特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

文字の大きさ
上 下
242 / 412
閑話休題 -次に向けての準備期間-

閑話休題 -46話-[ドーモ。ドワーフ=サン。③]

しおりを挟む
 土精ウォルベズの案内に従って岩だの穴だのを避けて進んでいくと、
 迂回せざるを得ない大岩の向こう側に煙が上がっているのが見えた。

「ドワーフの里が近いけど、ウォルベズも交流は無いんだよな?」
『竜を探すことを優先したから交流は無い。
 地形を把握してすぐに王に報告したら岩に擬態して待機していた』
「先を見てくるのだー!」

 ドワーフとはいえこの世界の言語は統一されていると聞いたから、
 いくら人里離れた竜の島出身者でも言葉は通じると願いたい。
 まぁブルー・ドラゴンフリューネでも同じ言語だったんだし大丈夫かな。

 しかし、さっそく問題が起こったようだ。

 先を見てくると村へ先行していたタルテューフォがドタドタと勢いよく戻って来た。
 若干殺気が漏れているのか、迫力が[ヤマノサチ]のそれになっているから何かあったのだろう。

「にーにぃ!あいつら何か失礼だったぞっ!
 タルのこと指差して魔物だ魔物だって!殺していいっ!?」
「馬鹿たれ、とりあえず落ち着いて話をしろ。
 あんまり殺気立つな、余計なすれ違いが起こる元だぞ」
「むぅー!!わかったっ!!」

 わかってない迫力の言葉と声量。
 とりあえず落ち着かせる為に頬を挟んでムニムニマッサージで解してやり、
 猫っ可愛がりの様に頭をわしゃわしゃ撫で繰り回してやればボルテージも下がって来た。

「おら、何があったか話してみろ」

 村の方も騒ぎが広がったのか耳を澄ませばザワツキがここまで伝わってくる。
 あっちが攻勢に出てこちらに来る可能性もあるし先に事情を確認しないと。

「タルが村に着いたらすぐに近くに居た女が騒ぎ出して、
 大勢が家から出てきて「獣人?何故この村に……」とか聞こえたから元の姿に戻って見せたら、
 魔物だ!魔物だ!ヤマノサチだぞ!って言い始めて「精霊使いの悪夢が終わっていないのにさらに問題が……」って」
「精霊使い? 俺以外の精霊使いがここに先に辿り着いていたのか?
 いや、でも悪夢とか言われてるから友好的な話じゃないか……」
「あとは「1匹なら殺してしまおう」「やろうやろう!」って流れて行って、
 ずっと酷い言葉をみんなに言われたっ!ねぇ!殺していいっ!?」
「すぐ殺そうとするのはダメだぞ。
 事情を聴いて敵対するかどうか判断する為に俺と一緒に村に行こう。
 ストレス発散なら後で付き合ってやるから今は一旦我慢してくれ」
「うぅ~~~~~!!!!」

 ガシッ!!!ギュ~~~~~ッ!!!
 と悔しさを飲み込もうと頑張ってくれるタルを抱き締めながら頭も撫でる。
 これだけで俺のHPが徐々に減っているのが聖獣[ヤマノサチ]のポテンシャルの恐ろしさよ。

「ウォルベズはドワーフが精霊使いを敵視しているって知っていたか?」
『知っていれば伝えていた。
 その精霊使いについても知らないがいくつか潜伏先に使われそうな洞窟は教えられる』
「状況次第では調べるからあとで教えてくれ」

 あとはうちの娘たちもだな。
 あんまり知らない土地で離れたくはないのだけれどここはウォルベズも居るし頼ろう。

「無精以外の精霊は居ない方が話が円滑に出来そうだから、
 ノイはフラムとベルを頼むな」
『わかったです』
「ウォルベズも悪いけどこいつらを頼むな」
『了解だ』

 子供たち全員の頭を撫でてからウォルベズに護衛を頼む。
 ずっと追っていた俺以外に確認されている精霊使いの足取りがずっと辿れなかったのはこんなところに引き籠っていたからだろうか?
 それにしては問題を起こしてドワーフを警戒させている様だしどういう人物なんだか。

「フリューネは俺と一緒に行こう。
 タルを魔物と言ったならお前も勘違いしてもらえるかもしれない。
 精霊使いとしてではなく魔物使いとして話をしてみる」
宗八そうはちと離されないならペットの役でもやってあげるよ』
「ワイバーンとかに変化は出来ないか?
 出来る出来ないに関わらず喋るのは無しでな」
『似た姿には出来るけど完全じゃないね。
 それに大きさもそれなりに大きくなっちゃうよ?』
「すまんが変化を頼む。今のままじゃ風格があり過ぎだ」

 俺の言葉選びが気に入ったのかフリューネは上機嫌で身体の構造を組み替えていく。
 今までは俺の肩上に手を置き、
 脚を股関節に引っ掛け尻尾を身体に巻き付けてバランスが取れる程度の大きさだった。
 だいたい大きめのグリーンイグアナ位。

 それがファンタジー世界でよく見る、人より大きい程度の翼竜になった。
 背にあった翼が腕と融合し、
 なるほど確かにこれこそがワイバーン。この世界のワイバーンなんだろう。
 翼を畳んで四足歩行で寄って来るその姿は、
 元の世界の映画で観た小型の肉食翼竜に酷似していた。

『どうだい?』
「うん、小物感が増したな。
 これなら自分らの近くに住む地竜の関係者とは思わないだろう」

 流石に俺の背中に張り付くには腕部分の爪がデカく鋭く肩を掴むには適していなかったので、
 俺の後を追って付いてきてもらう事にした。
 翼の構造上、前腕は親指だけで支えているだろうに軽快な走りを楽しむ余裕があるらしい。

「じゃあ行ってくる」
『マスター、気を付けるですよ』
『『いってらっしゃい』』
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...