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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-
†第12章† -23話-[其は――、エクスカリバー‼‼]
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「え~と、どういう状況ですか?」
「うちのゼノウPTがそろそろ精霊使いとしての分かれ道に来たから、
ついでに勇者PTの様子を見に来たんだよ」
メリオが近付いてきたのが見えたので、
素早く揺蕩う唄を起動して対話可能な状態に引き上げる。
「分かれ道って何ですか?」
「おたくの弓使いとうちの弓使いの技量に差があるけど、
属性を確定して研鑽すればもっと強くなれるかもねって話」
指を差して攻撃間隔の速まったトワインに結局何もさせて貰えず、
自分がなんでここに居るのか分からなくなってきている彼を例にして説明する。
事故死してくれねぇかな。
「・・・これは酷い」
『精霊使い、今回は聖女に用事ではないのですか?』
「今日は勇者PTに用事で来たんだよ。
あいつらの面談は終わったからメリオにはエクスを利用した必殺技を教えてもらいたくて来た」
「必殺技?何ですかそれ?」
おや?エクス・・・カリバアアアアアア!!!
って知らない?
「移動に使っていた勇者魔法に似た感じで、
勇者がレベルが上がれば勝手に使えるようになる大技ってあるんじゃないの?」
『ありますけど・・・ねぇ』
「・・・ねぇ」
何よ、その気まずげな空気。
仲良くなって良かったね、君ら。
「Lev.20で覚えた[ヘリオン・レーザー]は必殺技じゃないし、
Lev.23で覚えた[ヘルリオ・ルラ・トレイン]は長距離移動魔法。
Lev.40で覚えた[光翼斬]は見た目は水無月さんの一閃と一緒ですし、
Lev.47で覚えた[輝動]は戦闘中の光速移動魔法。
Lev.60で覚えた[セイクリッドセイバー]は光属性魔力で剣身を大きく伸ばす技ですし、
Lev.72で覚えた[ブレイズ・リュミエール]は発動に時間が掛かるし広範囲を対象にした魔法ですから・・・」
『どれも精霊使いが求める必殺技なるものとは異なるのではないですか?』
こいつポケモンかよっ!
レベル上がるだけで技を覚えるだけでもこの世界ではおかしいのに、
いくつも覚えるとかお前ポケモンかよっ!!
見たことがない魔法や技はあるけれど、
確かにどれもエクスカリバー!!!!ではない。
流石にこっちからエクスカリバーって技はないの?とは聞けない。
俺が異世界人である事は勇者には内緒なのでね。
「いまレベルいくつだっけ?」
「Lev.88になったところですね。
瘴気モンスターがランクの割に経験値が高かったのでこの戦場で上がりました」
うぅむ。話を聞く限りではレベルが20上がる毎に強めの技を覚えている感はある。
でも、80で覚えていない。
それにLev.72で覚えた[ブレイズ・リュミエール]は確かに強力な魔法だった。
じゃあ、レベル以外で覚えられそうなのは・・・ジョブレベルか?
「メリオ、勇者とはどういう存在だと考えてる?」
「勇者は勇気があって周りにもその勇気を伝播させて、
心をひとつにして巨悪に立ち向かう者だと・・・思ってます」
自分が理想の勇者にはほど遠い事が脳裏に過ぎったのか、
言葉尻がどんどんと小さくなっていく。
まぁ概ね俺も同じ意見だ。
「800年前の勇者の文献がほぼないから確かなことではないけど、
勇者として[徳]、善行を行う事は必要だと思う。
教国に引きこもってばかりでなく、
世界を旅して色んな人々と交流して、
勇者なら魔族との戦争を終わらせてくれるという信頼を勝ち取らないといけない」
神様と同じで神聖視される存在である勇者。
つまりは超絶善人、良い人は異世界のキリストみたいなものだろう。
本来は異世界の存在であるメリオは、
通常この世界からすれば雲の上の存在と同じく手の届かない存在だ。
なら、神と同じく信仰が高まれば勇者としてのジョブレベルも上がるかもしれない。
旅を通して心も身体もただ鍛えるだけより強くなるなら、
なるほど色んな物語の勇者が旅をするのは正しい流れだったんだな。
「戦える奴だけが味方ってわけじゃない。
俺もよくわからないけどメリオの言う勇者像は間違っていない様に思える。
だから人々に勇気を与えて、
頑張って平和にしてくれって願う気持ちがお前を。
勇者を後押ししてメリオの心も勇者にしてくれるんじゃないか?」
「今の俺は勇者じゃないですか?」
「職業は勇者だろう。
でも胸を張って勇者ですとお前は名乗れるか?
レベルを上げても精神面が追いついていないように俺には見える」
俺の言葉をゆっくりと咀嚼するようにメリオは視線を落として黙り込む。
やがて視線は戻って俺と瞳を合わせて来る。
「そう・・・ですね。そうだと俺も思います。
今のままだと勇者とは流石に名乗れません」
「強くなる方法、強い攻撃を覚える方法、必殺技の扱い方。
色んなことを勉強して経験して自分に落とし込まないといけない。
俺達だってその途上なんだ。
一緒に行動するわけじゃ無いけど、同じ気持ちの仲間がいるって事は忘れないで欲しい」
「わかりました」
さて、なんか良い感じにまとまったな。
自分でも驚きの諭し方だった。
俺でも良いこと言えるんだなぁ。
「でさ、話は戻るんだけど、
メリオの世界にもエクスカリバーってあるんだよな?」
「えぇ、ありますよ。
まぁ実物がある・・・と言えるかはちょっとわからないですが・・・」
「どういうこと?」
「多くは書物に登場する聖剣がエクスカリバーという名前なんです。
岩に刺さった剣という話が有名ですけど、
俺が調べた話はガルガーノの聖剣というものもありました。
曰く、騎士ガルガーノは戦いに疲れて岩に剣を刺す事で戦いを止め、
アーサー王は王となる為に剣を岩から抜いて戦場に赴いた、と」
「2つは同じ剣を差しているって事か・・・」
ディズニーでも扱われるくらい有名な剣だし、
エクスカリバーに類した話はいくつか俺も知っている。
ガルガーノさんは知らんかったけど。
「魔法とかが無い世界ですけど戦争は普通にありました。
でも岩に剣を刺すっていうのはちょっと現実味がありませんし、
どこまでが本当かはわかりません。
他だとゲーム、あー、創作物の話にもエクスカリバーは強力な武器として登場しますよ」
「おー、それそれ!
エクスとシンクロすれば再現出来るんじゃ無いかなぁって思ったんだよ。
創作物の攻撃方法でも使えるなら十分威力が出るんじゃ無いか?」
「なるほど!それは夢があります!
といっても、記憶に鮮烈に残っているのはひとつだけなんですけど、ははは」
ははは、俺も知ってるの多分同じだよ。ははは。
その作品は深くまで追求するとキリがないから王道のエクスカリバーだけ覚えてくれれば良いから。
見せて貰えれば真似したって言い訳して俺も堂々と使えるし。
「じゃあ、必殺技になるかどうかわかんないけど試してみよう」
「やってみましょう!」
『メリオ、イメージをしっかりしてくれれば私が極力再現しますからね』
「よろしく頼むよ、エクス」
メリオと光精エクス、そして俺と光精ベルは教国の天幕から外れたところまで移動する。
めっちゃ光るだろうからね。
「ベルもしっかり観察しておくんだぞ。
真似出来るようなら俺達も強力な技が使えるようになるからな」
『がんばって観察します!』
「あ、もしかしてそれが狙いですか!?」
ヤベッ!バレた!!
「さて、何のことやら。
強くなる為なら貪欲に行かないとな」
『上手く乗せられたメリオの負けですね。
まぁ精霊使いの光精はまだ幼いですから、
簡単には真似出来ないような高度な技を編み出しましょう!』
「今回は乗せられてあげますけど、
何でも簡単に事は運ばないって水無月さんに教えてあげます!」
はいはい、教えてくれ。
今完全再現出来なくてもいずれ出来れば強力な手札になるからね。
俺のイメージと合わせてより完成度の高いエクスカリバアアアア!を使いこなしてやんよっ!
「この辺でいいかな」
『では、行きますよ。メリオ』
「『シンクロ!』」
2人がシンクロを宣言すると、
互いの身体からは白いオーラが溢れ出し、
まるでスーパーな戦闘民族みたいになる。
ちなみに俺も初めの頃は同じように漏れ出しっぱなしだったけど、
最近は超の主人公や野菜王子のように漏れ出すオーラを抑え込んでもうちょい戦力が上がっている。
息を止めながら戦うようなものだから慣れるまで結構神経を使うんだよなぁ。
「エクスは片手剣になってほしい。
でも柄は両手持ち出来る長さにして欲しいんだけど・・・」
『メリオが望むのなら叶えましょう』
エクスはメリオの望み通りに装飾などは変えずに、
柄だけを気持ち伸ばして両手で持てるように変身する。
改めてエクスカリバーとなったエクスを手にした勇者は、
まずは片手で聖剣を握りしめて集中に入る。
「俺も台詞間違えないようにしないとな。
なんだかんだでネタになるかと思って覚えたコレが役に立つときが来るとは・・・」
『ぬし様、何かするのですか?』
「俺は今から余計な長文を独り言するから、ベルは気にせず観察しててくれ」
『わかりました』
メリオの集中に合わせてエクスカリバーが徐々に光を帯び始める。
時刻は夕方でもすでに暗くなっている為、
どんどんその輝きを増すエクスカリバーとその担い手は存分に映える。
やがて、メリオの中で良い塩梅となったらしい。
集中は切らすこと無く握りを両手持ちへと変え、
上段の構えに持ち上げていく。
とんぼの構えに近いな。
『光が・・・』
周囲に漂うは自然魔力。
だが、それらを光属性の魔力へと変換してはエクスカリバーが吸収していく。
その過程で発生する幻想的な光景。
光がそこら辺の地面や草花、木々から浮かび上がっていく様は息を忘れるほどだ。
「輝ける、彼の剣こそは・・・」
エクスカリバーが尚もその目映さを強めていく工程の最中、
俺のポエムも始まる。
一瞬、肩に乗るベルがこちらを振り返ったが、
あ、独り言かと視線を戻した。
「過去現在未来を通じ、戦場に散っていく全ての兵達が、
今際の際に懐く哀しくも尊きユメ――。
その意思を誇りと掲げ、その信義を貫けと糾し、
いま常勝の王は高らかに、手に執る奇跡の真名を謳う」
聖剣の輝きは最高潮に達していた。
魔力濃度も高く、確実に勇者メリオの制御力では扱いきれぬ一撃。
されど、契約している精霊は古き時代より生き続けた聖剣。
2人が力を合わせる一撃は今まさに、振り下ろされようとしている。
「其は――」
「『≪エクス・・・カリバアアアァァァァァァァァ!!!!!!≫』」
* * * * *
金色の奔流は草原を駆け抜けた。
あれほど高濃度を練り上げた光の斬撃は地面を走り、
ずいぶんと進んだ先で炸裂して消えていった。
不思議な事に消えるまでの間に接触した木々や草花、
岩や地面に断面は出来ておらず、
見た目が派手なエフェクトな割にノーダメージを疑う結果となった。
そしてもうひとつの不思議なことがある。
それは・・・
「聞いてますか、お兄さん」
「聞いてますか、水無月さん」
俺が地面の上に正座させられている現状だ。
目の前には当然普段は可愛い妹と普段から可愛い聖女様がいらっしゃる。
もちろん、俺の隣には勇者もいるよ。正座もしてる。
勇者を上手くヨイショして現代のエクスカリバーを再現させるところまでは計画通りだった。
だというのに、何故俺は正座させられ尚且つ怒られているのだろうか。
「不満そうですね。
今も尚交戦中の他国の陣営近くで、
突如として強烈な光が発生し足下からは光が浮かび上がってくる。
そんな状態で何が起こるか、お兄さんなら分かりますよね?」
「混乱です」
「その通りです。混乱です。
クレアが泣きながら助けを求めてきましたよ」
その助けを求めた当人は腰に手を当て説教している妹の横で怒った真似事をしている。
「なんで私が居ない間に面白そうな事をするんですかっ!」
こちらは放っておこう。
アルシェの横でぎゃあぎゃあ騒がれても今は相手を出来ない。
サーニャに素早くアイコンタクトを送って回収させる。
「失礼します」
「あ!サーニャ!離してください~!!」
さらば。
「他国の人間を顎で使わないでください」
「はい、すみません」
いやいや、目で使ったんですと言えばもっと怒るからね。
素直に謝っておこうね。
「勇者様もお兄さんに唆されて・・・。何をしているのですか?」
「あ、いえ、その・・・すみません」
年下ながら怒る所は怒るアルシェ。
初めて姫様の怒気を感じてか如何な勇者とはいえ萎縮している。
悪いね、巻き込んで。
「で?何をしていたんですか?
ちゃっちゃと話してください。
謝ってさっさと戻らないといけませんので」
「はい、勇者の必殺技を教えて貰おうとしていました」
「水無月さんに異世界の技についてアドバイスを頂き、
試したところでした」
本当に何してるの?って目で見てくる妹。
昼だったら良かったかな?明るいし目立たなかったよね。
「昼なら良かったかなって話ではありませんからね?」
ココロヨマレル。
「小規模な、それこそ模擬戦程度なら周知は不要でしょう。
ですが、今回お2人が試した事は大変に目立つ規模の行いでした。
光は私たちの陣営からも見えました」
「「申し訳ありません!」」
「他国に混乱はありませんが教国は大混乱に陥っていました。
クーちゃんにゲートを開いて貰い、
ニルちゃんとセリア先生の協力の下クレアの声を拡声してやっと落ち着きを取り戻したんですからね!
すごく反省してください」
「「本当にすみませんでした‼」」
謝罪の言葉を口にするときはもちろん土下座だ。
アルシェに立たされ、クレアに謝り、兵士の方々にも通りすがりに謝った。
「酷い目に合いました」
「なぁ~↑」
「なぁ~って、水無月さんの所為では?」
「人の所為にするのは勇者としてどうなのかね?
っていうか、エクスはずっと剣の姿のまま黙ってたな」
勇者の前にメリオは人間だ。
俺の所為で怒られたのは本当だし、勇者だって理不尽には思っているだろう。
ごめんな。
っていうか、マジでエクスよ!
『すみません、メリオ・・・』
「いや、俺が悪い・・・とも言いづらいけど、
とりあえずエクスは気にしなくて良いよ、うん、本当に」
「俺にも優しくしてくれよ」
「え、本気ですか?」
「言うようになったなお前。
まぁ怒られ仲間だし、これからも一緒に怒られような!」
「嫌です。今後はアルカンシェ様に確認をしてから水無月さんの話に乗ろうと思います」
あれぇ~?距離が縮まったと思ったけど気のせいかなぁ~。
まぁいいか。気安くはなったし。
「ほら、帰りますよお兄さん」
「はい! じゃあなメリオ。
時間があれば今日の技を反復練習して自分で扱えるようになれよ」
「わかりました、頑張ります。
アルカンシェ様も本当に・・・」
「次は相談してください。では」
* * * * *
アスペラルダ陣営に強制送還されました。
「あれ?タルテューフォは?」
「とと様が戻ってきたんですけど、
タルちゃんが説得するまでもなく体調不良で連れ添われて帰っていきました」
とと様・・・。情けねぇ…。
「聖獣でも瘴気はダメだったか」
「人が手を出してはいけない魔獣。
きっと聖なる魔獣だってことで聖獣ですから。
青い顔をしていたのですんなりと帰ってくれて良かったです」
暴れられたりゴネられるよりマシだけどさ、
どんどんと聖獣の本性が曝かれては評価が下降していくのは何でだろう。
「そういえば、大きめの屋敷を解放したと報告が入っていて、
アインスさん達にそちらへ移動して貰いました」
「天幕に居るより暖も取れるしいいんじゃないか?
ギルド職員の安全を確保してるならってのが前提だけど」
「もちろん周囲の瘴気は浄化済みです。
屋敷に空いた穴も修復済みだそうで」
それならいいけど。
ただ、離れているとはいえ敵の本丸が視界に入る城下町って、
心情的にアインスさん達は大丈夫だろうか。
「冒険者も合流させて巡回させるそうなので、
パーシバルさんも自動的にアインスさんと一緒に詰めるとのことです。
冒険者は周囲の空き家を利用して護衛の役割も果たすと伺ってます」
「城下町の足場って整ってたよな?」
「そうですね。石切で整えた石を敷き詰めていたはずです」
気になる点は瘴気は石や植物などに染みこんでモンスター化していた。
中には土を元にしたモンスターも居たことから、
懸念事項をそのままにしておいてはいけないような気がする。
「アルシェとマリエルはゼノウPTと一緒に城下町に行ってくれ。
数カ所の石畳を外して地面の下がどうなっているか調べてみてほしい。
出来れば土精も欲しいところだな・・・」
「アーグエングリンに要請してみましょう。
見逃して背後から襲われるような事態になれば皆一様に被害は免れませんし」
ノイが加階を完了していれば連れて行くんだがな・・・。
今回は土精パラディウムに協力を依頼しよう。
「アクアちゃんとニルちゃんはこっちに来るとして、
お兄さんはどうしますか?」
「さっきの勇者が使った技を俺用に調整したい。
実験もしたいし、何かわかったら連絡をくれる程度で良い」
『お兄ちゃん。あたしも暇だし付いていって良い?』
「いいよ。ボジャ様はどうしますか?」
『儂はのんびりここで待っているよ。
クーデルカがお茶とお茶請けも出してくれるしの』
そんな訳でアルシェは、
マリエルと水精スィーネとゼノウPTを連れてアーグエングリンへと向かった。
行きはゲートで送ったけれど、
戻りは調査を挟みつつ城下町を回って戻ってくる予定だ。
セーバー達との交代時間までに戻れないほどの事態であれば、
俺も出て対処に当たった方が良いな。
「《来よ!エクラディバインダー!》」
兵士や後方に待機していたギルド員達も城下町に入った為、
俺達が待機していた位置から離れれば、周囲には誰もいない状態となる。
「ベルとはまだ出会って一緒に過ごした時間は少ないけど、
シンクロは絆だけでなく意識がひとつの目的に向いていれば開花しやすい」
『はい!』
「フラムは剣の姿だったけどずっと俺と一緒に旅をしていたから、
契約してすぐにシンクロは出来た。
でも、今はベルとシンクロ出来ると俺は助かるから頑張ろう!」
『わかりました!
あれですよね!勇者のあれですよね!』
そうそう、あれね。
そこが今回の目的としていっぱい意識してくれればシンクロもしやすくなるからね。
まずはシンクロを行う為に、
剣は地面に突き刺してベルは肩の上に乗せたまま瞳を閉じて集中に入る。
契約していて俺自身も精霊使いの質が上がっている関係で、
精霊との親和性も必然上がっている。
俺もベルも意識は勇者が使った技へと向かうが、
ベルの意識は幼い事も手伝ってちょっとフワついている。
おい、ベルや。どこへ行く。
心象ではワープ空間の様な場所でベルと俺は真っ直ぐ奥を目指して飛んでいく。
しかし、ベルと一緒に同じ軌道で飛ばなければシンクロにはならない為、
ふらつくベルを必死に追いかける。
やがて心象のベルを俺が後ろから捕まえてやっと同じ軌道で飛び始めた瞬間。
「『《シンクロ!》』」
声が重なり俺の輪郭は光のオーラで包まれ、
ベルの身体からはオーラが溢れ出始める。
『ぬし様!シンクロ出来ました!』
「なんとかなったなぁ、良かった・・・」
本来ベルとは出会ってまだ間もないので絆が足りない。
そこを精霊使いとして成長した俺が無理矢理ベルに合わせることでシンクロを成功させた形だ。
「とりあえず第一段階は成功だな。
次の段階に入るからベルも集中するんだぞぉ」
『わかりました!』
地面から剣を抜いてメリオをトレースし、
剣を同じように構える。
最初は剣を光らせる。
つまりは剣の容量いっぱいまで魔力を貯める。
これはいつもやってるし簡単よ。
剣が神々しく光り輝き始めると、
次に剣を持ち上げ両手で構える。気持ちはとんぼの構え。
『いきます』
「応」
ここからはベル任せ。
自然魔力を光属性の魔力へと変換し剣へと集める。
集めたあとは剣に纏わせ撃ち放てばエクスカリバーの完成だ。
30秒経過。
1分経過。
「ダメだな」
『ダメですね』
なんていうか・・・全部が足りない。
勇者とエクスのペアと俺とベルのペアで制御力に差があるのはもちろんだが、
勇者と俺だと俺に軍配があがり、エクスとベルでは比べるのも烏滸がましい差が存在する。
あと、段取りが面倒すぎる。
自然魔力を光属性へと変換する手間が特に難しく、
街の近くなので無属性魔力が多くを占めているものの、
風の国らしく風属性魔力も結構多い。
その自然魔力を広範囲に認識して、
それぞれをある程度の量にまとめ上げた挙げ句に属性変換。
これが足を引っ張る。
うちのクーですら魔法を吸収、自身の魔力にすることは出来るが、
自然魔力を属性変換することに至れていない。
さらに言えば剣にも問題がある。
勇者が扱う聖剣[エクスカリバー]は一般普及する武器はおろか、
ダンジョン内から入手出来る最上級レアリティである鬼レアよりも上質な武器だ。
強度も信じられないほど高く、魔力容量も元が高位階精霊であるから膨大。
一方俺の武器はレアリティが超レアの[クラウソラス]。
それを魔法で加階させた[エクラディバインダー]ですら、おそらくエクスカリバーの足下に及ぶ程度。
『お姉様たちに手助けしてもらいますか?』
「いや、格好良さでいえば勇者とエクスのやり方なんだけど、
俺は俺に適したやり方にすれば良いと思う」
実際一度使っているわけだしな。
アクアの創ったアーティファクトである[お魚さんソード]に、
竜の魔石から供給される高濃度魔力を纏わせる氷刃剣戟。
[氷龍聖剣]
それもノイとシンクロしている時に使って尚制御し切れなかった大技だが、
先に指摘した広範囲から自然魔力を属性変化して集める手間がない。
これが省けるだけで制御力に余裕が生まれていて尚扱い切れていない。
「ベルはまだアーティファクト創れないよな」
『アクア姉様やクー姉様の位階まで成長出来れば創れるようになります!』
「だよなー」
うちの契約精霊の成長過程は大体同じ要領だから把握はしやすい。
まずスライムの核を使った強制加階で浮遊精霊からひとつ位階を上げて対話出来るようにする。
約ひと月を英才教育すれば、2度目の加階をする。
この時点でスライムの核は持たないので専用核を生成する必要が出る。ここでアクアは[龍玉]を手に入れ、
クーは[閻手]、ノイは[聖壁の欠片]、ニルが[タクト]といったオプションを手に入れた。
その後5ヶ月程度の英才教育で3度目の加階。
アニマル形態を取得したりしているけれど、
最たるモノは[アーティファクト]の創造だ。
アクアは[お魚さんソード]、クーは[虚空暗器]を創った。
丁度、加階中のノイも生まれ変われば同じくアーティファクトが創れるはずだがすぐに用意出来るモノではないだろう。
まぁ、戦闘経験値とか核の成長具合なんかも関わってくるし、
確実な周期ではないけれど目安にはなる。
「ともかく氷竜聖剣級の技を扱うならお前らが創るアーティファクトがないと、ちと厳しいな」
『残念です。せっかくぬし様の力になれると思ったのに・・・』
肩を落とすベルトロープの頭を指で撫でて慰める。
出来ない理由が幼いではどうしようもないからね。
半年後にちゃんとアーティファクトが創れる位階に成長出来るようにがんばろう。
「じゃあ、戻って新しい光魔法を考えようか」
『そっちなら!ベルは頑張りますよ!』
俺の娘とは思えないほどポジティブな子だな。
アニマも進化したわけだし、
何か別方向で他にも攻撃かサポートタイプの魔法を考えていきたいな。
「うちのゼノウPTがそろそろ精霊使いとしての分かれ道に来たから、
ついでに勇者PTの様子を見に来たんだよ」
メリオが近付いてきたのが見えたので、
素早く揺蕩う唄を起動して対話可能な状態に引き上げる。
「分かれ道って何ですか?」
「おたくの弓使いとうちの弓使いの技量に差があるけど、
属性を確定して研鑽すればもっと強くなれるかもねって話」
指を差して攻撃間隔の速まったトワインに結局何もさせて貰えず、
自分がなんでここに居るのか分からなくなってきている彼を例にして説明する。
事故死してくれねぇかな。
「・・・これは酷い」
『精霊使い、今回は聖女に用事ではないのですか?』
「今日は勇者PTに用事で来たんだよ。
あいつらの面談は終わったからメリオにはエクスを利用した必殺技を教えてもらいたくて来た」
「必殺技?何ですかそれ?」
おや?エクス・・・カリバアアアアアア!!!
って知らない?
「移動に使っていた勇者魔法に似た感じで、
勇者がレベルが上がれば勝手に使えるようになる大技ってあるんじゃないの?」
『ありますけど・・・ねぇ』
「・・・ねぇ」
何よ、その気まずげな空気。
仲良くなって良かったね、君ら。
「Lev.20で覚えた[ヘリオン・レーザー]は必殺技じゃないし、
Lev.23で覚えた[ヘルリオ・ルラ・トレイン]は長距離移動魔法。
Lev.40で覚えた[光翼斬]は見た目は水無月さんの一閃と一緒ですし、
Lev.47で覚えた[輝動]は戦闘中の光速移動魔法。
Lev.60で覚えた[セイクリッドセイバー]は光属性魔力で剣身を大きく伸ばす技ですし、
Lev.72で覚えた[ブレイズ・リュミエール]は発動に時間が掛かるし広範囲を対象にした魔法ですから・・・」
『どれも精霊使いが求める必殺技なるものとは異なるのではないですか?』
こいつポケモンかよっ!
レベル上がるだけで技を覚えるだけでもこの世界ではおかしいのに、
いくつも覚えるとかお前ポケモンかよっ!!
見たことがない魔法や技はあるけれど、
確かにどれもエクスカリバー!!!!ではない。
流石にこっちからエクスカリバーって技はないの?とは聞けない。
俺が異世界人である事は勇者には内緒なのでね。
「いまレベルいくつだっけ?」
「Lev.88になったところですね。
瘴気モンスターがランクの割に経験値が高かったのでこの戦場で上がりました」
うぅむ。話を聞く限りではレベルが20上がる毎に強めの技を覚えている感はある。
でも、80で覚えていない。
それにLev.72で覚えた[ブレイズ・リュミエール]は確かに強力な魔法だった。
じゃあ、レベル以外で覚えられそうなのは・・・ジョブレベルか?
「メリオ、勇者とはどういう存在だと考えてる?」
「勇者は勇気があって周りにもその勇気を伝播させて、
心をひとつにして巨悪に立ち向かう者だと・・・思ってます」
自分が理想の勇者にはほど遠い事が脳裏に過ぎったのか、
言葉尻がどんどんと小さくなっていく。
まぁ概ね俺も同じ意見だ。
「800年前の勇者の文献がほぼないから確かなことではないけど、
勇者として[徳]、善行を行う事は必要だと思う。
教国に引きこもってばかりでなく、
世界を旅して色んな人々と交流して、
勇者なら魔族との戦争を終わらせてくれるという信頼を勝ち取らないといけない」
神様と同じで神聖視される存在である勇者。
つまりは超絶善人、良い人は異世界のキリストみたいなものだろう。
本来は異世界の存在であるメリオは、
通常この世界からすれば雲の上の存在と同じく手の届かない存在だ。
なら、神と同じく信仰が高まれば勇者としてのジョブレベルも上がるかもしれない。
旅を通して心も身体もただ鍛えるだけより強くなるなら、
なるほど色んな物語の勇者が旅をするのは正しい流れだったんだな。
「戦える奴だけが味方ってわけじゃない。
俺もよくわからないけどメリオの言う勇者像は間違っていない様に思える。
だから人々に勇気を与えて、
頑張って平和にしてくれって願う気持ちがお前を。
勇者を後押ししてメリオの心も勇者にしてくれるんじゃないか?」
「今の俺は勇者じゃないですか?」
「職業は勇者だろう。
でも胸を張って勇者ですとお前は名乗れるか?
レベルを上げても精神面が追いついていないように俺には見える」
俺の言葉をゆっくりと咀嚼するようにメリオは視線を落として黙り込む。
やがて視線は戻って俺と瞳を合わせて来る。
「そう・・・ですね。そうだと俺も思います。
今のままだと勇者とは流石に名乗れません」
「強くなる方法、強い攻撃を覚える方法、必殺技の扱い方。
色んなことを勉強して経験して自分に落とし込まないといけない。
俺達だってその途上なんだ。
一緒に行動するわけじゃ無いけど、同じ気持ちの仲間がいるって事は忘れないで欲しい」
「わかりました」
さて、なんか良い感じにまとまったな。
自分でも驚きの諭し方だった。
俺でも良いこと言えるんだなぁ。
「でさ、話は戻るんだけど、
メリオの世界にもエクスカリバーってあるんだよな?」
「えぇ、ありますよ。
まぁ実物がある・・・と言えるかはちょっとわからないですが・・・」
「どういうこと?」
「多くは書物に登場する聖剣がエクスカリバーという名前なんです。
岩に刺さった剣という話が有名ですけど、
俺が調べた話はガルガーノの聖剣というものもありました。
曰く、騎士ガルガーノは戦いに疲れて岩に剣を刺す事で戦いを止め、
アーサー王は王となる為に剣を岩から抜いて戦場に赴いた、と」
「2つは同じ剣を差しているって事か・・・」
ディズニーでも扱われるくらい有名な剣だし、
エクスカリバーに類した話はいくつか俺も知っている。
ガルガーノさんは知らんかったけど。
「魔法とかが無い世界ですけど戦争は普通にありました。
でも岩に剣を刺すっていうのはちょっと現実味がありませんし、
どこまでが本当かはわかりません。
他だとゲーム、あー、創作物の話にもエクスカリバーは強力な武器として登場しますよ」
「おー、それそれ!
エクスとシンクロすれば再現出来るんじゃ無いかなぁって思ったんだよ。
創作物の攻撃方法でも使えるなら十分威力が出るんじゃ無いか?」
「なるほど!それは夢があります!
といっても、記憶に鮮烈に残っているのはひとつだけなんですけど、ははは」
ははは、俺も知ってるの多分同じだよ。ははは。
その作品は深くまで追求するとキリがないから王道のエクスカリバーだけ覚えてくれれば良いから。
見せて貰えれば真似したって言い訳して俺も堂々と使えるし。
「じゃあ、必殺技になるかどうかわかんないけど試してみよう」
「やってみましょう!」
『メリオ、イメージをしっかりしてくれれば私が極力再現しますからね』
「よろしく頼むよ、エクス」
メリオと光精エクス、そして俺と光精ベルは教国の天幕から外れたところまで移動する。
めっちゃ光るだろうからね。
「ベルもしっかり観察しておくんだぞ。
真似出来るようなら俺達も強力な技が使えるようになるからな」
『がんばって観察します!』
「あ、もしかしてそれが狙いですか!?」
ヤベッ!バレた!!
「さて、何のことやら。
強くなる為なら貪欲に行かないとな」
『上手く乗せられたメリオの負けですね。
まぁ精霊使いの光精はまだ幼いですから、
簡単には真似出来ないような高度な技を編み出しましょう!』
「今回は乗せられてあげますけど、
何でも簡単に事は運ばないって水無月さんに教えてあげます!」
はいはい、教えてくれ。
今完全再現出来なくてもいずれ出来れば強力な手札になるからね。
俺のイメージと合わせてより完成度の高いエクスカリバアアアア!を使いこなしてやんよっ!
「この辺でいいかな」
『では、行きますよ。メリオ』
「『シンクロ!』」
2人がシンクロを宣言すると、
互いの身体からは白いオーラが溢れ出し、
まるでスーパーな戦闘民族みたいになる。
ちなみに俺も初めの頃は同じように漏れ出しっぱなしだったけど、
最近は超の主人公や野菜王子のように漏れ出すオーラを抑え込んでもうちょい戦力が上がっている。
息を止めながら戦うようなものだから慣れるまで結構神経を使うんだよなぁ。
「エクスは片手剣になってほしい。
でも柄は両手持ち出来る長さにして欲しいんだけど・・・」
『メリオが望むのなら叶えましょう』
エクスはメリオの望み通りに装飾などは変えずに、
柄だけを気持ち伸ばして両手で持てるように変身する。
改めてエクスカリバーとなったエクスを手にした勇者は、
まずは片手で聖剣を握りしめて集中に入る。
「俺も台詞間違えないようにしないとな。
なんだかんだでネタになるかと思って覚えたコレが役に立つときが来るとは・・・」
『ぬし様、何かするのですか?』
「俺は今から余計な長文を独り言するから、ベルは気にせず観察しててくれ」
『わかりました』
メリオの集中に合わせてエクスカリバーが徐々に光を帯び始める。
時刻は夕方でもすでに暗くなっている為、
どんどんその輝きを増すエクスカリバーとその担い手は存分に映える。
やがて、メリオの中で良い塩梅となったらしい。
集中は切らすこと無く握りを両手持ちへと変え、
上段の構えに持ち上げていく。
とんぼの構えに近いな。
『光が・・・』
周囲に漂うは自然魔力。
だが、それらを光属性の魔力へと変換してはエクスカリバーが吸収していく。
その過程で発生する幻想的な光景。
光がそこら辺の地面や草花、木々から浮かび上がっていく様は息を忘れるほどだ。
「輝ける、彼の剣こそは・・・」
エクスカリバーが尚もその目映さを強めていく工程の最中、
俺のポエムも始まる。
一瞬、肩に乗るベルがこちらを振り返ったが、
あ、独り言かと視線を戻した。
「過去現在未来を通じ、戦場に散っていく全ての兵達が、
今際の際に懐く哀しくも尊きユメ――。
その意思を誇りと掲げ、その信義を貫けと糾し、
いま常勝の王は高らかに、手に執る奇跡の真名を謳う」
聖剣の輝きは最高潮に達していた。
魔力濃度も高く、確実に勇者メリオの制御力では扱いきれぬ一撃。
されど、契約している精霊は古き時代より生き続けた聖剣。
2人が力を合わせる一撃は今まさに、振り下ろされようとしている。
「其は――」
「『≪エクス・・・カリバアアアァァァァァァァァ!!!!!!≫』」
* * * * *
金色の奔流は草原を駆け抜けた。
あれほど高濃度を練り上げた光の斬撃は地面を走り、
ずいぶんと進んだ先で炸裂して消えていった。
不思議な事に消えるまでの間に接触した木々や草花、
岩や地面に断面は出来ておらず、
見た目が派手なエフェクトな割にノーダメージを疑う結果となった。
そしてもうひとつの不思議なことがある。
それは・・・
「聞いてますか、お兄さん」
「聞いてますか、水無月さん」
俺が地面の上に正座させられている現状だ。
目の前には当然普段は可愛い妹と普段から可愛い聖女様がいらっしゃる。
もちろん、俺の隣には勇者もいるよ。正座もしてる。
勇者を上手くヨイショして現代のエクスカリバーを再現させるところまでは計画通りだった。
だというのに、何故俺は正座させられ尚且つ怒られているのだろうか。
「不満そうですね。
今も尚交戦中の他国の陣営近くで、
突如として強烈な光が発生し足下からは光が浮かび上がってくる。
そんな状態で何が起こるか、お兄さんなら分かりますよね?」
「混乱です」
「その通りです。混乱です。
クレアが泣きながら助けを求めてきましたよ」
その助けを求めた当人は腰に手を当て説教している妹の横で怒った真似事をしている。
「なんで私が居ない間に面白そうな事をするんですかっ!」
こちらは放っておこう。
アルシェの横でぎゃあぎゃあ騒がれても今は相手を出来ない。
サーニャに素早くアイコンタクトを送って回収させる。
「失礼します」
「あ!サーニャ!離してください~!!」
さらば。
「他国の人間を顎で使わないでください」
「はい、すみません」
いやいや、目で使ったんですと言えばもっと怒るからね。
素直に謝っておこうね。
「勇者様もお兄さんに唆されて・・・。何をしているのですか?」
「あ、いえ、その・・・すみません」
年下ながら怒る所は怒るアルシェ。
初めて姫様の怒気を感じてか如何な勇者とはいえ萎縮している。
悪いね、巻き込んで。
「で?何をしていたんですか?
ちゃっちゃと話してください。
謝ってさっさと戻らないといけませんので」
「はい、勇者の必殺技を教えて貰おうとしていました」
「水無月さんに異世界の技についてアドバイスを頂き、
試したところでした」
本当に何してるの?って目で見てくる妹。
昼だったら良かったかな?明るいし目立たなかったよね。
「昼なら良かったかなって話ではありませんからね?」
ココロヨマレル。
「小規模な、それこそ模擬戦程度なら周知は不要でしょう。
ですが、今回お2人が試した事は大変に目立つ規模の行いでした。
光は私たちの陣営からも見えました」
「「申し訳ありません!」」
「他国に混乱はありませんが教国は大混乱に陥っていました。
クーちゃんにゲートを開いて貰い、
ニルちゃんとセリア先生の協力の下クレアの声を拡声してやっと落ち着きを取り戻したんですからね!
すごく反省してください」
「「本当にすみませんでした‼」」
謝罪の言葉を口にするときはもちろん土下座だ。
アルシェに立たされ、クレアに謝り、兵士の方々にも通りすがりに謝った。
「酷い目に合いました」
「なぁ~↑」
「なぁ~って、水無月さんの所為では?」
「人の所為にするのは勇者としてどうなのかね?
っていうか、エクスはずっと剣の姿のまま黙ってたな」
勇者の前にメリオは人間だ。
俺の所為で怒られたのは本当だし、勇者だって理不尽には思っているだろう。
ごめんな。
っていうか、マジでエクスよ!
『すみません、メリオ・・・』
「いや、俺が悪い・・・とも言いづらいけど、
とりあえずエクスは気にしなくて良いよ、うん、本当に」
「俺にも優しくしてくれよ」
「え、本気ですか?」
「言うようになったなお前。
まぁ怒られ仲間だし、これからも一緒に怒られような!」
「嫌です。今後はアルカンシェ様に確認をしてから水無月さんの話に乗ろうと思います」
あれぇ~?距離が縮まったと思ったけど気のせいかなぁ~。
まぁいいか。気安くはなったし。
「ほら、帰りますよお兄さん」
「はい! じゃあなメリオ。
時間があれば今日の技を反復練習して自分で扱えるようになれよ」
「わかりました、頑張ります。
アルカンシェ様も本当に・・・」
「次は相談してください。では」
* * * * *
アスペラルダ陣営に強制送還されました。
「あれ?タルテューフォは?」
「とと様が戻ってきたんですけど、
タルちゃんが説得するまでもなく体調不良で連れ添われて帰っていきました」
とと様・・・。情けねぇ…。
「聖獣でも瘴気はダメだったか」
「人が手を出してはいけない魔獣。
きっと聖なる魔獣だってことで聖獣ですから。
青い顔をしていたのですんなりと帰ってくれて良かったです」
暴れられたりゴネられるよりマシだけどさ、
どんどんと聖獣の本性が曝かれては評価が下降していくのは何でだろう。
「そういえば、大きめの屋敷を解放したと報告が入っていて、
アインスさん達にそちらへ移動して貰いました」
「天幕に居るより暖も取れるしいいんじゃないか?
ギルド職員の安全を確保してるならってのが前提だけど」
「もちろん周囲の瘴気は浄化済みです。
屋敷に空いた穴も修復済みだそうで」
それならいいけど。
ただ、離れているとはいえ敵の本丸が視界に入る城下町って、
心情的にアインスさん達は大丈夫だろうか。
「冒険者も合流させて巡回させるそうなので、
パーシバルさんも自動的にアインスさんと一緒に詰めるとのことです。
冒険者は周囲の空き家を利用して護衛の役割も果たすと伺ってます」
「城下町の足場って整ってたよな?」
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気になる点は瘴気は石や植物などに染みこんでモンスター化していた。
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懸念事項をそのままにしておいてはいけないような気がする。
「アルシェとマリエルはゼノウPTと一緒に城下町に行ってくれ。
数カ所の石畳を外して地面の下がどうなっているか調べてみてほしい。
出来れば土精も欲しいところだな・・・」
「アーグエングリンに要請してみましょう。
見逃して背後から襲われるような事態になれば皆一様に被害は免れませんし」
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今回は土精パラディウムに協力を依頼しよう。
「アクアちゃんとニルちゃんはこっちに来るとして、
お兄さんはどうしますか?」
「さっきの勇者が使った技を俺用に調整したい。
実験もしたいし、何かわかったら連絡をくれる程度で良い」
『お兄ちゃん。あたしも暇だし付いていって良い?』
「いいよ。ボジャ様はどうしますか?」
『儂はのんびりここで待っているよ。
クーデルカがお茶とお茶請けも出してくれるしの』
そんな訳でアルシェは、
マリエルと水精スィーネとゼノウPTを連れてアーグエングリンへと向かった。
行きはゲートで送ったけれど、
戻りは調査を挟みつつ城下町を回って戻ってくる予定だ。
セーバー達との交代時間までに戻れないほどの事態であれば、
俺も出て対処に当たった方が良いな。
「《来よ!エクラディバインダー!》」
兵士や後方に待機していたギルド員達も城下町に入った為、
俺達が待機していた位置から離れれば、周囲には誰もいない状態となる。
「ベルとはまだ出会って一緒に過ごした時間は少ないけど、
シンクロは絆だけでなく意識がひとつの目的に向いていれば開花しやすい」
『はい!』
「フラムは剣の姿だったけどずっと俺と一緒に旅をしていたから、
契約してすぐにシンクロは出来た。
でも、今はベルとシンクロ出来ると俺は助かるから頑張ろう!」
『わかりました!
あれですよね!勇者のあれですよね!』
そうそう、あれね。
そこが今回の目的としていっぱい意識してくれればシンクロもしやすくなるからね。
まずはシンクロを行う為に、
剣は地面に突き刺してベルは肩の上に乗せたまま瞳を閉じて集中に入る。
契約していて俺自身も精霊使いの質が上がっている関係で、
精霊との親和性も必然上がっている。
俺もベルも意識は勇者が使った技へと向かうが、
ベルの意識は幼い事も手伝ってちょっとフワついている。
おい、ベルや。どこへ行く。
心象ではワープ空間の様な場所でベルと俺は真っ直ぐ奥を目指して飛んでいく。
しかし、ベルと一緒に同じ軌道で飛ばなければシンクロにはならない為、
ふらつくベルを必死に追いかける。
やがて心象のベルを俺が後ろから捕まえてやっと同じ軌道で飛び始めた瞬間。
「『《シンクロ!》』」
声が重なり俺の輪郭は光のオーラで包まれ、
ベルの身体からはオーラが溢れ出始める。
『ぬし様!シンクロ出来ました!』
「なんとかなったなぁ、良かった・・・」
本来ベルとは出会ってまだ間もないので絆が足りない。
そこを精霊使いとして成長した俺が無理矢理ベルに合わせることでシンクロを成功させた形だ。
「とりあえず第一段階は成功だな。
次の段階に入るからベルも集中するんだぞぉ」
『わかりました!』
地面から剣を抜いてメリオをトレースし、
剣を同じように構える。
最初は剣を光らせる。
つまりは剣の容量いっぱいまで魔力を貯める。
これはいつもやってるし簡単よ。
剣が神々しく光り輝き始めると、
次に剣を持ち上げ両手で構える。気持ちはとんぼの構え。
『いきます』
「応」
ここからはベル任せ。
自然魔力を光属性の魔力へと変換し剣へと集める。
集めたあとは剣に纏わせ撃ち放てばエクスカリバーの完成だ。
30秒経過。
1分経過。
「ダメだな」
『ダメですね』
なんていうか・・・全部が足りない。
勇者とエクスのペアと俺とベルのペアで制御力に差があるのはもちろんだが、
勇者と俺だと俺に軍配があがり、エクスとベルでは比べるのも烏滸がましい差が存在する。
あと、段取りが面倒すぎる。
自然魔力を光属性へと変換する手間が特に難しく、
街の近くなので無属性魔力が多くを占めているものの、
風の国らしく風属性魔力も結構多い。
その自然魔力を広範囲に認識して、
それぞれをある程度の量にまとめ上げた挙げ句に属性変換。
これが足を引っ張る。
うちのクーですら魔法を吸収、自身の魔力にすることは出来るが、
自然魔力を属性変換することに至れていない。
さらに言えば剣にも問題がある。
勇者が扱う聖剣[エクスカリバー]は一般普及する武器はおろか、
ダンジョン内から入手出来る最上級レアリティである鬼レアよりも上質な武器だ。
強度も信じられないほど高く、魔力容量も元が高位階精霊であるから膨大。
一方俺の武器はレアリティが超レアの[クラウソラス]。
それを魔法で加階させた[エクラディバインダー]ですら、おそらくエクスカリバーの足下に及ぶ程度。
『お姉様たちに手助けしてもらいますか?』
「いや、格好良さでいえば勇者とエクスのやり方なんだけど、
俺は俺に適したやり方にすれば良いと思う」
実際一度使っているわけだしな。
アクアの創ったアーティファクトである[お魚さんソード]に、
竜の魔石から供給される高濃度魔力を纏わせる氷刃剣戟。
[氷龍聖剣]
それもノイとシンクロしている時に使って尚制御し切れなかった大技だが、
先に指摘した広範囲から自然魔力を属性変化して集める手間がない。
これが省けるだけで制御力に余裕が生まれていて尚扱い切れていない。
「ベルはまだアーティファクト創れないよな」
『アクア姉様やクー姉様の位階まで成長出来れば創れるようになります!』
「だよなー」
うちの契約精霊の成長過程は大体同じ要領だから把握はしやすい。
まずスライムの核を使った強制加階で浮遊精霊からひとつ位階を上げて対話出来るようにする。
約ひと月を英才教育すれば、2度目の加階をする。
この時点でスライムの核は持たないので専用核を生成する必要が出る。ここでアクアは[龍玉]を手に入れ、
クーは[閻手]、ノイは[聖壁の欠片]、ニルが[タクト]といったオプションを手に入れた。
その後5ヶ月程度の英才教育で3度目の加階。
アニマル形態を取得したりしているけれど、
最たるモノは[アーティファクト]の創造だ。
アクアは[お魚さんソード]、クーは[虚空暗器]を創った。
丁度、加階中のノイも生まれ変われば同じくアーティファクトが創れるはずだがすぐに用意出来るモノではないだろう。
まぁ、戦闘経験値とか核の成長具合なんかも関わってくるし、
確実な周期ではないけれど目安にはなる。
「ともかく氷竜聖剣級の技を扱うならお前らが創るアーティファクトがないと、ちと厳しいな」
『残念です。せっかくぬし様の力になれると思ったのに・・・』
肩を落とすベルトロープの頭を指で撫でて慰める。
出来ない理由が幼いではどうしようもないからね。
半年後にちゃんとアーティファクトが創れる位階に成長出来るようにがんばろう。
「じゃあ、戻って新しい光魔法を考えようか」
『そっちなら!ベルは頑張りますよ!』
俺の娘とは思えないほどポジティブな子だな。
アニマも進化したわけだし、
何か別方向で他にも攻撃かサポートタイプの魔法を考えていきたいな。
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