特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -43話-[≪ランク8ダンジョン≫フォレストトーレ王城④]

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 フォレストトーレ王の異形をなんと表せば後の報告で伝わりやすいだろうか?
 眼前で大立ち回りをしている3mはある異形の化け物の攻撃は単純ながら威力が桁違いに高く、
 マクラインの精霊に[《硬化スチール]を複数回掛けてもらってやっと盾受けが出来るレベルだ。
 そのほとんどはマクラインが受けてくれているので被害らしい被害は何も受けていないにも拘らず未だ倒せない理由はその再生力だった。

「ぐっ!おおおおおおおおおおおお!!」
「はあああああああああ!!」

 大盾で受けたマクラインが受け持つ右手の殴打。
 通常ならこのタイミングで攻撃すればダメージを与えられる絶好の機会に、俺は左手を相手に本体に近づけていなかった。
 培養液に浸されている状態の王様は確かに人の姿であったのに、
 戦闘が開始してからは時間経過とともに腕が甲殻を持つ生物のように固く太く巨大な物へと変化していった。
 その過程にはもちろんその挙動に耐えられるように肉体自体も急激な速度で進化していき、
 今や王であった面影などどこにも見受けられない立派な怪物になられていらっしゃる。

「瘴気が回復してきている…。少し任せるぞ!」
「あぁ!任せてくれ!」

 現在王様と戦っているメンバーは俺、マクライン、ミリエステの3名。
 フェリシアは先の戦闘で受けたMPダメージから意識を取り戻したにも関わらず戦闘に
 参加もせずに柱の陰に隠れて何もしていない。
 恐怖はわかる。俺だって1度臨死体験をしているわけだし。
 それでも仲間が戦っているのに自分だけ逃げるとは思いもしなかった。

「フェリシア!いい加減戻ってください!勇者の仲間として恥ずかしくないのですかっ!!」
「いいい、嫌よっ!もう…もう嫌っ!!ミリエステには分からないでしょうっ!?あの恐怖はっ!!」
「知らないわよっ!!早く解放されたかったら少しは戦力になって頂戴っ!」
「………」

 俺たち前衛は流石に王様相手に何度も声を掛けられる余裕はない。
 だからこそミリエステが声を必死に掛け続けているけれどフェリシアはその要求に一切拒否を決め込み最終的に黙り込んでしまった。
 そして、弓使いヒューゴは…。
 フェリシアとは別のところで俺たちの戦う様子を眺めている。
 何故か?
 彼だって必死に弦を引き王様に矢を放ちマクラインを支援していたが、
 効いていた様に見えたのは最初だけで以降異形化が進むほどに彼の矢は弾かれ意味を為さなくなったそうだ。
 ならばと急所である目などを狙い始めるも瘴気の鎧で守られる王様にはこれも一切効果を出さず、
 王様の相手は諦め魔神族への支援を始めたところ、これも功が実らないばかりかクライヴさんから邪魔だと怒鳴られる始末。

「《ブレイズ・リュミエール!!》」
「《ヴァーンレイド》5連!」

 そして、折れたのだ。
 この大一番に支援で役に立てずマクラインの様に盾受けも出来ない。
 おそらくは水無月みなづきさんの今までの辛辣な当たりが作った傷を今の状況が抉ったのだろう。
 とはいえ、ボス戦中に折れるのも逃げるのも勘弁してほしいけど……。

「左足から! 《輝動!》」
「合わせは任せるっ!」

 斬ッ!
 俺の魔法は瘴気の鎧を祓って仰け反りもその威力によって起こさせる。
 直後に放たれたミリエステの火球が王様の視界を塞ぎ、俺は短く指示を残して王様の背後へ一瞬で移動した結果、
 異形になった王様の左足が挟撃によって肉体から斬り離された。

『《サンクチュアリ!》』
「《ブレイズレイド》3連!」

 断面から流れた黒い血液の臭いに反応したエクスは王様に向けて聖域を発動させた。
 彼女の睨んだ通りそれは瘴気に染まり王様の肉体を循環する穢れの原因らしい。
 ジュゥゥゥ…!と浄化されるのと同時にミリエステは斬り飛ばされた異形の左足を完全に焼き尽くす。
 こちらは、もう、人の臭いではなかった。

 片足を失いバランスを崩した王様は……、
 倒れることもなく悠々とその場で、進化を選択した。

「Vorrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!」
「《セイクリッドセイバー!》」
『《セイクリッド・エクスプロージョン!》』

 ひと吠えした異形が脈動を始めて嫌な気配が膨れていく中、
 せめてもう片方の足も奪って機動力を削いでおかないと面倒が過ぎそうだ。
 隙だらけの背後から魔力刃を展開したエクスカリバーで右足を刺し貫くとエクスもタイミング良く内側からの爆発で支援してくれ、右足は無事に宙を舞い最後にはミリエステに焼却処分されこの世から消え去った。

 ただ、その後はむせ返る瘴気の渦が王様の周囲を漂い容易に近づくことが出来なかったので、
 俺たち3人と1人は唯々、進化の終わりを見つめることしか出来なかった。
 と思っていた時期が俺にもありました。

「メリオ!瘴気が成長に影響を与えているのは明らかでしょう!?
 エクスカリバーを放ってはどうです?」
「……確かに!」

 異形を挟んだ向こうから届くミリエステの声。
 そうだよね、瘴気がこれだけ漏れ出している状況で棒立ちは有り得ないよね。

『私とした事が…。本来は私が指摘すべきなのに…』
「こういう時の仲間だよ!消滅させる気で撃つよ!」


 すぅぅぅ…っ!
『エクス!』「カリバアアアアアアアアアアアーーー!!!!」


 宣言通りにMPを絞る様にエクスカリバーに注ぎ込み、
 剣身の輝きも先に使用していた時よりも神々しさを増して振り下ろされた瞬間、
 光の奔流はボスフロアを覆いつくし視界は光の世界となった。

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!」
「キヒッ…遊び過ぎたかしら~?」
「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
 ブチャッ!

 何も見えない世界の中、三つの声が聞こえてきた。
 ひとつは目の前の異形の王様。
 王様を構成するすべてがあの培養液の所為で瘴気に侵され、
 血も、肉も、骨もすべて…全てが片っ端から浄化されていく。
 それが苦痛を伴うのかこちらにも伝わる叫びをあげながらも大きく変異した肉体は徐々に縮み、
 やがては瘴気が抜けきった後に残るのは、人の形を辛うじて保つ死体であった。

 そして2つ目は隷霊れいれいのマグニ。
 さらに3つ目は相対しているアルバード=クライヴさん。
 その後に薄っすら聞こえた耳馴染みの無い音の正体は光が収まるまで理解出来なかったけど、
 流石に正体を目の当たりにすると意識が遠退きかけたのは許してほしい。

「終わった…、と考えて良いのだろうか?」
「エクス、どうかな……?」

 マクライン、ミリエステと3人で背中合わせとなって周囲を探る俺たちは揃って[ある懸念]を水無月みなづきさんから聞かされていた。
 それは魔神族の名前に由来した懸念であり、もしかしたら程度の話であっても未知の敵なら警戒すべき懸念でもあった。

『少なくとも精霊の気配はありません。
 私の知らない存在でさらに高次元生物だった場合は気配を察せなくとも仕方ないかもしれませんが…。
 ただ、ダンジョン化が解除されない状況的にはまだ油断はしない方がいいでしょう』

 隷霊れいれいのマグニという名前と今までの人間を操ったりする手段から、
 精霊に近い精神生命体ではないかという仮説を水無月みなづきさんは立てていた。
 魂を分けて複数の人に宿らせて行動や思考を誘導してアスペラルダに入ろうとしたり、
 死んでも別の死体があれば復活出来たり……。
 仮説を聞くだけでも面倒な事このうえ無いし、先の王子と王様を見れば強ち間違った内容でもない気がする。

「位置は?」
「感じられないそうです。クライヴさんこそ経験から何かを感じ取れたりはしませんか?」
「精霊関係の経験は今回が人生初めてだ。
 所詮普通の冒険者に無茶を言うんじゃねぇよ」

 普通の冒険者も貴方ほど強くなればと思う活躍でしたが?
 瘴気も晴れず敵の気配もなくダンジョンコアも出てこない状況に途方にくれる俺たちだったが、
 戦況が動くのは意外な所から始まっていた。

『ん? メリオ、ヒューゴとフェリシアから魔力が漏れていますよ』
「魔力?どういう……」

 エクスの声は全員が聞いていた為自然と視線が二人へ集中するも、
 全員が全員見慣れないその光景に言葉を失くす。

「あの何やらキラキラしているのが魔力ですか?」
「そう…だけど、本来は体から魔力だけを抜くなんて事しないわよ…」

 魔力とは本来魔法が還元される際に自然に溶け込むまでのわずかな時間に薄っすら見える程度のもの。
 そもそも使用した属性が残る魔力が無色透明という事も異常だぞ…。
 あぁいう魔力を抜くなんて芸当は水無月みなづきさんとアルカンシェ姫殿下ひめでんかくらいしかやる意味もなければやる技術もないはずなのに、魔法使いのフェリシアはともかく弓使いのヒューゴが行っているのはどういう事だ?

 警戒しつつも何が起きているかもわからぬまま、やがて彼らの魔力排出が終了した。

「………」

 顔を俯かせたままで棒立ちの二人に声を掛ける勇気がなく、
 口をパクパク動かしても喉の奥からは音が発せられることは無い。
 最悪のイメージしか先ほどから浮かばない。
 いつもの雰囲気と全く違うのも最悪を加速させる…。

「キヒッ」

 ミリエステは辛い現実に目をそらすように強く瞳を閉じた。
 声はよく知っている男性のものだった。

「糞雑魚だわぁ~」

 マクラインは現実に負けない様に奥歯を強く嚙み締めた。
 今度は良く知る女性の声だ。

「使い捨てだし拾い者だからこんなでも無いよりマシかしらぁ~?」

 クライヴさんは観察するような瞳に口元には何故か笑みを浮かべている。
 俺の今の心境ってどうなんだろうか…。
 声が聞こえた瞬間にミリエステとマクラインは息を呑み、
 それぞれが直面した現実に向き合ったり逃げたりする中。
 俺は存外冷静に仲間の体を乗っ取った感想を言い合う魔神族の姿を見つめていた。

『(私とシンクロしている事も影響しているのでしょう。
 それにメリオはきとんと精霊使いの話を受け止めて今日を迎えたことも大きいですよ)』

 エクスの誉め言葉も今は響かない。
 次の感情が静かに起き上がって剣の切っ先が二人へ向かう。

「ヒューゴとフェリシアの体は返してもらう」
「キヒヒヒヒヒ!ヒャハハハハハハハハハハ!!」
「やっぱりラストバトルが一番期待が出来るわぁ~~~~!キヒャハハハハハ!!」
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