特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

黄玉八重

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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -29話-[決戦前日]

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 ゴォォォォォォォォォォ・・・。
 目の前で最後の[アクエリアスガイザー]が吹き上がっている。

 結局、中央に近ければその分濃い瘴気という予想は当たっているようで、
 瘴気モンスターの発生は変わらずあったし、
 禍津核まがつかくモンスターも出現はしてもヴィルトゲンの位階より下の精霊ばかりだったのでマリエル達が全て処理していた。

 ランクも7~8だし[ユニゾン]していれば問題なかったし。

 初めの方に対処した区画は、
 最終的には30分で隣の区画まで浸水は進んでいた。
 お兄さん達が土に戻した大地の部分は、
 土が潤うどころでは無くひたひたになるまで水に浸かる事まで確認したので、
 廻る位置も浸水に合わせて調整した為予定よりもかなり時間は余る結果になった。

 ついでに土精が引っこ抜いたと伺った土塊に付着する瘴気魔石にもアクエリアスガイザーが触れると、シューという音と黒紫こくしの煙をあげて浄化されるのも視認して効果があることも確認している。

 浄化された瘴気魔石は無属性の魔石になるわけではなく、
 土へと還元されて土塊の一部へと戻っていた。

「姫様・・・少しよろしいですか?」

 瘴気を浄化する効果を付与している[アクエリアスガイザー]が兵士の仕事も奪い、
 地面の底から薄ら復活していた瘴気も全て浄化して、
 明日からの動きをシュミレートしている時にマリエルが空から降りてきた。

「どうしました?」
「ユニゾン中なので瞳もニルの好きに魔法のON/OFFが出来るのですが、
 城の屋根の上に、その・・・」

 ニルちゃんが関わるなら[Omegaの秘薬]関連でしょうか?
 幽霊の問題は解決の糸口がまだないので、
 状況に変化が起こるのはあまり歓迎しがたいのですが・・・。

「瘴気に飲まれているのかは不明ですが、黒い霊体が佇んでいます」
「佇んでいる?モンスター化していないの?」
「はい、特に何もせずに城下町を見下ろしているだけです。
 ただ、姫様のお父様と似たマントを羽織っております」

 お父様と同じ?
 想像で誰かという予想は立ちますが、
 私自身の目で確認をしてラフィート王子へご報告した方がいいでしょうね。

「ニルちゃん、私達にも[Omegaの秘薬]を頂戴」
『かしこまりーですわー! 《Omegaの秘薬》』

 私の指示に従いマリエルの指が私達の瞼を撫でる。

『私もい~い?見たことないのよねぇ~』
「いいですけど・・・、ニルちゃん効果は弱めでね。
 スィーネさんも無理だと思ったら目を閉じて下さいね」
『りょ~かい』

 スィーネさんの対応はマリエル達に任せて私は王城へと目を向ける。
 マリエルは屋根の上に居ると言っていたけれど・・・。

 ――あっ!?

『居たね~。確かに周囲の霊体とちょっと違うねぇ~』
「間違いありませんね。フォレストトーレ王」

「――ローランド様です」

 お労しいお姿で・・・。

『人間の王様ってあんな感じなのね。精霊とは大違いだわ』
「精霊は位階が高くなればその分外見の変化が無くなりますからね。
 それよりマリエル、ラフィート王子に似た少年の霊体を見ていない?」
「あー、弟でしたっけ?見てないですね。
 王子なら平民とは違う衣装でしょうけど、それっぽいのは見かけてないです」
「そう・・・」

 人形ドールであれば王を操って突入した勇者様を油断させるかと思ったけれど、
 王の魂が解放されているなら人形ドールにされているのは弟王子?
 でも、黒くなっているというのも気にはなりますね。

『動かないわね』
「ラフィート王子へのご報告と合わせてお兄さんにも意見を伺いましょう」
『ここも30分くらいで終わるけど、ますたーはまだ寝てるよねぇ』
「仕事が終わり次第アスペラルダ陣営の天幕で待ちます。
 先に[揺蕩う唄ウィルフラタ]で連絡だけして約束を取り付けておけば大丈夫でしょう」

 その後は予定も立ったので連絡など必要な事を行い、
 残りの時間は瘴気から解放された霊体の様子を見つめたりと時間を過ごした。

 どうやら一部は開放された端からその姿を消しているらしい。
 お兄さんも霊体のその後については分からないと言っていたし、
 あの消え方が成仏というものなら安心出来るのですが・・・。

 天に昇るでもなく地に沈むでもなく、
 本当に解放された瞬間からスゥっと透明になっていきそのまま消えた。
 そもそも気配すらしない霊体なので見えなくなったから成仏とは判断も出来ませんね。


 * * * * *
「そうか・・・、父上は瘴気に取り込まれてはいないのだな・・・」

 俺が目覚めてリビングへと顔を出すと、
『お父様、アルシェ様から重要な伝言がございます。顔を洗ってから読んで下さい』とテーブルの上に置かれた手紙を指差され、
 目を覚ましてから中身を読めば面倒この上ない内容だった。

「遠目に見えた状況だけですが、
 少なくとも周囲のモンスターのような変容はしておりませんでした。
 違いとしては黒い霊体であった事のみです」
「アルカンシェ姫は父上の顔も知っているし、見間違いはないと思う。
 弟の姿は見なかったか?」
「残念ながら・・・」

 ラフィート王子にはこちらが確保している情報のほとんどを伝えている。
 今後も判断を仰ぐ可能性も高かったからだが、
 早くも幽霊関係で進展があるとは予想もしていなかったな。

水無月宗八みなづきそうはち、お前は父上を確認したか?」
「姫様の伝言を受け、すぐに確認は致しました」
「――どう思った?率直に述べよ」

 う~ん、なんて伝えれば分かるんだろ。
 前提知識として幽霊だの霊体だの成仏だのがわかっていない世界だ。
 ひとまず一般知識で伝えてみるか。

「通常の霊体であれば半透明で向こうが透けておりました。
 それこそ成仏する霊体はそのまま消えていくほどに・・・。
 ですが、ローランド王は黒い霊体をしており向こうは透けておりませんでした。
 あれは、悪霊もしくは地縛霊でしょう」

 言葉を自分の中に落とし込むように小さな声で復唱する王子は、
 作業が完了したのか先を促す。

「悪霊や地縛霊というのはこの世に未練を残して死んでいった者の成れの果てです。
 地縛霊は未練のある場へ縛られ、
 悪霊はその恨みを募らせて生きている人間に影響を及ぼすのです」
「違いがよくわからないな」
「地縛霊だった場合は王城、悪霊だった場合は城下町に影響が出るのではないかと」
「なるほどな、動きが取れるか取れないか。
 その悪霊だのに父上が本当になっていた場合の対処法は?」

 いや、俺は霊能者じゃないし。
 セルフ除霊も自分から切り離すまでしか出来ない奴ですよ?
 この世界のあの世が俺の知る輪廻転生と同じシステムかもわからないから般若心境などが効くとも言えない。

「申し訳ございません。
 こちらから何かを施して成仏いただく方法は思い浮かびません。
 無念を晴らして成仏いただく程度でしょうか」
「父上の無念であれば・・・、
 思い浮かぶのは王城の開放、仇を討つの2点か」
「ですが、ローランド様は城下町を見つめておいででした。
 王城ではない可能性もありませんか?」

 城下町とは民が暮らす街だ。
 各街とは異なって直接王様が納める街である、
 自国の民代表のようなものだろう。

 それだけ国を運営するに当たっては、
 このフォレストトーレの民の言葉や意見は重要視していた可能性はある。
 実際アスペラルダも民と王族の距離は近い。
 悪い意味では無く民の為に王が暮らしやすい国を作り、
 民の為に頑張る王族を支える為に民も誇りを持って生活をする。

 なら。

「ローランド王を私は知りません。
 なのでラフィート王子に確認となりますが、
 ローランド様は民の事を常に案じていた、もしくは意見を重宝していたのではありませんか?」
「確かに父上はギルドや兵を使って民の意見を集め、
 尽力している方であった。
 しかし、父上は王族の中では異質であって、
 私の教育は叔母上だったのだが父上とは考えを違えていた」

 王様は民あっての国と理解していたか。
 王子やくだんの叔母上様は前時代的な王族で、
 王様は民と王族や貴族との考え方の差、必要とする物の差を理解しようと努力していたのだろう。

「姫様の懸念に関しては城下町と復興し、
 民に笑顔が溢れれば王様は成仏してくださると愚考致します。
 ただ、上から問題の押しつけをするのではなく、
 民にも都合があり尊重すればその分貢献で返してくれると理解して政を行っていただくとよろしいでしょう」
「ふん、忠告はありがたいがまるで王族であるような口を利くな」
「往々にして問題の大半は互いの価値観の違いですからね。
 ラフィート王子とも拳を交えて理解し合わなければ、
 このように穏やかな会話は叶わなかったでしょう」
「貴様・・・、何が理解だ。
 ただ一方的に骨を折られ魔法の実験に使われただけではないか」

 苦虫を噛み潰したような顔で俺を睨むラフィート王子。
 さて、イージーな希望的観測はこんなところでいいかな?

「次にナイトメアモードの場合ですが・・・」
「――ナイトメアモードってなんですかっ!?」

 ナイスツッコミだ、アルシェ。

「今までの想定に魔神族は含まれていません。
 今回相手をしている王城の魔神族は、
 俺達は相対して来た者達とは違って情報が少ないのです。
 そのうえ判明している能力が[死霊使いネクロマンサー]なら尚更情報不足のお陰で想像の幅が広すぎます」
「俺も情報は貰っているが小出しだからか余り危機感が無い」
「破滅の呪いの事もあるでしょう。
 ここで一度整理してみましょう、宗八そうはち

 アルシェに言われるままに頭の中でここまでに集まった情報を整理していく。
 名前は[隷霊れいれいのマグニ]。
 能力は[死霊使いネクロマンサー]と[マグニ]。

 死霊使いネクロマンサーは死体を操ることの出来る能力で、
 これが発覚したのはメリーとクーを牧場の山向こうにあると思われるオベリスクの調査に向かわせた時だ。
 多数の肉体の一部が崩れても動き続ける魔物を操っていたことから推測している。

 そして、マグニ。
 これは仮初めの魂を入れて操る死霊使いネクロマンサーと違い、
 大精霊と似たような分御霊わけみたまを死人に寄生させて思考回路を操りながら情報収集することに特化した能力だ。
 通称[人形ドール]と呼ばれる被害者は多数存在しており、
 ゼノウPTもこの被害者だ。
 フォレストトーレが廃都になる前に王の名の下に招集された代表者が寄生の対象となり、
 動く死体は各国へと侵入するところであった。

 上記はどちらも肉体を操る事に関連していることから、
 首都防衛戦に特化した魔神族では無いかと考えていた。

 その上でさらに瘴気も操れることも考えれば、
 本人の戦闘力が低くてもガードとして運用する死体はおそらく瘴気による狂化で数段強くなるだろう。

「つまりは死体だけではなく、霊体にも干渉出来るのではないか、と?」
「そういうことです。
 能力の範囲がはっきりしない内は、
 何が出来ないと決めつけるよりも何でも出来ると想定して警戒することが必須です」

 少なくとも現状は黒紫こくしではなく赤黒いと言っていい霊体だったので、
 瘴気に取り込まれてはいないと思っているけれど。

「父上の状態は理解した。
 弟はどうなっているか想像でいいから教えてくれ」
「おそらくは[人形ドール]として勇者にぶつけるつもりかと。
 ローランド王は肉体的にもお歳的にも弟王子に比べれば劣っていると考えれば、
 ガードとして使うのは弟王子でしょう。
 それに勇者は甘いですから、隙を作る役目もあると考えております」

「貴様ならすぐ切り捨てるだろうが確かにメリオになら効果はあるだろう。
 それに隙を作る役というのなら他に強烈な攻撃方法があるということであろう?」
「本人か霊体を操ってかは不明ですがね」

 もう何を警戒しても仕方ないというレベルで何も対策は無い。
 少なくとも勇者達が場内に突入した後は、
 王城に到着した時点で天井を吹き飛ばして空を飛べる俺達が外からの妨害を対処する予定ではある。

 場内に関してはゲストとして参加するクライヴのおっさんに期待するしかない。

「アルシェ様の水まきが予想以上に効果が出ましたので、
 地面の表面上はひとまず浄化出来まして、
 水の上に漂う瘴気は兵士総出で大急ぎで対処致しました。
 各国各々で準備は進めておいででしょうが、
 早ければ明日決戦が良いかと思います」
「アルカンシェ姫も同意見か?」
「そうですね・・・、
 個人的にはもう一日様子を見たいところですが、また一日となると・・・」
「攻め時は日中の予定だからな。
 我々も戦争を火の国に任せっきりで金銭支援のみ行ってきた。
 まだまだ持つだろうが兵士の疲れ、慣れない敵、正体不明の強敵と来て各国不安は多いだろうな」

 普通の戦争という物を俺は知らない。
 まぁこれは戦争といえるのかどうかわからないが、
 少なくとも全力の国同士の戦争とは違うから数年続くような代物では無いだろう。
 数が多いとはいえ敵も99%が瘴気モンスター。
 対処方法さえ立ててしまえば復帰もなく確実にその数を減らすことが出来、
 現在は実際にわずか4日5日で城下町の7割の解放も済んでいる。

 まぁ、参加国はアスペラルダだけでなくユレイアルド神聖教国とアーグエングリンというのもあるんだろうけどね。

「父上の件は様子をみるしかない。
 もし父上が我らを害することがあれば水無月宗八みなづきそうはち、貴様が対処出来るのか?」
「お約束は出来ません。
 自分たちは霊体への安全な干渉を確立したわけではありませんので、
 もし対処する事になれば魂の破壊という手を使わざるを得ません。
 この手は・・・人の尊厳を踏みにじる行為ですから、
 自分としてもあまりやりたい事ではありません」
「おいおい、貴様は俺の身体をボロボロにしただろう」

 おや?今度は心外そうな顔でこちらを見つめてきたぞ?
 ――はっ!そういうことかっ!?

「肉体は治せますが、魂は破壊すればもう何も残りません。
 ラフィート王子の第一印象は最悪でしたが、ローランド王に関しては何も印象はありませんので」
「そういうところだぞ、貴様っ!」
「お兄さんっ!言葉を包んで下さい!」

 ガタッ!と勢いよく席を立ち上がり、
 苦虫の足が歯に引っかかっているような顔で人を指差す行儀の悪い王子様。
 隣に座るアルシェすらも苦言を口にしながら俺の肩を鋭くど突いてきた。

「日の出を考えれば今から12時間程度で丁度良い時間でしょう。
 流石に俺達アスペラルダだけの意見で決めることは出来ないので、
 朝までの間にまた集まって貰って正式な決戦タイミングは決めたいです」
「アルカンシェ姫は今から睡眠時間に入るのでは無かったか?
 聖女も同じであろう?
 今から話し合う場に出て、もし明日決戦が決まった場合は満足な働きは出来るのか?」
「心配いただきありがとうございます。
 私の代わりに宗八そうはちと、補佐に将軍を1名付けますので私は欠席とさせていただきます」
「聖女は居ても居なくても変わらないでしょう。
 代わりに決裁を取る方法はあるはずなので声を掛けておけば大丈夫でしょう」

 手の空いているアナザー・ワンも数名来ていたから、
 3名の賛成で可決とかじゃないか?
 その辺はどうなのだろうかと視線を王子の背後に佇む女性に向ける。

「貴様、本当に口には気をつけろよ。
 俺は自分を納得させたからある程度は目を零してやるがな、
 聖女や他国の王族にはしっかりと礼節を持てよ」
「王子、もう遅いです・・・」
「そうか・・・」

 いやいや会ったことがあるのはユレイアルド神聖教国だけですよ?
 クレアは雑な扱いになってきているけど、
 教皇にはきっちり礼節は守って会話させて頂いておりますとも!

 あとは予定として会うだろう王族はアーグエングリンと火の国だけだ。

「そういえば紹介はしていなかったか。
 発言をしていいぞ、プリマリア」
「ありがとうございますラフィート様。
 遅ればせながら、プリマリア=クルルクスと申します。
 以後、末永くよろしくお願い致します。うふふ」

 ん!?

「クルッ!クルルっ!?クルルクル!?」
「まぁ、鳥さんの物真似ですか?」

 違う!

「クルルクスだ、アホ」
宗八そうはち、落ち着きなさい。
 クレアのアナザー・ワン姉妹、その関係者ということでしょうか?」
「うふふ、母になります。ブイ!」

 娘達と全く似てないお母さんだな。
 アンチエイジングも凄い!
 それに、アンチエイジングも凄い!!

『ますたーが混乱してる!』
『お父様!お気をしっかりしてください!
 アレはモエア様と同じタイプです、きっと50歳児とかですよ!』

 膝上で静かにしていた娘達も騒ぎ出し、
 クーが妙齢の女性に対し危うい発言をしてきた。

「まぁ失礼なお子ちゃまですこと。
 私はピッチピチの49歳ですよ!」

 ニアピン賞!!
 クーの人を見る目が養われている!!

「話が進みませんね・・・。
 それで、ユレイアルド神聖教国が決裁する方法はありますか?」
「もちろんでございます、アルカンシェ様。
 その戦場にいるアナザー・ワンもしくは枢機卿の中で推薦が行われ、
 代表者を1名乃至ないし3名を選出し、
 その者の判断で決裁致します」
「連絡はこちらで回しておきます。
 1時間後を目安にお願い致します」
「わかった。こちらも覚悟を決めておこう」


 * * * * *
「状況は以上です。
 おおよそは連れてくる際に寄り道してご覧頂いた通りですが・・・。
 何かご質問があれば答えられる限り応答致します」

 集まったメンバーは各国のギルマスと夜間の為、
 招集に応えられる責任者たちだ。
 水の国は俺とフィリップ将軍、ギルマスはアインスさん。
 土の国はファグス将軍と副将が2名、ギルマスはリリトーナさん。
 光の国はガハハ氏ことギュラムシオ=オクター枢機卿と以前挨拶だけしたアナザー・ワンが1人、ギルマスはプレイグ氏。

 勇者も決着を着ける者としてこの場にいるが、
 アルシェとクレアはもちろんおねんねしている。

「ガハハッ!教国はやると決まればいつでも動くことは可能ですぞ。
 アナザー・ワンも枢機卿も教徒も準備は万全!」
「オクター卿はこう言いますが準備は万端ではありません。
 ただ、朝からという事なら問題ないかと」

 教国サイド。
 ガハハ氏とアナザー・ワンの2名は賛成。

「敵の大将は勇者様が対応するのでしたな?
 我らが城下町を開放している間にも戦闘を繰り返しておいででしたが、
 魔神族を相手に倒せそうですかな?」

 これはプレイグ氏だ。
 嫌な質問を勇者に向き直り語りかける。
 嫌な役目ながらも全員がそこは気にしている問題でもあるから止めるわけにも行かない。

「結論から言えば、わかりません。
 俺が戦闘経験のある魔神族は2名で、いずれも手も足も出ませんでした。
 不慣れな空中戦、手の内のわからない相手、有効な攻撃方法を把握していなかったなどの言い訳はしません。
 実際に実力が大きく劣っていたのは理解していますので」
「素直に答えればいいというわけではないでしょう。
 元より勇者様に最後はお任せする予定であったのはご理解していたでしょうに。
 我らは終わらぬ戦争を続けたくはないのですぞ?」

 お前が決着を付けねば終わらない。
 勇者として箔を付ける為にも一任しているのだから責任を持て。
 そういう言外の言葉を受け止めているのかメリオはプレイグからの厳しい視線を逸らさずに見つめ返す。

「わかっています」
「そう虐めるのは良くないですよ、プレイグさん。
 まぁ、勇者様の戦力を知るユレイアルドの意見は聞きたい所ですが・・・」

 守るようで結局は信じ切れないリリトーナさんがガハハ氏とアナザー・ワンに視線を向ける。

「ガハハ!私は前衛の槍です故、後方の槍に聞きましょう!
 どうですかな、勇者様の具合は?」
「可も無く不可も無く、ですね。
 戦場に来て現実を見る機会にも恵まれ精神的にも肉体的にも成長しました。
 これは確かです。
 しかし、本人も言われているとおりに魔神族は不明な点が多く、
 模擬戦の相手が出来るアナザー・ワンでは再現に限度がございまして、
 特に高濃度魔力を用いた技が果たして効くのか、これに限ります」

 その女性の視線がバトンの様に俺へと投げられ、
 釣られるように全員の視線もまた、俺に注がれる事となった。
 情報の発信源でありヒントも与えたのは俺だからな・・・。

「突入する単純な戦力という点で言えば問題はないでしょう。
 勇者PTに加えて別のクランリーダーが護衛と殿しんがり役として同行しますので。
 魔神族と勇者の精神面です。
 メリオ、エクスカリバーは扱えるようになったか?」
「大丈夫です。ただ、瘴気にしか効果がないのは変わりませんでした」
「破邪の効果があるなら魔神族にも効くだろう。
 魔力を集める際に自然魔力はほぼないだろうから、
 兵士などを王城近くまで極力寄せる必要はあるだろうが、
 当たればそれなりのダメージは期待して良いと判断します」

 見渡しながら断言する。
 今の一言で朝までに浄化を急ぐ必要も伝えられた。
 すぐにその場を離れた幾人かは伝令役の人だろう。

「精神面とは弟王子や王様の件ですか?」
「そうです。ラフィート王子には了承をいただいておりますが、
 果たして平和な世界から来た勇者に対処出来るか・・・」
「必要なら出来ます!」
「出来ますと言うのは簡単だ。
 だが、実際目の前に弟王子や王様が立ち塞がった時に動けなければ意味が無い。
 メリオが納得していなければ行かせてもこちらは安心出来ない」

 プレイグ氏の作った流れに俺も乗っかって勇者の覚悟を見届ける。
 終わらせる為に行かせるのだ。
 余計なチャチャに気を取られるようでは、
 魔神族の討伐なんて出来やしない。

 一瞬の隙で殺されるのがオチだ。

「今、この場で、お前の言葉で俺達を納得させろ。信じさせろ。
 勇者なら、メリオなら無事に終わらせてくれると。
 俺達は全員、その覚悟を見たい」

 言葉をわざと区切ってメリオを睨むように見つめる。
 戦力に関しては最悪、俺達が外で待機しているので突入する事も可能だし、
 他の魔神族の横やりも俺達が防ぐ予定なので勇者には期待している。

 俺が不安視している精神面。
 これをこの場で払拭して欲しい。


「俺は―――」


 全員が見つめる中、勇者が語り出す。

「この世界に来てから1年の未熟な勇者です。
 今回の大戦にも参加はさせて頂いてますが、
 実際フォレストトーレの異変に感づいたのは別の方でした」

 そこは別に言わんでよろしい。
 方々に俺達が目立つような発言は控えてねって言ってるから。
 フォレストトーレでは動きすぎたと反省はしている。

「ですが、敵目標が光属性の攻撃が有効だと、
 少ない情報から導き出して下さり。
 皆様がその意見を信じて自分に託して下さったことに感謝しております。
 その期待に恥じない勇者として、
 そして、皆様が懸念している自分の甘さを殺してでもやりきって見せます!」

 う~ん、好青年!
 元の世界なら良い感じに受け取られるけど、
 異世界だと甘ちゃんってのが漏れててちょっと難しいか・・・?

 俺が目を強く瞑り唸っていると、
 何やら視線を感じたので薄めを開けて誰だ?と確認をする。

「(なんすか?)」
「(貴様が推薦した勇者だろう。
 俺も貴様の案にフォレストトーレの行く末を掛けたのだ。
 助けないのか?)」
「(いやぁ、どうすればいいですかね。
 助けたいのは山々ですけど弱いでしょう?)」
「(知るか。無理矢理纏め上げろ)」

 ラフィート王子は厳しいっすね。
 アルシェなら持ちつ持たれつですから私に任せて下さいって言ってくれるのに。

 まったくモー助!

「メリオの決意はわかった!」

 わかったの!?と視線が集まるが気にしない。

「いずれにしろ高位階光精霊エクスと契約している勇者が最も光属性の高威力を持つことは確かです。
 隷霊れいれいのマグニへの有効打も結局推測の域を出てはいなませんから、
 全てを勇者に任せるわけにも行きません」

 フィリップ卿が代わってくんねぇかな。

「状況が代わり臨機応変と綺麗に伝えたい所ですが、
 行き当たりばったりになれば皆様にも同様の覚悟は必要となります。
 各々方、己が手で王族を手に掛ける覚悟は出来ておりますか?」
「然り、ラフィート様より許可が下りており、
 尚且つ必要な事であれば私は王族も手に掛けましょう」

 全員に投げかけた言葉。
 しかし、すぐ横から速攻で回答が帰ってきた。
 こんなところでの援護じゃなくてさっき助けてよ、フィリップ卿。

「この戦は3カ国が協力しフォレストトーレを解放するものです。
 アーグエングリンも同じく覚悟はうに出来ています」
「同じく」

 土の国が立ち上がり決意を口にする。

「ガハハ、そうですな。
 勇者ばかりに全てを任せるわけでは無く、
 自分の世界の事は自分たちも努力し決断する必要もありますな!」
「正統なあるじ無き国を解放する為、
 我々も覚悟を共に致します」
「及第点だが。儂もその業、背負おう」

 教国も立ち上がり、
 勇者の覚悟を最初に問うたプレイグ氏も渋々ながら追従する。

 最後だけお願いします。

「勇者メリオ、背中は我らに任せ前だけを見て突き進め!
 この信頼を、期待を裏切ることの無いよう精一杯勤めてくれ!」

 これでもやっぱ王族なんだね。
 今の言葉だけは威厳があって俺も頭を下げたそうになっちゃったよ。

 ひとまず下準備はこれで終わりかな。
 あとは明日。

 決戦は明日だ。
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さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

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