特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第14章 -勇者side火の国ヴリドエンデ編-

†第14章† -03話-[噂の地下遺跡-噂の救世主の鎧②-]

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 救世主の鎧は呪われている。
 曰く、世界を救った英雄はその存在を疎まれ謀殺された。世界を、人々を恨みながら殺された英雄の魂はやがて己の鎧へと憑依し今日も生贄が己が鎧を装備することを待ち望んでいる。今度は人類を全滅させるために……。

「怖いなぁ……」

 勇者は独りごちる。無事に救世主の鎧という防具が手に入ったとして装備するのは自分という事になる。
 本当に鎧が呪われていて本当に鎧を装備したら暴走した場合、一番に襲い掛かるのは当然目の前の仲間達だ。もちろん装備前に浄化はするし[サンクチュアリ]を発動した上で装備するけど自分の意思ではなく呪われた鎧に勝手に動かれるのは恐怖以外の何物でもない。
 例えば仲間が致命傷を負った場合負わせたのは自分という事になる。怖い。
 例えば仲間がどうしようもなく撤退する場合自分は鎧を着たまま彷徨う事になる。怖い。

 そもそもこんな辺境の寂れた村や集落で噂される様な隠しクエストをアスペラルダのメイドさんは何故知っているのだろうか?
 情報収集するのが仕事とはいえ普通は王都や町での仕事じゃないのか? 先の魔物群暴走スタンピードはその仕事ぶりの御陰で多くの人を助ける一助が出来たとはいえだ。国の端々を行き来してそういう噂を集め精査してって普通の仕事じゃないよ……。

「そろそろ最下層に出たいもんだな」
「そうですね。もう三日目ですしいい加減空が見たい」
「うぅ~~~~~~~っん!硬い床で寝るから体も固くなっちゃってるわねぇ」
「ダンジョンアタックは久しぶりでなかなか面白かったですぞ。最後まで気を抜かない様にしてくだされ」

 クライヴさん、マクライン、ミリエステ、セプテマさん。それぞれがセーフティーエリアで出発の陣日を整え終わった。
 どうやらこの地下遺跡はかなり特殊な存在の様でそもそもはが発生して地下遺跡になった。その後、魔物が住み着き迷宮と化した。それが俺達が攻略を進めるうえで出した見解だった。
 モンスターとはダンジョンに存在する敵勢を現し倒すと死体はダンジョンに吸収される。魔物は自然界に生息する野生動物の様な存在なので倒しても死体はそのまま残るので素材の剥ぎ取りなどを行える。この地下遺跡はモンスターと魔物が混在している場所だったのだ。

 現在同行しているメンバーは精霊を抜きにしても全員でだ。
 勇者PTに俺・マクライン・ミリエステ・クライヴさん。サブPTにセプテマさん・アナスタシアさん。
 そう!あのメイドさんが何故か地下遺跡前で仲間に加わったのだ!
 俺達が到着前にすでに地下遺跡内部の調査を進めていたらしく情報を渡してくれたことには感謝している。ここも魔物群暴走スタンピード直前で魔物が大量に居る事。ダンジョンとしてはアンデット系という事。地下がどこまで深いのか確認出来なかった事。それらを踏まえてメイドのアナスタシアさんは同行を申し入れて来た。

 確かにアナスタシアさんはアスペラルダのメイドだった。
 加護は祝福されていなくとも闇精霊と契約しているので飛び道具は[空間接続ディメンションコネクト]で置換して無効化する。大量の魔物に囲まれない様に[影縫かげぬい]で量を調整してくれる。生活魔法と定義した[ウォーターボール]で水場を用意し[ファイアースタ-ター]で着火し[マイクロエレクトロ]で微電流を掌に発生させてマッサージをしてくれる。
 また、影の中にインベントリを持っていて調理セットや予備のテントや食料も提供してくれた。何なら俺達が手持ちしているテントや袋もインベントリに収納してくれた。至れり尽くせりとはこの事だ。地下遺跡の攻略は大変だったけど戦闘だけでなく以外の部分でかなりお世話になってしまった。

 ここまでお膳立てされて最奥に行かない訳にはいかない。重い腰を持ち上げて俺は皆の元へと駆け寄った。


 * * * * *
 最下層に近づくにつれて空気が重く鼻が曲がる様な強烈な匂いに吐き気を催した。
 俺だけではなくマクラインとミリエステも同様で平気な顔をしているのはクライヴさんとセプテマさんだけ。アナスタシアさんすらも青ざめた表情になっている。

『(メリオ、最奥から瘴気が発生している様です。定期的に聖域を張って休憩しながら進むことを推奨します)』
「みんな。瘴気が発生しているらしいから細目に休憩を挟みながら進もう」

 サンクチュアリを展開して休憩を挟めば空気の重さも気にならなくなり息も吸いやすくなった。
 みんなの顔色も少しは改善したからかアナスタシアさんが手早く全員にミントティーを淹れ始める。

「なるほど。魔法陣の内部に触れると瘴気が浄化されるのですな。
 となると……この匂いの原因は瘴気では無いという事ですかな?」
「血の臭いだな。それと薄れちゃいるが人が腐った匂いもしている」
「救世主の鎧に殺された人が居るというのは本当の話の様ですね」

 いち早く嗅覚に訴える匂いの原因に気付いたのはやはり年長者の二人だった。俺とマクラインが言われるがまま匂いを嗅ぎ直して自分達でも判断している横でミントティーを口に運びながらミリエステは不安そうに呟く。
 発見した当初こそ最奥まで来て殺される村人や冒険者が居たとして近年では噂でしかその存在が伝わっていなかった地下遺跡。
 その最奥から別の階層まで血の臭いや腐敗臭がするという事は盗賊や山賊でも迷い込んだのだろうか? 魔物群暴走スタンピードを長年起こさなかった理由としてもそういう侵入者が定期的に訪れては魔物の数を減らし最奥で殺されていると考えれば点と点が繋がる様な気がする。

 その後二日を経て最奥手前までやって来た。まさか全七階層とはなかなか深いダンジョンだった。
 上層で感じていた匂いはさらに強まり、臭いに多少慣れたとはいえ精神的にもかなり負担の多い攻略であった。寝る間は瘴気の影響を受けない様に[サンクチュアリ]を毎夜発動させていたけれど、魔方陣の導線が白く発光する事でクレームがあった。眠りが浅くなる、と。仕方ないじゃないか。皆を守る為の魔法なのに……。
 やがて最奥へ到達した俺達を待ち受けていたのは所々が黒く変色したレンガ造りの遺跡であった。

「こいつぁ、血が黒く変色した奴だなぁ」
「これ……全部、ですか…?」

 今まで人死にを経験はしていてもそれは全て瘴気が影響した結果で血はあまり見ていなかった。
 それが視界に広がる通路の天井以外ほぼ全てに血が飛び散った跡があり、それらは例外なく黒く変色をしていたのだ。加えて白骨化した死体が複数。腐敗した遺体も複数転がっている状況で平静を保てる者は誰も居なかった。

「この死体は背中から爪の様な物で貫かれておる……。背を向けて逃げた所をグサリ、ですな」
「魔法で殺された後もありますから物理も魔法も扱えると考えた方が良さそうですね」

 獣なのか、魔法使いなのか。呪われた鎧がダンジョンボスと考えつつも正体が掴めぬ残虐性に慄きつつ全員で足を進める中。
 アナスタシアさんが告げる声がしっかりと耳に届く。

「おそらくボスを相手に私の置換と影縫かげぬいはほぼ意味を為さないとお考えてください。
 効いても一瞬。規模が大きければ置換は出来ない。この2点は確実に頭に入れておいてください。そして近接攻撃も鎧型の魔物が相手ならレベルも相まって戦力にはならないかと……」
「ミリエステ殿とアナシタシア殿の防衛は儂とファレーノである程度は抑えましょう。
 勇者PTの面々はボス討伐だけを考えて行動するようにした方が宜しいでしょう」
「それは助かります。大技が来た場合は俺が引き受けますので後方メンバーは俺の後ろに逃げてください」
「マクラインばかりに負担を掛けない様に大技の気配があれば俺が接近して発動の妨害を試みるよ」

 道中のようなサポートは受けられない。それを前提に物理的な攻撃であればセプテマさんが、魔法的な攻撃であれば土精ファレーノさんが防いでくれるらしい。さらにPTの防御担当のマクラインが皆の盾となってくれるなら後方に攻撃はほぼ通らないと考えていいだろう。
 しかし、大技が連発され様ものなら如何なマクラインとて受けきるのは難しい。誤って死にでもすれば復活は絶望的。
 教国もしくは近隣の治療院がある町までなんて死後10分以内に辿り着けるはずもないからな。やばい時は俺がどうにかしないといけない。勇者なのだから。
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