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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -42話-[≪ランク8ダンジョン≫フォレストトーレ王城③]

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 ダンジョンランクが8という事は、
 初回クリアの為の特別製でランクが一つ上のボスが用意されているはず。
 魔神族の女の言葉からも今回の王城ダンジョンが意図されて発生したダンジョンであり、
 ボスも彼女たちの手の中にあるのだろうと予想するのは簡単だった。

 今目の前に居る敵は3人。
 誰がその役割を担っているのかは全くわからないが、
 誰も彼もが瘴気の影響を受けている事は明白。
 だったら、浄化も容易い俺が確実に数を減らす間の時間を稼いでもらえれば対処は可能だ!

「《ヘリオン・レーザー!》」

 初手は全体攻撃で牽制しつつ虚を付ければと願って戦いは始まった。
 マクラインの相手する王様は既に人の姿ではなかったのと性質的に瘴気モンスターに準拠しているらしく、
 避けるや防御するという動きも見せずに目の前のマクラインに集中していたので全弾命中した。

 大ボスの魔神族は警戒してほとんど避けたうえで敢えて数発片腕で受け、
「キヒヒ!これは期待外れかしらぁ~?」と余裕そうな声を楽しそうにあげている。
 尚、浄化がされたのかもわからない程度に変化が見えない始末。

 驚いたのは弟王子。
 彼が一番動きが活発であり幾重かの光の光線が向かったのにすべてを斬り払う。
 さらに明確な敵意が俺に集中したことで彼もこちらへと駆け出してきた。
 ガィィン!ギャィィィン!
 兄王子のラフィート様が俺たちの旅に同行し始めた時のレベルは30程度で、
 分かれた時点で70は超えていたけど、冒険をしていない弟王子がこの膂力を出せるものなのか?

「フォレストトーレ第二王子、アーノルド様とお見受けします!
 私の声は届いておりますかっ!?」

 ゴッ!ギギギギ…ギャィィィン!
 尚も振るわれる大剣の重さはアナザー・ワンのSTRに匹敵するし、
 速さも負けず劣らずの剣速で放たれる切り返しの逆袈裟斬りを飛び退いて回避した。

『声、届いているようには見えませんね』
「予定通り浄化をして呼びかけは続けるよ。
 フェリシア!足止めを丁寧にお願い!」
「任せなさい!《アイシクルエッジ!》」

 数度呼び掛けを繰り返してみたけど、
 アーノルド様は何も反応を示さない。
 先の予想も水無月みなづきさんに聞いてはいるものの希望は残されていると信じて次の手に移る。
 数合の後に甘い一撃が来た瞬間に盾でパリィを行いフェリシアへの指示で足止めをしてもらった。

「《ライト・エクスカリバー!》」

 一息に距離を広げて彼の纏う瘴気をすべて祓う一撃を放つ!
 周囲の自然魔力の強制収集が無い分、
 自分達の魔力を消費するだけの威力しかない代わりに即放てるマイナーチェンジVer.の奔流が王子を飲み込んだ。

「アーノルド王子!私の声が聞こえていますか!
 返事を!返事をお願いします!」
「………」

 目に見える分の瘴気が祓われ床に倒れる王子に二度目の声掛けを行う。
 反応を…、せめて人の意識が残っているのか完全にモンスター化しているのか……。
 判断材料が少しでも欲しい俺の願いとは裏腹に王子は今回も人らしい意思を示すことはなかった。
 そして驚くことに起き上がった王子の内から瘴気が溢れだして全身を再び纏ったうえ、
 両手剣にも瘴気は伝播して魔剣へと変貌してしまった。

『魔剣ではなくとも注意は必要ですよっ!』
「魔剣ってこの世界にあるの!?」
『デバフ効果のある剣は魔剣と言えます。
 毒付与、麻痺付与、HP吸収、MP吸収などはダンジョンから出る魔剣です』

 アサシンダガーとかブラッドソードとかがこの世界の魔剣に相当するのか…。
 でも、アレはまた別物の様な気がするけど…。どちらかと言えば[本物]に見える。
 アーノルド王子はその魔剣を大きく振り上げる動作を行うと、
 背に回った大剣から迫力が急激に増していく。

『魔力…いえ!瘴気の気配が膨れ上がっています!』
「どんな攻撃かわからない!フェリシア!回避優先!」
「《アイシクルライド!》」

 普通の魔法なら発動後でも回避したり防御したり出来る自信はある。
 しかし、ボス戦だと特殊攻撃はもはや当然の如く存在する為、
 初見の攻撃をどのように捌けるかが攻略のカギとなる。


「《くぁwせdrftgyふじこlp!!》」


 聞き取れない詠唱と共に黒紫こくしに染まる大剣が振り下ろされた。
 対処に身構える俺たちを尻目に振り下ろされたにも関わらず何も起きず、大剣に込められていた瘴気も失われていた。

「……何m」
「ぐがっ!」

 気を緩めることもなく慎重に自分の周りを確認していた矢先に響いた短い叫び声。
 俺の背から届いた声、つまりは…フェリシア!!
 振り返った先で見た光景は、床から生える巨大な黒紫こくしの剣身がフェリシアを背から胸元を刺し貫いている光景だった。
 既に意識が無いのか悲鳴後はピクリとも動かずに巨剣に持ち上げられたまま宙を浮くフェリシアは、
 巨剣の消失により床に投げ出された。

「《輝動》! フェリシア!」
「メリオ、お前は戻れ!俺が壁に寄せる!」
「ヒューゴ…。頼む…」

 全員先の光景を見ていたらしい。
 ヒューゴはいち早くフェリシアの元に駆け始めていたのか、
 俺の移動魔法とほぼ同時にフェリシアの元へと辿り着いていた。
 とりあえず生存確認をするだけに留め後のことはヒューゴに頼み俺はアーノルド王子の前に戻ってきた。

「まさかMPダメージを魔法使いに与えて戦闘不能にするなんて……」
『絡め手ではありますが1撃で1人が確実に落ちる良い手です』
「敵を褒めないでよ…。戦闘開始して一瞬で劣勢なんだから」

 フェリシアは死んでいなかった。
 HPへのダメージは一切なく、代わりにMPが0になったが為に意識を失っただけだった。
 蘇生のタイムリミットは10分と決まっているからある意味ホッとした事実もあるが、
 こんなに簡単に仲間が落ちると思っていなかっただけに焦りは確実に加算されている。

「《セイクリッドセイバー!》 はああああああッ!!」

 ともかく同じ攻撃は防がなければ、
 これ以上MP全損で戦闘不能者を増やすわけにはいかない!
 大剣を直接盾で受けるにはステータスが足りていない為、
 回避かパリィで攻撃を受けないようにしつつ光属性の魔力刃を付与したエクスカリバーで攻撃を加えていく。

「ぐぅっ!」
『《ヘリオン・レーザー!》』
「《光翼斬こうよくざん!!》」

 普段は盾での防御をメインに攻撃を受け、
 隙が出来れば攻撃を行う安全な戦い方をしていた俺にとってアーノルド王子の強攻撃はキツかった。盾を構える腕が威力に負けて胸を打つ。
 生まれた隙はエクスが機転を利かせて全弾を王子に撃ち込んでくれたおかげで距離が開いた。

「《輝動!》」

 追撃に放った光の刃は振り下ろされた大剣に潰されたが、
 ひと息入れて態勢を整えられた俺は再び前に出て王子を斬り付ける。

「《ブレイズ・リュミエール!!》」

 宙を舞う片足。
 光の速度で移動する魔法中に斬り飛ばした王子の片足が床に着地する前に浄化しつつ焼き尽くす超小型の太陽を撃ち放ち滅却した。
 これでアニメでよくある[くっつく]事で戦線復帰はなくなっただろう。
 もう人間とは思っていないからこそ使えた酷い戦法だ。

 人とも思えぬ叫び声、
 浄化が行われた部位が斬り飛ばせたことで浮遊精霊ふゆうせいれいも付いていないなら[人]とは言えない。
 王子の足から夥しい血が床に広がっていく。
 しかし、人間の鮮やかな血ではなくドス黒い得体の知れない血色なので、
 俺の中にあった人を斬っているという意識は完全に払拭ふっしょく出来た。

 水無月みなづきさんなら首を簡単に跳ね飛ばして終わらせる姿が想像出来るが、
 俺にはそこまでこの世界に慣れきっていないからとりあえず心臓を背中から刺し貫き肩を蹴って床に王子を転がした。

『《セイクリッド・エクスプロージョン!!》』

 エクスの詠唱で魔力刃が大爆発を起こしアーノルド王子を肉体の内から焼き焦がす。
 光が晴れた足元には黒焦げになった若者の死体が残るだけとなり、
 発せられる臭いに上がってくる嘔吐感を無理やり飲み込み続けて化け物へと変貌した王様の駆け出す。

「スイッチ!」
「応!」
「《光翼斬こうよくざん!》」

 駆けこんだタイミングが丁度マクラインが大盾でパリィを決めて異形の腕が上がったところだったので声を掛けるとすぐ対応してくれる。
 狙った腕の付け根に光の斬撃は命中して瘴気は弾け飛んだ。

「《輝動!》」
『ダメです!!』

 腕を斬り飛ばそうと上段の構えで踏み切った俺の行動にエクスの注意が飛んできた。
 集中力が増しているのか言葉の意味を察して片手に装備する中盾を対象に向けて構えると凄まじい衝撃が腕だけでなく全身に伝わり壁際まで吹き飛ばされた。

「がっ!」

 マクラインは良くこんな威力の攻撃を防ぎ耐えていたなと感心するレベルだ。
 腕全体は痺れて腕が当たった胸の骨が折れているのがわかる。
 あの一撃が浮遊精霊ふゆうせいれいの鎧を抜けるって事は、直接当たればそのまま死は確実だろう。

『応急処置ですが何もしないよりはマシでしょう。 《リカバリー!》《グレーターヒール!》』

 治療系の魔法が不得意な位階であるエクスが腕の痺れを回復してくれた。
 肋骨の骨折は現状治癒が出来ないから忘れるようにして戦わなければならない。

「タイミングは良かったけど突っ込み過ぎだ! タイラス、《硬化スチール!!》」
「———っ!ごめんっ! 《エンハンスセイント!》」

 胸の軽い軋みで息も忘れるほどの痛みが広がる中、
 再び前に出てタンクとして耐え始めたマクラインからは苦言をいただくが俺の意識は7割痛みに持っていかれて返事も疎かになる。
 それでも互いにバフを掛けて戦線を維持できたのは仲間を信頼しているからこそだった。

「《ブレイズダンス!》 メリオ、無事なの?」
「無事とは言えないけど大丈夫!」

 ミリエステに返事をしつつ一旦落ち着いて周囲を見回す。
 不気味な雰囲気と足元を漂う瘴気に変化はなくとも敵の数が減ったことに変わりはない。
 優勢なのは俺たちだと思いたいけれど、マクライン達は守りに集中していてダメージはあまり与えていないし、
 クライヴさんと戦う魔神族は攻撃を受けて壁に床に何度も叩きつけられても笑うのを止めない。
 あんなの気味が悪くていつまでも戦って居たくはないから、クライヴさんの為にも早めに王様を倒さないとな……。
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