特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第15章 -2ndW_アルダーゼの世界-

†第15章† -17話-[一方その頃。残留組]

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「じゃあ、後は任せるぞ。夕刻頃にゲートを一旦閉じてチェックポイントを更新するからそれまでよろしく頼む」
 そう告げたクランリーダー宗八そうはちの背はゲートの向こうへ去っていく姿をゼノウは見送る。探索組の面々もその背を追って異世界へと足を進める中、ゲートから流れて来る異常な熱気に紛れた全員の姿が歪むほどに陽炎がひど過ぎる。残留組のメンバーが下手に熱気に近づかない様に注意を促す目的でゼノウは声を掛けた。

「さあ皆、自分達の仕事に従事しよう!仲間が気兼ねなく進める様に世界を守ろう!」
 魔物の性質かタルテューフォが今にも宗八そうはちの元へ駆け出しそうな寸前で声が届き止める事が出来た。多少の魔物は片付けてくれた様だがすぐに大量の魔物が押し寄せる気配がする為、ゼノウは急いで声を張り上げた。
「サーニャとアネスはそれぞれ浄化魔法の設置を急げ!」
 緊迫感のある声音にすぐ反応した二人はそれぞれの担当を決めていた魔法を発動する。まずはサーニャ。
「《略式サンクチュアリフィールド!》」
 間を置かずアネスが魔法を発動した。
「《略式スターライトピュリフィケーション》」
 宗八そうはちが使用する魔法は広範囲に浄化作用を持つが略式タイプは負担が少なくなる代わりに範囲が狭くなる、が。全方位から襲われる探索組と違いこちらはゲートからしか魔物は出てこないからこれで問題ない。
「他のメンバーは風下に行かない様に注意して配置に付け!メリーはタルテューフォのサポートだけに集中してくれ!宗八そうはちと違ってそいつを御し切れん!」
「かしこまりました!」
 メリーは返事を返すとすぐにタルテューフォの側に寄る。他のメンバーもゼノウの指揮に慣れており返事は無くとも配置に付く。

 全員が配置に付くと同時に魔物がゲートから飛び出して来た。
 人数は足りないが基本的な動きは2PTに分かれ、第一PTは前衛が短剣使いゼノウと剣盾使いのノルキアが務め後衛は魔法使いアネスと弓使いモエアが務める。第二PTは前衛が猪獅子ヤマノサチタルテューフォと極大剣使いサーニャが務め後衛は侍女メリーと青竜フリューアネイシアが務める。大筋の指揮はゼノウが飛ばすが細かな戦い方はPT毎に決めさせる事となっている。

「《ユニゾン!》」
 武器が短剣な事もあり攻撃力に難があるゼノウはユニゾンする事で攻撃力を底上げする。メリーは闇精クーデルカからオプション[閻手えんじゅ]を仕様変更した[虚空暗器こくうあんき]を託されているので攻撃力は損なわれていない。
「ノルキア、前へ!とりあえず受け止めてくれればこっちで処理する」
「任せてくれ!」
 ノルキアが前に出て魔物の突撃を盾で受け止め流す。
「【強弓!】《紅蓮弦音ぐれんつるね!》」
 カァーーーーンッ!
 その先で構えていたモエアが鋭い一撃でさらに勢いを殺したところで素早く移動したゼノウが止めを刺す。同じように次々と討伐は進むが魔物の勢いに比べこちらの処理速度がどうしても追いつかないタイミングが来る。
「アネス!」
「はい!《フォトンゲイザー!》」
 アネスの溜撃がノルキアに群がろうとしたタイミングで放たれ一掃する。単発では弱らせるだけで精一杯の魔法でも威力を上げる為の時間をゼノウとノルキアとモエアが稼いだ事で状況をリセットする威力を出せる。魔物が途切れた事で一息程度の休息を得られ、次の団体が押し寄せて来ても同じ要領で討伐を進めて行く。

 この世界はドロップだけを残して死体が消えるダンジョン産のモンスターと死体がそのまま残る魔物で呼び方が分かれる。
 生者を察知して集まって来る瘴気モンスターは基本的に死体が残らない。その理由としては瘴気が木やマグマや死体などと紐づきモンスター化して疑似生命体になるからだ。しかし、死に絶える前の魔物に精霊が瘴気に汚染された瘴気精霊が寄生した場合は瘴鬼デーモンと呼称される存在に成り下がる。こちらは討伐すれば死体を残して他の魔物のイレギュラーアクションを呼ぶ可能性がある為、ゼノウが止めを刺した際に力の限り蹴り飛ばす様に心掛けた。

 ゼノウはPTの仕事もしながらメリーPTの方の様子も伺っていた。
 基本的な動き方はこちらと同様だったが違いとしては、タルテューフォの耐久と攻撃力が激烈でメリーの[虚空暗器こくうあんき]が武器の形状を変えられる為臨機応変に動き回れている点。そしてアネス枠の後方からの強力な一撃を担う青竜フリューアネイシアの攻撃頻度が高い点が安定感の差として如実に出ていた。ゼノウは改めて宗八そうはちPTのデタラメな強さに感嘆する。
 凄いメンバーが宗八そうはちの元に集い力を付けている。その一人に成れた事にゼノウの心は昂る。

 生者の探知範囲を抜けて来たのか敵の量が少なくなって来たのは開戦から三時間が経つ頃だった。
 徐々に少なくなるのではなくいきなりガクンと敵の量が減ったのは生者を察知した瞬間にすべての魔物が走り出したからだ。もう一時間も戦えば楽になるだろう。しかし、ここで面倒な瘴気モンスターが現れた。

「グリフォンが来たのだ!」
 いち早く察したタルテューフォの大声に一同は緩みそうだった緊張感を張り詰めた。
「グリフォンはメリー達で釣ってくれ!他の魔物はこちらで引き受ける!」
 グリフォンがゲートから出て来る前にゼノウが飛ばす指示にメリーは頷き前衛を務めるサーニャはこれからSランクを相手にするのかと宗八そうはちに付いて来たことを少し後悔していた。
「モエア!今出て来ている魔物に一撃入れてくれ!」
「りょ~かい!《紅蓮弦音ぐれんつるね!》」
 弦を放ったモエアの魔法で瘴気モンスターが爆発する。赤い瞳がモエアとノルキアに向けられたのを確認したゼノウは次の指示を飛ばす。
「ノルキア!モエアに集まったヘイトを回収!」
「【コンバットエンゲージ!】」
 面白いようにモエアに向かっていた瘴気モンスターが直角に曲がりノルキアに引き寄せられた次の瞬間にはグリフォンが三体ゲートから飛び出して来た。

 本能なのかタルテューフォは飛び出し先頭のグリフォンに肉薄すると殴り飛ばして三体の敵愾心ヘイトを煽り引き付ける。
 ただし、飛ばした先は風下。技能スキル[猪突猛進]で高揚してグリフォンしか見えていないタルテューフォをメリーは鎖鎌にした[虚空暗器こくうあんき]で元の位置に引き寄せる。幸い熱気には少ししか触れなかったが突き出した腕には大火傷を負っていた為サーニャが素早く再生魔法を唱えた。
「《エクスブレッシング!》」
 少しでも回復時間を稼ぐ為に接近する殴られていない二体はメリーとサーニャが相手取る。遅れて向かってきた一体には当然タルテューフォが躍り掛かり肉弾戦が始まった。

 痛む腕は徐々に回復していくが技能スキルでグリフォンしか見えていないタルテューフォにとっては大火傷の痛みはあって無い様なものだった。付かず離れずで後退しながら安全に戦うメリーとサーニャに比べ、野生動物が生存を掛け争っている様に肉弾戦を繰り返すタルテューフォの戦いは見応えがあったがゼノウ達も余所見が出来るほど余裕がある訳ではない。自分達が引き付けた集団を倒しきり余裕が生まれた頃に視線を向ければ三体のグリフォンは無事に討伐されていた。
 仲間に加入したのが遅かったサーニャも元々契約していた光精と[ユニゾン]が出来る様になっていた為、グリフォン相手でも十分に単身で戦える力を持っていた。その事にサーニャは改めて自分の想い人の異常さに戦慄する。

 その後はポツポツとゲートから出て来る瘴気モンスターを臨機応変にPTを交代しながら休憩を挟みつつ討伐を繰り返すと約束の夕暮れ時になった。季節柄暗くなるのが早いので宗八そうはちの認識する夕暮れの時間帯も不明だがいつ戻って来ても良いようにと待ち続ける中、急にゲートが閉じた。

「終わったか……。あとは宗八そうはち達が戻って来るのを待つだけだから各々好きに過ごしてくれ。お疲れ様」
 ひとまずの作戦終了を伝えると青竜フリューアネイシアがさっさと小さな身体に変化してゲート近くに蹲って寝息を立て始めた。タルテューフォも技能スキルが切れたのか高揚は完全に治まりいつもの調子に戻り青竜フリューアネイシアの側で横になり同じく寝息を立て始める。

「ゼノウ様。お茶の準備を致しますのでテーブルなどを出してもらっても宜しいでしょうか」
 メリーとサーニャが側に寄って来て催促して来たので影に収めていたティーセットを出すと手際良くお茶とお菓子の用意を始めた。
「皆様お疲れさまでした。どうぞこちらでお寛ぎください」
 お呼ばれされるままゼノウ、ノルキア、アネス、モエアは席に付いた。モエアに至ってはお茶が出される前に侵しに手を付けている。

 雑談などを挟みつつも更に三時間ほど待つとやっとゲートが再び開き宗八そうはちやアルカンシェ達が帰って来た。

「おぉ~!にぃに!ねぇね!おかえりなのだ~!」
宗八そうはちぃ~!おかえりぃ~!』
 先ほどまで寝ていた二人がいち早く動き出し駆け寄っていく。宗八そうはちからは苦し気な声が漏れるのが聞こえたが気にせずゼノウは労いの言葉を掛けた。
「おかえり。ずいぶん予定よりも時間が掛かったな」
 掛けた言葉に対し宗八そうはちは何かに耐える様にプルプルするだけだ。その様子を見守っていたアルカンシェが代わりに返事をする。
「ゼノウもお疲れさまでした。ゲートを更新する僅かな時間で大きなズレが生じてしまったみたいで……。心配させたかしら?」
 ゼノウは否定した。
「いえ、現在は夜の九時頃なのでまぁ……三~四時間ほどのズレでしょうか。前回も心配はしていなかったのでこの程度なら尚更心配するほどの時間ではなりませんよ」
 本心でゼノウは回答した。もしも、万が一にも全滅の憂き目にあったとしても情報を伝える為に誰かを帰すくらい宗八そうはちならやってのけると信じているからだ。だが、ゲートから宗八そうはちの姿が現れた時に無意識に息を吐いたのはゼノウ自身も気付いてはいなかった。

「今日はこのまま解散するぞ!飯は城で用意してもらえる事になっているから兵舎の方の食堂に移動!飯の間か宿に帰ってから大いに語れ!明日からも数か月は同じ事を繰り返すんだ、盛り上がり過ぎて今後話すことが無くならない様に気を付けろよ!以上、移動開始!」
 宗八そうはちの号令に全員が早足で移動を開始する。今日の手応えから今回もなんとかなりそうだとゼノウは安堵と強くなっている自信を心に刻みながら帰路に付いたのだった。
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