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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -19話-[小憩2]

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 やはり王都の南門から西門への道のりは長かったですね。
 戦場を高所から見つめる私の横に並ぶリッカが口を開く。

「土の国も魔法剣を扱える方が少なく足取りが重いにも関わらず、
 きちんと城下町には届いておりますね」
「重歩兵が主な戦力ですからね。
 おかげで負傷者は一番少なく済んでいます」

 とはいえ足が遅かったのは確か。
 今の様子から城下町に届いて然程さほど時間は経っていないでしょう。

『光精が1人しか出てないねぇ~』
「うちと同じで休憩を回し始めたのかもしれません。
 中央天幕は・・・あそこでギルド天幕も特定出来ました」

 先にアーグエングリンのギルドマスターに会いましょうか。
 きちんと対話するのは始めてですし、少し楽しみです。

 さっそくリリトーナさんに接触する為にアーグエングリンの陣営へと入り込む。
 アスペラルダと違って戦場が近く生息する魔物も強いので、
 天幕を護り固める戦力も新兵などは使っていない。

 まぁ、ここまで遠いですからね。
 新兵なんて足手まといになって仕方ないでしょう。

「こんにちわ、お疲れ様です。
 リリトーナさんにお目通り願います」
「あ、貴女様はアスペラルダのっ!?
 確認して参ります!少々お待ちくださいっ!!」

 流石に訪問者を想定しての人選をしていましたか。
 私の顔をみてすぐに誰か判断が出来る他国の兵士とは、
 なかなか有能な人材が揃って居るみたいです。

「お待たせ致しました、すぐにお会いになれるとの事です。
 中へお入りください」
「ありがとう。
 トワインとフロスト・ドラゴンエルレイニア様は待機でお願いします」
「わかりました」
『了承』

 2人を入り口に残して、
 ギルド天幕には水精スィーネとリッカが着いてくる。
 街に作られた拠点と違って天幕は大きくない。
 その為、より少数で入った方が迷惑では無いと判断しての行動だった。
 内部に入ると職員から天幕の奥へと案内される。
 衝立で隔離されたそこには大きめの簡素な机が設置されており、
 リリトーナ=イブニクスは小さな身体で多くの書類と格闘をしている様子であった。

「お疲れ様です、アルカンシェ様!」

 ガタッ!と椅子から立ち上がったリリトーナさんでしたが、
 身長が少し下がったような気がしないでもないです。

「お疲れ様です、リリとーナさん。
 挨拶に立ち寄っただけなのですぐ出ますので座られていて大丈夫ですよ」
「すみません、お言葉に甘えさせていただきます。
 アーグエングリンへは視察というところでしょうか?」
「各国が城下町に辿り着きましたから少し時間が出来ましたので。
 宗八そうはちが手を回して瘴気の対策を進めておりましたが、
 改めて自分の目で確認に参りました」

 顔色が悪かったので座らせたというのに、
 またガタッ!と椅子から立ち上がるリリトーナさんを手で制して再び座っていただく。

水無月みなづき様には色んな方面で助けていただきました。
 ギルドマスターとしてお礼を申します」
「どちらかと言えば自業自得な部分もありますし、お気になさらず。
 逆に巻き込んだ形になって申し訳ありません」
「いえいえいえ!それは違います!!
 他国の危機に瘴気を相手となると一国抜けるだけでとても大変ですからっ!
 もし光の国もしくは水の国に大きな被害が出れば、
 最終的に我が国が受ける影響は多大なものになっていたでしょう。
 ですので、参加して浄化も出来るようにと立ち回ってくださった水無月みなづき様には感謝しているのです!」

 おぉう・・・。
 ずいぶんとお兄さんを評価してくださっているんですね。
 結局ガタッ!と立ち上がって力説してくださるリリトーナさんに驚きながら、
 3度目の着席を促す。

『お兄ちゃん、何をしたの?』
『量産型精霊使いを作って一閃の基礎を教えただけ~』
「まぁ、完全な制御は難しいので効果は私たちの比ではありません。
 代わりに数を増やして対処しましたが、
 才能や努力が必要なので想定の数は揃っていないんですよ」
『へぇ~・・・』

 聞いてきたスィーネさんにアクアちゃんと共に説明しましたけど、
 少し不機嫌になった気がします。
 精霊使いは精霊にとっては特別な存在だそうですから、
 質の悪い精霊使いを増やしたことを面白く思っていないのかもしれません。
 他2国を含めれば数千人単位ですし・・・。

 よし、フォローはお兄さんに任せましょう。

「私の護衛隊長。
 宗八そうはちを高く評価いただきありがとうございます。
 本人は休息中ですので来ておりませんが、
 私からきちんと伝えておきましょう。
 この後はファグス将軍の元にも顔を出す予定ですが・・・、
 拳聖けんせいとも接触することは可能でしょうか?」
拳聖けんせいエゥグーリア=ワグナールですね。
 ちょうど数時間前に交代で休憩を取っているはずですので可能でしょう。
 スキル[眠れる獅子]のお陰もあって不眠で戦えるので、
 此度の戦争中に眠る予定はありません」

 ユニークスキル[眠れる獅子]。
 今代の拳聖けんせいエゥグーリア=ワグナールが所有するスキルで、
 効果は単純に寝貯めが出来るというものだけれど、
 1ヶ月は不眠でもコンディションを崩すこと無く戦い続けられるという代物。

 種族は獣人族[レオプィル]。
 動きは素早くなく力のみに特化した種族だったはずですが、
 突然変異なのか大きな身体と素早く動ける下半身を授かり産まれたワグナール様は、
 その才覚を成長させて拳聖けんせいにまで辿り着いた。

「助かります。
 戦争後にアーグエングリンへお邪魔した時にお願いがございまして。
 先に約束を取り付けておきたいのです」
「獣人の武人で国には協力してくださりますが、
 実際は縛られて居ない身の上の方です。
 姫様の立場と拳聖けんせいの立場に上下関係はありませんので、
 念のためギルドマスターの書状を用意しましょう」

 お兄さんとも相談しましたが、
 やはり独学での拳闘にも限界がある。
 マリエルの動きは妖精の力を解放した時点で押し負けるのは確定だし、
 さらに今となっては[ユニゾン]も習得した為、模擬戦も訓練になるか・・・。

 魔法関連はまだまだ私も成長するし切磋琢磨出来るけれど、
 徒手空拳の地力を上げるには適役が必要になる段階にきている。

 もしご協力いただければ、
 マリエルはもっと羽ばたいて妖精族も引き籠もり意識改善に役立てる事でしょう。

「こちらをお持ちください。
 善戦をお祈りしております」
「ありがとうございます」

 リリトーナさんが素早く書き上げた書状を受取お礼を伝える。
 裏返すと蝋で閉じられた上からギルドマスターの印が押され、
 下部にはリリトーナさんのフルネームも書かれていた。

 次はファグス将軍、その後に拳聖けんせいですね。


 * * * * *
 将軍の控える天幕に近付くにつれ兵士も増えてきた。
 私の顔を直接知らなくとも、
 アスペラルダのマントを装備した私と水精、それに竜。
 こんな非常識な面子が揃っていて、
 声を掛けるのに躊躇いを持たない者はそうは居ない。

「申し訳ありません、こちらへはどのようなご用件で?」
「ファグス将軍にお目通りを願います。
 身分証はこちらになります」
「失礼、拝見致します」

 意を決した者が声を掛けてきたので、良い機会と思いギルドカードを手渡す。

「え”っ!?」と声を出してカードと私の顔を数度交互にみて、
 最終的に震える手でカードを返してきた。

「大変失礼致しました。
 アルカンシェ姫様とは露知らず、申し訳ございませんでした」
「かまいません。
 ついでに将軍の元までの案内をしてくださると助かるのですが?」
「かしこまりました。
 僭越ながら私めが案内を仕ります」

 伝令であろう者が走って行く。

 これからも余計な足止めは面倒です。
 使える者は使って将軍までの道のりを整地してしまいましょう。
 本来はこういう雑事に近い話し合いは側使いのリッカが出るのが常識だけど、
 臨時メイドのリッカがギルドカードを出しても私の身分の証明にはならない。

「な、なんでしょうか?」
「なんでもありません。
 リッカの扱いも正式にどうするかちゃんと考えないとですね」

 今のところお兄さんが火精かせいフラム君を貸したりして戦力に加えていますが、
 実際のところ訓練相手としか有用性を感じられていません。
 メリーがリッカほど強いわけではありませんが、
 長年の付き合いに慣れ、そして戦力としても十分な侍女が居る。
 お兄さんにもクーちゃんが居ますからねぇ・・・。

「お疲れ様です、ファグス将軍」
「アルカンシェ姫殿下ひめでんかのおかげで比較的疲れは軽微で済んでおります」

 天幕に着くなりすぐに将軍への謁見は叶った。
 将軍への挨拶を済ませその横に立つ闇精霊ムーンネピア様へと顔を向ける。

「緊急の連絡はありませんでしたが、何か異常はございませんか?」
『紅い夜と魔神族の出現以外特には。
 あぁ、一応報告があるとすれば朝方の雷球後に一度空間が開きましたね。
 すぐに閉じましたが・・・』

 ユレイアルド神聖教国に派遣した闇精クロエ様と違い、
 ムーンネピア様はアルカトラズ様の命令で協力頂いているので少しぶっきらぼうです。

 報告の内容的には苛刻かこくのシュティーナが霹靂へきれきのナユタを助けたという事でしょうか。
 ともかくお礼は伝えておかないと。

「情報提供ありがとう存じます」

 無言で頷かれたので続いて土精パラディウム様へ声を掛ける。

「複合禍津核まがつかくモンスターで活躍されたと伺っております。
 改めてこの度はご協力頂きありがとうございました」
『水無月さんだけでなくアルカンシェ様にも眷属がお世話になっていますから。
 逆に協力が私とネルレントだけで申し訳なく思っています』
「いえ・・・。あ、そうでした」

 これ以上は互いの謙遜祭りになりそうなのでパラディウム様のお言葉を受けて、
 すぐに丁度話しておかなければと思っていた用件を口にしながら手をパンと鳴らす。

「昨夜相手をした禍津核まがつかくモンスターから救助した土精を預かっておりますが、どうしましょう?」
『同胞がまたご迷惑をおかけして・・・。
 動けるようであればこちらで預かりましょう』
「分かりました。
 リッカ、影に入って土精の彼を連れてきてください」
「かしこまりました」

 少しコツはいるものの、
 クラン用に入室を許可しているのでリッカは命令を受けるとその場で影へと入っていく。
 少し待てば影からようやっと動けるまで回復した土精を連れてリッカが戻ってきた。

『私はポレヴィークの位階を持つパラディウムである。位階と名を示せ』
『位階はノーム、名はありません』
『土地着きではなく放浪精霊か?』
『その通りでございます。
 元はベヘモス位階のベリアル様の下で育ちましたが、
 ある程度成長したので外へと出た途端に捕まりました』

 精霊の位階についてはよくわかっていませんが、
 セリア先生の位階はジン。
 スィーネさんの位階はウンディーネ。
 種類が多い位階については細かく聞いていませんから、
 こういう話に中途半端な介入は面倒を増やすだけです。

 全てパラディウム様に任せているうちに計画通りに情報は引き出せた。

「彼は引き取れそうですか?」
『はい、今回の協力終了後に里へ連れて行きます。
 改めて感謝を申し上げます』
『助かりました』
「もう数日拘束してしまいますがよろしくお願いします」

 頷く2人から視線を将軍へと戻します。
 土精を返すのも予定のひとつですが、
 将軍との話し合いもまた必要な事ですからね。

「本日の御用向きはどのような?我が国が心配でしたか?」
「心配事はアスペラルダも同じですが、
 私は旅も経験して実際に自分の目で見る事の大切さを知っているだけですよ」
「左様ですか。
 ご予定としてはどのような点を気にされておられるのですか?」
「未知の脅威がないか、魔神族の痕跡がないか、協力者の様子はどうか、今後の布石を置く。
 この程度でしょうか」

 確認する声に合わせて指を順々に立てていきます。
 このうち協力者の様子に関してだけが今半分ほど確認出来ました。

「ここまでは如何でしたか?」
「今のところは何も。
 私だけではなく精霊も竜もいるので何かあればすぐに相談致します。
 残りの光精2名はどこに居られますか?」
「何も無いに越したことはありませんな。
 光精はアスペラルダに合わせて交代で休憩に入ったところです。
 クリームヒルト様はまだ戦場に出ておいでですよ。
 案内を出しましょう」

 気が利く将軍ですね。
 我が国にも欲しい人材ですがフィリップも似た感じだし。
 どちらかと言えばこの方は文官寄りの武官でしょう。

「助かります。
 そのまま拳聖けんせいの下へも案内は可能でしょうか?」
「案内するように伝えましょう。
 最後にひとつこちらからも質問よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「精霊使いは今後どうなさるのですか?」

 どうするも何も、
 世界中に精霊使いの目を蒔いておくのが私たちの目的です。
 その上で今回のような対処が出来るように調整するのには協力しましょう。
 ですが、基本は各国にお任せ致します。

 必要ではありますが全部を全部お兄さんが対応するには、
 時間が掛かりすぎて本来の目的である魔神族の調査が滞ってしまいますからね。

「精霊使いは結局の所、契約した精霊との絆次第で大きく化けます。
 人間がアイデアを出して精霊が形とする事で戦力も増すので、
 別に宗八そうはちを目指す必要はありませんよ」
「無精は力が弱いのですよね?
 今後の展望などは見えておられるのですか?」
「アニマ様の成長に合わせて条件を満たした無精は加階かかいすることも出来るでしょう。
 ですが、実際のところはある程度精霊使いとしての動き方が決まれば、
 無精では居られないと思います。
 最低でも半年は見ておいた方がいいかと・・・」

 うちのゼノウPTがやっとそれぞれの精霊が進む方向を定め始めたくらいです。
 付け焼き刃の量産型精霊使いでは、
 まだまだどうしたいとか言える場面ではないですよ。

「わかりました、色々と検討してみます。
 また、状況が落ち着きましたら場を設けて頂けると助かります」
「はい、その時は宗八そうはちも一緒に話せると思いますので」

 その言葉を最後にきびすを返す。
 背後ではファグス将軍に命令された兵士が私達の後を慌てて追ってくる気配を感じつつ、
 天幕の外へと歩き出した。


 * * * * *
 フォレストトーレのクランがひとつ。
 風鳴の刃の戦闘力調査を終えた後は、
 順調に各クランを巡ってストームエタニティーとシエラシスターも調査を完了した。

 どちらもリーダーは飲み会に参加していて不在。
 とりあえず上手く話に乗って模擬戦にはアネスとモエアが参加したのだけれど、
 どちらも結構余裕をもって勝利を収めていた。

 やっぱりクランリーダー達の訓練は、
 冒険者の訓練とは比べものにならないくらいに濃いのだと実感する。
 アネスはメイスと魔法、モエアも弓とナイフを使って完勝していた。

「時間的にも丁度いいですね。
 最後にサモン・ザ・ヒーローを見てそのまま酒場へ寄って戻りましょう」
「お酒~!」
「軽い運動には丁度いい感じでしたねぇ。
 もう2戦くらいしても良かったかもしれません」

 サモン・ザ・ヒーローの天幕の近くが酒場なので、
 ここまで近付けば自然とお酒の匂いも届きますね。
 モエアの視線がちょくちょくそちらへと逸れるのを私は見逃していませんよ。

「そろそろサモン・ザ・ヒーローの陣営に到着しますから、
 モエアは気を引き締めてください。
 お酒は何度も言いますが・・・」
「わかってる~、全部終わったらでしょう~!」
「モエアのお酒好きも困った者ですね。
 前はそこまで執着しなかったではないですか?」
「やっぱり運動量が増えたし!
 楽しみの度合いが段違いになったし!!」

 私もお酒を嗜みますけど大体は2杯程度で満足しますから、
 モエアがここまで好きなのは理解は出来ないけれど、
 私は契約無精ペルクと話す時間が好きだからそういうものかなと思うことにしている。

「こんにちわ、こちらはサモン・ザ・ヒーローの陣営でお間違いないでしょうか?」
「応、本当に来たな。
 まだ若いお嬢さん達じゃ・・・若くはないか?」

 まだ20代の女性3人を前にお爺さんが出迎える。
 それに口振りから私たちが道場破りのような事を行っているのもお見通しのようですね。

「まだ若いですぅ~!」

 モエアはちょっと静かにしていて欲しい。

「お爺さんのお名前を教えて頂けますか?」
「なんだぁ~?知らねぇでここまで来たのかよっ!
 俺が[サモン・ザ・ヒーロー]のクランリーダーのクライヴ=アルバードだよっ!」

 酒場で飲んでいるはずのクランリーダーが何故ここに?
 と考えた所で、今まで巡ったクランの方が知らせたのでしょうね。
 改めて目の前の豪快なお爺さんを見つめる。

「自己紹介ありがとうございます。
 クラン[七精の門エレメンツゲート]のメンバー、フランザ=エフィメールです」
「それなぁ・・・、聞いたこともねぇ名前なんだよなぁ。
 クランランクとリーダーは誰だい?」
「クランランクはF。リーダーの名前は・・・」

 えっと・・・これ言って良いんでしたっけ?
 でも、実際クランリーダーって水無月宗八みなづきそうはち名義で登録していますよね?
 ギルドで調べれば分かることだし、堂々としていましょう。

「リーダーの名前は[水無月宗八みなづきそうはち]。
 アスペラルダの王女、アルカンシェ姫の護衛隊長を勤めているお方です」
「あー、今回の主催者か。なるほどな。
 で、お前さん達はクランを巡って何をしとるんだ?」
「冒険者の状態や戦況を目で見て判断して回っております。
 個人的には貴方に興味がありましたが・・・」

 腰を持ち上げたお爺さんが立ち上がると、
 かなり身長が高い人物であることがわかる。
 セーバーより大きい人、初めて見ました。

「こんな爺さんに姫様のクランメンバーが何の用だよ」

 さて、思い描いていた出会いではありませんでしたが、
 想定よりも早く私の質問を口に出来る機会が訪れました。
 ただし、事は慎重に足を踏み出さなければならない可能性があります。

「――ふぅ。
 仲間から伺いました、クランリーダーの名前が違うと。
 この王都で何かがあったのでしょうか?」
「――何か知ってんのか?」

 ゾクッ!
 気付けばしゃがみ込んで私の顔を覗き込んでいるアルバードさんの顔が目の前に。
 動きが見えなかった。反応出来なかった。
 技術なのかスキルなのかはわからなかったけれど、
 今まで模擬戦を挟んだ冒険者達とは格が違う・・・。

「詳しいお話を伺わなければ知っているかはわかりません。
 追っている敵が同じなのかも・・・」
「――それもそうだな。悪い、ちょっと感情的になってしまったな」

 アルバードさんが離れると同時に自然と一歩下がってしまう。
 その肩をモエアとアネスがそれぞれ受け止めてくれ、
 笑みを持って私を支えてくれる。
 1人だったら飲まれていた事を想像すると冷や汗が出る。

「お爺さ~ん、女性にその態度はないんじゃな~い?」
「今のは酷いと思います」
「謝ったじゃねぇかよ。
 こっちもわざわざ冒険者を復帰してまで追う覚悟をしたんだ。
 少しくらい必死になってもいいだろ。
 おめぇらも聞き耳立ててんじゃねぇよ!訓練でもして時間潰してろっ!!」

 私を背中に隠すように文句をアルバードさんに言う2人に護られながら様子を伺うと、
 クラン内部でも今の彼の対応は悪かったと思う者も多く、
 方々から名指しで軽い批判が上がった。

 それも彼の一声ですぐに収まってしまったけれど。

「では、改めて聞かせください。
 前クランリーダーに何があったのですか?」
「俺もクランメンバーから伝え聞いただけだから、まぁ俺も詳しくは無いんだがな――」

 アルバードさんの語る内容は、
 聞けば聞くほど覚えのある内容だった。
 つまりはフォレストトーレ王にリーダーだけを呼び出され、
 帰ってきたら様子が変わっていた。

 以前のリーダー、メーフィア=エステバンはアルバ―ドさんの孫娘婿に当たるらしい。
 だから名前が違うんですね。

「――じゃあ、お前さんも被害者ってぇわけか」
「そういう事です」

 実のところ、ペルク以外の多くの[人形ドール]は捕縛されていた。
 とはいえ、全員を捕らえられた訳ではないのはギルドも各国も理解はしていて、
 今回の大戦が始まる数日前に把握出来る限りの人形ドールは全員死んでいる。

「そのタイミングでメーフィアは死んだのか。
 孫娘と家族が様子がおかしいからとほとんど隠居してた儂を勝手にクランリーダーに置き換えやがってな・・・。
 一応メーフィアの前にクランリーダーをやってたからな、
 反発もなく受け入れられてここに来ちまった」
「そんなご事情があったのですね。
 私たちのかたきはあそこの城に留まっている魔神族と目されています。
 属性などから勇者プルメリオ様がお相手をする予定です」
「なんだ?俺たちゃ戦う機会も与えられねえのか?」
「立候補するにしても、
 うちの隊長くらいに戦えるのは最低条件ですが・・・」
「隊長?」

 そして私たちはアルベードさんに懇切丁寧に。
 どのくらいの事が出来ないと戦う権利がもらえないかという旨を説明した。

 まず流星開戦。
 隊長1人のお力では無いにしろ発動の中心人物である事に変わりは無い。
 次に夜の時間に3人で瘴気モンスターを100体以上を撃破。
 これもアルカンシェ姫とリッカさんが居たとはいえ、
 彼は半分を相手にして余裕であった。
 さらに月の破壊、城下町での大戦闘を説明し終わった時にはアルバードさんも唸るだけのお爺さんになってしまった。

「うぅ~む。その隊長さんは精霊使い・・・だったか?
 聞いたことのない職業だが、確かに自分の目で見たものも含まれてやがる・・・。
 あんな化け物染みた戦闘はお手にはちと無理だ」
「でも、さっきの動きとか見ても、
 お爺さんの戦闘力は段違いだったわね~」
「命を軽んじるわけではありませんが、
 希望をするなら隊長や姫様へ口添えは可能です・・・」

 ちゃんと模擬戦を挟んで判断したわけじゃ無いけど、
 2人が言うように勇者様の仲間よりは強いかもしれない。
 何より気持ちの面で憎悪と復讐は力になる。
 どんな無茶をしてもでも相手を殺すと。

 そしてアルベードさんはもうお歳もお歳です。
 言ってはなんですが、死に物狂いをその身で体現するかもしれない。

「隊長達が慎重に調べて、時には死闘を繰り広げてわかった事ですが、
 高濃度魔力を用いた攻撃でなければ魔神族にはダメージが通りません。
 私やアルベードさんが魔神族と戦う場に居ても邪魔になるだけです。
 ただ、戦える人をその戦場へ届ける役が精々となります」

 残された家族だって、
 続けてアルベードさんまで失ってしまうとどうなるか・・・。

「――どうしますか?」

 私たちの言葉を真剣な表情で聞いている。
 周囲のクランメンバーも、
 同じく耳を傾けていたのでそれぞれが色々と考えている様子。

 ダメージなくして勝てる道理はない。
 されど、復讐に燃える心を無視も出来ない。
 仲間を失った悲しみも、やり場の無い感情は持ち続ける事となる。

「お前さん・・・フランザだったか。
 そこまで理解をしていてお前さんの選択は戦わないことなのか?」
「直接は戦いません。
 隊長や姫様ですら倒せない相手を前に私に出来ることはまず無いでしょうから。
 ですが、どうやら仇はグループで何かを成そうとしている様子で、
 被害は世界中に広がっています」

 確かに私の仇は魔神族の中でも隷霊れいれいのマグニでしょう。
 しかし、その者を勇者様や姫様達が討伐せしめたとしても、
 他の魔神族がまた大勢を殺すだろう。

「隊長と姫様に着いていけば必然的に魔神族と衝突します。
 そして、戦い方が正面からのぶつかり合いだけでは無いことも学びました。
 悲しみの連鎖を断ち切る為なら。
 私は仇への執着を続けるのでは無く、出来る事をして魔神族の思惑を妨害する事に決めたのです」

「――そうか」

 自分の手での討伐は諦めたけれど、
 せめて思惑が十全な形で成されない様に動く。
 そうすれば、戦える人たちの助けになる。

 サポートに回り、勝率を上げる役に徹することを決めたのだ。
 この選択をペルクが喜ぶかはわからないけれど、
 私の中では勝算が一番高い復讐方法を選んだつもり。

「私は私の戦い方を選んだだけですが、
 改めてアルベードさんはどうされたいですか?」
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