八そうはち達の朝練に付き合うようになったのだ。もちろん要求する訓練内容にドン引きはしていたので数段落とした訓練をさせている。

宗八そうはち。ちょっと良いか?」
 いつも兄が先に話しかけて来るな。と宗八そうはちは考えつつ応答する。
「いつも兄が先に話しかけて来るな」
 口にも出していた。アルカイドもラッセンも苦笑いしつつアルカイドが先を進める。
「何と言うか……兄弟の癖の様なものでな。それはいいとして昨日異世界に入っただろ。異世界に付き合わせてくれとは言わないが残って入口を守っている宗八そうはちの仲間の戦う姿を俺達にも見守らせてもらいたいのだ」
「見守る必要なくないか? 城下町の亀裂だっていつ現れるかもわからんのだし戦力割くのは悪手じゃね?」
 ゼノウ達がヘタを打つとは思わない。だが、生者が近くに潜めばそちらに向かう魔物が現れぬとも限らない。危険は排除すべきだ。そう考えた宗八そうはちは頭から拒否を出したが次はラッセンが引き留める。
「待て待て!城下町の方の戦力はきちんと残す予定だ。軍の一部の兵士だけで良いから後学の為に見学させて欲しいんだ!」
 歩き始めていた宗八そうはちは一旦足を止めて王子相手に面倒くさそうに振り返る。

 アルカイドとラッセンの言い分、というか見学したい理由も分からなくはない。
 いま宗八そうはち達が彼らの前で見せているのは訓練だ。先の上映会以来宗八そうはち達の全力戦闘を見る機会は無かったがアレだけでも両殿下や選抜メンバーを魅了したのだろう。訓練もそれなりに魅せる部分はあるけれど満足出来なかったのかもしれない。それだけなら王子達も馬鹿じゃないんだから宗八そうはちに見学の話を持ってくる前に周囲からも止められるはずなのに相談して来た、という事は本当に見学させることにメリットを見出しているという事だ。

「どうせ、上には上が居る事を見て勉強しようとか向上心を煽るメリットがあるとかだろ」
「お、おう……。その通りだ。すげぇな宗八そうはち
 考え付く限りで一番簡単な理由が当たりラッセンが驚く。逆に馬鹿にされている気になって来たな……。
「思惑があるのは百歩譲って目を瞑ろう。でも、うちは少数精鋭で回してんだ。それ以上の人数の生者が傍に隠れてるとそっちを襲いに行く魔物が出て来るから許可するのは1PTだけだ」
 ラッセンは物足りない顔をするがアルカイドは仕方ないと納得した様だ。
宗八そうはちが言うならその様に手配しよう」

 危険の負担を強いたいわけではない二人は「1PTかぁ……」と悩まし気なアルカイドの言葉にラッセンが不承不承で協力して誰を向かわせるか早急に考えをまとめ始めた。しかし、宗八そうはちは追加で条件を出す。

「それとアルカイドかラッセンがそのPTに参加する場合は参加しない方は城で待機な。ゼノウ達もフォロー出来ない万が一が起こったらどちらかが継がなきゃならんだろ」
 第三王子が継ぐ様な状況になったら謀反を積極的に手伝う必要が出るからな。面倒になる前に生き残るべき二人に釘を刺す宗八そうはちの言葉に面を食らったような表情で固まるアルカイドが戸惑い気味に声を出す。
「……私が考えているよりも危ない、という事か?」
「報告を聞く限りは流れに乱れが無ければ問題ない。ただ、Sランク級がわらわら出て来る状況が起きれば流石にゼノウ達でも抑えるのは難しくなる。お前らも戦えるようになっているから他の雑魚程度なら数匹そっちに向かっても対処出来るだろうけどSランクからお前らを守りながら後退戦ってなるとかなり厳しい。だからスペアは城に残すことがもう一つの条件だ」
 言い方は悪かったけれど宗八そうはちが想定する危機は魔物相手に戦闘する者なら戦闘が始まる前から意識から外してはならない危険のひとつである。今は冷静で考える頭があるから今のうちに釘を刺したのだ。

「スペアって……ひでぇな」
「ラッセンはまだ寝ぼけてんのか? 三男坊はスペアにならんだろうが。代わりになるからスペアって言うんだぞ!」
 兄弟の出来に関しては把握はしているのか第三王子の話を混ぜれば複雑な表情を浮かべていた。アルカイドに至ってはお仕置きを聞いていたから尚更だ。その辺りの問題行動をアルカイドが軽くラッセンに伝えると頭を抱えた。
「どうだ。約束できるなら毎日1PTだけなら見学と多少の戦闘を経験させてやるぞ」
 アルカイドは頷く。
「わかった。裏口の責任者は宗八そうはちとアルカンシェ様だからな。その宗八そうはちが指定するならその条件を約束しよう。まずは様子見をしなければならないから一番手はラッセンに任せようと思う」
「ああ!任せてくれ兄上!場所は把握しているから宗八そうはち達に合わせて向かおうと思うが何時間後になる? それまでにメンバーを決めておかないと……」

 朝御飯を食べたら食休みをしてすぐに向かう事を伝えるとラッセンとアルカイドは足早に鍛錬場を去って行った。
 宗八そうはちも先に戻っていたアルカンシェ達に合流して事の経緯を伝える。探索組は特に影響が無いので気にした様子は無かったが負担になる残留組は顔をしかめていた。

「どの程度だ?」
 ゼノウの質問に宗八そうはちは一言で答える。
「1PTに絞らせた」
「ならいい」
 ヴリドエンデ戦力の訓練の様子でゼノウもある程度任せても良い用量は弁えていた。宗八そうはちの話から多少見逃すことも許可されたと判断したゼノウは了承した。どの程度の距離を広げて見学するのかはまた別の話になるが、それはラッセン達が来た時に相談もしくは離れる様に指示を飛ばせば良いだけの話だろう。どうやら宗八そうはちは出発に彼らが間に合わなかったとしても置いて行く気らしい。

 2時間後……。

「おおいっ!俺が付いて行く事を伝えていただろうがっ!なんで置いていくんだよっ!」
 良い歳した大人が若干泣きそうな顔で追い掛けて来た。その後ろから四名の騎士がおいたわし気な表情を浮かべてラッセンを追い掛けて来る。そのうちの一人は近衛騎士としていつも行動を供にしているクリスチャンだ。
「クリス!遅れているぞっ!早く来いっ!」
「ら、ラッセン様!申し訳ありませんっ!ですが、お言葉ですが城からここまで鎧を着てのダッシュは流石に我々でもっ!」
 ラッセンに追い付いたクリスチャンや騎士達は荒い呼吸を整える。当然ラッセンも同じ様に身体が酸素を求めて来るのを一時的に息を止める事で無理やり上がる息を整えて体裁を保つ。だが、全員汗だくでこのままゲートを開くと隠密もクソも無い。

「はぁ……悪うございましたよ。待って差し上げますから落ち着いてください。《クールルーム》」
 仲間には女性が多い。汗だくになるのは仕方ないけれど戦闘が始まる前に汗だくはいただけないので身体を冷やす魔法を宗八そうはちは五人に放つ。
「「「「あああああ~~!生き返るぅ~~!」」」」
 クリスチャン含めた騎士四名が脱力して叫ぶのを他所にラッセンは王族として気持ちいいぃ~!とは叫べなかった。だが、荒い息を隠すために鼻で呼吸する険しい顔が徐々に緩んで来る。汗が引くまでそれほど時間は掛からなかった。
「じゃあ、ラッセン殿下達はここから先には進まない様にお願いします。時折わざと魔物を見逃す様にゼノウには伝えているので向かって来たり、近くに転がって来た魔物の討伐はお願いしますね」
 一応周りに近衛以外の騎士も居るので宗八そうはちもラッセンに敬語で対応する。
「ゼノウ殿だな、よろしく。宗八そうはちとの約束で迷惑にはならない様に見学予定だが、もし。もしもの時は気にするな。俺は宗八そうはち曰くスペアだから死んでも君たちに責任は無い」
 ゼノウは握手を求められて王族の手を恐る恐る握りながら続く言葉に戦慄した。恨めし気な視線は宗八そうはちへと集まる。気にするな、見殺しにしろと言われても気にしないわけには行かないからだ。言外の絶対防衛ラインが引かれたように残留組の心にくさびが打ち込まれた気がした。

「アルカイドがこっちに来た時はあいつがスペアになるんだよ。頻繁に王族が参加する事はないだろうから気にし過ぎると禿げるぞ。危険については承諾した上の覚悟で来てるんだから言葉通りの意味で受け取って構わない。ラッセンが死んでもスペアが消えるだけ。マジ気にしなくていい」
 ラッセン一行を置いてゲート設置位置まで移動する間に宗八そうはちがゼノウや残留組のフォローに動いた。
「だからと言って宗八そうはちの言動はいつも心臓に悪い。マジで気にしろ」
「お、おう。悪かったよ……。でもさ、お前達なら大丈夫だろ?」

 ——これだよ。皆が同じ感想を抱く。高揚だ。宗八そうはちの信頼に応えたくなる。卑怯なリーダーだ。

 対魔神族という点で協力しているクラン【七精の門エレメンツゲート】のメンバーは気安く言葉を掛ける者、敬語を使う者などリーダーである宗八そうはちに対する扱い方はそれぞれではあるものの強さを求めるストイックな所や実際の強さに関しては皆が認め尊敬していた。そして精霊使いとしても色々手厚く教導や長距離移動もサポートしてくれるので感謝もしている。そういった日頃の積み重ねが宗八そうはちをリーダーと認める基盤となり、たった一言で皆がやる気に満ちるのだ。

 さらに言えば少々子供っぽい所がある宗八そうはちの他にもう一人賢いリーダーがいる。アルカンシェだ。
 宗八そうはちは公私共にアルカンシェを大事にしているので今回の件も事前に相談済みのはず。手綱を握るアルカンシェが何も言わない事。これも見えない信頼を寄せられているという事に他ならず、残留組は奮起するのであった。
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