特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

文字の大きさ
上 下
330 / 413
閑話休題 -|霹靂《へきれき》のナユタ討伐祝い休暇-

閑話休題 -99話-[亡命のナユタの民。新天地にて。④]

しおりを挟む
 ◆——聖女クレシーダside

 詳しく話を聞けばやっぱり私達の勘違いであった事が確定事項となった。
 サーニャも己の勘違いを知って別の意味で真っ赤になってしまったけれど話が進まないので今はアナザー・ワンを管理しているNo.1のクレチアを呼びに行かせ到着を待っている所。

 コンコンッ。
「サーニャでございます。クレチア様をお連れ致しました」
「入ってください」

 ノックに反応して雑談の手を止めるとサーニャが外から声を掛けて来た。
 許可を出し入室するサーニャに続いて「失礼いたします」と断って入って来たのはクレチア=ホーシエム。教皇様のアナザー・ワンにしてアナザー・ワンの教育などの責任者も一任されている女傑。続いてピースしながら入室するのはプリマリア=クルルクス。
 え? あれ? 呼んでないのにどうしてトーニャ達の母親が付いて来ているの?
 良く見ればサーニャとクレチアの顔に影が差している気がする……。

「どうしてプリマリアが来ているの?」
「クレシーダ様、サーニャの事聞きましたよ!娘の嫁入り話に耳を貸さない母親は居ないですよ!」
「ちょっとお母さんは黙っていてください……」
「静かにしている。そういう約束で同行を許可したのですよ。
 これ以上サーニャに恥ずかしい思いをさせないで頂戴。話が進まなくなるわ……」

 どうやら話を聞きつけて同行を言い出した様子。それに二人は条件を付けて渋々ながら許可を出した、と。
 プリマリアの言い分も分かるし居ても良いけど、私が確保している自由時間はひとまず今日のみなのだからあまりにも酷い様なら出て行ってもらいましょう。

「わかりました、この場に残る事を許可します。とりあえず話を進めましょうか水無月みなづきさん」
「……だな」

 入室してからほとんどの時間をプリマリアは水無月みなづきさんの顔に注目している。
 それに戸惑いつつも私の話に乗ってくれたのでサーニャの件を進めましょう。

「クレチア。話は聞いていると思うけれど改めて問います。サーニャを教国から出す事は可能ですか?」
「聖女様のお立場から護衛は二人置いておきたい、というのが教国としての回答です。
 その点で言えばクルルクス姉妹は都合が良かったので配置していたに過ぎません。クレア様と姉妹が納得しているのであればサーニャの穴埋めに誰か手空きの者を手配致しましょう」
「わかりました。では、水無月みなづきさん。
 聖女クレシーダ=ソレイユ=ハルメトリとしてサーニャ=クルルクスの身柄を<万彩カリスティア>にお預けします。戦闘も家事も唯の侍女より上回りますが必要とされているのは精霊使いとしてのサーニャ=クルルクスでしょう。私の大事な姉代わりの一人をお預けするのです。しっかりと死なない様に鍛えて、守って下さる事をお約束願います」
「聖女クレシーダ様のご心配は理解しております。私としてもサーニャ嬢を失う事は避けたい事態です。基本的には自衛となりますが本当に危機的状態になれば必ず助けに入る事はお約束いたします。また、魔神族討伐や破滅関連の解決が叶えばサーニャ嬢を聖女様の元へ戻すこともお約束いたします」

 クレチアの許可が出たのであれば私としてもサーニャを応援したい気持ちも合わせて水無月みなづきさんに託すことにする。
 聖女としての願いに水無月みなづきさんはしっかりと答えてくれた。彼がやるという事は必ず成し遂げ応えてくれると信じている。サーニャに顔を向けると複雑な表情の瞳とぶつかる。
 聖女の侍女。その大役を誇りに働いてくれた彼女には酷な事だと思う。いつこの任に戻れるかも予測が立たず、私の聖女期間がいつ終わるとも知れないのだ。出来るなら最後まで勤め上げたいという想い。そんな彼女を水無月みなづきさんが見出し選んだ事を私は誇らしく思いますよ、サーニャ。

水無月みなづき様、サーニャが貴方様の隣で添い遂げる未来はございますか?」

 真剣な空気の中で流石は49歳児と水無月みなづきさんに言わしめたプリマリアが口を挟んだ。
 クレチアが黙る様にと足を踏みつけ合図を送っていても意に介さずその視線で水無月みなづきさんに答えを求める。

「私はいずれ居なくなる人間です。残された方の人生に責任が持てない以上誰かを選ぶ事はありません」
「わかりました。貴方様の責任感に免じてこれ以上は口出しは致しません。
 私は娘の幸せを願って貴方様がこの世界に残る事を願い教国にてサーニャの帰りを待つ事と致します」

 以外にもすんなりと退いたプリマリアの姿は誰もが予想だにして居なかった。
 娘への愛の深さを感じさせる声音に水無月みなづきさんも真剣な回答をせざるを得なかったがある意味満足の行く返しだったのかそのまま「失礼致しました」と言葉を残して以降はクレチアの隣で静かに立つだけに留まった。

「クレア、いいのか?」
「トーニャは残るのでサーニャの役割を引き継ぐことは可能でしょう。ただ、サーニャはまだ混乱していますからもう少し判断に時間を頂けますか? サーニャの意思が確認出来たらすぐ引継ぎの準備に取り掛かりますので」
「そっちが大丈夫なら俺も全然待つよ」


 * * * * *
 サーニャの身の振り方はひとまず保留にしてもらい、私達は地竜の島にやってきた。
 トーニャとサーニャは当然としてプリマリアは仕事があったらしく教国で別れたけれどクレチアは付いて来た。
 ユレイアルド神聖教国ではあまり見ない乾いた大地に見たこともない家屋。そして見慣れないタレア族と一緒にこちらを遠目に観察しているナユタの民。
 彼らを前に水無月みなづきさんが私達を紹介してくれたので挨拶もさせていただいた。

「こっちの世界でこれから生活出来る場所を紹介する前に皆さんの健康状態を診察してくれる方をお連れしました」
「皆様初めまして。私は治療や病気の対処などを担っているユレイアルド神聖教国という国からやって参りました。クレシーダ=ソレイユ=ハルメトリと申します。立場としては聖女と呼ばれる特定の職種になりますがあまり気を使わず体調不良の意識があれば遠慮せずにお伝えください」
「後ろに控えている女性3名は聖女の護衛です。無理を言って皆さんの健康の為に来て下さったので暴力に物を言わそうものなら冗談抜きに首が飛びかねません。自身の身の安全を第一にお願いします」

 水無月みなづきさんの説明に苦笑しつつ皆さんの様子を見る事にしました。
 水無月みなづきさんの指示で七精の門エレメンツゲートメンバーが整列の手伝いをしている。彼らもナユタの世界に行って生きて帰ったのですよね……。念の為ナユタの民の診察と治療が終わったら彼らも診察しておきましょう。
 全員が特に問題行動を起こすこともなく3つのグループに分かれた。

水無月みなづきさん、何故3つに分かれたのですか?」
「彼らは元々別派閥だったけど生活が立ち行かなくなって最終的に最後に残った1つの村で集団生活をしていたんだ。
 先頭の人がそのグループのリーダーだからちょっとだけ偉い人相手にする感じでお願い」
「わかりました。では、お一人ずつ私の前にどうぞ」

 最初の方は女性のセフィーナさん。ではなく、アルシェくらいの年齢の少年でした。
 どうやら彼があのナユタの元となった人物だそうで念入りに診察をしましたが特に悪い所は見当たりませんでした。身体の中に光属性の魔力を流して悪くなっている臓器などもチェックしましたがこれも問題なし。健康そのものであるとお伝えすると付き添いのセフィーナさんだけでなく3つのグループの方々全員からホッとする様な空気を感じた。
 まだナユタ君は目覚めていないけれど健康ならばそう時間を置かずに目覚めるかもしれないと加えて伝えると以降診察を受ける方々から警戒する様子が薄れた気がする。

 2つ目のグループまでは問題なく進みましたが最後はタレア族という半魚人のグループ。
 私達の世界には獣人やエルフの森人テレリ族海人ヴァンヤール族鉱人ドワーフなどの多様な人種がいるけれど魚と人の融合は初めて見ました。とは言っても鱗と牙は獣人の毛と歯と同じだろうし、水掻きは水辺の生き物なら持っている魔物もいる。知性のある会話も出来るなら特に気にする必要は無いと私は感じましたがトーニャ達は警戒を一段上げた様子。

「こら」
「何故私だけに怒るのですか。姉もクレチア様も居るではありませんか」
「手が出しやすかったから」
水無月みなづき様、妹に手を出さないでください。子供が出来たら責任取っていただきますよ?」

 クレチアはイチャイチャを生暖かく見守りつつ私に一歩近づいて来た。子供って触っただけで出来る?いいえ出来ませんとアイコンタクトを交わした。
 彼女たちが警戒した問題など何事もなく過ぎ診察を全て終えることが出来た頃、水無月みなづきさんが寄って来る。

「どうだった?」
「どう……そうですね……。健康上の話で言えば瘴気は残っていませんでしたから問題は無いでしょう。
 ただ、水無月みなづきさんが最も懸念していた生殖に関しては何とも言えません。身体の構造を理解して再生魔法を施すいつもの治療と異なり、生殖能力はもっと身体の構造のさらに奥の知識が必要に感じました。淀みと言いますか上辺は健康でしたが内側に引っかかるものは感じたのでとりあえず浄化を試みましたがどれほどの効果があったかまでは……すみません」
「いや、俺達が出来る範囲以上の事に気付いて施してくれただけ有り難いよ。
 今後も何度か診察をお願いするかもしれないからまたその時はお願いしに行くよ」
「私も経過が気になりますから依頼を待たせていただきますね」
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

処理中です...