特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -40話-[≪ランク8ダンジョン≫フォレストトーレ王城①]

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「階段発見っ!」
「手前で安全確保!」
「俺が先に上がるぞ!」
「頼む!」

 ダンジョン化した王城に突入してからどのくらい経っただろうか…。
 ようやく6階へ上る階段を見つけた俺たちはフォーメンションを保ちつつ走り寄った。

「敵影無し!ミリエステ!」
「《フレアヴォム!!》」

 ダンジョンのモンスターが階層を移動する事は、
 ダンジョンのモンスター分布により発生する可能性がある。
 1~3階までは癖の無いモンスターが多く、
 階層移動も時々発生していたけど、これは同じモンスターが出現するからこその仕様だ。

 もし、まだまだダンジョン化の影響で王城が拡張していた場合は、
 3階層ごとに敵が変わることも考えないといけない。
 次は6階。敵が追ってくる事を考慮して魔法で牽制しつつ全員で移動を再開する。

「長い廊下だな……」
「継続して俺が前衛でいいか?」
「お願いします」

 フォーメーションの前衛にはレベルも高く戦闘経験も豊富なクラン[サモン・ザ・ヒーロー]クランリーダー、クライヴ=アルバードさん。大きな体躯から放たれる素早い動きに鋭い打撃。これらを駆使してずっと俺たち勇者PTを牽引けんいんしてくださっている。
 2番手に俺、勇者プルメリオ=ブラトコビッチ。
 続いて弓使いヒューゴ、魔法使いミリエステ。
 最後に騎士マクラインが後方を守り、そのサポートに魔法使いフェリシア。
 水無月さんやクライヴさんからのアドバイスもあって、
 炎魔法を好むミリエステと氷魔法を好むフェリシアで運用を完全に分けて今は運用している。

「敵接近!シャドーナイト5!シャドーソルジャー8!」
「《光翼斬こうよくざん!》」
「左のHPを削る!」
「《ヴァーンレイド!》 フォデール!力を貸して!《ブレイズレイド!》」

 クライヴさんの声を聞いて勇者の技を撃ち放つ。
 このダンジョン内は瘴気が常に漂っている関係で視界が非常に悪く魔法と弓の命中率が下がってしまう。
 晴れた視界を確保したヒューゴがクライヴさんのサポートをすぐに開始して、
 ミリエステも俺が接敵する前にHPを削るサポートをしてくれる。
 さらに契約精霊との仲は良好の様で水無月みなづきさんが創った中級魔法ちゅうきゅうまほうも使いこなしている。

「後方に未確認モンスター!ウルフ型が何かに寄生された見た目で2!」
「《アイシクルバインド!》《アイシクルエッジ!》」

 マクラインとフェリシアが足止めを始めたモンスターは、
 どこかのゲームで見たような犬の頭がくぱぁとエグイ感じに開いた見た目だ。
 片や魔法で足元を凍てつかせ、片や足元から氷の刃がじわじわとHPを削りつつマクラインが体当たりを受け止めてくれている。
 が、体躯が大きい。それに触手も体から生え始めているので少人数で当たるのは不味い気がする。

 判断を下したらすぐに実行に移す。
 ソルジャーにトドメを刺した瞬間にヒューゴも抜いて後ろに下がる。

「エクス!前のモンスターを一掃する! クライヴさん!エクスカリバー行きます!」
『《ライト・エクスカリバー!!》』

 上段から一気に振り下ろしたエクスカリバーから光の奔流が長い通路を飲み込んでいく。
 ヒューゴ、クライヴさんも当然飲み込まれるものの、
 俺が敵と認識していなければダメージはないし瘴気のデバフも解除してしまう。
 前衛組が削っていたHPの上から瘴気の鎧を剥がされ光魔法のダメージを受けたモンスター達はその場に何も残さずに綺麗さっぱり消え失せた。

「カバーに入る!」
「《プラズマレイジス!》」

 前が片付いた様子を確認した弓使いヒューゴはすぐ反転して後方のモンスターへ攻撃を。
 魔法使いミリエステはフェリシアの魔法を殺さないよう炎属性ではなく雷属性の魔法で支援を始めてくれた。

「《ホワイトフリーズ!》」

 触手を警戒した魔法使いフェリシアも早めに1匹は倒すべきと判断してか、
 騎士マクラインと相対していた個体へ全身を凍てつかせる魔法の霧で包み込む。

「 遠距離攻撃に注意しろ! 」

 マクラインが凍てつき動きを止めた個体へ攻撃に転じようと動き始めたその瞬間。
 俺の背後から怒声が飛んだ。
 と、ほぼ同時に声の発生源のクライヴさんが凄まじい速度で追い抜いていく。

『メリオ!奥にいる個体から魔力に似た力が膨れています!』

 魔法の霧と広く展開した触手によって確認し辛かった奥の個体。
 エクスの喚起を合図に全員がその個体を見やれば、確かに裂け分かれた頭部が大きく膨れている。
 まるで何かを吐き出すかのように……。

「VAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 開いた頭部からは瘴気に酷似した黒紫こくしのレーザー。
 流石に守る事が本職のマクラインはカバーに間に合いフェリシアの前で盾を構えることに成功した。
 しかし…。

「ぐあああああああああああああああ!!!」
「きゃああああああああああああああ!!!」

 黒紫こくしのレーザーは盾でも肉体でも防ぐことは叶わず、
 マクラインとフェリシアの体を通り抜け、ダメージを受けた二人は叫びをあげる。
 幸い互いの視界確保のために射線上に他のメンバーは居なかったが、
 モンスターの前で膝をつくマクラインと倒れ込むフェリシアは非常に危ない状況である事は明確だった。

 クライヴはミリエステのカバーに入っており、
 ミリエステも近くに倒れる仲間を巻き込みかねない魔法の使用に躊躇している。
 ヒューゴは弓を撃って牽制はしてくれているが大した効果はなくモンスターは前進しようと前足を浮かべた。

「《セイクリッドセイバー!》」
『《輝動!》』

 握るエクスカリバーはさらに輝く魔力刃を展開し、
 短距離を一気に縮める[輝動]で前足が着地する前に俺たちはモンスターを斬り付けた。

「うおおおおおおおおおおおお!」

 瘴気の鎧は光の魔力刃で斬り裂かれ、
 エクスカリバー本来の切れ味がモンスターの触手を、足を斬り飛ばす。
 最後は頭部をビクビクと震わせるモンスターを真っ二つにしてその場の戦闘はひとまずの決着がついた。

「メリオ、瘴気の浄化をお願い。このままでは回復が出来ないわ」
「《サンクチュアリ!》」
「《グレーターヒール!》」

 倒れる二人を中心に魔法陣が足元に広がる。
 これで漂う瘴気からも守られ浄化も行える。

「フェリシア!おい!目を開けろ!」

 ミリエステが先に回復を行ったのはHPが低い魔法使いのフェリシアだった。
 あれが魔法攻撃なのかははっきり言えば不明だけど、
 かろうじてHP全損にならなかったので多少は装備の魔法抵抗力が効いたと信じたい。

「ヒューゴ、落ち着け。
 そんなに荒っぽくする必要はないだろ?気付け薬を飲ませればいいから」
「あ、あぁ、そうだったな……、悪ぃ」

 普段後方で安全圏に居るフェリシアが倒れる事態がPT結成以来初めてなので、
 ヒューゴも焦ってしまったようだ。
 俺も内心は凄く粗ぶってはいた。しかし、俺が声を荒げてヒューゴと同じことをしても状況が改善するわけじゃない。
 とにかく、仲間が一人動けないというのはこの高ランクダンジョンでは非常に不味い。

 俺はヒューゴに気付け薬を渡してマクラインの元へと向かう。

「マクライン、大丈夫か?」
「あぁ、すまない。フェリシアを守り切れなかった…」
「初見で貫通攻撃が来るとは見抜けるわけがないよ。ともかく二人とも生き残れてよかった」
「おそらくアレは瘴気が元となった攻撃だ。
 魔法に近く、魔法とは別のものだと思った方がいい」
「わかった」

 マクラインの事はひとまず寄り添うミリエステに任せ、
 周辺警戒を行って戦闘後も慌てず必要な事をしてくださっているクライヴさんに話しかけた。

「すみません、油断していました…」
「見えない敵ほど状況を一変させる行動を起こす懸念は念頭に置いておくべきだ。
 今回は仕方が無い部分もあった。
 もしも、アレが俺の方へ来ていれば倒れているのは俺とミリエステの二人だったからな」
「改めて気を引き締めようと思います。
 ただ、休憩も満足に出来ませんし撤退して翌日に、と行かないのは辛いですね」

 普通のダンジョンであればある程度戦って目的を達する、
 もしくは切りの良い所まで進めば[エクソダス]で町に戻り翌日に再トライが出来る。
 しかし、今回の攻略はこの1回でクリアして魔神族の[隷霊れいれいのマグニ]も討伐しなければならない。

 ここまでの辛い連戦を経験したことの無い俺の心は疲弊して愚痴をこぼしてしまう。

「なんだ、勇者様は若いなりにも根性があると思っておったが、そんなもんか…。
 誰か目標にしている人物でも居れば心も奮い立つだろうに…」

 溜息と共に浴びせられる言葉。
 確かに勇者として弱音は吐いてはいけないだろう。
 でも、俺は元の世界でも野蛮な戦いはしたことない軟弱野郎なんだぞ!
 こうやって薄気味悪い瘴気漂う高ランクダンジョンなんかに来る人生なんて想像だにしていなかった奴がここまで戦えている事に感心してほしい!

 ただ、後半の言葉で浮かんだ人物はずっと大事な役目を担い、
 それをしっかりとこなして戦場を牽引してくれている。
 俺と少ししか歳は違わないというのに、産まれる世界が違うだけであそこまでの差が生まれるのか?

「悔しそうな顔だな。その顔が出るならまだやれるだろ?」

 にやりと笑うクライヴさん。
 確かに先ほどまでつかえていた胸が多少持ち直したように思う。
 なるほど、嫉妬は小さな向上心とどこかで聞いたな。
 俺は水無月みなづきさんに嫉妬し、こんなところで負けていられないと考えて気持ちも上向きになったというわけか。

「もうちょっと優しくリードしてくださいよ」
「俺はそういうのは苦手なんだよ。気づけなかったらそれまでの人間だよ」
「スパルタですね……。そろそろ移動を再開しましょう」

 振り返れば全員が立ち上がって装備の点検を行っている。
 最後に持ち上がった4人の顔にあきらめの色はない。

 さあ、ダンジョン攻略を進めようか。
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