特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第14章 -勇者side火の国ヴリドエンデ編-

†第14章† -15話-[影の主を捕獲せよ!]

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 圧倒的ステータス開示を聞いて声も無く驚く俺達など意に介さず彼女たちは気配を消して前進し始めた。
 街道から外れているからこそ草木が茂る間をスルリと音も立てず通り抜けて行く姿を前にすぐさま後を追おうと足を前に出そうとした時、誰かに肩を掴まれ阻まれた。誰かと振り返れば粛々と同行していたセプテマさんだった。

「儂らにあの技術は無い。彼女が慎重に事を運び過ぎている可能性は十分にあるが此処は観察に徹するべきですぞ」
「……皆の意見はどうかな?」
「元剣聖けんせいの助言ならば聞いておくに越したことは無いだろうな」
「実際アレみたいな隠形は無理だからな。それに視認がまともに出来ねぇと種族もわからん」
「何せ私達って魔族についてほとんど知らないんだものね。あちらは部族が多すぎて能力とか本当にいろんな情報が足りていないのよね」

 魔族と戦争をしている。だから俺こと勇者は召喚されたわけだが……。
 ミリエステの言った魔族についてほとんど知らないとは矛盾しているように思うかもしれないけれど、八百年前に初代勇者が魔族との争いを収めた時にも戦争をしていたはずなのに魔族の事を俺達人間はほとんどわかっていない。初代勇者の時代は国の在り様も違っていて神聖教とは別の宗教も活発に活動していた様だ。
 当時の魔王は多数いる部族の中で大所帯で力の強い魔王だった。多少は他の部族も参戦していても九割は魔王と同族だったのだ。全ての魔族が悪感情を持っているわけではない、と流石に理解はしてるけれど初代勇者が勝利してから魔族領と人間領の接触は殆ど無い。有るのは残党の様に人間領へと進行したい勢力が力を蓄える度に数年の戦争を行う程度。参戦する魔族も血気盛んな同じ種族ばかりで今回の様な一癖も二癖もある作戦など久しく、魔族の狡猾さと魔族の少ない情報を忘れるには十分に足る時代が過ぎ去っていた。

 これらの情報のほとんどは何故か紛失しており、ユレイアルド神聖教国主導の元で死に物狂いでここ一年で国内の書物や資料を調べた結果、先の情報をなんとか集める事が出来たと聖女クレアからは説明された。おそらく資料紛失には魔神族が関わっており[破滅の呪い]が認識阻害を起こしていたのだろうとも言っていた。

「個人的には捕らえた後にひと芝居打ってわざと逃がして手札を確認したいところですな」
「彼女たちが居るのでその後取り逃がす事は無いでしょうが今回の件は個人的に早めに済ませたいですね」
「マクラインに同感。二人と行動している間は水無月みなづき様がチラついて落ち着けませんわ」
「そういう実験みたいな事は引き渡した後にヴリドエンデ側でやってもらいませんか?」

 セプテマさんの言いたい事は理解出来るけどそれが原因で周囲に被害が出る可能性があるなら無理は出来ない。それに捕まえて拘束した程度では魔法で抵抗する事は出来るので契約している魔物を召喚してくる事も想像出来る。敵の正体がある程度絞れた際にテイマーについてギルドで調べたけれど、テイマーは冒険者ではなく飼育係という認識が強くて現役冒険者の中にテイマーは居なかった。改めて牧場や移動馬車で働いているテイマーに話を聞かせてもらったけれどジョブレベルが最大でもLev.5でそれ以上のジョブレベルだった場合召喚が使えないとは言い切れなかった。

「あくまで個人的な意見。勇者殿の判断に従いますぞ」
「じゃあ、彼女たちが捕えてくれるのを待ちましょうか……」

 しばらく息を殺して彼女たちの動向を観察した末、ドッ!と遠くで土が舞い上がる様子が見えた。
 続く戦闘音もなく逃げ惑う様子もなかったので全員に目配せをしてから現場へと足を進めると、馬の身体に人の上半身が生えた人物が両後ろ脚を明後日の方向に折られ前足は囚人の様な重しを装着され、フードの隙間からは一本の角が生える魔族が倒れ込んでいた。足役の魔物が居ると思い込んでいたけれどまさか魔族自体が走る事に特化しているとは思いもしていなかった。フォレストトーレ国ではないとはいえ開拓されたエリアとは異なり街道脇には樹齢数百年の大樹はいくつかあるのでそういう林や森を駆け抜けてしまえば人目も気にすることなく逃げて来く事は可能だろうと想像出来た。

「意識は?」
『あるですよ。一応何をするかわからないから気を付けるです』
「ありがとう。とりあえずすぐ使用するもの以外はインベントリに入れてるだろうし持ち物チェックからかな」
「触るな劣等種」

 フードを外すと女が姿を現した。俺達人間と上半身はほとんど同じ見た目で違いとしては肌の色が浅黒く右眉の上辺りから捻じれた角が一本突起しているくらい。はっきりとした姿を始めて見た面々は内心驚愕しつつもマントを剥がし持ち物を全て剥ぎ取っていく。出て来た物は少ない携帯食料と飲料、そして色が違う気絶したネズミ型魔物が

『檻を造ったです。そっちに入れておいた方がいいですね』
「戦力としては期待出来そうにありませんけれど、何故こんな可愛い魔物を連れているのでしょうね」

 ノイティミルちゃんが魔法で造ってくれた持ち運びできる檻にミリエステが素早く優しく移動させて閉じ込めた。
 他には武器も持っていなかったのでインベントリに隠しているか、もしくはそもそも自身が戦闘する能力を持っていないのか……。後者ならずいぶんと助かるけどどうだろうか……。

「これから貴方をヴリドエンデ城へ連行する。抵抗するならここが最後だぞ」
「フン…。私はもう役目を果たしたからあとは死ぬだけだ。早く殺せ!」
『魔族の方も自分で倒せる魔物しか使役出来ない様ですね。召喚出来ても大したことも無いでしょうからさっさと連れて行くですよ』
「そうだね。じゃあ行ってくるから近くの村でまた合流しよう」

 勇者PT全員で囲い魔族を連れて[ヘルリオ・ルラ・トレイン]で王城へと移動する。突然光が城門前に落ちて来た事で慌てる様子の門番だったがすぐさま俺達だと認識すると数人が城の中へと駆け出していく。

「例の魔族を捕まえました。至急牢屋に繋いでもらいたいのですが……」
「話は伺っておりますが念の為万全か確認に行かせております。また、王にも報告に走らせましたが謁見は不要ですか?」
「すでに魔族は移動中で何らかの手段で連絡を取り合っている可能性があります。謁見している暇は無いのでヴリドエンデ領内に居る魔族を全て捕縛してから謁見したいと思います」
「わかりました、その様に王へお伝えいたします。牢屋の準備も整ったようなので引き渡し願います」

 門番長と思われる人と話している内に城に走って行った門番が複数人を連れて戻って来た。
 彼らに魔族と魔物を引き渡して「引き離して置くように。あと、19人分の牢屋の手配をお願いします」と伝言を残しすぐに踵を返して再び魔法を発動して俺達は光となって合流予定の村入り口へと降り立つ。それなりに先ほどの現場から距離はあったはずだけどちゃんと二人は村で待っていた。

「他の魔族の足が速まったから仲間が捕まった事は把握してるみたいだよ」
「ならすぐに次の魔族の捕縛に行こう!方向を教えてくれ!」

 怪しいのは20匹居たネズミ型の魔物。
 でも、魔族の数はそもそも20人とタルテューフォちゃんは言っていた。互いに連絡を取るなら19匹で十分のはず……。おそらく21人目は魔族領に残ったまま情報を収集して報告するのが役目なのだろう。
 タルテューフォちゃんの指示通りに事を進めて近くに来ては魔族を取り押さえて行く。最初こそ一人だけで城に連れて行っていたが魔族個人の戦闘力がほとんど無いだろうと予測の元三人ずつ王城へ連れて行くことで時間を節約した。捕縛の際は魔族の察知力が異常に敏感になっていたけれどネズミ型魔物を通じて危険を知らせていたからだろう。

 その日のうちに10人全員を捕縛し終えて、移動速度を考えても魔族領との境に辿り着くのはどれだけ急いでも1週間は掛かるとの判断から翌日に持ち越して無事に20人全員を捕縛する事に成功した。全員が持ち込んでいた戦力は連絡用の20匹だけで追加で何かを召喚する事もなく今回のクエストは完了したと言えるだろう。

『テイマーも念話が使える可能性は高いです。ジョブレベルが低いうちは直接対峙した際に意思が分かる程度だそうですが、ボク達の例がある以上無制限なのか制限ありなのかは分からないですが念話は可能だと思うです』
「じゃあ21人目にこっちの情報が伝わった可能性も捨てきれないね……」
「言われた事はしたんだし文句があるなら力で分からせればいいんだよ!」

 依頼が完了した為、タルテューフォちゃんとノイティミルちゃんとの別れの時。
 ノイティミルちゃんが懸念事項を教えてくれた。何を調べ何を伝えたのか分からない以上警戒を解くことは出来ないし今まで以上に警備体制を強化する必要は出て来るのは確実だ。おそらくこちらが把握している魔族領と行き来出来る道とは別に新しい通路が出来ている可能性もありそちらについてもヴリドエンデが調査をするらしい。

「今回は助かった。ありがとう!」
『お父さんからご褒美をもらう為ですから気にしないで欲しいです。あと、魔族領に入る前にステータス強化の為の期間を設ける様にとお父さんから伝言を受けてるですよ』
「ステータス強化ってレベル以外だと称号って事かい? それって一朝一夕には出来ないだろ?」
『ダンジョンで魔物を個人で50匹倒せばスレイヤーの称号が入手出来るです。合計300匹倒せばスレイヤー+++で打ち止め。なので各ダンジョンでリポップする魔物を狩りまくればステータスが劇的に向上するですよ』

 詳しく話を聞くとどうやら俺達が彼女たちの手を借りる前から水無月みなづきさん達はステータス向上の為に動き回っていたらしい。予想した通り水無月みなづきさんとアルカンシェ様はもちろん、幹部だけでなくクランメンバーの送迎まで行って強化をしているとの事。彼らは魔神族を敵勢力として目的にしているから普通では必要としないレベルのステータスを目指したのだろうけど、俺達は魔王討伐の為に旅をしているからそこまでは必要としないと思っている。

「何故、俺達にもそれを求めるのかな?」
『貸しを作ったまま元の世界に帰られるとでも? 1から育てる精霊使いよりも勇者PTを育てた方が楽ですよ?』
「……いつからそんな考えを?」
『最初からに決まっているです。アスペラルダは勇者を召喚した国ですよ? 召喚してそれまで、なんて無責任な事をアルシェやお父さんがするとでも思うです?』

 本当にあの人は……。だから色々と手を回して精霊との契約や加護の祝福なんてものまで仲間に……。したり顔のノイティミルちゃんに当たる訳にもいかない。全て掌の上ってわけか……クソッ…っ!
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