上 下
232 / 400
閑話休題 -次に向けての準備期間-

閑話休題 -36話-[精霊変質①]

しおりを挟む
「じゃあな。全部終わればこっちからもアルシェを連れて説明の訪問をするから。
 とりあえず報告が被ってもいいからクレアたちの方でも上手く説明しといてくれ」
「もちろんさせてもらいますけど、
 私の意見はそこまで報告に反映されませんよ?」
「クレアも今回の戦いを見て色々将来を考える良い機会になったろ?
 その辺りも教皇には報告しとけ。俺たちに出来る強力なら時間作るからさ」
「わかりました。また遊びに来てくださいね!」

 ゼノウとフランザを精霊王の下へ届ける前に、
 約束していた送迎とお別れを聖女クレアと行う。
 言葉も交わしながら最後に頭も撫でてやると嬉しそうな顔でまた来てくださいねと口にしてきた。
 愛い奴め。だが男だ。

「サーニャ達はお母さんとしばらく離れるわけだろ?挨拶はしたのか?」
「別に。母とは仕事で普段からあまり顔は合わせていませんし、
 数か月会わなくとも気に掛けていただく必要はありません」

 そう語るのは姉のトーニャ。

「母はあのような性格ですが、私達がクレア様の側付きになってからはあまり干渉もしなくなりました。
 母としてアナザー・ワンの先輩として、一応の線引きもしていますので特に問題ありません」

 続けて語ったのは妹のサーニャ。

「そんなもんか…あ、そうだ。
 クレアにも伝えたけど精霊関係で聞きたいことが有ったら気軽に連絡していいからな」
「わかりました、その際はご相談させていただきます」

 クレアの側付きである彼女たちクルルクス姉妹には兵士達と同じ様に無精の契約をさせている。
 今日やる予定の中で一番の目的でもある精霊の属性を変質させる時期がやがてこいつらにも来るだろう。
 その時は光属性か、もしくは別属性かは今後の精霊との交友次第になる。

 ゲートの向こうであるユレイアルド神聖教国に用意してもらった俺たちの拠点から、
 ゲートこちらのフォレストトーレの原っぱへ手を振るクレアと頭を下げるクルルクス姉妹を見送ってゲートを閉じた。
 しばしのお別れの予定だけど、
 夏に避暑と鍛冶師たちの合宿を組む件と三者面談の為にリッカのご両親の元へ行く時にどうせ顔合わせるっしょ。

「ゼノウ達は挨拶済ませてる?」
「挨拶と言っても今日だけ離れるだけだからなぁ。
 アルカンシェ様もセーバー達も快く送り出してくれたぞ」
「兵役経験はありませんけど、
 途中抜けするのって心臓に悪いですね…」

 だよな!!
 セリア先生がライナーの契約精霊を風精に染め上げるのに大体4時間くらいだったから、
 俺は送り届けたら付きっきりではなく別行動の予定がある。
 まずは陰キャの闇精の元へゼノウを送って、
 その後にナデージュ王妃の元へフランザを届けて離れるとしますか。


 * * * * *
 コッコッ、ココッコッ!

『お待ちしておりました、水無月みなづきさん』
「お伝えしていた通り精霊の変質で伺いました。
 残念ながらお土産は今回は無いです」
『そのような言い方だと私が食いしん坊みたいではありませんか…。
 おじい様の元にはクロエとムーンネピアも居ますので感謝があればいずれあの子達にしてあげてください』
「わかりました。では、お邪魔します」

 大闇精アルカトラズ様の部屋はボスフロアの奥にあるため、
 いつもの如く冒険者の休憩所のバックヤードにゲートで移動し、
 カウンターに繋がる扉向こうの闇精クロエと挨拶を交わす。
 その様子にゼノウが小声で質問してくる。

「今のは?」
「アルカトラズ様の元に残っている上位闇精のクロワさん。
 姉妹精霊のクロエと交代でいつもは休憩所の受付業務をしているんだ」
「フォレストトーレにあるダンジョンの最下層にも休憩所はありますけど、
 もしかしてあの受付の男性も闇精でしょうか?」
「ダンジョン管理はアルカトラズ様が分御霊わけみたまを使って管理してるみたいだよ。
 多分フランザが考えているダンジョンの休憩所も似た造りになっているんじゃないかな」

 俺自身がダンジョンにあまり潜っていないからよくわからないけど、
 フランザ達はそれなりに冒険者をしているからいくつかダンジョンに潜っているらしい。
 いずれ息抜きにギルドクエストの薬草回収でもやろうかと思っていたけど、
 ダンジョン攻略も面白いかもしれないな。

 螺旋空洞の先からはクロワさんの言う通りアルカトラズ様とは別の声が2つ聞こえてくる。

「お疲れ様です。アルカトラズ様」
『おぅおぅ、ようやっと顔を出したな。
 新しい眷族候補の顔合わせを楽しみに待って居ったぞ』

 そう言いながらもキョロキョロとされているアルカトラズ様。

「クーは今日連れて来ていませんよ。
 一応あっちはまだ決着が付いていないのでアルシェの近くに控えさせています」
『なんじゃ残念じゃの。
 まぁ良い。して、どの精霊が我らが眷族となりたい者かの』
「こちらに控えるゼノウ=エリウスという人間と契約している無精ウーノです」

 部屋に入った直後からすぐに膝をつき待機状態に入ったゼノウとフランザ。
 アルカトラズ様との軽口も終えて紹介するためにゼノウを呼ぶ。

「お初にお目に掛かります。
 私は精霊使い[水無月宗八みなづきそうはち]に師事する冒険者、ゼノウ=エリウスと申します。
 この度のお目通りに感謝と精霊変質のお手間を取らせてしまう事に謝罪致します」
『無精ウーノ。よろしくおねがいします』

 ゼノウの挨拶硬すぎんか?
 俺が精霊に慣れ過ぎている所為もあるんだろうけど、
 やっぱりこの世界の人間からしてみると精霊ってすごく神聖で出会うことのない存在なんだな。
 浮遊精霊ふゆうせいれいはその辺にウヨウヨ居るけどどっちにしろ普通の人には見えないしね。

 ウーノはうちの四女として再誕した無精王アニマの影響でちゃんと話せるようになっているはずだが、
 どうにも無精どもは個性が無く恐れ知らずなところがあるな。

『儂が闇精を管理する大精霊アルカトラズ。兼任でダンジョンの管理もしておるわ。
 ようこそゼノウ=エリウス、闇精の里へ。
 そして無精ウーノ。いずれはお主の故郷になるかもしれぬ場所だ、気を楽にすると良い』
「『ありがとうございます』」

 揃った声と動作に、ちゃんと繋がっていることが目に見えて安堵する。
 やっぱり正式な精霊使いとしてこいつらは歩き始めていた。
 変質に動き始めたタイミングとしては丁度良かったらしい。

「あとはお任せしてよろしいですか?
 終わり次第ゼノウ達の回収に伺いますので」
『闇精への変質のウーノだけか?
 まだ控えておるそちらの人間は別口かの』
「あちらはシヴァ様に変質をお願いしておりますので」
『では、今からあちらか。シヴァによろしく伝えておいてくれ。
 ウーノ達の事はクロエもムーンネピアも居るでな、任せると良い』

 アルカトラズ様の言葉に振り返った先では、
 陽の下から脱することに成功した闇精2人がイキイキとした表情で浮遊精霊ふゆうせいれい達と戯れている様子が目に入る。
 ゼノウとも知らぬ仲でもないし任せても大丈夫だろう。

「ゼノウ、俺たちは城に向かうからな」
「わかった。フランザとペルクをよろしく頼む」
『ムン!』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

侯爵夫人は子育て要員でした。

シンさん
ファンタジー
継母にいじめられる伯爵令嬢ルーナは、初恋のトーマ・ラッセンにプロポーズされて結婚した。 楽しい暮らしがまっていると思ったのに、結婚した理由は愛人の妊娠と出産を私でごまかすため。 初恋も一瞬でさめたわ。 まぁ、伯爵邸にいるよりましだし、そのうち離縁すればすむ事だからいいけどね。 離縁するために子育てを頑張る夫人と、その夫との恋愛ストーリー。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...