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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-
†第12章† -37話-[瘴気に狂う高貴な樹姫①]
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「という予定ですが、お兄さんのご意見はありますか?」
「いや、特に意見は無い。
結局のところは早急に核の発見が重要って事に違いは無いし」
「禍津核戦ですからね」
アルシェやセリア先生、そしてアインスさんが情報を出し合って話し合った結果、
キュクレウス=ヌイへの接近やその他排出される瘴気モンスターの処理作戦が無事に立った訳だが。
それはあくまで[アスペラルダ]の話だ。
集めた情報はアインスさん経由で各国ギルドマスターへと伝わり、
おそらく各国もそれぞれで用意した作戦を決行するだろう。
キュクレウス=ヌイへのアタックは俺&ノイティミル、アルシェ&アクアーリィ、メリー&クーデルカ、ブルー・ドラゴン。
人間3人は核の位置調査が目的となるのだが、
ブルー・ドラゴンは守護の役目を押しつけられたトカゲだかの相手をして貰う為だ。
後方はマリエル&ニルチッイ、ゼノウPT、セーバーPT、風精セリア、水精スィーネ、水精ボジャ様、水精ポシェント、光精テルナローレ、土精ヴィルトゲン、名も無き火精、フロスト・ドラゴン、聖獣タルテューフォ、アスペラルダの精強なる兵士諸君。
主にキュクレウス=トレマーズ(触手)や果実などの細かな瘴気モンスターの相手をする予定だ。
マリエル&ニルに関しては常に上空で演奏を行って、
後方の全員をバフで支援する重要な役目を担っている。
微々たるステータスの上昇とはいえ、
格上のトレマーズ並びに瘴気モンスターを相手取るなら。
少しでも生き残る可能性が増えるならやっておくべきだろう。
「マリエルそろそろ開戦をするぞ。支援を確認したら動き始める」
〔かしこまりました〕
〔了解です!〕
『(支援始めますわよー!!)』
アインスさんとマリエルの声の返事の後にニルが念話で開始を宣言する。
揺蕩う唄から意識を目の前に立つ少女に戻すと、
アルシェも同様に俺の顔を見つめていた。
互いに覚悟は決まっている。
これが最後の戦いだ。
アスペラルダ陣営にニルの演奏が響き渡るのを確認し、2人で拳を合わせて距離を離した。
揃って小さな魔石を取り出し戦闘開始の狼煙の様に、
重なる詠唱がアスペラルダ陣営に響き皆の意識を戦闘へと纏め上げた。
「「《銀世界!》セット:氷竜の魔欠石!!」」
広範囲の大地を凍て付かせる[銀世界]の発動の初手は握り拳から零れる一滴だ。
互いの握り拳は蒼天の輝きと共に魔力が渦巻きそのまま溢れた魔力は握られた魔欠石に吸い込まれていく。
キィンッ!
魔力の奔流が収まり少しすれば魔欠石の中で増幅された魔力が魔欠石の上限いっぱいとなる微かな音を鳴らし、余剰分が溢れてきたのを確認してから上へと放る。
俺は蒼剣を、アルシェは槍剣を構えて再び声は重なった。
「「『『《水竜一閃っ!!》』』」」
両剣より放たれた各一閃は、
兵士達の上空を通過して悠然とそびえる触手頭を切り落としていく。
ドシィン……と幾つも地面に落下する音を置き去りに、
俺とアルシェ、そしてメリーはその場を皆に任せて一閃を追い中央へと一気に駆け抜ける。
〔各国のトレマーズ、動き始めました〕
「お兄さん、突出し過ぎです!
キュクレウスも身体を捻ってますよ!」
アルシェの注意に速度を落とす。
キュクレウスの行動は俺も視認しているからこそ巨樹が頭を振りかぶるシーンには衝撃を受けた。
あの柔軟性ってどういう原理なんだっ!?
「上空から果実が投擲されると予測!
アスペラルダは注意をお願いします!!
メリーは[置換]で後ろに飛ばせっ!」
「かしこまりました」
マリエルからの情報で地上を行くと索敵に引っかかる可能性を考え、
メリーもキュクレウスまでの移動はアルシェと同じくブルー・ドラゴンの背に便乗している。
「フリューネ」
『はいはい、腕にでも捕まってよ』
アルシェに怒られたしメリーとクーの負担を減らす為、
置換範囲を狭める意図でフリューネの腕に捕まり指に脚を掛ける。
「『《空間接続!》』」
直後に振られる巨樹の運動によって、
複数の果実が遠心力を持ってその実を巨樹から切り離されアスペラルダ陣営へと投擲される。
ほとんどはウチだったけど一部はユレイアルド神聖教国に飛んでいく。
アーグエングリンは重歩兵が多い事もあり、
戦闘開始から暴れ始めたトレマーズを相手に様子見に徹している様子。
教国はアナザー・ワンがさっそく数体の首を落としたから果実も投げられたのだろう。
「遠目で予想はしていましたが、
果実の魔物……大きいですね…」
俺達はクー達の魔法のおかげで目の前まで来た魔物は、
空間のショートカットで後方に飛ばされていく。
その大きさは大型トラックくらいには巨大生物であった。
果実各々が俺達の目の前まで来ると横から手足が6~8本生えて、
口と思わしき部分が割けると裏側に小さなトゲがビッシリと揃った凶悪な見た目に変化している。
まぁ、間抜けにも臨戦態勢を取った直後に目の前から消えて行くんだがな。
『守護竜が見えたよ。アレの相手をすればいいんだよね?』
「先に一発ブチ込んでから散開な。この辺で良いか…」
巨樹の周りにトレマーズとは違う細い触手が幾本も地面から生えてきた。
先兵の役割のトレマーズと違い、
あれは手足の様に自在に操れる可能性が高いかな。使い勝手良さそうだし。
「とりあえず、キュクレウス=ヌイ本体に予定通りな!」
「了解!」
『あいあ~い!』
『いつでもいいよ』
スゥゥゥゥゥ~~~~ッ!
俺とアルシェ、フリューネが胸一杯に息を吸い込み、
指で輪っかを作った先には魔法陣が浮かび上がる。
「「『《凍河の息吹!!》』」」
『《―――――っ!!》』
普通の魔物相手だと確実にオーバーキルになるレベルの息吹が3つ。
それぞれがキュクレウス=ヌイの全身を縦横無尽に横断し、
投擲前の果実は凍て付き重さで落下。
枝葉も凍て付いた後に吹き荒ぶ吹雪で端々は砕け散り、
丈夫な外皮も満遍なく凍て付かせていく。
しかし、フリューネを加えての息吹にも関わらず、
それ以上の成果は目に見える形では確認は出来なかった。
「これで多少でも動きが鈍ればいいですが……」
「接近するまでの妨害になれば良い。メリー行くぞ!」
「はい、ご主人様」
「(お前らもシンクロ頼むわ)」
『はい!(かしこまりですわー!)』
等倍ダメージにしか成らない水氷属性の攻撃だから、
足止めもあまり時間を稼げないかも知れない。
フリューネの腕から背に移動しメリーに声を掛けると、
すぐに側へ移動してきた。
娘達にも念話で合図を送って次々とシンクロが発動する。
バシュンッ!バシュンッ!バシュンッ!
この場に居るノイとアクアとクーに続いて、
フラム・ベル・ニルも合流してきた。
「お前らも気をつけて行けよ」
「お兄さんとメリーも」
『あれ?僕には無いの?』
「ドラゴンモドキは片手間だろ?何か気づいたらすぐ知らせてくれ」
リクエストに答えてフリューネに声だけを掛けて、
返事は待たずに飛び降りる。
メリーは凍らせて動きを制限した方面へ、
俺は凍っておらず動きの活発な方面へ降下を開始。
アルシェは空飛ぶアイシクルライド、[氷駆円舞]でさらに上昇して行きキュクレウス=ヌイの真上を目指し、
ブルー・ドラゴンは全員が離れたのを確認してから力強く羽ばたき守護竜ドレイクへと向かっていった。
* * * * *
「おー、樹皮に何か引っ付いてるな」
落下中でも観察は怠らない。
グランハイリアより小柄と言えど巨樹は巨樹。
馬鹿デカイ樹皮には妙な瘤と枝とも付かない棒みたいなのがいくつも生えている。
その上からもツタが鎖帷子の如く覆っていて普通に燃やすだけでは倒し切れそうに無い。
「(ニル、脚をくれ)」
『(発動だけしますから制御は勝手にしてくださいましー!)』
今の俺は生身に武器だけを精霊に用意させているだけの状態だ。
何故なら属性相性が最悪なノイを纏えばその分威力半減ダメージ倍増だからだ。
『(《翠雷脚甲!》)』
ニルの詠唱により、
周囲の風が俺の右脚へと急激に収束をしつつニルの魔力光が風を脚甲の形へ整えあげる。
完成したのは飛ぶ能力を消した機能限定版脚甲。
「ふんっ!」
いつの間にか瘤の外殻が花開き、
中央に存在する砲身のような部位から何かがこちらへと射出されたので蹴り落とす。
「いまの……ランク3ダンジョンに居た植物の上位互換か!」
『樹液か蜜かを砲弾にして撃ってくるです!』
ドドドドドドドドドッ!!!
初弾を防いだと思えば一息付く間もなく、
同じように瘤が大量に咲き誇り数の暴力で連射を始めやがった。
「フラム、ベル!魔法を併用して撃ち落としてくれ!
制御力は他の奴の邪魔にならない程度に抑えろよ!
ノイは調整を手伝ってやれ!」
『わかりましたあああ!ベルにお任せええ!』
『魔法で援護頑張ります!』
右足だけで捌くには数が多く、
試しに左腕の聖壁の護腕で殴り落として見ればこっちにダメージが通ってきた。
今回の敵はランクも高く、うちの精霊たちも加階を進めているとはいえまだまだ幼い。
だからこそ属性相性も相まって効果は抜群が出てしまうのだろう。
『《ブレイズダンス!》』
『《ベルファイア!》』
空中で踊る俺の周囲に炎で出来た短剣が10本と熱を帯びる光球が2人の詠唱で出現する。
それぞれが役割を持って詠唱した魔法で、
短剣は瘤の柔らかそうな部分へ飛んでいき爆発、
光球は飛んでくる砲弾を熱で軟化させることで俺をサポートしてくれる。
『そろそろ[波動]を打ち込まないと、
クーたちの方の拘束が解けるかもしれないです!』
「だよなぁ!突っ込むぞ!」
『『はい!』』
クーたちの動向は精霊との繋がりでだいたい把握できる。
あっちは既に所定に位置に付いて待っている状態だ。
さっさと段幕を抜けて俺たちも仕事をこなさなければならない為、
段幕を蹴り飛ばし支援で発射が遅れた隙を突いて目的の位置向け全力で自身を弾き飛ばす。
『マスター!上から何か降ってくるです!《シールド!》』
俺が[シールド]を出すには左手をその向きへ向けなければならないが、
ノイが気を利かせて余る[聖壁の欠片]を頭上に展開し傘を生成してくれた。
直後、ッザーーーーーーーーーーー!!と豪雨が降り始めた。
「地面や瓦礫から煙?じゃあコレは酸性雨なのか!」
自然発生する酸性雨なら今の俺なら無効化可能だろうが、
俺の居る位置は幹にほど近く上空にはキュクレウス=ヌイの枝葉が屋根となり届くはずがない。
つまりこの酸性雨も特別なのだろう。
『主!触手が来ます!』
「上下同時攻撃とはやっぱ賢いなコイツ!
《来よ!》《|氷竜……》ん!?」
一気に凍らせて目的の位置まで前進するつもりであったのに、
触手の動きが目前で停止。そのまま重力に従って落下を開始した。
視線を地面へと流せばそこにはアナザー・ワンが2名おり、
一瞬だけ戦意が爆発するように上昇したかと思えば瘴気の鎧を持つ触手が根元から両断されていく。
〔戦闘中失礼いたします。アインスです。
教国より4名のアナザー・ワンがサポートとして樹下に配置完了しました〕
「見えています。
なんか瘴気の鎧を抜ける一撃で触手を斬ってますが?」
〔それは[メイドノミヤゲ]ですね。いわゆる必殺技で本来多様は出来ないようですが、
報告でマリエルさんの支援によって力が沸いてくるので連発可能な様です〕
マリエルとニルの支援魔法[超えてゆく者]。
戦闘に支障がない程度に行使する支援魔法とは異なる対決戦仕様の魔法で、
全ステータスの小向上・戦意向上のバフが付与される。
加えて[エコーボイス]で超広範囲に付与しているからアスペラルダだけでなく他2国にも効果が出ているようだ。
「無理のない支援を継続いただければ助かります」
〔お伝えします。では〕
『《守護者の腕》』
アインスさんと話している間にこちらも予定の位置に到着した。
クーもキュクレウスの向こうで併せて攻撃の態勢に入っているのを確認しつつ、
弓の如く引き絞った腕に連動した巨腕を幹へ叩き込む。
「《守護者の波動!!!!》」
高出力の波動は幹へ打ち込まれた。
キュクレウスの内部へ波動が広がっていくのと同時に威力に耐えきれず瓦解を始める巨腕。
内部では俺とクーが打ち込んだ波動が響き合い、
そして合流をして結論に達する。
「この位置に核はない」
『上に行くですね』
波動の流れを確認し終わり離れる隙に幹を回り込み高速移動をする生物が急接近してくる。
それはムカデでありデカさも凶悪、顔もめちゃ怖い!
「っぶな!」
『《ブレイズレイド!》』
『《ベルカノン!》』
高ランク魔物の噛みつきはそれだけで驚異だが、
瘴気により狂化している魔物は特殊能力がなければただステータスが上がる傾向にある。
ムカデの接近は波動を打ち込んだ時点から把握していたとはいえ、
AGIが予想以上に高くなっていた為、掠るように回避には成功した。
『甲殻が堅いですね。
フラムの魔法よりベルの魔法が効いているようです』
『やったあああ!』
「とはいえ、倒せる威力じゃないからなっ!しつこい!」
外部からの爆発を難なく耐え内部から発する高熱にも耐えたムカデは、
その身を幹に起こして追撃の噛みつき、それを避ければ口から毒液まで吐き出す始末。
『これ倒すです?』
「アルシェ達が上空からアクエリアスの放水を始めているだろうけど、
放置して数が増えても困る。やっちまおう」
図体がデカいだけあって浄化をすればしただけフォレストトーレを蝕んでいる瘴気を吸い込んでくれる。
瘴気で魔物を生み出しているなら浄化が進めばその分敵の数も抑えられる。
アルシェの行動だけで一石二鳥。
魔物を減らせばもっとフォレストトーレ浄化の速度も上がるってもんだ!
「まだまだ調査も続くし、浄化を加速させる為にもベルもフラムも頑張ってくれよ」
『ベルにお任せええ!』
『僕もがんばります!』
「いや、特に意見は無い。
結局のところは早急に核の発見が重要って事に違いは無いし」
「禍津核戦ですからね」
アルシェやセリア先生、そしてアインスさんが情報を出し合って話し合った結果、
キュクレウス=ヌイへの接近やその他排出される瘴気モンスターの処理作戦が無事に立った訳だが。
それはあくまで[アスペラルダ]の話だ。
集めた情報はアインスさん経由で各国ギルドマスターへと伝わり、
おそらく各国もそれぞれで用意した作戦を決行するだろう。
キュクレウス=ヌイへのアタックは俺&ノイティミル、アルシェ&アクアーリィ、メリー&クーデルカ、ブルー・ドラゴン。
人間3人は核の位置調査が目的となるのだが、
ブルー・ドラゴンは守護の役目を押しつけられたトカゲだかの相手をして貰う為だ。
後方はマリエル&ニルチッイ、ゼノウPT、セーバーPT、風精セリア、水精スィーネ、水精ボジャ様、水精ポシェント、光精テルナローレ、土精ヴィルトゲン、名も無き火精、フロスト・ドラゴン、聖獣タルテューフォ、アスペラルダの精強なる兵士諸君。
主にキュクレウス=トレマーズ(触手)や果実などの細かな瘴気モンスターの相手をする予定だ。
マリエル&ニルに関しては常に上空で演奏を行って、
後方の全員をバフで支援する重要な役目を担っている。
微々たるステータスの上昇とはいえ、
格上のトレマーズ並びに瘴気モンスターを相手取るなら。
少しでも生き残る可能性が増えるならやっておくべきだろう。
「マリエルそろそろ開戦をするぞ。支援を確認したら動き始める」
〔かしこまりました〕
〔了解です!〕
『(支援始めますわよー!!)』
アインスさんとマリエルの声の返事の後にニルが念話で開始を宣言する。
揺蕩う唄から意識を目の前に立つ少女に戻すと、
アルシェも同様に俺の顔を見つめていた。
互いに覚悟は決まっている。
これが最後の戦いだ。
アスペラルダ陣営にニルの演奏が響き渡るのを確認し、2人で拳を合わせて距離を離した。
揃って小さな魔石を取り出し戦闘開始の狼煙の様に、
重なる詠唱がアスペラルダ陣営に響き皆の意識を戦闘へと纏め上げた。
「「《銀世界!》セット:氷竜の魔欠石!!」」
広範囲の大地を凍て付かせる[銀世界]の発動の初手は握り拳から零れる一滴だ。
互いの握り拳は蒼天の輝きと共に魔力が渦巻きそのまま溢れた魔力は握られた魔欠石に吸い込まれていく。
キィンッ!
魔力の奔流が収まり少しすれば魔欠石の中で増幅された魔力が魔欠石の上限いっぱいとなる微かな音を鳴らし、余剰分が溢れてきたのを確認してから上へと放る。
俺は蒼剣を、アルシェは槍剣を構えて再び声は重なった。
「「『『《水竜一閃っ!!》』』」」
両剣より放たれた各一閃は、
兵士達の上空を通過して悠然とそびえる触手頭を切り落としていく。
ドシィン……と幾つも地面に落下する音を置き去りに、
俺とアルシェ、そしてメリーはその場を皆に任せて一閃を追い中央へと一気に駆け抜ける。
〔各国のトレマーズ、動き始めました〕
「お兄さん、突出し過ぎです!
キュクレウスも身体を捻ってますよ!」
アルシェの注意に速度を落とす。
キュクレウスの行動は俺も視認しているからこそ巨樹が頭を振りかぶるシーンには衝撃を受けた。
あの柔軟性ってどういう原理なんだっ!?
「上空から果実が投擲されると予測!
アスペラルダは注意をお願いします!!
メリーは[置換]で後ろに飛ばせっ!」
「かしこまりました」
マリエルからの情報で地上を行くと索敵に引っかかる可能性を考え、
メリーもキュクレウスまでの移動はアルシェと同じくブルー・ドラゴンの背に便乗している。
「フリューネ」
『はいはい、腕にでも捕まってよ』
アルシェに怒られたしメリーとクーの負担を減らす為、
置換範囲を狭める意図でフリューネの腕に捕まり指に脚を掛ける。
「『《空間接続!》』」
直後に振られる巨樹の運動によって、
複数の果実が遠心力を持ってその実を巨樹から切り離されアスペラルダ陣営へと投擲される。
ほとんどはウチだったけど一部はユレイアルド神聖教国に飛んでいく。
アーグエングリンは重歩兵が多い事もあり、
戦闘開始から暴れ始めたトレマーズを相手に様子見に徹している様子。
教国はアナザー・ワンがさっそく数体の首を落としたから果実も投げられたのだろう。
「遠目で予想はしていましたが、
果実の魔物……大きいですね…」
俺達はクー達の魔法のおかげで目の前まで来た魔物は、
空間のショートカットで後方に飛ばされていく。
その大きさは大型トラックくらいには巨大生物であった。
果実各々が俺達の目の前まで来ると横から手足が6~8本生えて、
口と思わしき部分が割けると裏側に小さなトゲがビッシリと揃った凶悪な見た目に変化している。
まぁ、間抜けにも臨戦態勢を取った直後に目の前から消えて行くんだがな。
『守護竜が見えたよ。アレの相手をすればいいんだよね?』
「先に一発ブチ込んでから散開な。この辺で良いか…」
巨樹の周りにトレマーズとは違う細い触手が幾本も地面から生えてきた。
先兵の役割のトレマーズと違い、
あれは手足の様に自在に操れる可能性が高いかな。使い勝手良さそうだし。
「とりあえず、キュクレウス=ヌイ本体に予定通りな!」
「了解!」
『あいあ~い!』
『いつでもいいよ』
スゥゥゥゥゥ~~~~ッ!
俺とアルシェ、フリューネが胸一杯に息を吸い込み、
指で輪っかを作った先には魔法陣が浮かび上がる。
「「『《凍河の息吹!!》』」」
『《―――――っ!!》』
普通の魔物相手だと確実にオーバーキルになるレベルの息吹が3つ。
それぞれがキュクレウス=ヌイの全身を縦横無尽に横断し、
投擲前の果実は凍て付き重さで落下。
枝葉も凍て付いた後に吹き荒ぶ吹雪で端々は砕け散り、
丈夫な外皮も満遍なく凍て付かせていく。
しかし、フリューネを加えての息吹にも関わらず、
それ以上の成果は目に見える形では確認は出来なかった。
「これで多少でも動きが鈍ればいいですが……」
「接近するまでの妨害になれば良い。メリー行くぞ!」
「はい、ご主人様」
「(お前らもシンクロ頼むわ)」
『はい!(かしこまりですわー!)』
等倍ダメージにしか成らない水氷属性の攻撃だから、
足止めもあまり時間を稼げないかも知れない。
フリューネの腕から背に移動しメリーに声を掛けると、
すぐに側へ移動してきた。
娘達にも念話で合図を送って次々とシンクロが発動する。
バシュンッ!バシュンッ!バシュンッ!
この場に居るノイとアクアとクーに続いて、
フラム・ベル・ニルも合流してきた。
「お前らも気をつけて行けよ」
「お兄さんとメリーも」
『あれ?僕には無いの?』
「ドラゴンモドキは片手間だろ?何か気づいたらすぐ知らせてくれ」
リクエストに答えてフリューネに声だけを掛けて、
返事は待たずに飛び降りる。
メリーは凍らせて動きを制限した方面へ、
俺は凍っておらず動きの活発な方面へ降下を開始。
アルシェは空飛ぶアイシクルライド、[氷駆円舞]でさらに上昇して行きキュクレウス=ヌイの真上を目指し、
ブルー・ドラゴンは全員が離れたのを確認してから力強く羽ばたき守護竜ドレイクへと向かっていった。
* * * * *
「おー、樹皮に何か引っ付いてるな」
落下中でも観察は怠らない。
グランハイリアより小柄と言えど巨樹は巨樹。
馬鹿デカイ樹皮には妙な瘤と枝とも付かない棒みたいなのがいくつも生えている。
その上からもツタが鎖帷子の如く覆っていて普通に燃やすだけでは倒し切れそうに無い。
「(ニル、脚をくれ)」
『(発動だけしますから制御は勝手にしてくださいましー!)』
今の俺は生身に武器だけを精霊に用意させているだけの状態だ。
何故なら属性相性が最悪なノイを纏えばその分威力半減ダメージ倍増だからだ。
『(《翠雷脚甲!》)』
ニルの詠唱により、
周囲の風が俺の右脚へと急激に収束をしつつニルの魔力光が風を脚甲の形へ整えあげる。
完成したのは飛ぶ能力を消した機能限定版脚甲。
「ふんっ!」
いつの間にか瘤の外殻が花開き、
中央に存在する砲身のような部位から何かがこちらへと射出されたので蹴り落とす。
「いまの……ランク3ダンジョンに居た植物の上位互換か!」
『樹液か蜜かを砲弾にして撃ってくるです!』
ドドドドドドドドドッ!!!
初弾を防いだと思えば一息付く間もなく、
同じように瘤が大量に咲き誇り数の暴力で連射を始めやがった。
「フラム、ベル!魔法を併用して撃ち落としてくれ!
制御力は他の奴の邪魔にならない程度に抑えろよ!
ノイは調整を手伝ってやれ!」
『わかりましたあああ!ベルにお任せええ!』
『魔法で援護頑張ります!』
右足だけで捌くには数が多く、
試しに左腕の聖壁の護腕で殴り落として見ればこっちにダメージが通ってきた。
今回の敵はランクも高く、うちの精霊たちも加階を進めているとはいえまだまだ幼い。
だからこそ属性相性も相まって効果は抜群が出てしまうのだろう。
『《ブレイズダンス!》』
『《ベルファイア!》』
空中で踊る俺の周囲に炎で出来た短剣が10本と熱を帯びる光球が2人の詠唱で出現する。
それぞれが役割を持って詠唱した魔法で、
短剣は瘤の柔らかそうな部分へ飛んでいき爆発、
光球は飛んでくる砲弾を熱で軟化させることで俺をサポートしてくれる。
『そろそろ[波動]を打ち込まないと、
クーたちの方の拘束が解けるかもしれないです!』
「だよなぁ!突っ込むぞ!」
『『はい!』』
クーたちの動向は精霊との繋がりでだいたい把握できる。
あっちは既に所定に位置に付いて待っている状態だ。
さっさと段幕を抜けて俺たちも仕事をこなさなければならない為、
段幕を蹴り飛ばし支援で発射が遅れた隙を突いて目的の位置向け全力で自身を弾き飛ばす。
『マスター!上から何か降ってくるです!《シールド!》』
俺が[シールド]を出すには左手をその向きへ向けなければならないが、
ノイが気を利かせて余る[聖壁の欠片]を頭上に展開し傘を生成してくれた。
直後、ッザーーーーーーーーーーー!!と豪雨が降り始めた。
「地面や瓦礫から煙?じゃあコレは酸性雨なのか!」
自然発生する酸性雨なら今の俺なら無効化可能だろうが、
俺の居る位置は幹にほど近く上空にはキュクレウス=ヌイの枝葉が屋根となり届くはずがない。
つまりこの酸性雨も特別なのだろう。
『主!触手が来ます!』
「上下同時攻撃とはやっぱ賢いなコイツ!
《来よ!》《|氷竜……》ん!?」
一気に凍らせて目的の位置まで前進するつもりであったのに、
触手の動きが目前で停止。そのまま重力に従って落下を開始した。
視線を地面へと流せばそこにはアナザー・ワンが2名おり、
一瞬だけ戦意が爆発するように上昇したかと思えば瘴気の鎧を持つ触手が根元から両断されていく。
〔戦闘中失礼いたします。アインスです。
教国より4名のアナザー・ワンがサポートとして樹下に配置完了しました〕
「見えています。
なんか瘴気の鎧を抜ける一撃で触手を斬ってますが?」
〔それは[メイドノミヤゲ]ですね。いわゆる必殺技で本来多様は出来ないようですが、
報告でマリエルさんの支援によって力が沸いてくるので連発可能な様です〕
マリエルとニルの支援魔法[超えてゆく者]。
戦闘に支障がない程度に行使する支援魔法とは異なる対決戦仕様の魔法で、
全ステータスの小向上・戦意向上のバフが付与される。
加えて[エコーボイス]で超広範囲に付与しているからアスペラルダだけでなく他2国にも効果が出ているようだ。
「無理のない支援を継続いただければ助かります」
〔お伝えします。では〕
『《守護者の腕》』
アインスさんと話している間にこちらも予定の位置に到着した。
クーもキュクレウスの向こうで併せて攻撃の態勢に入っているのを確認しつつ、
弓の如く引き絞った腕に連動した巨腕を幹へ叩き込む。
「《守護者の波動!!!!》」
高出力の波動は幹へ打ち込まれた。
キュクレウスの内部へ波動が広がっていくのと同時に威力に耐えきれず瓦解を始める巨腕。
内部では俺とクーが打ち込んだ波動が響き合い、
そして合流をして結論に達する。
「この位置に核はない」
『上に行くですね』
波動の流れを確認し終わり離れる隙に幹を回り込み高速移動をする生物が急接近してくる。
それはムカデでありデカさも凶悪、顔もめちゃ怖い!
「っぶな!」
『《ブレイズレイド!》』
『《ベルカノン!》』
高ランク魔物の噛みつきはそれだけで驚異だが、
瘴気により狂化している魔物は特殊能力がなければただステータスが上がる傾向にある。
ムカデの接近は波動を打ち込んだ時点から把握していたとはいえ、
AGIが予想以上に高くなっていた為、掠るように回避には成功した。
『甲殻が堅いですね。
フラムの魔法よりベルの魔法が効いているようです』
『やったあああ!』
「とはいえ、倒せる威力じゃないからなっ!しつこい!」
外部からの爆発を難なく耐え内部から発する高熱にも耐えたムカデは、
その身を幹に起こして追撃の噛みつき、それを避ければ口から毒液まで吐き出す始末。
『これ倒すです?』
「アルシェ達が上空からアクエリアスの放水を始めているだろうけど、
放置して数が増えても困る。やっちまおう」
図体がデカいだけあって浄化をすればしただけフォレストトーレを蝕んでいる瘴気を吸い込んでくれる。
瘴気で魔物を生み出しているなら浄化が進めばその分敵の数も抑えられる。
アルシェの行動だけで一石二鳥。
魔物を減らせばもっとフォレストトーレ浄化の速度も上がるってもんだ!
「まだまだ調査も続くし、浄化を加速させる為にもベルもフラムも頑張ってくれよ」
『ベルにお任せええ!』
『僕もがんばります!』
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