特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第15章 -2ndW_アルダーゼの世界-

†第15章† -11話-[炎の聖獣]

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 魔物の襲来が収まったのでやっと周囲を落ち着いて見回せるようになった宗八そうはちとアルシェ。
 全体的に黒と赤と黄色が目立つ世界。視界に入るのはマグマの河、固まったマグマ、燃える木々ばかりでおよそ人が生活出来る様な環境では無い事は見れば分かる過酷環境だった。一縷の望みとしては環境に適応した新人類かナユタの世界同様に世界樹のバリア内で生き残りが居る程度しか頭に思い浮かぶことも無かった。

「《エアークリーナー》」
 宗八そうはちが球状に光る魔法を発動させた。立てた人差し指から打ち上がったバスケットボール大の光球は空中で静止すると瘴気に侵された空気を凄い勢いで吸い込み始めた。光球の中で浄化された空気は代わりに綺麗になった空気を吐き出す。ただ、効果範囲にも限界があるので多少周囲の視界が晴れたところで遠くの空気が濁っていれば広範囲の景色を見渡すことは出来ない。

「意図した効果は発揮していますけどこの世界を浄化するメリットは少ないですからある意味失敗、でしょうか?」
 空気が綺麗になれば他のメンバーも活動しやすくなるメリットはある。しかし、空気を吸い込む轟音と近づき過ぎれば吸い込まれる危うさ、そして浄化したところで世界樹を破壊すれば滅ぶ世界を浄化する意味の無さ。二人の中でこの魔法は自分達の世界が攻め込まれた時に真価を発揮すると判断された。それこそフォレストトーレ奪還作戦時に開発されていれば色々と楽になったのは確かだった。

「まぁある予定通りの効果を発揮することは確認できたしそろそろ移動したいところだけど……。クー、何か感じる?」
 クーデルカは既に索敵していたのかすぐ回答する。
『(以前は全体的に暗かったので世界樹の光を感じられましたが、ここは光源が多すぎて反応出来ません。すみませんお父様……)』
 謝るクーデルカに宗八そうはちは気にするなとフォローする。以前は稲光があってもクーデルカの言う通り光源としては少なく光ってもすぐに治まるので違うと判断も出来たが、こうも全域に動かず変化のない光源があると難しい事は簡単に想像出来る。
 とはいえ、星のどこかに生えた世界樹を当ても無く探すとなると大量の魔物の襲撃も相まっていつまで経っても遅々として進まない。

「さっそく新しい技能スキルを使う事になるかぁ……」
 落胆する宗八そうはちの様子にアルシェは笑う。
「ふふふ。竜眼ですよね? 効果を考える限り今はそれしか手掛かりに出来そうもありませんしどんどん使いましょうよ」
 アルシェの後押しも受け宗八そうはちは竜眼を発動する。

「——《竜眼!》」

 アクティブ技能スキル[竜眼]。
 青竜の守り人のジョブレベルが上がった事で取得した技能スキルで色んな視界を切り替えることが出来る。熱感知、光感知、魔力感知、暗視、紫外線感知、遠見、視力向上などが主な効果で壁向こうの敵を動きを探知出来たり今回の様な世界樹を捜索するには持って来いの代物となっていた。

 スキルを発動させた宗八そうはちの瞳に力が宿り視界は一気に真っ赤に染まる。熱感知で何も見えない宗八そうはちは竜眼の熱感知も含めた今は不要な能力を切断すると遠見と魔力感知だけで周囲を見渡す。魔物の強さによって大小様々な魔力を感知する事に成功したが遠見の範囲には世界樹らしい魔力は視認出来なかった。それでも大き目の魔力は遠方に確認出来た為何かが存在する事は分かったのでそちらに向けて侵攻する事とした。


 * * * * *
 襲い来る魔物を全て相手する時間など無駄にしかならないと判断した二人は全速力で囲いから突破しつつ目的地に向けて進む。
 ただ狂化していても組織で活動していた魔物などは自然と連携を取り、そもそも能力が高い魔物は遠距離攻撃で行く手を阻む。それらを時には回避し時には討伐しながら進む先には一本の未だに燻る黒焦げとなった大樹が立っていた。
 不思議な事にこの瘴気に塗れた世界においてこの死に体の樹の周囲は狭いなりにも浄化が発揮されている。その原因はおそらく……。

「あの小鳥でしょうか。色もくすんでいませんし若干全身が光っている様にも見受けられますね」
 アルカンシェの感想に宗八そうはちも同意を示す。
「浄化が出来るって事は光属性を持ち合わせているって事だ。そういう生き物は大抵[聖獣]って呼ばれる事が多い」
 元の世界の知識を口にする宗八そうはちの言葉にアルカンシェは一人の聖獣を思い浮かべた。
「タルちゃんは浄化の力を持って居ませんよね?」
「ヤマノサチは白くて神聖に見える見た目と強すぎて馬鹿共が手を出さない様にする為の方便で聖獣とされたんじゃないか? それが本当ならウミノサチも聖獣とは名ばかりの魔物かもしれないな」
 特徴的な揺らめきと燃える様な羽色から神々しさも携える小鳥は地獄に変わった世界の中でも安らかに眠っている様に見えた。
「話が出来るならこの世界の情報も手に入るかもしれない。周囲を警戒しつつ距離を詰めて対話を試みよう」
 頷くアルカンシェを連れて円形の浄化エリアに足を踏み入れた瞬間。小鳥は瞳を開いた。

 この浄化範囲は睡眠中の索敵範囲でもあった訳だ。
 警戒を強める小鳥の視線は宗八そうはち達に釘付けとなっており、互いに次の動き次第と考えて緊張感が高まっていく。特に宗八そうはちと小鳥が睨み合って動けなくなったことを悟ったアルカンシェは敵意が無いと示すように堂々と一歩前に出て頭を下げる。

「初めまして炎の小鳥さん。私たちは異世界から参りました異世界人です。少々伺いたいことがありまして対話は可能でしょうか?」
 アルカンシェの動作と言葉にしばらく無言の時が流れる。やがて小鳥は喋り始めた。
『(人間は久方ぶりに見る。すわ生き残りかと思ったが異世界人なら納得だ)』
「契約も無いのに念話……だと!?」
 中性的な声音で小鳥は語り掛けて来た。まさかの念話に宗八そうはちは小さな声で驚く。
「これ以上は近づかないと誓いましょう。この世界について伺わせていただけますか?」
 小鳥が枝に止まったまま翼を広げ応える。
『(いいだろう。こちらとて久しぶりの会話だ。何が聞きたい?)』
 快諾する小鳥の相手はアルカンシェに任せた宗八そうはちは浄化の円から外れると周辺警戒に集中した。

 アルカンシェの交渉の結果この世界についての情報がいくつか判明した。
 小鳥も言っていた様に人間はすでに全滅していて世界樹のバリアも表には見えない。この回答にアルカンシェは守護者となった生贄を保護するだけに留まっていると考えた。つまりこの世界も一人は助け出せる可能性がある。
 続いて世界樹の位置だが、最悪な事に星の反対側にあるという答えが返って来た。この樹が丁度世界樹の反対側に生えており自分は聖獣であるとも口にした。

「聖獣……。身体は小鳥の様に小さいですが本来はもっと大きな存在という認識で間違いないでしょうか?」
 小鳥は肯定する。
『(その通りだ。異世界と言っても生態系はそう変わりないらしいな。だが、神族が魔に堕ちてからは自分達だけで抗う事も出来ず終焉を眠って待つ他なかった。君らはこの世界をどうするつもりだ?)』
 アルカンシェは堂々と答えた。
「世界樹を破壊しこの世界を滅ぼします。現在私の世界へこの世界で産まれた魔神族が攻め入っている状況の為、敵戦力を削る上でもこの世界は滅ぼす必要があるのです」
 ここまでボロボロの世界でも住民からすれば故郷だ。言い切ったアルカンシェの瞳を見つめた小鳥は責めなかった。
『(思う所が無いわけでは無い、が。この世界は既に末期だ。滅ぼすというなら我は止めない)』
 悲し気な小鳥の姿も相まってアルカンシェの心も感化されて悲しみが広がる。

 アルカンシェが小鳥と交渉している間も魔物が生者を感知して集まって来ていた。
 アルカンシェが抜けた穴はフラムキエのオプション[蜃煙しんえん]で人間の身体を幻影で作り上げ、七精剣しちせいけんカレイドハイリアを[七剣開放リベレイト]してそれぞれの生きた剣が攻撃を担い、ノイティミルのオプション[聖壁の欠片モノリス]を盾の役割として単純に6人も人数を増やす手を取っていた。宗八そうはちが浄化魔法もばら撒いた為特に苦戦をする事もなく順調に魔物は討伐されて行く。
 何より人間の身体は幻影なので斬り裂かれようと噛みつかれようと痛くも痒くもなく、基本的に攻撃は聖壁の欠片モノリスが受けるが剣自体に攻撃が当たったところで性能が良すぎて木剣なのに削れる事も無かった。

『(ひとつ頼みがある。もしも、世界樹でまだ戦う同士が居たら助けてやって欲しい)』
「どの様な姿をされた方でしょうか?」
 即快諾するアルカンシェの応じに感謝しつつ小鳥は告げる。
『大猿の聖獣。名をバルディグアと言う』
 記憶に刻む様に小さな声で復唱するアルカンシェは改めて約束する。
「聖獣バルディグア様ですね、わかりました。出来る限りの手助けはさせていただこうと思います。ただ、話を聞いてもらう為に貴方の名前も教えてもらえないでしょうか」
『これは失礼した。我が名はイグナイト。大鳳おおとりの聖獣だ』
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