特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -49話-[瘴気に狂う高貴な樹姫⑧]

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「マリエル、あと少しの辛抱だからな。ニルももうちょっと頑張ってくれ」
〔まぁ、魔力はクーちゃんから供給されてますし問題はありませんけど、
 自分でも心配になるくらいに使ってますからフロスト・ドラゴンエルレイニアの残量は確認しておいてくださいね〕
『(ニルはいっぱい演奏出来て楽しいですわー!♪)』

 うちの娘は元気そうだ。
 キュクレウスとの戦闘開始から長らく演奏しているはずなのに、
 ニルなりに楽しそうに遊べているらしい。
 マリエルは多少飽きているっぽい声音だけれど、
 役目を理解しているから気は抜いていない様子だ。

「あいよ。一応倒した後に空から変化は見ておいてくれ」
〔了解です〕

 通話も切れたところでマリエルも気にしていて、
 アインスさんと同行させて戦場から離していた魔力タンクことフロスト・ドラゴンエルレイニアの残量も確認しとくか。
 ってか、どこで寝てんだろ。

「アインスさん、エルはどこに居ますか?」
「エルレイニア様でしたら馬車の中ですよ」
「ありがとうございます」

 アインスさんに指を差された方向へと進んでみれば、
 ギルドの荷物運び兼ギルド員の移動に使用していた馬車はすぐ近くに泊めてあった。
 そして荷台の隙間に器用にハマって『ぐぅ…ぐぅ…』と寝息を立てる水色の大きなトカゲが居やがった。

「ったく、本当に竜ってのは寝てばかりだな。
 おい、エル!エルレイニア!!起きてくれっ!」
『ん、んぐぅ……。不要。我、まだ眠り足りない』
「フリューネも働いているというのに、
 竜の巣を出てから一番堕落したんじゃねぇのかコイツ…。
 起きろ、エル!お前の魔力残高、いや、残量を教えてくれ」

 尚も寝ぼけ眼のエルレイニアに溜息を吐きつつ尻尾を引っ掴んでとりあえず引っ張る。
 コモドオオトカゲ程の体長に縮んでいるから今の俺なら余裕で引き摺り下ろせた。

「えい」
『ぐっ!?な、何事!我、どうなっている!?』

 とりあえず目を覚ますには本来顔を洗ったりすべきなのだろうが、
 残念なことに時間もないし知りたいことは一言二言喋らせれば終わる内容だ。
 軽い運動をすれば目も覚める。
 だからヨガを思い出しながらデカいトカゲをアザラシのポーズにしてみたら一発で目を覚ました。
 ヨガってすごい!

「さっさと吐け」
宗八そうはち!?何を!?』
「魔力残量だよ。あくしろ」
『ぐげげげ!3割!3割だ!』

 アザラシからトカゲのポーズに戻ったエルレイニアの口の中を確認したが魔石は含んだままだった。
 これで残量3割か。
 マリエル達の負担が一番だろうが、
 色んなところで魔力供給は行われていただけにそれも仕方ない結果かもしれない。

 いやいや、冷静になって考えろ。
 たった3割と俺は今考えたけど、核を壊す時間さえ確保出来ればいいんだから、
 3割も短い間に注げると考えれば現地で無茶させられるんじゃないか?
 いや、させよう!
 それでも普通に考えれば竜の魔力3割を使い切る方が難しいはず。

「核の破壊後に何かあってもなんとかなりそうだな。
 ありがとう、そしておやすみ」
『何がなにやら……Zzzzzz』

 キュクレウス=ヌイを倒した後に何も無いに越したことはないがな。
 最悪、ブルー・ドラゴンフリューネを第2の魔力タンクにすればいいか。

『お父様、アインスさんの報告から10分経過しました』
「あ、終わったか。
 じゃあクレアを連れて行く様な危険は冒さなくて良くなったな」
『勇者のメンタルはボドボドかもしれないよ~?
 すぐに動くこと出来るのかなぁ~??』
「やらせるしかないさ、全部終わらせる為の最大のチャンスなんだから。
 ここでメリオが動かずに失敗したら外から幹を削るか捕らわれた精霊が死ぬかの2択だぞ。絶対嫌だ」

 何が何でも動かして見せる!
 非人道的と罵られてもキュクレウス=ヌイを倒せば戦闘も終わって、
 これ以上死傷者が出る事も無くなるんだから。
 と、思いつつ人死にへの意識が強くなって目前に迫るといつも覚悟が足りないんだよなぁ。
 あまりアルシェに頼り切りにならない男になりたいわ。

 その後のダンジョンコア確保の報告までの間に、
 俺は再度キュクレウス=ヌイの腹元へ赴きゲートを設置して城内へ突入の準備を整えた。


 * * * * *
「ダンジョンコアの出現確認!勇者様の勝利です!」
「「「おぉ~!!」」」

 メリオの状況を[揺蕩う唄ウィルフラタ]で盗聴しているユレイアルド神聖教国のギルマスであるプレイグ氏からアインスさんに連絡があったらしい。
 響くアインスさんの声に続いて喜色の浮かぶ声がギルド員から上がる。
 俺の声を上げるほどではないが緊張をしていたのか無意識にホッと息を吐いていた。

「出現だけですか? まだ破壊はしていないんですか?」
「壊しては…いないですね。
 勇者様のお仲間であるヒューゴ様とフェリシア様を…その……、
 倒して戦闘は終わらせた様なのですが、現在は……」

 言葉にし辛そうなアインスさんの声音からも予想は簡単に立った。
 つまり、後悔やら悲しみでグチャグチャになった精神の赴くまま泣き叫んでいるってところか。
 まぁメリオからしてみれば約1年間苦楽を共にしてきた大事な大事な身内なんだ。
 俺からみれば死んだ2名は平凡な冒険者でプレイヤースキルの向上意欲の低い民だったわけで、
 遅かれ早かれこうなることは予定通りだったわけで。
 今も外は戦闘中なわけで。

 個人的には人道的に泣かせてやりたいとは思うわけで。
 だけど、おそらく正解は非人道的に戦場で泣くんじゃねぇ!っていうのが正しいと思うわけよ。

「最後まで非情になり切れないのはお兄さんらしいと思いますよ。
 そういう判断は私たちの役目でしょう? ラフィート殿下、よろしいですよね?」
「もちろんだともアルカンシェ姫。
 メリオの仲間が亡くなった事は個人的にも惜しく思うが、
 怪我人や死傷者が出る状況はキュクレウス=ヌイを倒すまで続くのだ。
 アインスよ、プレイグへ我が名において命ずる!勇者メリオに我らが意思を伝えるのだ!」
「かしこまりました、両殿下」

 優しくも厳しい妹分の笑顔とラフィート王子の王族らしい非情な判断を受けて、
 俺の中の良心の呵責と非情な判断を口に出来なかった情けなさなどのストレスが胃に特大ダメージを与える。
 しかし、こんな時こそアルシェは何故か嬉しそうな顔をするときが多い気がするな。
 うちの妹ドSなの?

「何か失礼な事を考えている気配がしますよ、お兄さん。
 私は普段仲間としてお兄さんの戦闘をサポートできることも嬉しいですが、
 必要な決断をお兄さんの代わりに出来ることも嬉しいんですよ」
「お前は愛されているという事だ。
 支え合う事は今後も必要な事なのだから早めに慣れるべきだぞ」
「ありがたい言葉です。頑張ります」

 俺もアルシェに決断を肩代わりしてもらって、
 尊敬やら愛おしさやら申し訳なさが膨れ上がって抱きしめたくて仕方ないよ。
 でも人前だし絶対しないけどな。
 アスペラルダに帰ったらアルシェから寄って来るしその時にいっぱい感謝のハグをしよう。

 ラフィート王子にも俺が精神的未熟な所を以前目撃されている所為で揶揄からかわれる始末。
 王族として成長した姿を結果として見ているから、
 鼻で笑う王子の態度も不思議とイラつきはしない。

「水無月様、準備を!」
「はいはい!全員集合!」

 思ったよりもすぐにメリオが悲しみを押し殺したらしい。
 現実的なプレイグ氏とメリオは教国で顔を何度も合わせているだろうし、
 上手く話を合わせて誘導してくれた事に感謝しつつ直前までリラックスしていた突入メンバーを呼び寄せる。

「流れを改めて説明するぞ。
 まずメンバーは、俺とアルシェ、精霊はアクア・ノイ・クー。
 フランザとトワイン、精霊はペルク・セルレイン。
 セリア先生に防衛を、エゥグーリアに破壊を、フリューネに冷却を担当してもらう。
 魔力に関しては魔力タンクエルレイニアに3割残っているから消費は気にせず最大威力を目指すように」

「ゲートを抜けたら城門前に出るけど、
 わざわざ出入口をノロノロ通るわけにも行かないからクーに空間を繋げてもらう。
 壁にしか見えなくても全速力で進むように」
『直接上の階でも距離的には繋げられますが、
 現在位置に混乱してお役目に影響が出ては元も子もないので大扉だけを抜ける予定です』

「フランザとトワイン、それにセリア先生は移動を自力でやりますか?」
『私は[ハイソニック]を使っても水無月みなづき君たちに付いて行く事は難しいですわ。
 出来れば何方かに運んでもらうべきと考えていますわ』
「私達もパートナーが無精なので付いて行けません」
「出力不足かと」

 うんうん、セリア先生はともかく2人も現実が見えているな。

「俺が2人を、エゥグーリアがセリア先生をお願いします」
「承知」

 フリューネはどうせ俺の背中にくっ付いて移動するだろうが、
 胸元は空いているので三半規管の強い方を抱いて、弱い方はノイの[守護者の腕マイストガーディアム]に乗せて行けばいいだろう。
 最初は影に入れておこうかとも考えたが、
 多少でももたつく事を考慮してそのまま連れて行く方法を採用した。

「あとは謁見の間に着いたら勇者に浄化を、ミリエステには火力隊に加わってもらい、
 マクラインとクライヴ氏は影に避難させる。
 中にはメリーを待機させているから必要な処置はすべて丸投げで良い。
 一応、死体も回収予定だ。改めて何か不明点はあるか?」

 各々の顔を見渡すが既に大まかな流れについては事前に伝えていたこともあり、
 直前に確認したい新しい疑問は誰も思いつかなったようだ。
 魔法の発動もして全員が駆け出す準備を整え、
 あとはゲートを開くのみ。

 スゥ……はぁ……スゥ……はぁ……。
 深呼吸をしながら少しの間待てば。

「ダンジョンコア、破壊しました!」
「《アンロック!》」
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