特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

文字の大きさ
上 下
265 / 413
閑話休題 -次に向けての準備期間-

閑話休題 -69話-[瘴気の亜空間⑥]

しおりを挟む
「世界樹は危機度合いの指標になりますが、
 破滅に特化しているわけではなく単純な人口減少であれば理由を問わず出現します。
 なのでことわりとしては星の人類が自力で解決することを望んでいるとのことです」
「それで抑止力としてのメンタルモデルかね?
 生贄を捧げることで強力な戦士を作り出し問題解決の手伝いはするが、
 最終的には人類で解決を望む…か……」
「失礼、精霊使い殿。
 このメンタルモデルが今回の件にどのように関わるのでしょうか?」

 ギュンター王が資料を睨みながら難しい表情を浮かべ言葉を漏らす中、
 教皇様がメンタルモデルの先を促す。

「ここからは推測になりますが、
 結論から言うと、このメンタルモデルが魔神族の正体だと思われます。
 彼らの世界が破滅に支配されて世界樹を取り込まれた結果、
 世界の防衛力たるメンタルモデルは魔神族へと変化したのではと推察しました」
「強さという意味合いでは納得出来る話ですね。
 あの強さの持ち主が全力を出しても破滅を退けることが出来なかったという事ですか?」
「聖女様、これは魔神族が口にしていたことですが、
 あくまで起こった問題の解決は人類が行う必要があり、彼らの星に破滅への対抗手段を持つ者が現れなかったそうです」
「それが精霊使いということでしょうか?」
「精霊使いだけがその手段ではないとは思います。
 現状高濃度魔力を扱えれば攻撃が通るのですから、
 魔法使いでも魔剣士でも魔力の扱いに長ける者が出てくればその限りでは無いでしょうが、
 私も精霊に力を借りているだけなのでそこまで手段があるわけでは無いと思います」

 それこそ異世界テンプレの女神さまからチート能力付与とかあれば話は変わるだろうけど、
 この世界は神様を通さずに勇者に相応しい者を召喚しただけだ。
 つまりメリオが覚醒でもして真の勇者にならないと戦力には数えられないだろう。

「この星は精霊使い殿が魔神族と相対したことで対抗手段を持つと考え先の話を伝えたというわけですか…。
 筋は通っていますが、その魔神族は何故破滅を裏切るようなことをするのでしょうか?
 また、出来る理由に考えはありますか?」
「そこに関わるのが[世界]の大きさと考えております、教皇様。
 世界の大きさは世界の成熟度合を表し、世界の成熟度合は世界樹の成長度合に影響しているのではないかと。
 つまり、世界の小さな魔神族は破滅に完全支配されていますが、
 世界の大きな魔神族は抵抗力があり完全支配されていないと思われます」
「完全に支配されていないなら戦力としても寝返る事は出来ないのか?」
「残念ながらラフィート王子。
 彼らの本体が眠る世界樹が破滅に掌握されている時点で奴隷契約のような状態なのではないでしょうか。
 ある程度の自由は残っているから今回の情報提供に繋がりましたが、
 基本的に破滅陣営であることに変わりはなく、彼らの世界を開放しない限り寝返りはないかと…」
「では、魔神族と直接戦わずとも無力化出来るのか?」
「フォレストトーレ王都どころではない瘴気に包まれた異世界の星のどこぞにある世界樹をどうにかすればですが……」

 ちょっと希望的観測をするラフィート王子だったが、
 続く俺の発言で現実的じゃない内容とすぐに理解したらしく黙り込む。

「ですが、早いうちに魔神族の異世界へ乗り込み滅亡させる必要はあると考えています。
 今は破滅の将が動いているだけですが、破滅本体はまだ姿を現していません。
 まだ時期ではないのか、先に手下だけ送り込んで悠々とこれから乗り込んでくるのかは不明ですが、
 本体が姿を現す前に戦力は削るべきでしょう」
「確かに手足となり動く魔神族は討伐しておいた方が我々も有利に事を運べるというもの。
 破滅の正体も分からない以上出来得る限りの準備は整えるべきだな」

 ギュンター様が肯定した内容はこの場の皆も納得してくれた。
 とはいえ、未知の異世界に突入とかすべてが襲い掛かって来る世界へ飛び込むとか正気の沙汰じゃない。

「そうなると事前準備はしっかりしないといけません。
 異世界への入り口は接続と切断を繰り返しているようなので、
 あちらに取り残されないように手を打つべきでしょうし、何度か調査をして戦力も確認する必要があります」
『空間の接続延長はあちし達闇精が担当するデスカラ!
 戦力とかはアニキが調整するデショ?』
「皆様、耳汚し失礼します。カティナ、お偉方の前でお前は魔法ギルドの代表としての立場でもこの場に来ているのだろう。
 あちしもアニキも禁止だし、言葉遣いもそれっぽくしてくれ」
『Oh、失礼シマシタ。
 空間の安定化は闇精の仕事デスカラお任せクダサイ。
 戦力は出せませんデスケド、セイレイ使い殿に協力デキマス!』

 ……まぁいいか。
 俺も人の事言えないわけだし。

「えー、闇精の協力は得られました。
 戦力の選択基準は特に定まっていませんが我がアスペラルダだけで進められる程規模が小さな話でもありません」
「そうだね。もちろんアスペラルダはアルシェを中心に[七精の門エレメンツゲート]に一任するよ」
「フォレストトーレは未だ国の現状把握を進めている状態だ。
 出すとしても冒険者となるだろう」
「私たちはどうしますか?」
「あくまで私たちの教徒は教国を支える為の協力者です。
 希望者を募ってから返答としましょう」
 〔こちらもファグス達遠征部隊が戻り次第話をまとめて返答としたい〕

 サッと返答できるのはうちくらいなもんだ。
 何といっても破滅対策部隊がすでに動き出しているんだもの。
 一般兵でもポルトーに俺が手ずから教えた方法で汎用精霊使いの数は増えているし、
 その中でも才能がある奴は一閃も使えると報告は聞いている。

「旅をしていて精霊使いや加護はあまり一般人に浸透していない様に感じました。
 加護持ちが居るなら是が非でも確保してもらえると助かります。
 精霊の方は基本的に無精と契約していただき、
 方向性が見えた方から精霊の変質と祝福を頂けるように交渉を致します」
「「「「「………」」」」」

 何ですかその目は。
 アスペラルダ陣営以外の眼が何かを語っている。
 流石にわかりますよ? 精霊にどれだけ人の身で踏み込んでるんだって言いたいんでしょ?
 この世界は精霊信仰が根付いている為、精霊を見れたことに感動し喋れたことに感動し、
 お前は一体何なんだと名状しがたい感情が蠢いているのだろう。

 でも必要な事だって分かるでしょ?
 だからその眼はやめて。
 俺自身、自分の立ち位置を決めかねているくらいなんだから。

「ひとまず資料に書かれている情報の補足は宗八そうはちから聞くことが出来たね。
 世界樹、異世界のメンタルモデル=魔神族はかなり踏み込んだ有用な情報であった様に感じている」
「情報源の苛刻かこくのシュティーナは今まで煮え湯を飲まされた敵だ。
 どこまで信用できると貴様は思っているのだ?」
「今まで相対した魔神族を参考にすれば明らかに格が違う事は認識していました。
 戦い始めこそ手を抜く事は全員共通していますが、
 シュティーナとマティアスは明らかに余裕がありました。
 なので、彼ら2人はかなり成長した世界出身者であると……、情報とも合致していると思いました」

 霹靂へきれきのナユタや氷垢ひょうくのステルシャトーはすぐに感情的になるし、
 瘴気のオーラもすぐに漏らすし大技もすぐに使用する。
 そういう細かな部分を見てもやはりまともな話が出来るだけでも別格だと感じていた。
 それに合わせて今回もたらされた情報に信憑性はあるとすんなり思えた。

「それに苛刻かこくのシュティーナも自意識はあっても破滅に世界樹が捕らわれている以上、
 敵対行為は止めることは出来ない様子でしたが最後に情報を漏らしました。
 今回接触してきている異世界はおそらく霹靂へきれきのナユタの世界です。
 彼の世界に乗り込んで世界樹を浄化…は流石に現実的ではないので破壊をしてみれば真実かどうかは見えてくると思います」

 世界樹を浄化出来たとしても星全体が瘴気に侵されている状態でその行為にどんな意味があるというのか。
 もしかしたら生贄にされた本人だけでも救える可能性はあるかもしれないけれど、
 メンタルモデルの力を上書きされていない素人が仲間に加わったところでって話でもある。
 いずれにしろ仮定の範囲から出ることはないのだ。

「今回入手した情報は以上になります。
 しばらくは黄竜に用もありますので島に残って様子を見てみます。
 時間が空く時があればアーグエングリンの王都へ進んでおきますので」
「それはよろしくお願いします」

 最後にファグス将軍に向けてちゃんと予定通りにゲートを繋げられるように頑張るからねと伝える。
 そろそろ寝たいし俺からは以上である旨を締めに皆様一通り見まわし、
 俺は早々にこの場を立ち去り黄竜の島へと戻らせてもらった。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

【完結】平民聖女の愛と夢

ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...