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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-
†第12章† -32話-[VS氷垢のステルシャトー]
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「はあああああああああああっ!!」
「やあああああああああああっ!!」
ブルー・ドラゴン様の首振りに合わせて飛び上がり、
氷垢のステルシャトーへと全力で斬りかかるも未だに彼女の方が膂力は高いらしく押し返される。
「《海豚、海豚、海豚。
哀れなる漂流者よ、いま救いの使者が舞い降りる。
1に突き、2に潰し、3に引き摺り回し、4で壊せ!》」
空中で押し返された先には先回りで私の回収に動いていたブルー・ドラゴン様に着地と同時に背中まで駆け抜ける。
「ブルー・ドラゴン様!お願いします!」
『しっかり捕まっていなよ!すぅ・・・』
地上であれば対抗可能な威力の魔法も使えたが、
空中ではユニゾン中といえどお兄さんの魔石使用の一閃には及ばない為、ブルー・ドラゴン様に頼り背中のトゲにしっかりと捕まる。
「《アルディメンド・グリアノス!!》」
『――っ!!!!!!!!!!!』
召還された複数体の海豚の突撃に合わせブレスを吐き出すブルー・ドラゴン様。
流石に威力では勝る様で首を振れば一瞬で全ての海豚はブレスに飲み込まれ消滅していった。
『こりゃダメだね』
「全く・・・っ!同意見です」
鎧魚に乗り高速機動を行う氷垢のステルシャトーは、
付け焼き刃で付き合って下さるブルー・ドラゴン様とのタッグでは追い切れない。
というか、私がブルー・ドラゴン様の空中機動に耐えられない。
それを察してくださった上でこの体たらくなのだから恥ずかしい限りです。
『あっちは召喚獣だから仕方ないかも~!』
「ですが、あちらは空に浮いているからまともな召還は使っていません。
今の所は護衛に[鎧魚]、攻撃に小魚と海豚だけ。
時間稼ぎが目的とわかっていても、面白くはありませんね」
『僕も面白くはないけど、あまり正面衝突も宜しくないんだよね?』
視線を向けた先で召還とブレスで発生した霧の隙間からステルシャトーと目が合う。
「つまらないわね!」
「同意見だわ!」
意思は一致していたらしい。
返事も聞いてブルー・ドラゴンから飛び降りると慌てた声が耳に届く。
『ちょ、ちょっと!?アルカンシェ!?』
「術者は私達が相手をします。
鎧魚の相手をお願いしますね!」
落下の最中に考えていたのは、
お兄さんが苛刻のシュティーナの相手をしている限りは邪魔は入らないであろう事。
足が地面に達した瞬間からはそんな事は蚊帳の外へ追いやられ、
意識は目の前に存在するステルシャトーに集中する。
「いざ!」
「勝負だわっ!!
キィィィンキキンッ!
上空でブルー・ドラゴン様と鎧魚の戦闘が始まったことを認識しながらステルシャトーと切り結ぶ。
「この膂力!成長したのだわっ!」
「時間稼ぎで済むと思わないで下さいっ!!」
シンクロを持ってしても負ける膂力で飛ばされる。
「《鯨、鯨、鯨。大いなる存在よ、小さき者に目も向けず存在だけで飲み干すと良い!。
お前は小さい!生きる価値も無い程に!》」
新しい召還魔法!?
耳慣れぬ詠唱とステルシャトーの足下から広範囲に広がる魔法陣に警戒し、
ランディング後に前に出ようとする己を自制し止める。
浮き出る幻影に妨害する魔法の構築を開始。
効率を考えれば発動前に潰すのが定石!
『《氷結覇弾!》』
使い続けた甲斐も有り発動に時間は掛からない。
勇者の剣が多重で発動し氷垢のステルシャトーを襲う。
「《ゼルヘシュ・アルタージュ!》」
ただ、やはり魔神族。
妨害は間に合わず発生した大きな生き物の幻影は実体を持って、
氷の礫は全て巨大な尾で弾かれてしまった。
『出方は突進タイプじゃなさそ~!』
「ちょっと待ってねぇ・・・、
アクアちゃんを通じてお兄さんの記憶を検索してるからぁ・・・」
視線は氷垢のステルシャトーから離さず、
脳内では記憶の海から鯨という生物を必死に探していく。
くじら~、くじら~・・・。
あった!
「突進、飲み込みなどが無ければ潮吹きが怪しいですね!」
『え~とぉ、潮吹きぃはコレかぁ~。
じゃあ広範囲攻撃かなぁ~?』
鯨を理解し、攻撃に利用しそうな特徴を予想。
そして範囲と判断を下せば自ずと対処方法も絞られる。
「広範囲攻撃魔法、持ってないですね」
『創るしか無いね~』
あちらは鯨の上部から波の様な波紋が広がっている。
潮吹きのイメージ通りで正しければ攻撃は上空から落ちてくるはず。
ならば、こちらは地上から迎撃しなければならない。
召還魔法は見れば見るほど完成された魔法だ。
魔神族は不明な点が多いけれど、
少し長い詠唱を行えば様々な方面に有効な攻撃が出来るのだもの。
どういう原理なのか解明したい気持ちを抑えつつ、
アクアちゃんと一緒に新しい魔法を創造する。
「《グラキエルスティンガー!!》」
発動と共に武器を握っていない片手を拳に固め前に突き出す。
拳の隙間から零れ落ちる一滴は地面に触れると広範囲を一瞬で凍て付かせていき、
凍った大地にはいつの間にか氷で出来た剣が幾本も生えている。
「踏みつぶせっ!!」
「イグニッションッ!!」
『ふぉいや~!』
方や潮吹きにより高く舞い上がった水のような何かは弧を描いて広範囲の地面に向けて落下してくる。
それは小さな滴であったはずなのにみるみるうちに質量が増幅していき、
やがては氷のランスへと成長して幾百の礫となってアルシェとその周辺へと落下を開始した。
そして、方や地面に生える氷の剣も自発的に抜けると方向を上空へと修正し、
魔力の帯を引きながら落下してくる無数のランスへと導かれるように向かっていく。
ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパアァァン!!
連続する炸裂音と空を覆う冷気の煙が大量に発生して澄み切った空は見えなくなった。
ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパアァァン!!
「《貴方の光はどこにあるの?海の底で帰りを待つ。
幾百幾年月の中で私は大きく大きく成長したわ。
全ての光を貴方に還す。その力の名前は愛!》」
ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパアァァン!!
召還魔法の強みは発動すれば制御の必要がなく手を離れたうえで広範囲を攻撃してくれること。
だからこそ、こちらは迎撃に制御力をほとんど割いて何も出来ない状態であるにも関わらず、
ステルシャトーはここで次の一手を指してくる。
「《ヒーリングコーラル!》」
ようやく迎撃が終わった頃には、
ステルシャトーの背後にいた鯨は失せ、代わりに大きな珊瑚生えている。
これでソードフィッシュの養殖環境と回復手段を彼女は得たことになる。
『ここで戦闘を続けるつもりみたいだね~』
「結局、竜の巣の焼き直しですかっ!」
悔しい。
成長はしているし強くなっているはずなのに、
必ずその先に存在している魔神族。
せめてまともに相手が出来なければお兄さんの役にも立てないというのに、
遊ばれているかの様な余裕をあちらは見せている。
と、胸中で悔しさを吐露していると、
すぐ近くに何かが勢いよく落下してきて半壊している建物を完全に瓦礫に変化させた。
『苦戦してるね。大丈夫なのかい?』
「フリューネ様は余裕がお有りのご様子ですね・・・はぁ」
落下物の正体はブルー・ドラゴン様に組み伏されて自慢の鱗もボロボロにされた鎧魚であった。
オベリスクさえなければやはり生き物としても戦力としても最上位に位置するのを再認識致しました。
『確かに捕まえてしまえばどうという事はなかったね。
加勢しようか?』
「時間稼ぎが目的のようですし大丈夫です。
ソレを確実に殺したら休まれて結構ですよ」
ゴキッ!
『じゃあ、そうさせてもらうよ』
鎧魚がその姿を光へ返還されていく中で、
フリューネ様はそう言うと身体を小さくして邪魔にならない位置へと下がっていった。
『ねぇ~、次はアクアに代わってぇ~』
「いいけど、あまり無茶な体勢は止めてよ?
戻ったときに筋を痛めてた時は辛かったんだから・・・」
アクアちゃんの希望に応えて身体を彼女に明け渡す。
スキル[ユニゾン]の面白い所は、
人間側だけが主になるわけではなく身体を明け渡すことで精霊を主にすることが出来る点。
そうすると、表情や仕草や特に瞳はアクアちゃんの物になる。
そして魔法も氷主体から水主体に代わり、
物理攻撃の割合が減って魔法攻撃の割合が増える。
『よぉ~し!頑張るぞぉ~!』
ヤル気満々の気の抜ける元気な掛け声を口にしながら振るう槍剣から、
水の魚たちが続々と産まれ増えていく。
槍剣もアクアが練習しているサイズをアルシェの身体に合わせた物に縮んでいく。
最終的には片手剣と言って差し支えない物へと完全に変わって剣がアクアの手には握られていた。
「何が起こったのかわからないのだわ。
貴女はおチビちゃんの方だわね」
『そーだよ!今度はアクアが相手だよ~!』
アルシェの身体なのにアクア口調のアルシェの声音が響く中。
アクアはゆったりとリラックスした様子で前進を始める。
アルシェの様に前のめりに武器を構える訳でもなく、
本当に歩いてこちらの動きを見つめて腕を組むステルシャトーの元へと進む。
そしてある程度差が縮まった直後にステルシャトーの周囲に浮かび揺蕩っていたソードフィッシュが自動迎撃モードに移行してアクアに突撃を始めた。
ただし、アクアも[お魚さんソード]から産み出した水魚たちが迎え撃ち2人の間で魚たちの攻防が繰り広げられる。
「ソードフィッシュはこれで攻略ですね」
『コーラルも魚の養殖には最大数があるっぽいよね~』
それぞれの魚が穿たれ穿ちを繰り返しそれぞれが光と魔力に還っていく光景を観察し前進を緩めないアクア達はこの時間もステルシャトー攻略の考える。
「《鯱、鯱、鯱。馬鹿な誰かは佇んでいた。
貴方の宿命は食べられること、抗うことも許されず波に掠われ私と共に生きてゆこう。
嗚呼、なんて美味な馬鹿なのか!インビジブルオルカ!》」
『高速詠唱だぁ~、厄介だな~』
シャチもますたーの記憶から検索出来た。
オルカアタックって言う海から陸地に一気に乗り上げて対象を捕食するものらしい。
ステルシャトーの詠唱後に広がった光の輪は地面を走って行き、
広範囲を囲って止まった。
『アル、気配の読めない敵を相手にどうするべきかなぁ~?』
「召喚魔法自体は水氷属性なのは間違いないけれど、
実際に効果を発揮するのは召還された者達みたい。
オルカも潜口魚と同じで自前の空間を持っているタイプね」
でも護衛の様に自由に動き回るわけでは無く、
結局は指定範囲内の敵を目標に動く魔法かぁ~。
ステルシャトーのソードフィッシュみたいに自動迎撃なら任せればいいんだろうけど、
アクアのお魚さんは自動じゃ無いから間に合わないなぁ~。
『面倒だから、飛ぶね~?』
「地面に接しているから脅威になっているわけですしね。
――ん?飛ぶ?跳ぶじゃなくて?」
『アクアは練習したけど、アルは初めてだね~。
まだ実験中だし安定はしないけど頑張ろうね~!』
「え!?あ、ちょっと!?」
アクアは相棒に軽い口調で伝えると、
返事も聞かずにお魚さんソードを前方に軽く投げる。
そのまま弧を描き氷原に斜めに刺さったお魚さんソードに満足気な表情をしたアクアは勢いよく[アクアライド]で自ら剣に向かって滑り出す。
アクアのやろうとしている事はもちろん[シンクロ]も[ユニゾン]もしているアルシェには不足無く伝わっている。
ただし、伝わる情報はアクアがやろうと決めて思い浮かべた瞬間からであり、
滑り出した時点で数秒しかない。
つまり何の覚悟もなく、
自身が未体験の魔法を魔神族相手に試そうとするアクアに引き摺られる。
結果。
「ひゃあああああああああああ……うん?飛ぶってこういうこと?」
アクアは子供だ。何でも体験することは面白く、
親が親なだけにアルシェとの即席魔法や行動にも慌てるような事は無い。
しかしユニゾンの意識交代の実戦投入は初めてで、
育った精神のアルシェが精霊サイドで同じ事をされると流石に慌てざるを得なかったわけだが。
「結構しっかりしてるかも。
[龍玉]を足に纏わせてるのね?」
『そうだよぉ~。
小さい頃に乗っかって浮かんだこともあるし、
加階して浮かべなくなってからもアクアは浮かべないのに何で龍玉だけ浮いてるんだろうって思ったから試したの~』
現在の武器は龍玉を半分使う槍剣でもお兄さんが扱う蒼剣でもない。
3分の2程はまだ余っている龍玉を浮遊に使っても攻撃が緩むわけでは無い。
扱えるなら問題ない。
そう判断したアルシェは直ぐさま落ち着きを取り戻し戦闘に集中する。
『おいで[龍玉]!』
空を滑走し始めたアクアの隣に呼び出された竜玉が出現し併走を始める。
剣と両足に使ってようやく半分となった竜玉だが、
それでも赤子の頭程度には残っていた。
「~~~~~~~っ」
『ひゃっほ~!《ショット!》』
アクアは自前の精霊ボディの時に練習していた空中滑走なので楽しげなのに対し、
始めて乗るジェットコースターのような慣れない遠心力でぐるぐると回されるアルシェにとっては何が何やら状態である。
ピストルの形にしたアクアの手から水球がピンク色の珊瑚にパンッ!と当たるも、
破壊には至れずステルシャトーも妨害などの動きをする事はなかった。
『反応なし。《カノン!》』
中指も伸ばして銃身を広げて口径も大きくした水球が再び別角度から
ガンッ!と珊瑚に当たる。
『ヒビ入るけど~、すぐ修復しちゃうねぇ~』
「様子見なんて生意気なのだわっ!
《駄津、駄津、駄津。貴方は弱い、それでも私を愛してくれた。
ありがとう、ありがとう。貴方は貴方たち、貴方たちは私の刃。
影に潜む敵を撃ち抜く貴方たちに疾風の加護あれ!グラシアールエクセリオン!》」
『げぇ~!?上に参りま~す!』
足下で展開している魔法は浮く能力を持つ龍玉を用いた[アクアライド]だ。
つまりマリエルや宗八の様に真上に向けて移動が出来ないので、
急角度で弧を描いて上昇するしかない。
ステルシャトーの召喚魔法が発動すると、
つむじ風が発生してそれは急速に成長をして一種の竜巻と言えるレベルまで天高く巻き上がった。
「水の竜巻ですね。
詠唱からしてソードフィッシュに類した魚が私たちを狙って撃たれるのでしょう」
『下のオルカもまだ姿を現してないから注意しないとねぇ~』
とはいえ、まずは様子見。
倒せるなら倒したい所ではあっても、
手の内に知らないことがあればその1撃で死んでしまう可能性が高くなる。
知っていれば次までに研究出来る。
毎日の訓練は勝つ為では無く死なない為の訓練だとアクアも理解はしているのだ。
と、少しの考え事に時間を使っているうちに水竜巻から予想通り魚が射出され始めた。
ただし、数匹ではなく数十匹がマシンガンの如く次から次へと間断なく発射される上に面倒なホーミングも付いているらしい。
『ほっ!ほっ!えい!やー!』
ステルシャトーと珊瑚を中心に水竜巻との追いかけっこが始まった。
ほぼ同速度で動く水竜巻はともかく、
やはりソードフィッシュ亜種は回避しても弧を描いて再びアクアを狙ってくるので斬り払いと撃ち落としで対処を開始した。
「身体が小さいから今まではわからなかったけど、
私の身体を使うとお兄さんに引けを取らない剣士になりますね」
『筋肉とかが付いてないからねぇ~。
いつもはますたーに纏って戦闘もしてるし経験的には身体の使い方も剣の扱い方もわかってるんだよぉ~?』
単純に幼い身体。
これがアクアの強さを妨げている原因だ。
つまりは身体が成長さえすればいずれは[ユニゾン]している現状の強さを個人で使えるという事。
「将来有望ですね」
『アルシェはもうちょっと筋肉付けた方がいいねぇ~。
ますたーよりも振りが遅れるからさ~』
「男性と女性の差もあるし、
あまり付けすぎると身体の成長が遅れるそうなので・・・。
私、14歳なので18歳くらいまでは筋肉量を抑えたいんです」
『ぶ~ぶ~!』
不満そう・・・。
『――っ!!来た!』
「タイミングバッチリで狙ってきましたねっ!」
時間にして1分くらいだろうか?
水竜巻は光となって姿を消して射出されていた魚たちもまだ消える前のわずかな息を抜いた瞬間。
真下から巨大な黒と白のコントラストが美しい魚?が大口を開いて飛び出して来たのを察したアクア達は、残る小魚を無視して無理矢理さらに高高度へと移動し、両手の人差し指と親指を合わせて輪を作る。
『《おいで!》』
「《凍河の息吹!!》」
両手の輪にプルン♪と龍玉がハマるのを確認してから一息で吹き込む。
空を滑走しながらオルカの範囲は確認していたので、
今までの直線上のブレスではなく拡散するブレスできっちり範囲を納めて凍て付かせる。
「龍玉の魔力は問題ない?」
『まだまだイケるよ~!毎日コツコツ大事だねぇ~!』
私たちの魔力の源は現在3つある。
一つは持ち前の魔力、二つ目は竜の魔石、三つ目は精霊姉妹のみが所持しているオプションだ。
アクア曰く、オプションは自分の半身のような物であり、魔法とは違う概念の存在であり、魔力を溜め込んでおける袋でもあるらしい。
[カノン]などで使う時は魔力消費のない一撃となり、
[凍河の息吹]などは寝る前にコツコツ溜め込んだ魔力を圧縮して使用している。
もちろん高濃度に圧縮された[凍河の息吹]を受けたオルカは中空受けた為尻尾の先まで凍り漬けになった挙げ句に落下の衝撃で砕けた端から光になって消えて行く。
さらに範囲内にはコーラルもあったがそれも今は活動を停止し、
周囲を守っていたソードフィッシュ諸共消えてしまう。
ただ、距離もあり拡散した結果、威力は落ちている。
肝心のステルシャトーにとっては蚊が刺された程度の威力になっているのか肌を擦る程度に留まっている。
『《ブラスター!》』
容赦ないアクアの攻撃が再開された。
薬指も伸ばした銃身で撃つのは水球ではなく放射。
これには流石にステルシャトーも豪奢なメイスを前に出す事で防ぎ始めた。
この辺りからダメージが少し入り始めるってことかなぁ~?
「《《海豚、海豚、海豚。 哀れなる漂流者よ、いま救いの使者が舞い降りる。 1に突き、2に潰し、3に引き摺り回し、4で壊せ!》」
地上と違ってまだ粗の見える空中滑走。
アクアが試してる間にあっちも観察をしていたから見切れると判断して詠唱を開始した~?
「《アルディメンド・グリアノス》》」
『《おいで!》《龍玉一閃!》』
数匹の海豚と高濃度一閃がぶつかり、
かつての竜の巣での焼き直しが行われたが結果は同じであった。
海豚たちは消し飛び、
尚も前進する一閃をステルシャトーが豪奢なメイスで受け止める。
「この力っ!?あの男と同じ!?」
『《龍玉一槍!》』
このアクアーリィ油断せん!
一閃の亜種Ver.の龍玉シリーズは、
父・宗八が扱う竜の魔石の欠片を用いた高濃度一閃を真似たアクアオリジナルの模擬技法である。
まぁ、単純に欠片の役割をオプションである龍玉に置き換えただけで、
こちらは日頃貯め込んだ魔力を圧縮して使用している為、使用回数に制限がある。
父・宗八の扱う欠片はブルー・ドラゴンとフロスト・ドラゴンがポコポコ生産出来るので実質回数制限は無い。
「痛たたたた・・・、やっぱり回避しないと足を止められちゃうのだわ」
『《アイシクルアンカー!》』
「《蒼天に広がる星々よ、魔力の奉納を持って我は願う》」
[インビジブルオルカ]の効果がなくなり安全になった地上へ戻って来た耳にその声は冷気の壁の向こうから聞こえてきた。
続いて詠唱は聞こえて来ない。
ならば、魔法剣ならぬ魔法鎚でのお返しを警戒する為に構えを取る。
魔力は氷の結晶へと姿を変え、数は4つ。
地面から生えたアンカーも含めて射手は7つ。
「《ブリガンティア・バスターッ!!》」
『「《アブソリュート・ブレイカーッ!!》」』
氷竜の巣を貫通せしめた砲撃と、
アルシェ&アクアが扱える最強の収束砲撃がぶつかり広範囲に発生した魔力爆発にステルシャトー共々こちらも巻き込まれる。
『スゥ~……ハァ~、死んじゃうかと思ったぁ~』
冷気による白煙が身体に纏わり付く中、
胸一杯に息を吸い込みゆっくりと暖かい白煙を吐く動作でパラパラと体中に張った薄氷が割れては落ちていく。
「体力も体感的に三割減っていますね、痛いはずです…。《グレーターヒール》」
身体の欠損が無いことで自前の回復だけで賄える事に安堵しつつ、
ダンジョン産魔導書で以前覚えた中級回復魔法で癒し始めた。
実際の戦闘では生き残ることが優先のため、
怪我やHPの低下は訓練での体験がほとんどである。
だるさや痛みに耐えて動く訓練ももちろん行っているけれど、
そんなものはさっさと無くしてしまった方が集中出来るものだ。
「流石に水精なのだわ。
いまの威力を余裕を持って生き残るのね」
『アル~、あっちは凍ってなかったみたい~』
「水氷耐性が水精や真なる加護持ちより高いって反則ですよね」
それでもダメージは入っている様にも見える。
ローブの裾が少々痛んでいるから。
以前使っていた[シルヴェリーガード]でしょうか?
…ゴゴゴゴゴゴゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ !!!!
『わわわわわ~、地面が揺れてる~!』
思考に耽る間に体力も回復したので、いざ再戦!と思い足を出そうとした瞬間。
微かな揺れを感じたと認識した数秒後には流石に立っていられない状態にまで体勢を崩し、
慌てて剣を槍剣へと変化させて支えとする。
ついでに武器が変わったのを機にアクアとアルシェは交代も行った。
「あら?もう時間なのだわ?
せっかく興も乗る歯ごたえのある戦いになっていたのに」
「時間稼ぎはもういいのですか?」
「えぇ、殺しきれなかったのが悔やまれるけれど、
次の楽しみが増えたと思えば帳尻は合うのだわ」
本当に楽しみなのか、
ステルシャトーがこちらへ口角をあげて笑いかけてくる。
その笑顔は以前にも見た邪悪で存在を無視出来ない嫌悪感を私たちの胸に沸き起こす。
ザッ!!
『《アイシクルバインド!》』
右足を後方へ引き身体を半身にする。
頭に響くのはお兄さんの言葉。
「殺せるなら頭を破壊しろ。情報は魂さえあれば後でいくらでも抽出出来る」
揺れに負けて膝が折れる私の足をアクアちゃんがバインドで無理矢理地上に縛り付けてくれる。
槍剣は宙に浮き、
致命を与えることを念頭に魔力は込められるだけ込め、
高濃度魔力も刃に纏わり付けて威力を最大に上げる。
狙いは私もアクアちゃんも過たずステルシャトーの頭。
「《シューーーット!!!》」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」
距離は確かに存在した。
それでも自信を持って轟音と共に放たれた槍剣の矢は、
冷気を巻き込みながら互いの間に存在した距離を一気に駆け抜けた。
しかし…。
『――っな~に!?』
突如、地面から現れた巨体が盾となって打点がズレた。
現れたのは鯱。
肉体を抉られ凍て付いた身体が飛び散るのも余所に、
主を守る為に盾となり身体を捻って槍の抜ける方向を無理矢理上方へねじ曲げた。
「一匹だけじゃなかったんだ…」
すぐに光となって消えた鯱。
ただし、役目はしっかりと果たして消えていった。
その向こうで普通の微笑みに変わった表情のステルシャトーの存在感が薄れていくのが分かる。
「じゃあね、おチビちゃんとお嬢ちゃん」
『自分だってアルくらいでしょ~!!』
どういう原理かは分からないけれど、
確実に圧迫感がなくなり身体から無駄な力が抜けていく。
召喚獣が失せるのと同じように光を纏いながらゆっくりと透明になっていくステルシャトーは、やがて完全に姿を消したのだ。
力が抜ければユニゾンも切れて私の胸元にアクアちゃんが本来の姿で出現するのを両手で抱き留める。
「ひとまず、お疲れ様。アクアちゃん」
『アルもお疲れ~!でも、ますたーと合流しなきゃね~!』
「…ですね」
意識を切り替える為に長い深呼吸を挟む。
揺れもずいぶんと収まっているけれど、
代わりに城下町の多くは細かな地割れが発生し段々になっている。
そして一番目を引くのは王城を背に乗せて城下町の中央で鎮座している巨大な何か。
いえ、あれが[キュクレウス=ヌイ]なのでしょうね。
「フリューネ様!お兄さんと合流するので乗せて下さいませ」
『別にいいけどさ。この地域に来てアルカンシェは僕への遠慮が無くなってきたよね』
「お兄さんの妹としてお褒め頂きありがとうございます♪」
『フリュー!アクアは?アクアは~?』
『いいから乗るなら早く乗って!あの兄にしてこの妹ありって奴かなぁ~……』
大きな翼は飛び立った。
この地の最後の戦いはもう間もなく。
「やあああああああああああっ!!」
ブルー・ドラゴン様の首振りに合わせて飛び上がり、
氷垢のステルシャトーへと全力で斬りかかるも未だに彼女の方が膂力は高いらしく押し返される。
「《海豚、海豚、海豚。
哀れなる漂流者よ、いま救いの使者が舞い降りる。
1に突き、2に潰し、3に引き摺り回し、4で壊せ!》」
空中で押し返された先には先回りで私の回収に動いていたブルー・ドラゴン様に着地と同時に背中まで駆け抜ける。
「ブルー・ドラゴン様!お願いします!」
『しっかり捕まっていなよ!すぅ・・・』
地上であれば対抗可能な威力の魔法も使えたが、
空中ではユニゾン中といえどお兄さんの魔石使用の一閃には及ばない為、ブルー・ドラゴン様に頼り背中のトゲにしっかりと捕まる。
「《アルディメンド・グリアノス!!》」
『――っ!!!!!!!!!!!』
召還された複数体の海豚の突撃に合わせブレスを吐き出すブルー・ドラゴン様。
流石に威力では勝る様で首を振れば一瞬で全ての海豚はブレスに飲み込まれ消滅していった。
『こりゃダメだね』
「全く・・・っ!同意見です」
鎧魚に乗り高速機動を行う氷垢のステルシャトーは、
付け焼き刃で付き合って下さるブルー・ドラゴン様とのタッグでは追い切れない。
というか、私がブルー・ドラゴン様の空中機動に耐えられない。
それを察してくださった上でこの体たらくなのだから恥ずかしい限りです。
『あっちは召喚獣だから仕方ないかも~!』
「ですが、あちらは空に浮いているからまともな召還は使っていません。
今の所は護衛に[鎧魚]、攻撃に小魚と海豚だけ。
時間稼ぎが目的とわかっていても、面白くはありませんね」
『僕も面白くはないけど、あまり正面衝突も宜しくないんだよね?』
視線を向けた先で召還とブレスで発生した霧の隙間からステルシャトーと目が合う。
「つまらないわね!」
「同意見だわ!」
意思は一致していたらしい。
返事も聞いてブルー・ドラゴンから飛び降りると慌てた声が耳に届く。
『ちょ、ちょっと!?アルカンシェ!?』
「術者は私達が相手をします。
鎧魚の相手をお願いしますね!」
落下の最中に考えていたのは、
お兄さんが苛刻のシュティーナの相手をしている限りは邪魔は入らないであろう事。
足が地面に達した瞬間からはそんな事は蚊帳の外へ追いやられ、
意識は目の前に存在するステルシャトーに集中する。
「いざ!」
「勝負だわっ!!
キィィィンキキンッ!
上空でブルー・ドラゴン様と鎧魚の戦闘が始まったことを認識しながらステルシャトーと切り結ぶ。
「この膂力!成長したのだわっ!」
「時間稼ぎで済むと思わないで下さいっ!!」
シンクロを持ってしても負ける膂力で飛ばされる。
「《鯨、鯨、鯨。大いなる存在よ、小さき者に目も向けず存在だけで飲み干すと良い!。
お前は小さい!生きる価値も無い程に!》」
新しい召還魔法!?
耳慣れぬ詠唱とステルシャトーの足下から広範囲に広がる魔法陣に警戒し、
ランディング後に前に出ようとする己を自制し止める。
浮き出る幻影に妨害する魔法の構築を開始。
効率を考えれば発動前に潰すのが定石!
『《氷結覇弾!》』
使い続けた甲斐も有り発動に時間は掛からない。
勇者の剣が多重で発動し氷垢のステルシャトーを襲う。
「《ゼルヘシュ・アルタージュ!》」
ただ、やはり魔神族。
妨害は間に合わず発生した大きな生き物の幻影は実体を持って、
氷の礫は全て巨大な尾で弾かれてしまった。
『出方は突進タイプじゃなさそ~!』
「ちょっと待ってねぇ・・・、
アクアちゃんを通じてお兄さんの記憶を検索してるからぁ・・・」
視線は氷垢のステルシャトーから離さず、
脳内では記憶の海から鯨という生物を必死に探していく。
くじら~、くじら~・・・。
あった!
「突進、飲み込みなどが無ければ潮吹きが怪しいですね!」
『え~とぉ、潮吹きぃはコレかぁ~。
じゃあ広範囲攻撃かなぁ~?』
鯨を理解し、攻撃に利用しそうな特徴を予想。
そして範囲と判断を下せば自ずと対処方法も絞られる。
「広範囲攻撃魔法、持ってないですね」
『創るしか無いね~』
あちらは鯨の上部から波の様な波紋が広がっている。
潮吹きのイメージ通りで正しければ攻撃は上空から落ちてくるはず。
ならば、こちらは地上から迎撃しなければならない。
召還魔法は見れば見るほど完成された魔法だ。
魔神族は不明な点が多いけれど、
少し長い詠唱を行えば様々な方面に有効な攻撃が出来るのだもの。
どういう原理なのか解明したい気持ちを抑えつつ、
アクアちゃんと一緒に新しい魔法を創造する。
「《グラキエルスティンガー!!》」
発動と共に武器を握っていない片手を拳に固め前に突き出す。
拳の隙間から零れ落ちる一滴は地面に触れると広範囲を一瞬で凍て付かせていき、
凍った大地にはいつの間にか氷で出来た剣が幾本も生えている。
「踏みつぶせっ!!」
「イグニッションッ!!」
『ふぉいや~!』
方や潮吹きにより高く舞い上がった水のような何かは弧を描いて広範囲の地面に向けて落下してくる。
それは小さな滴であったはずなのにみるみるうちに質量が増幅していき、
やがては氷のランスへと成長して幾百の礫となってアルシェとその周辺へと落下を開始した。
そして、方や地面に生える氷の剣も自発的に抜けると方向を上空へと修正し、
魔力の帯を引きながら落下してくる無数のランスへと導かれるように向かっていく。
ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパアァァン!!
連続する炸裂音と空を覆う冷気の煙が大量に発生して澄み切った空は見えなくなった。
ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパアァァン!!
「《貴方の光はどこにあるの?海の底で帰りを待つ。
幾百幾年月の中で私は大きく大きく成長したわ。
全ての光を貴方に還す。その力の名前は愛!》」
ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパアァァン!!
召還魔法の強みは発動すれば制御の必要がなく手を離れたうえで広範囲を攻撃してくれること。
だからこそ、こちらは迎撃に制御力をほとんど割いて何も出来ない状態であるにも関わらず、
ステルシャトーはここで次の一手を指してくる。
「《ヒーリングコーラル!》」
ようやく迎撃が終わった頃には、
ステルシャトーの背後にいた鯨は失せ、代わりに大きな珊瑚生えている。
これでソードフィッシュの養殖環境と回復手段を彼女は得たことになる。
『ここで戦闘を続けるつもりみたいだね~』
「結局、竜の巣の焼き直しですかっ!」
悔しい。
成長はしているし強くなっているはずなのに、
必ずその先に存在している魔神族。
せめてまともに相手が出来なければお兄さんの役にも立てないというのに、
遊ばれているかの様な余裕をあちらは見せている。
と、胸中で悔しさを吐露していると、
すぐ近くに何かが勢いよく落下してきて半壊している建物を完全に瓦礫に変化させた。
『苦戦してるね。大丈夫なのかい?』
「フリューネ様は余裕がお有りのご様子ですね・・・はぁ」
落下物の正体はブルー・ドラゴン様に組み伏されて自慢の鱗もボロボロにされた鎧魚であった。
オベリスクさえなければやはり生き物としても戦力としても最上位に位置するのを再認識致しました。
『確かに捕まえてしまえばどうという事はなかったね。
加勢しようか?』
「時間稼ぎが目的のようですし大丈夫です。
ソレを確実に殺したら休まれて結構ですよ」
ゴキッ!
『じゃあ、そうさせてもらうよ』
鎧魚がその姿を光へ返還されていく中で、
フリューネ様はそう言うと身体を小さくして邪魔にならない位置へと下がっていった。
『ねぇ~、次はアクアに代わってぇ~』
「いいけど、あまり無茶な体勢は止めてよ?
戻ったときに筋を痛めてた時は辛かったんだから・・・」
アクアちゃんの希望に応えて身体を彼女に明け渡す。
スキル[ユニゾン]の面白い所は、
人間側だけが主になるわけではなく身体を明け渡すことで精霊を主にすることが出来る点。
そうすると、表情や仕草や特に瞳はアクアちゃんの物になる。
そして魔法も氷主体から水主体に代わり、
物理攻撃の割合が減って魔法攻撃の割合が増える。
『よぉ~し!頑張るぞぉ~!』
ヤル気満々の気の抜ける元気な掛け声を口にしながら振るう槍剣から、
水の魚たちが続々と産まれ増えていく。
槍剣もアクアが練習しているサイズをアルシェの身体に合わせた物に縮んでいく。
最終的には片手剣と言って差し支えない物へと完全に変わって剣がアクアの手には握られていた。
「何が起こったのかわからないのだわ。
貴女はおチビちゃんの方だわね」
『そーだよ!今度はアクアが相手だよ~!』
アルシェの身体なのにアクア口調のアルシェの声音が響く中。
アクアはゆったりとリラックスした様子で前進を始める。
アルシェの様に前のめりに武器を構える訳でもなく、
本当に歩いてこちらの動きを見つめて腕を組むステルシャトーの元へと進む。
そしてある程度差が縮まった直後にステルシャトーの周囲に浮かび揺蕩っていたソードフィッシュが自動迎撃モードに移行してアクアに突撃を始めた。
ただし、アクアも[お魚さんソード]から産み出した水魚たちが迎え撃ち2人の間で魚たちの攻防が繰り広げられる。
「ソードフィッシュはこれで攻略ですね」
『コーラルも魚の養殖には最大数があるっぽいよね~』
それぞれの魚が穿たれ穿ちを繰り返しそれぞれが光と魔力に還っていく光景を観察し前進を緩めないアクア達はこの時間もステルシャトー攻略の考える。
「《鯱、鯱、鯱。馬鹿な誰かは佇んでいた。
貴方の宿命は食べられること、抗うことも許されず波に掠われ私と共に生きてゆこう。
嗚呼、なんて美味な馬鹿なのか!インビジブルオルカ!》」
『高速詠唱だぁ~、厄介だな~』
シャチもますたーの記憶から検索出来た。
オルカアタックって言う海から陸地に一気に乗り上げて対象を捕食するものらしい。
ステルシャトーの詠唱後に広がった光の輪は地面を走って行き、
広範囲を囲って止まった。
『アル、気配の読めない敵を相手にどうするべきかなぁ~?』
「召喚魔法自体は水氷属性なのは間違いないけれど、
実際に効果を発揮するのは召還された者達みたい。
オルカも潜口魚と同じで自前の空間を持っているタイプね」
でも護衛の様に自由に動き回るわけでは無く、
結局は指定範囲内の敵を目標に動く魔法かぁ~。
ステルシャトーのソードフィッシュみたいに自動迎撃なら任せればいいんだろうけど、
アクアのお魚さんは自動じゃ無いから間に合わないなぁ~。
『面倒だから、飛ぶね~?』
「地面に接しているから脅威になっているわけですしね。
――ん?飛ぶ?跳ぶじゃなくて?」
『アクアは練習したけど、アルは初めてだね~。
まだ実験中だし安定はしないけど頑張ろうね~!』
「え!?あ、ちょっと!?」
アクアは相棒に軽い口調で伝えると、
返事も聞かずにお魚さんソードを前方に軽く投げる。
そのまま弧を描き氷原に斜めに刺さったお魚さんソードに満足気な表情をしたアクアは勢いよく[アクアライド]で自ら剣に向かって滑り出す。
アクアのやろうとしている事はもちろん[シンクロ]も[ユニゾン]もしているアルシェには不足無く伝わっている。
ただし、伝わる情報はアクアがやろうと決めて思い浮かべた瞬間からであり、
滑り出した時点で数秒しかない。
つまり何の覚悟もなく、
自身が未体験の魔法を魔神族相手に試そうとするアクアに引き摺られる。
結果。
「ひゃあああああああああああ……うん?飛ぶってこういうこと?」
アクアは子供だ。何でも体験することは面白く、
親が親なだけにアルシェとの即席魔法や行動にも慌てるような事は無い。
しかしユニゾンの意識交代の実戦投入は初めてで、
育った精神のアルシェが精霊サイドで同じ事をされると流石に慌てざるを得なかったわけだが。
「結構しっかりしてるかも。
[龍玉]を足に纏わせてるのね?」
『そうだよぉ~。
小さい頃に乗っかって浮かんだこともあるし、
加階して浮かべなくなってからもアクアは浮かべないのに何で龍玉だけ浮いてるんだろうって思ったから試したの~』
現在の武器は龍玉を半分使う槍剣でもお兄さんが扱う蒼剣でもない。
3分の2程はまだ余っている龍玉を浮遊に使っても攻撃が緩むわけでは無い。
扱えるなら問題ない。
そう判断したアルシェは直ぐさま落ち着きを取り戻し戦闘に集中する。
『おいで[龍玉]!』
空を滑走し始めたアクアの隣に呼び出された竜玉が出現し併走を始める。
剣と両足に使ってようやく半分となった竜玉だが、
それでも赤子の頭程度には残っていた。
「~~~~~~~っ」
『ひゃっほ~!《ショット!》』
アクアは自前の精霊ボディの時に練習していた空中滑走なので楽しげなのに対し、
始めて乗るジェットコースターのような慣れない遠心力でぐるぐると回されるアルシェにとっては何が何やら状態である。
ピストルの形にしたアクアの手から水球がピンク色の珊瑚にパンッ!と当たるも、
破壊には至れずステルシャトーも妨害などの動きをする事はなかった。
『反応なし。《カノン!》』
中指も伸ばして銃身を広げて口径も大きくした水球が再び別角度から
ガンッ!と珊瑚に当たる。
『ヒビ入るけど~、すぐ修復しちゃうねぇ~』
「様子見なんて生意気なのだわっ!
《駄津、駄津、駄津。貴方は弱い、それでも私を愛してくれた。
ありがとう、ありがとう。貴方は貴方たち、貴方たちは私の刃。
影に潜む敵を撃ち抜く貴方たちに疾風の加護あれ!グラシアールエクセリオン!》」
『げぇ~!?上に参りま~す!』
足下で展開している魔法は浮く能力を持つ龍玉を用いた[アクアライド]だ。
つまりマリエルや宗八の様に真上に向けて移動が出来ないので、
急角度で弧を描いて上昇するしかない。
ステルシャトーの召喚魔法が発動すると、
つむじ風が発生してそれは急速に成長をして一種の竜巻と言えるレベルまで天高く巻き上がった。
「水の竜巻ですね。
詠唱からしてソードフィッシュに類した魚が私たちを狙って撃たれるのでしょう」
『下のオルカもまだ姿を現してないから注意しないとねぇ~』
とはいえ、まずは様子見。
倒せるなら倒したい所ではあっても、
手の内に知らないことがあればその1撃で死んでしまう可能性が高くなる。
知っていれば次までに研究出来る。
毎日の訓練は勝つ為では無く死なない為の訓練だとアクアも理解はしているのだ。
と、少しの考え事に時間を使っているうちに水竜巻から予想通り魚が射出され始めた。
ただし、数匹ではなく数十匹がマシンガンの如く次から次へと間断なく発射される上に面倒なホーミングも付いているらしい。
『ほっ!ほっ!えい!やー!』
ステルシャトーと珊瑚を中心に水竜巻との追いかけっこが始まった。
ほぼ同速度で動く水竜巻はともかく、
やはりソードフィッシュ亜種は回避しても弧を描いて再びアクアを狙ってくるので斬り払いと撃ち落としで対処を開始した。
「身体が小さいから今まではわからなかったけど、
私の身体を使うとお兄さんに引けを取らない剣士になりますね」
『筋肉とかが付いてないからねぇ~。
いつもはますたーに纏って戦闘もしてるし経験的には身体の使い方も剣の扱い方もわかってるんだよぉ~?』
単純に幼い身体。
これがアクアの強さを妨げている原因だ。
つまりは身体が成長さえすればいずれは[ユニゾン]している現状の強さを個人で使えるという事。
「将来有望ですね」
『アルシェはもうちょっと筋肉付けた方がいいねぇ~。
ますたーよりも振りが遅れるからさ~』
「男性と女性の差もあるし、
あまり付けすぎると身体の成長が遅れるそうなので・・・。
私、14歳なので18歳くらいまでは筋肉量を抑えたいんです」
『ぶ~ぶ~!』
不満そう・・・。
『――っ!!来た!』
「タイミングバッチリで狙ってきましたねっ!」
時間にして1分くらいだろうか?
水竜巻は光となって姿を消して射出されていた魚たちもまだ消える前のわずかな息を抜いた瞬間。
真下から巨大な黒と白のコントラストが美しい魚?が大口を開いて飛び出して来たのを察したアクア達は、残る小魚を無視して無理矢理さらに高高度へと移動し、両手の人差し指と親指を合わせて輪を作る。
『《おいで!》』
「《凍河の息吹!!》」
両手の輪にプルン♪と龍玉がハマるのを確認してから一息で吹き込む。
空を滑走しながらオルカの範囲は確認していたので、
今までの直線上のブレスではなく拡散するブレスできっちり範囲を納めて凍て付かせる。
「龍玉の魔力は問題ない?」
『まだまだイケるよ~!毎日コツコツ大事だねぇ~!』
私たちの魔力の源は現在3つある。
一つは持ち前の魔力、二つ目は竜の魔石、三つ目は精霊姉妹のみが所持しているオプションだ。
アクア曰く、オプションは自分の半身のような物であり、魔法とは違う概念の存在であり、魔力を溜め込んでおける袋でもあるらしい。
[カノン]などで使う時は魔力消費のない一撃となり、
[凍河の息吹]などは寝る前にコツコツ溜め込んだ魔力を圧縮して使用している。
もちろん高濃度に圧縮された[凍河の息吹]を受けたオルカは中空受けた為尻尾の先まで凍り漬けになった挙げ句に落下の衝撃で砕けた端から光になって消えて行く。
さらに範囲内にはコーラルもあったがそれも今は活動を停止し、
周囲を守っていたソードフィッシュ諸共消えてしまう。
ただ、距離もあり拡散した結果、威力は落ちている。
肝心のステルシャトーにとっては蚊が刺された程度の威力になっているのか肌を擦る程度に留まっている。
『《ブラスター!》』
容赦ないアクアの攻撃が再開された。
薬指も伸ばした銃身で撃つのは水球ではなく放射。
これには流石にステルシャトーも豪奢なメイスを前に出す事で防ぎ始めた。
この辺りからダメージが少し入り始めるってことかなぁ~?
「《《海豚、海豚、海豚。 哀れなる漂流者よ、いま救いの使者が舞い降りる。 1に突き、2に潰し、3に引き摺り回し、4で壊せ!》」
地上と違ってまだ粗の見える空中滑走。
アクアが試してる間にあっちも観察をしていたから見切れると判断して詠唱を開始した~?
「《アルディメンド・グリアノス》》」
『《おいで!》《龍玉一閃!》』
数匹の海豚と高濃度一閃がぶつかり、
かつての竜の巣での焼き直しが行われたが結果は同じであった。
海豚たちは消し飛び、
尚も前進する一閃をステルシャトーが豪奢なメイスで受け止める。
「この力っ!?あの男と同じ!?」
『《龍玉一槍!》』
このアクアーリィ油断せん!
一閃の亜種Ver.の龍玉シリーズは、
父・宗八が扱う竜の魔石の欠片を用いた高濃度一閃を真似たアクアオリジナルの模擬技法である。
まぁ、単純に欠片の役割をオプションである龍玉に置き換えただけで、
こちらは日頃貯め込んだ魔力を圧縮して使用している為、使用回数に制限がある。
父・宗八の扱う欠片はブルー・ドラゴンとフロスト・ドラゴンがポコポコ生産出来るので実質回数制限は無い。
「痛たたたた・・・、やっぱり回避しないと足を止められちゃうのだわ」
『《アイシクルアンカー!》』
「《蒼天に広がる星々よ、魔力の奉納を持って我は願う》」
[インビジブルオルカ]の効果がなくなり安全になった地上へ戻って来た耳にその声は冷気の壁の向こうから聞こえてきた。
続いて詠唱は聞こえて来ない。
ならば、魔法剣ならぬ魔法鎚でのお返しを警戒する為に構えを取る。
魔力は氷の結晶へと姿を変え、数は4つ。
地面から生えたアンカーも含めて射手は7つ。
「《ブリガンティア・バスターッ!!》」
『「《アブソリュート・ブレイカーッ!!》」』
氷竜の巣を貫通せしめた砲撃と、
アルシェ&アクアが扱える最強の収束砲撃がぶつかり広範囲に発生した魔力爆発にステルシャトー共々こちらも巻き込まれる。
『スゥ~……ハァ~、死んじゃうかと思ったぁ~』
冷気による白煙が身体に纏わり付く中、
胸一杯に息を吸い込みゆっくりと暖かい白煙を吐く動作でパラパラと体中に張った薄氷が割れては落ちていく。
「体力も体感的に三割減っていますね、痛いはずです…。《グレーターヒール》」
身体の欠損が無いことで自前の回復だけで賄える事に安堵しつつ、
ダンジョン産魔導書で以前覚えた中級回復魔法で癒し始めた。
実際の戦闘では生き残ることが優先のため、
怪我やHPの低下は訓練での体験がほとんどである。
だるさや痛みに耐えて動く訓練ももちろん行っているけれど、
そんなものはさっさと無くしてしまった方が集中出来るものだ。
「流石に水精なのだわ。
いまの威力を余裕を持って生き残るのね」
『アル~、あっちは凍ってなかったみたい~』
「水氷耐性が水精や真なる加護持ちより高いって反則ですよね」
それでもダメージは入っている様にも見える。
ローブの裾が少々痛んでいるから。
以前使っていた[シルヴェリーガード]でしょうか?
…ゴゴゴゴゴゴゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ !!!!
『わわわわわ~、地面が揺れてる~!』
思考に耽る間に体力も回復したので、いざ再戦!と思い足を出そうとした瞬間。
微かな揺れを感じたと認識した数秒後には流石に立っていられない状態にまで体勢を崩し、
慌てて剣を槍剣へと変化させて支えとする。
ついでに武器が変わったのを機にアクアとアルシェは交代も行った。
「あら?もう時間なのだわ?
せっかく興も乗る歯ごたえのある戦いになっていたのに」
「時間稼ぎはもういいのですか?」
「えぇ、殺しきれなかったのが悔やまれるけれど、
次の楽しみが増えたと思えば帳尻は合うのだわ」
本当に楽しみなのか、
ステルシャトーがこちらへ口角をあげて笑いかけてくる。
その笑顔は以前にも見た邪悪で存在を無視出来ない嫌悪感を私たちの胸に沸き起こす。
ザッ!!
『《アイシクルバインド!》』
右足を後方へ引き身体を半身にする。
頭に響くのはお兄さんの言葉。
「殺せるなら頭を破壊しろ。情報は魂さえあれば後でいくらでも抽出出来る」
揺れに負けて膝が折れる私の足をアクアちゃんがバインドで無理矢理地上に縛り付けてくれる。
槍剣は宙に浮き、
致命を与えることを念頭に魔力は込められるだけ込め、
高濃度魔力も刃に纏わり付けて威力を最大に上げる。
狙いは私もアクアちゃんも過たずステルシャトーの頭。
「《シューーーット!!!》」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」
距離は確かに存在した。
それでも自信を持って轟音と共に放たれた槍剣の矢は、
冷気を巻き込みながら互いの間に存在した距離を一気に駆け抜けた。
しかし…。
『――っな~に!?』
突如、地面から現れた巨体が盾となって打点がズレた。
現れたのは鯱。
肉体を抉られ凍て付いた身体が飛び散るのも余所に、
主を守る為に盾となり身体を捻って槍の抜ける方向を無理矢理上方へねじ曲げた。
「一匹だけじゃなかったんだ…」
すぐに光となって消えた鯱。
ただし、役目はしっかりと果たして消えていった。
その向こうで普通の微笑みに変わった表情のステルシャトーの存在感が薄れていくのが分かる。
「じゃあね、おチビちゃんとお嬢ちゃん」
『自分だってアルくらいでしょ~!!』
どういう原理かは分からないけれど、
確実に圧迫感がなくなり身体から無駄な力が抜けていく。
召喚獣が失せるのと同じように光を纏いながらゆっくりと透明になっていくステルシャトーは、やがて完全に姿を消したのだ。
力が抜ければユニゾンも切れて私の胸元にアクアちゃんが本来の姿で出現するのを両手で抱き留める。
「ひとまず、お疲れ様。アクアちゃん」
『アルもお疲れ~!でも、ますたーと合流しなきゃね~!』
「…ですね」
意識を切り替える為に長い深呼吸を挟む。
揺れもずいぶんと収まっているけれど、
代わりに城下町の多くは細かな地割れが発生し段々になっている。
そして一番目を引くのは王城を背に乗せて城下町の中央で鎮座している巨大な何か。
いえ、あれが[キュクレウス=ヌイ]なのでしょうね。
「フリューネ様!お兄さんと合流するので乗せて下さいませ」
『別にいいけどさ。この地域に来てアルカンシェは僕への遠慮が無くなってきたよね』
「お兄さんの妹としてお褒め頂きありがとうございます♪」
『フリュー!アクアは?アクアは~?』
『いいから乗るなら早く乗って!あの兄にしてこの妹ありって奴かなぁ~……』
大きな翼は飛び立った。
この地の最後の戦いはもう間もなく。
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