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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -21話-[聖獣ヤマノサチ襲来]

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 ピッ、ピッ、ピーーーーーッ!フゴッ!

「何が起こっていたのかわかんねぇけど、頭がどうにかなりそうだった。
 催眠術とかうんぬんかんぬん。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・」

 俺はまだ起きていない頭をポリポリと掻きながら、ボソボソと口ずさむ。

「起きたら知らねぇおっさんが身内に混じってた・・・」
「世話になるぜ、坊主」

 どちらさん?

「詳しくは後ほど報告しますが、
 彼も【人形ドール】の被害遺族です」

 連れてきたらしいフランザが前に出ておっさんを差しながら軽い説明をくれる。
 見た感じかなり強いのはわかるけど、
 この戦場においては現状のメンバーで事足りているんだよなぁ。

「お歳ですがクランリーダーなので強さは折り紙付きです」
「自分のクランはどうしたんです?」
「しばらく前から暇になってな、酒を飲むしか時間を潰せん。
 フランザに共感もしてちょっとお邪魔することにしたんだわ」

 戦場でいきなりお邪魔しないでいただきたい。
 まぁアルシェも容認しているし、
 どっちにしろ俺は城下町に出かけるからいいけどさ。

「俺達も今はやることがないですけど、
 それで良ければ混ざっても問題はないですよ」

 さて、時刻は昼過ぎ夕方前か。
 勇者メリオは日中の決戦を見据えて調整中だろうし、
 俺に出来るのは城までの道筋を掃除する程度だな。

「お兄さん、瘴気モンスターになっていない死体の運び出しが始まっています。
 パーシバルさんが希望した冒険者と兵士を連れて対応に当たっています」
「結構順調に進んでるな」
「人海戦術の成果ですね。
 私たちも空いた時間で拳聖けんせいと繋ぎを付けて、
 冒険者たちの様子確認、飛び散った瘴気の浄化も進めましたよ」
「ほとんど終わってるじゃん」

 アルシェと事前にやりたい事として挙げていた拳聖けんせいとの繋がり。
 予想された手空きになる冒険者の様子見。
 さらに増えた仕事である飛び散り瘴気の掃除まで終わらせたとは・・・。
 起きたけど俺、暇じゃん。

「じゃあ、アルシェ寝る?」
「どうしましょうか。
 勇者様の道を開く為にお兄さんは出た方が良いとは思いますが、
 逆に隷霊れいれいのマグニが闇属性で当たりなら・・・」

 クーと同じで夜に能力が上がるかもしれないか。
 そうなると、念のためアルシェは俺と別にしておいた方がいいもしれん。
 調整するなら今が最後のタイミングだ。

 丁度全員揃っているこの場で顔を仲間を見渡す。

 俺と一緒に行動して眠っていたのが、
 ・ノイティミル(土精)
 ・フラムキエ(火精)
 ・ベルトロープ(光精)
 ・メリー&クーデルカ(侍女&闇精)
 ・マリエル&ニルチッイ(弟子&風精)
 ・セリア先生(風精)
 ・ボジャ様(水精)
 ・ブルー・ドラゴンフリューネ
 ・ゼノウ(ゼノウPT)
 ・ライナー(ゼノウPT)
 ・ノルキア(セーバーPT)

 アルシェに付けていた仲間はクランメンバーの大部分だ。
 最悪アルシェの護衛にと敢えて配置しているリッカとポシェント以外は、
 まぁ個人行動する俺よりはアルシェに付かせた方が上手く扱う。

 とはいえ、
 クーの影倉庫シャドーインベントリ改め影別荘シャドーモーテルもベッドの数とか問題もある。
 というか、ベッド数くらいしか問題はないか・・・。
 うちの次女はすげぇな、おい。

 まぁ、足らんなら寝袋も常備してるし大丈夫やろ。

「夜はメリーとクーが居れば時間稼ぎは出来るから、
 アルシェは予定通り日中に身体を合わせておけば良いよ」
「わかりました」
「休み時はゼノウかポシェントを見張りにしておけよ」
「はい、わかってます。
 それよりもノイちゃんが眠そうですけど・・・」

 アルシェの指摘するとおり、
 ノイは砂トカゲの姿とはいえ俺の頭の上でウトウトしているのが誰の目から見ても明らかだった。

 アクアも肩車しているので、
 彼女も小さなお手手でノイを支えている。

加階かかいが始まってるんだけど今は我慢して貰ってる。
 いざとなって戦えないのが怖くてな。
 ってか、ノイはまだいいけどな・・・」
「ノイちゃんはいいけど?
 他の精霊でお兄さんと休んでいたのは・・・もしかして・・・」

 そうです。我らが無精王アニマ様です。
 朝起きたらあの方は俺にご報告されました。

宗八そうはち、核が割れました。
 アクア達のような専用核を所望します』

 ってさ。
 つまり、寝ている間に勝手に加階かかいをしてスライムの核を壊してしまったのだ。
 そして核は無くなったけれど、
 加階かかいが1段進んだ状態なので見た目は変わっていないツルペタボディで胸を張って宣言しやがった。

 生意気なのですぐに叩き落としたわ。

「とりあえずシンクロを試したら出来たんで核を創って加階かかいさせたけど、
 ノイの場合は3回目の加階かかいだからどうしようかってな・・・」
「時間が掛かりますからね。
 でも、アクアちゃんの時しかその状態の精霊は居ませんでしたよね?
 今のままでも100%の力が出せるんでしょうか?」

 アルシェの懸念は俺も思った。
 アクアの時はシンクロが初めて発現してブラックスケルトンも、
 所詮はランク1ダンジョンのBOSSが変化しただけの強さだった。

 だが、今回相手にするのは魔神族だ。

「セリア先生とボジャ様に確認をしたけど、
 60~80%しか出せないんじゃないかって話だった」

 それを聞いたアルシェは事も無げに口を開く。

「なら、素直に進化させてあげましょう。
 その間に強敵が出れば私たちが対応します。
 一番怖いのは決戦に力不足で負けてしまうことですから・・・」
「うぅ~ん・・・」
「ノイちゃんも辛そうですし。
 もっと私たちを頼ってくださいって前に言いましたよね?
 いまは2人だけじゃなくてクランメンバーも揃っているんですよ?」

 アルシェの言葉にバツの悪い顔になる。
 信頼していないわけでは無いけれど、
 そこまで言われては俺も覚悟を決めざるを得ないじゃないか。

「まぁ、たかが数時間だし。死なないよな?」
宗八そうはち、そこはもっと素直な言葉が聞きたかった」
「俺も同感だな、クランリーダー?」

 俺の言葉にすぐ反応を返したのは各PTのリーダー2人。
 ゼノウとセーバーにはジト目で批難の声が届いた。

 本当にすんません。よろしくおねがいします。

「じゃあさっそく加階かかいさせるか。
 ノイ、みんなにありがとうって言いなさい」
『皆さん、ありがとうございます。
 あとボクのマスターが素直じゃ無くてすみません。
 もしもの時はよろしくお願いします』
「おいおい、俺が素直じゃ無いみたいに言うじゃないか」

『ノイは素直じゃ無いと言っているのですわ』
『娘に謝らせるとは悪い親じゃぞ、宗八そうはち坊』
『駄目なパパでノイは苦労してるわね、お兄ちゃん』

 ほんっと~にすみません。
 真剣マジでよろしくお願いします。


 * * * * *
 プギッ!ピッ!ピッ!フゴッフゴッ!!

 さて。
 加階かかいが始まって小型恐竜の卵みたいになったノイは、
 俺のすぐ横で浮遊して付いてくる。

 代わりに頭の上にはニルがウサギの姿で鎮座し始めた。
 最初は肩に乗っていたけど、
 髭がくすぐったいからと移動して貰った。

「さてさて・・・」

 俺が起きてから考えたのは、
 アルシェ達が後回しにした教国の様子でも見て来ようかなと思っていた。

 だが、アルシェ達から報告を受けているうちにアインスさんから緊急連絡が入った。
 曰く、聖獣ヤマノサチが城下町に近寄ってきているとのこと。
 それを皆にも伝えた所、
 約3名ほどが顔色を変えて前に出て来たのだ。

 曰く、聖獣ヤマノサチは俺かマリエルを探しているらしい。

「なんで?」
「詳しくは知らないけどな。
 普段引きこもっている妖精族が外で活動しているってのを噂で知ったらしい」
『200の同胞もお世話になりたいとの事だ』
「は?」

 無理に決まってんだろ。
 食料とか何を用意すりゃいいんだよ。

「いや、わかってるんですよ?
 なので、セーバーもちゃんと釘を刺したんです」
「ダメ元だったけど、肝いりの1人だけにしとけってな☆」

 ってな☆に合わせてバチコーン!とウインクが飛んでくる。
 打ち返してやろうか、この野郎。
 ファインプレーではあるんだけど、
 やってるのはひと周り年上のおっさんなんだよな。

 まぁ、それで今の状況というならまだマシなのかも知れない。

「プゴッ!プゴッ!ピーーーッ!!」

「うるせぇなお前はっ!!黙ってろっ!!!
 今は先にやることがあるから待ってろって言っただろうがっ!!!!
 ゴスゴス鼻先で押してくんなっ!」
「すみません、お嬢はまだ幼いもので。
 これでも我慢出来ている方なので抑えてください」
「アンタも見てないで抑える努力をしてくれっ!
 王様は何してんのっ!!」

 聖獣の賢女がお嬢とやらを止めないのと合わせて、
 後方で腕を組んでチラチラこっちの様子を伺っている王様にも声を荒げる。

「あれは予想以上に香ばしい貴方の香りに酔って、
 何か余計なことをしないように近付くなと言い含めました」
「あ、そう・・・」

 聖獣の上下関係ってどうなってんだ?
 ってか、俺の動物に好かれる体質は聖獣にも適用されるという事実に、
 もう俺の言動は修正できないところまで行くぞコラ。

宗八そうはち、そんな偉そうに言っちゃっていいのか?」
「メイフェルとか他の魔獣たちと一緒の感覚がするし、大丈夫だろ」

 何が聖獣じゃい。
 俺を突いてくる聖獣にしては小型、とはいえ普通の豚より大きいけど・・・。
 そいつに向き直ってしゃがんで改めて見てみる。

 危ないから牙を両手で掴んでだけど。

『キノコの匂いがしますわねぇ~』
『美味しそうな匂いだねぇー』

 しゃがめば俺の目の前には鼻が来る。
 つまり鼻息が見事に顔に当たるうえにコイツも鼻先を俺に当てようとしてくる。
 やめろ、ちょっとしっとりしてるから。フゴフゴッ!

「ヤマノサチが居るエリアはやたら山菜が豊富らしいからな。
 トリュフを探す豚も現代には居るんだし、
 ファンタジー世界なら身体からキノコが生える豚や香る豚が居ても不思議じゃ無いな」

 猪だけど。

「コイツも人型になれるのか?」
「なれますよ。
 ほら、お嬢。そのままだとまだ話せないでしょう。
 人型になってください」

 聖獣の賢女に促されたお嬢聖獣は一瞬の間にアルシェより小さい女の子に変化した。
 猪獅子王と賢女の人型を見ているから予想していたけど、
 この麻呂眉毛は彼らのトレードマークらしい。

「にーにぃ!!」

「あっぶねっ!?」

 人型になると、
 白髪の上から白猪の被り物をしているように見えるけれど、
 実際の所は生え際からちゃんとくっついていて全体的に小さくはなっているものの牙などは健在だ。

 小さくとも聖獣だからな。
 まともに抱きつかれて牙でも腹に受けてみろ。
 どれだけのダメージになるか怖くて試せねぇよ。

 とりあえず小脇に抱きつかせることで満足させよう。

「で?ご用件はこの娘を預かれってところか?」
「おー。人間にしては流石賢いですね」

 ゆったりとしたパチパチで謎の関心をする賢女。
 仲間から聞いた話だから知ってるだけだぞ。

「今この場では決められない。
 お前ら聖獣にはちょっとわからないと思うけど、
 人間の世界では現在進行形で山場を迎えている。
 それが落ち着いてからでないとどうするか決められない」
「それは後ろの人間から聞きましたね。
 落ち着いてからの方がいいとも助言を頂きました」

 おぉ、意外とセーバーの最後の一声が響いているっぽい。

「おい、にーにぃ。
 タルテューフォを連れて行かないのだ?」
「タルテューフォ?洒落た名前だな、お前」
「王が気に入った果物の名前ですね。
 私も親にナグアの名を頂きました」

 ナグア・・・。確かこっちの世界のキノコの名前だな。
 人間でも美味しいんだし、
 人型も取れる猪なら同じように美味しくても仕方ないな。

「今はタイミングが悪いんだよ。
 今後本当に連れて行くかも約束は出来ない」

 頭を撫でつつ語りかければちゃんと理解しようと目を合わせてくれる。

「とと様はにーにぃに付いて行けって言ったのだ」
「とと様はにーにぃとちゃんと話し合って決めてないんだよ。
 突然タルテューフォが人間の男の子を預かってくれって言われたらどう思う?」
「ん~、とと様が決めたとしてもちょっと困るのだ・・・。
 でも、にーにぃは嫌いじゃ無いのだ!」

 純粋で悪い子じゃないけど、
 本当に今は抱えられるほど俺に余裕が無い。
 本格的に勇者が城に乗り込めばクランの指揮はアルシェに任せっきりになる。

 流石に彼女にも聖獣を抱え込む余裕は無い。

「そういう訳で。
 一旦お前達ヤマノサチはねぐらに帰ってくれると助かる。
 こっちも落ち着いたら場所はわかっているから、
 ちゃんと話し合いに伺うからさ」
「・・・少しお待ちを。
 王っ!!ちょっとこっちに来てください!!」

 賢女はこっちの事情を考慮してくれる意向らしい。
 こっちは助かるけど、
 それよりも俺には呼ばれてバタバタと寄ってくるヤマノサチの王の様子が気になるぞ。

「ど、どうであったのだ?
 タルテューフォ1人ならいくら小さい人間でも受け入れるであろう?」

 ちょこちょこ小さい人間という単語が気になるな。

「それが少し面倒でして・・・。
 今の戦が終わるまで預かる話は出来ないそうです。
 あと、里へ帰るようにと」
「タル、ちゃんと媚びへつらったであるか?」

 子供に媚びへつらわせるな。

「タルテューフォでは魅力が足りなかったのだ。
 にーにぃは優しいけど軽くない人間なのだ」
「ぐぬぬ・・・。
 ナグア、こうポカッとやって言うことを聞かせられないのだ?」
「一応、王にも伝えておりましたとおり、
 ここにいる人間は各国のそれなりの立場の者が多いです。
 いさかいを起こせば我らも他の魔物のように里を追われるかもしれません」

 いや、聖獣の里へ襲撃を掛ける余裕は人間にはないぞ。
 というか問題はそこじゃなくてだな。

「ヤマノサチの長に確認したい。
 今我々は瘴気の対処をしているという話は先に伝えていたと思うが、
 お前たち聖獣はあれに対抗出来るのか?」
「臭いだけの汚れた空気程度が我らに影響を与えるとでも?
 人間は小さいのだ。若い同胞ですら些かの影響も出ないのだ」

 本当かと賢女さんに顔を向けるが、
 瞳を閉じて俺と目を合わせないようにしていらっしゃる。

「じゃあ、丁度あっちにいっぱいあるし、
 一番強いヤマノサチの長が体験して来てくれ」
「小さい人間が大した口を利くのだ!
 我が同胞よ!我の雄姿をよく見ておくのだっ!!」

 鼻息荒く俺と仲間へ啖呵を切った聖獣の王様は、
 仲間の返事も待たずに走り始めてしまう。

「ここから見えるのだ?」
「でも、王は見ていろと言っているのだ」
「臭いのは嫌なのだ」
「じゃあ・・・、とりあえず王が進む方向を向いておくのだ」

「「「「「行ってらっしゃいなのだ~!!」」」」」

 そう仲間の猪に見送られるうちに王様はもう見えない。
 ってか、アスペラルダの方面から聖獣が突入したら兵士の面々の作業を邪魔しちゃうな。

「フラム、剣の姿に」
『はい』

 身体に張り付いていたフラムはダッ!と空中に飛び出し、
 その身はイグニスソードへ変化する。

「《ブレイズレイド!》」

 猪突猛進王の進行方向。
 空へ向けてイグニスソードを構えて剣先から発動させた炎塊は、
 夕方に差し掛かった風景を突き抜けていく。

「ニル、サポート」
『かしこまり~ですわ~』

 それに合わせてアスペラルダの兵士の皆様へご報告いたします。
 ニルが魔法で俺の声を広範囲に響かせる。

「ピンポンパンポーン↑。
 アルカンシェ護衛隊隊長、水無月宗八みなづきそうはちがお知らせします。
 聖獣ヤマノサチが1匹、城下町に入ります。
 兵士の皆様は落ち着いて、刺激しないように行動してください。
 ピンポンパンポーン↓」

 俺のお知らせが終了すると、
 城下町の数カ所から[ヴァーンレイド]が空へと打ち上がる。
 多分、わかりました~って意思表示なんだろうな。

 今みたいなのはいいけど、
 俺が撃った魔法の元となった[ヴァーンレイド]だと、
 飛距離や目立ちという部分で問題があったからね。
 ってか、兵士の皆さんはノリがいいなぁ。

「にーにぃ、にーにぃ!今のはどうやったのだ?」
「精霊の力を借りたんだよ。
 さて、今のうちに話をまとめておかないと。
 ナグア・・・と呼んで良いか?」
「かまいません」

 お馬鹿の王がいないうちに賢女さんとまとめないと、
 時間がいくらあっても足りないよ。

「とりあえず、基本はさっき伝えたとおり。
 今は相手を出来る余裕が無いから里へ戻っておいてほしい」

 手慰みに鳩尾くらいに顔が来るタルテューフォの頬をふにふにと引っ張り回す。

「わかりました。同胞は戻した方が良さそうですね。
 王は息巻いていましたが、瘴気は生物にとっては毒なのでしょう?」
「普通の魔獣と聖獣は格が違うから可能性として抵抗力があるかもしれない。
 でも、長く吸い続けるとどれだけ頑丈でも身体を蝕むことに変わりは無い。
 もし、そっちの王様が暴れて瘴気を浄化出来る人間が居なくなれば、
 最終的に自分たちにその反動が返ってくることは理解して欲しい」

 瘴気は浄化出来なければ徐々に浸食して大地を殺していく。
 もちろん、魔力が消失するオベリスクも問題だが、
 瘴気単品でも対抗手段が無ければ十分な脅威である。

「同胞は言うことを聞きますが、王はどうなるかわかりません。
 残ると言い始めたら上手く使ってください」

 俺より強い野生の聖獣をどう使えと?

「タルテューフォなら割と扱えますよ。
 あれでも親馬鹿ですからね」

 まぁ、猪って家族で行動しているイメージあるよな。
 藪とかを突いたら5匹くらいが飛び出てくる印象。

「この子を守り切れるという保証は出来ないんだけど?」
「我々は人間で言うステータス・・・でしたか?
 あれのSTRとVITが高い生物ですので簡単には死ねません。
 放っておいていいですよ。一応、お嬢は王の直系ですし」
「怪我したことはないのだ!」

 人間であれば無精の鎧で許容ダメージ量を越えて、
 そこから鎧の防御力を越えなければ怪我を負わない。
 しかし、聖獣といえど魔獣の仲間だ。
 浮遊精霊ふゆうせいれいをその身に纏っていないし鎧もなく、
 本当に持ち前の防御力だけで生きてきたはずだ。

 ステータスのSTRは単純に筋力で、
 VITは体力だから防御力お化けと体力お化け。
 そして攻撃力も相応に高いとなれば人間が相手にならないという話には納得せざるを得ない。

「本音を言えば男が良かったんだけど・・・。居ないの?」
「直系は今のところ王とお嬢だけですね。
 我らは繁殖力が低いので・・・、あぁいう行為は疲れるのもあって数十年に1度で十分です」

 体力お化けならそりゃあね。それはそれは激しかろうよ。
 しかも子供が出来なかったらまたの機会が設けられるわけだし。

「普通にオスも居ますけど、
 お嬢ほどの賢さはありませんよ?」
「お前らの知能ってどんなもんよ?」
「私はINTが62です。
 同胞の平均としては10前後ですね。
 お嬢は36ありまして、王も25あります」

 これは酷い。
 人間のステータスは装備品を身につける為に存在しているようなものだ。
 一応本当に筋力等に影響は及ぼすけど劇的なものじゃあない。
 身体を鍛えたりで増える個人基礎力+@程度の効果だ。

 だが、野生の生物は直結している。
 素の知能が低いならそれだけ馬鹿というわけだが・・・。
 それは基礎力が生物として人間と差があるから、
 実際問題に聖獣は俺達人間より強い。

「勉強すれば大丈夫か?」
「お兄さん、引き取られるのですか?」
「これって人材は今のところ居ないし、聖獣ならって思わない?」
「それはそうですが・・・」

 アルシェが背後から声を掛けてきたのだが、
 どうにも少し様子がおかしい。
 仲間にするのがまた女の子だから不安になっているのかな?

「というか戦力としては申し分ないと思うし、
 断って王様が暴れるようなことがあれば面倒が増えるからな」
「・・・わかりました」
「落ち着いてからの話だから今すぐどうこうの話じゃ無いさ」

 本当のステータスはわからないけど、
 STRとVITが高いならノイのサブマスターに丁度良いかもしれない。
 本当なら俺が居なくなった後の保護者としての役割なんだけど、
 もしノイとタルテューフォが契約したら、ノイの方が保護者になりそうだ。

「賢さは俺の[魔力付与ギフト]で底上げ出来るから、まぁいい。
 今回は王様が帰らなかったらタルテューフォを一旦預かるって話でいいのか?」
「問題ありません。
 私も久しぶりに泥浴びしたいですから。
 お嬢は役目が終わりましたら里へ帰ってきてください」
「ん、分かったのだ!かか様も気をつけて帰るのだ!」

 賢女が母ちゃんかよ。
 母ちゃんはタルテューフォの頭を撫でると仲間のヤマノサチへ声を掛ける。

「同胞よ、帰りますよ」

「王がまだ帰ってきてないのだ」
「また王を置いていくのだ?」
「いつもの事なのだ。我々何しにここまで来たのだ?」
「久しぶりに遠くに来たから体中がかゆいのだ」
「ブフフフ、フゴフゴ!運動不足なのだ~!」

「さっさと動きなさい」

「「「「「は~い、帰るのだ~」」」」」

 そうして彼らは大きな身体でドドドドドドッ!と煙を巻き上げながら元来た方向へと帰っていった。
 最後に賢女がお辞儀をしてから彼らの後を追って帰路に着く。

 王様・・・。

「いいや、気にしないでおこう。
 とりあえず夜に動く奴らは影に入って休めよぉ~」

 ここからは別行動も少なくなるし、
 基本的には元のPTで行動させる予定なので、
 まずはセーバーPTに影に入って貰った。

 ただ、ノルキアはセーバーPTだけど俺と一緒に休んでいた。
 実のところ早起きして多少訓練した後に今は2度寝に入っている。

「私はアルカンシェ=シヴァ=アスペラルダと申します。
 タルちゃんと呼んでいいですか?」
「いいのだ!よろしくなのだ!アルカンシェ!」

 やっぱ語尾のなのだは可愛くないな。
 仲間になるなら可愛い方向に矯正してもいいよな?

「タル。よろしく、だよ!」
「よろしく、だよ!」
「アルカンシェ!よろしく、だよ!」
「アルカンシェ!よろしく、だよ!」
「なのだは禁止、だよ!」
「なのだは禁止、だよ!――え”!?」

 だよ!の方が可愛いのだ。
 俺の言葉を笑顔で楽しそうに繰り返していたタルは、
 策略にハマった事を悟り言い終わってから俺の顔を2度見した。

「なのだは?」
「き、禁止な・・・だよ・・・」

 よく言えました。なでなで。


 * * * * *
 お兄さんがクランメンバーへの指示出しをしている間にタルちゃんへと近付く。
 アクアちゃん達精霊も興味があるのか、
 近くまでは寄っているけれど少し遠目に眺めるに留めている。

 多分、お兄さんがタルちゃんの動きに警戒している理由を理解しているのでしょう。

「タルちゃん」

 お兄さんから離れてからずっと頭を垂らしている彼女の側へ立つ。
 名前を呼んでも反応しないので耳を近づけると小声で「なのだ、禁止・・・。なのだ、禁止・・・。なのだ、禁止・・・」とつぶやき続けていた。

「タルちゃん」
「っ!?あ、アルカンシェ・・・」

 2度目の呼びかけで側に立つ私に気付いてくれた。
 でも、何でだろう。少し怯えられているようにも見える。

「どうしましたか?」
「アルカンシェから怒ってる匂いと」
「怒ってる匂いと?」
「発情してる匂いがするん、だよ」
「はつっ!?ちょ!?
 ニルちゃん!2人で話をさせてください!!」

『へ?よくわかりませんけど、かしこまり~ですわ~』

 はつ!?発情!?
 わわわ、私から発情の匂いがするってどどどどどどういうこと!?
 改めてニルちゃんの風の結界が張られたことを確認してタルちゃんに詰め寄る。

「怒った匂いと発情の匂いとはどういう意味ですか?!?」
「お、怒った匂いはにーにぃに抱きついた時に強く臭ったのだ・・・。
 発情の匂いは強くないけどずっっっと薄く香ってる、よ・・・」

 つまり、お兄さんにタルちゃんが抱きついた事で嫉妬。
 それが怒りの匂いとして判断されて、
 は、ははは発情の匂いというのがお兄さんへの好意ということでしょうか!?!?!?!??

 落ち着いて。
 落ち着くのよアルシェ。
 判断がおおざっぱに分けられているだけで、
 大きくズレている訳じゃないのよ。

 タルテューフォも細かくどういう感情とかは理解していないから私を怖がっているだけだもの。

「ごほん。まず、私は怒っていないわ。
 ちょっとお兄さんに馴れ馴れしいからイラッと来ただけ」
「それが怒っているってことじゃないのだ?」

 正論だけに何も言えない。
 でも、タルちゃんの上位に立たなければと思い、
 手を彼女の顔に伸ばして鼻を摘まむ。

「なのだは?」
「禁止・・・だよ・・・」

 にっこり笑っておきましょう。

「その怒っている匂いって種類はあるのかしら?」
「とと様が怒った時はもっと臭いよ。
 いっぱい種類はあるのかもしれないけど、タルは知らない」
「ははははは」
「アルカンシェは笑うのが下手だよ」

 ちょっと口にしづらい単語なだけだから。
 私だって笑うのも仕事のうちだし大丈夫なはず。
 笑っているわけじゃないのよ。

「発情の匂いの種類は?
 誰に向いているとかわかる?」
「かか様が・・・」
「あ、そこは深く掘り下げなくて大丈夫です。察しました」

 きっと発情期・・・。

「漂ってるだけで誰に向かっているのかとかは臭くないとわからないよ。
 アルカンシェはにーにぃに発情してるのだ?」
「発情って言わないでください。
 私からお兄さんに向かっている事は内緒ですよ」
「え?でも、にーにぃからも・・・」
kwskくわしく!!」
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