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閑話休題 -次に向けての準備期間-

閑話休題 -82話-[黄竜と魔石と新たな武器と⑬]

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「さて、お説教です。跪きなさい」
「はっ!」

 窓際で振り向いたアルシェの顔は王族のソレであった為、彼女の言う通りにすぐ膝を着き続く言葉を待つ。

「今回宗八そうはちは何を間違えたかわかっていますか?」
「まったくわかっておりません」

 話途中で止めて来たラフィート陛下の様子から考えて養蜂中心の町作りに関する事は確かだが、どこが俺の間違いになったのかいまいちピンと来ていなかったのでアルシェの質問にも中途半端な回答をせずにきっぱり答える。

「結論から言えば、新しい町を作ろうと話を振ったことが越権行為に当たりました。
 宗八そうはちはアスペラルダの所属ですから他国のまつりごとに口を出したことが問題です」
「そういうことでしたか…。申し訳ございません、復興の手助けになればとしか頭にありませんでした」
宗八そうはちのその考えは素晴らしいものです。
 養蜂もこの世界にはない事業ですから成功すればフォレストトーレは確かに財政的にも大きな助けになるでしょう。
 それでも今回の内容はラフィート陛下と同格となるお父様を通して伝える手順を取るべきでした」

 ぼんやりとアルシェを通しておけば良かったと後悔をしていたところ、アルシェでも実際はダメでアスペラルダ王ギュンター様からラフィート殿下に話を通す必要があったそうで今回のやらかしの明らかな規模の大きさにに俺は青ざめる。

「伝え方も提案ですと貸しになってしまうので共同事業で行う必要があるでしょう。
 フォレストトーレは現在人材も資材も資金も足りていないのですから町一つ興す事も難しいですし」
「申し訳ございませんアルカンシェ様。
 浅慮な考えでアルカンシェ様だけでなくラフィート陛下にもアスペラルダにもご迷惑を……」
「……まぁ、私達にも落ち度はあります。
 魔神族相手に調査などを行う行動指針ややり方も宗八そうはちに任せきりでしたし、国を挙げて支援して来たのです。
 周辺国が協力してくださっていることもあり自由行動を問題視することもなかった為魔神族対応に集中出来ていました。
 今回、甚大な被害を被った国が出たことでまつりごとを考える隙が宗八そうはちに出来てしまった…、今まで自由だったからこそ私達が注意を伝えておくべきことでした」
「常識を持ち合わせていれば一兵士がまつりごとに関わる事を口にすべきではないと分かるはずです。
 全ては自分が自由を履き違えていたことが原因です。アルカンシェ様方に落ち度はございません!」

 流石に今回の件をアルシェ達に問題があったなんて事にされては困る。
 後悔の念に苛まれ足元から急激に冷えていく感覚に見舞われる状況下でも原因が全て俺にある事を理解するくらいには頭は回る。
 異世界アルストロメリアに来た一年前であれば今回の様なミスはまずあり得なかったが、旅をして来た今までの行動で自由に動けていたことの延長でしでかしてしまった自分の責任に変わりはない。
 今までの自由は理由もある故に見逃されていただけの自由だったことに改めて気付かされた。

「……ふぅ。宗八そうはちが反省している様なのでこれ以上は言いませんが、今後国王を相手にする際は注意が必要ですからね。
 相手がラフィート陛下であった事も幸いでした。陛下は宗八そうはちの立場や為人ひととなりを理解して事を荒立たない様配慮してくださいました。ちゃんと感謝するのですよ」
「ありがとうございます。今後同じ過ちを繰り返さない様に自制を心がけます」


 * * * * *
「落ち着きましたか?」
「ありがとう、アルシェ。本当に気を付けるよ」

 アルシェが王族オーラを治めて表情を緩めたことで説教が終わった事はわかっていたけど思いの外自身の過ちの対するショックが大きく、すぐに立ち上がらず俯いている俺の様子を見かねたアルシェは高さを合わせて俺を抱き締めて落ち着くのを待ってくれていた。
 アルシェに答えたあとにもう大丈夫だと背中をポンポンと軽く叩き放してくれと合図を送る。

「嫌です」

 俺の頭を胸に抱くように抱き締めているアルシェの力が増したのを感じる。
 すでに冷静になっていて顔に押し当てられている胸圧がヤバイから離れて欲しいんだが…。

「王女様が特定の男にこんなことをしているのを見られると不味いだろ?」
「だからドアから離れてもらったんですよ」
「フォローまで完璧かよ」
「離れて寂しかったのはアクアちゃん達だけじゃないんですよ。
 久し振りの触れ合いなんですからもう少し付き合ってください」

 しばらくは離さないぞと宣言したアルシェに根負けして腕を腰に回して抱き寄せるとアルシェは逆に力を抜いてくれた。
 そのおかげで胸圧が和らぎアルシェっぱいから脱出して息を気兼ねなく吸えるようになった。
 まぁ俺も寂しさは感じていたし周りの目を気にしないでいいならお言葉に甘えてアルシェ成分を遠慮なく摂取させていただこう。
 改めて立ち上がって抱きなおすと今度はアルシェの顔が俺の胸元に擦り寄ってくる。

「兄離れ出来るのか?」
「する必要を考えたくはありませんね」

 互いに決定的な言葉は囁いたこともないけどお互いが好いていることはちゃんとわかっている。
 鈍感系を自称して誤魔化していても流石にアルシェのアピールに気付かないわけがない。
 あくまで兄弟愛に近い情であって決して愛し合っているわけではない、とずっと言い訳している状態になってどのくらい経っただろうか。この先、勇者メリオが魔王を倒した際に俺は一緒に元の世界に送還される予定で動いているものの、召喚時に魔方陣に魔力は流れていないにも関わらず俺が現れたことから別口で俺が召喚された可能性も少なからずある。
 もしも勇者メリオは送還されても俺が残った場合……、なんて希望的観測を期待してこれ以上進むことは俺たちには出来ない。

「生殺しだぁ~」
「私の方が生殺し期間は長いですよぉ~」

 俺は送還された場合のアルシェの立場にケチが付かない様配慮してこれ以上手を出さないようにして、アルシェも王女としての立場を理解しているからこれ以上希望を口にしない。それでも現状も十分にスキャンダルな状況なのだが、添い寝はアスペラルダ王城内のみのイベントなので秘匿され、他所では同じ部屋で二人きりにはならないようメリーなどを配し、事情を知るラフィート王子などは見て見ぬ振りをしたり協力者もいたり……。
 恋に自制している俺たちも争いに関わらない世界の住民なら順序立ててちゃんと立場を確立して恋人になったり出来るんだろうし付き合い始めるまでは自制も出来ただろうが、なんだかんだで命の危機を感じながら戦う俺たちは都度性欲が高まるのか接触する時間を設けてもらっている。もちろん添い寝とかの話だが。

「そろそろあっち戻らないといけないんじゃないか?」
「ん~、名残惜しいですけどもう三十分経っていますからそうなんですよねぇ~。お兄さん成分をもっと摂取したかったです」

 同じことを考えていたアルシェと微笑み合って互いに惜しみながら身体を離す。

「じゃあ、戻ろうか」
「はい、お兄さん♪」


 * * * * *
 一方同時刻帯。
 残った精霊姉弟は追加されたクッキーを仲良く分け合って雑談に花を咲かせていた。

『お姉さま、紅茶が入りましたよ』
『クーありがとう~。ベル、クッキー半分こしよ~』
『わぁーい!アクア姉様ありがとぉぉぉ!』
『アニマ、もらいますわよー!』
『ちょっとニル姉様!この皿のクッキーはワタクシが頂いたんです!あっ、フラムは食べてもいいですからね』
『うん』

 残念ながら第二長女ノイだけがこの場には居ないが久しぶりのお茶会に姉弟たちはテンション高く姦しくお喋りをしている。
 その目の前の光景を気にせずお代わりした紅茶の香りと味を楽しみながら出て行った二人の戻りを待つラフィート陛下に背後の文官たちが口を寄せる。

「陛下。陛下の前で子供とはいえこのような態度。私どもは許せません!」
「そうです!話し合いの間は何があっても静観するようにと命令されていましたが、ここで注意せねばアスペラルダに舐められてしまいます!」
「黙れ馬鹿どもが。あの娘たちが何者か分かっていてその口を開いているのか?」
「……人間ではなく精霊とは予想しております」

 文官からの訴えを一蹴したラフィートは無遠慮に姉弟を指差してその存在を問うと、文官も馬鹿ではないので精霊と予測は出来ていたようだ。それでも自分たちの王を前にした態度に納得は行かない表情を浮かべているのを見てラフィートも溜息を吐いた。

「おい、水無月宗八みなづきそうはちの娘たち。
 我が新しい臣下が落ち着かないらしい。父とアルカンシェ王女の立場もあるだろうからそれなりに整えられないか?」
『メリー、クー。二人の意見は~?』
「アスペラルダ以外の王族の前に今後も出る事を考えればフォレストトーレ王の温情に甘えるべきかと」
『フォレストトーレ王の意見はもっともです。慣れる為にもあちらの臣下が納得する為にも整えたほうがいいですね』

 メリーとクーは姉弟のお茶会の給仕を主に手伝っている中、アクアからの質問に冷静に回答を返した。
 自分達はメイドとして完璧な仕事をしているのでこの場で姉弟の態度を改める決定権は第一長女アクアに委ねられる。
 仕方ないか。アルシェやじぃじとばぁばからもいずれちゃんとした態度を示さなければならなくなると聞いていたアクアは諦めの息を吐くと自分の中のスイッチを入れた。

『申し訳ございませんラフィート陛下。末の姉弟の態度だけは目を瞑っていただけますでしょうか?』
「かまわん」
『寛大なご配慮いただきありがとうございます。
 クーは問題ないけれどニルとアニマも今だけはわたくしに従って頂戴ね』
『完璧な擬態ですわね、アクア姉様!かしこまりましたわー!』
『ワタクシも問題ないでしょう、アクア姉様?
 それとニル姉様はいいかげんワタクシのクッキーを諦めてください』

 言葉遣いだけでなく居住まいも正した擬態アクアの姿に誇らしそうな微笑みを浮かべるクーとメリーとは対照的にぐぅの音も出なくなった臣下たちは名状しがたい表情で引き下がっていく。
 もちろん王の前で居住まいを正させた事に喜びもあるが、逆に小さな子供に勝ち誇る自らの度量の狭さに恥ずかしさも感じていたからこその複雑な心境。そんな彼らの様子を見てラフィートもゲンマールも苦笑いを浮かべつつ紅茶に手を付ける。
 しかしこの場で一人風精ファウナだけは小さいのに立派ねぇとのんびりした感想を浮かべていたのだった。
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