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第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

†第12章† -14話-[鬼《オーガ》]

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「わかってるな!メリオ!」
「わかっていますよ!水無月みなづきさん!」

 叢風むらかぜのメルケルスはおそらく瘴気の流れを創る為に動けない。
 相対するのであれば霹靂へきれきのナユタとなる。
 俺かメリオか。

 メリオは磁界が使えない。
 磁界が使えないと[アポーツ]でやられたい放題になってしまう。
 もし、ナユタがメリオの元へと来た場合はマリエル達の制御範囲に入らなければ戦闘にすらならない。

「「健闘を祈るっ!!」」

 その言葉と共に俺達はそれぞれの戦場へと分かれて進む。

『魔神族は瘴気モンスターを操るまでの力は無いようですね。
 やはり、生命力の高さでフリューネに多くの飛行モンスターは向かっているです』
「多少の奇行種が俺達にも来るけど、今更だな。
 既出のモンスターなら対処方法もわかっているっ!」

 瘴気+コウモリ=ヴァンデットハイハスター
 瘴気+蜂=ジャイアントキリングホーネット
 瘴気+鳥=ガエゴランブラックバード
 瘴気+蝶=エサヌカバタフライ
 瘴気+蛾=コウスオクシャク
 瘴気+ハエ=エイテンスフライ
 瘴気+彫像=ガーゴイル
 瘴気+剣=バーサクブレイド
 瘴気+蜥蜴とかげ=ドラゴンフライ

 同じ素材でも別種が複数含まれるけれど、
 地域による分布状況によってそれぞれの種類の中で多いのはこのモンスター達だ。

「《水竜一閃すいりゅういっせん!!》」

 目的の高度まで降りる間に上記の瘴気飛行モンスターはいくらでも沸いてくる。
 それらを掌底しょうていで穿ち、剣で斬り伏せ、魔法で落とし、一閃で身体を分ける。
 右に躱せば他3方向から襲われ、
 左に躱せば他3方向から襲われ、
 下に躱せば、上に躱せば結局同じ事。

 すでにこの短い時間の間に100は潰して。
 瘴気の破片も同じく100個、城下町の瘴気へと還っていった。

「やってられんな」
『同感です。マスターが時間を無駄にするのはニルやセリア先生にも影響するですよ』

 だよな。
 水竜一閃すいりゅういっせんも今や腰元の龍の魔石から溢れ出る高濃度魔力を巻き込めば十分な威力を持つ。
 もちろん瘴気モンスターが瘴気の鎧を持っているとしても、まるごと屠れる。
 まぁ、ランク6までが精々だがな。

 それでも一閃は一閃。
 薄く鋭く研ぎ澄ませた故の威力。
 しかし、薄く鋭く研ぎ澄ませた故の範囲の狭さが今回は問題となる。

 対象が遠ければ届く頃には圧縮した一閃が飽和状態となり刃は広がる。
 逆に範囲は広がるが威力は落ちる。

 なら、回答は?

「結局、龍の魔石が最高ってこった!!」

 周囲の敵影多数!仲間の影はっ!?

『範囲外です!存分にやるですよっ!!』

 手にするアクアーリィブレイドお魚さんソードを両手握りに構え直し、
 次の動きに繋がるように、動き出しを始める為に息を吸って肺を満たす。

「《来よ!》」

 軸を一点に扱える制御力を限界まで解放し身体の回転を開始。
 一週目で龍の欠片は砕き、
 その短い間にアクアーリィブレイドお魚さんソードから発せられた魔力刃と欠片の高濃度魔力が混ざり合い剣身はぐんぐんと伸びていく。

 蒼天そうてん色の魔力刃は宗八そうはちが身体を一回転させる内に全長50mの超極大剣へと姿を変え、
 伸びる過程で斬り付された瘴気モンスターは数知れず。
 極大剣に接触する瘴気モンスター達は四肢が千切れ、
 傷口は凍てつき修復も出来ないままある者は落ち、ある者は瘴気へと還っていった。

蒼天そうてん穿うがて!氷刃剣戟ひょうじんけんげき!!」

 ひと息のまま、新しい技の名前を気持ちの躍動するまま轟き叫ぶ。



「《氷竜聖剣グラキエルエクスカリバーッ!!!」



 完成した極大魔力剣は俺の成長した制御力を、
 出力いっぱいいっぱいまで使って押し固めた飛ばしていない一閃だ。

 だが、使用出来る=が制御出来るというものでもない。
 高濃度魔力の取り扱いに関してはまだまだずぶの素人の俺に出来るのは、
 飛んでいかないように今の状態を一定時間キープするのが精々で長時間の利用は出来ない。

 故に。

「推して参るっ!!」

 直後に今回のパートナーである土精ノイティミルが重力を制御して、
 水無月宗八みなづきそうはちの中心に反重力を発生させる。
 これにより起こされる戦闘方法は・・・。

「はああああああああああああっ!!」

 身体は回転する。縦に。横に。
 腕の可動域など関係の無い。
 その場で身体を縦横無尽に回転させることによって、
 360度全ての瘴気モンスターを斬り伏せる。

 まるで食い散らかす様に周囲の空気は剣が通り過ぎた後には残らず、
 蒼天そうてんに輝きながら魔力刃は確実に空を飛ぶ敵の数をごっそり減らしていく。

 夜に遠目で見れば、
 スフィアの様に煌々と輝く珠が城下町の上空に浮かぶ幻想的な光景であったことだろう。
 が、実際は殺されたモンスターが夥しい数の瘴気へと還っており、
 黒い雨の中の月を彷彿させる光景であった。

『マスター。制御限界3秒前』

 3。

 2。

 1。

「《氷竜一閃ひょうりゅういっせん!!!》」

 敵の層を一枚破ればその先にはくだんのレイス層が見えてくる。
 蠢く次の敵に向けて最後に刃を振り下ろす。

 魔力刃は形を変えて、いつもの一閃がレイスを飲み込む。
 残るのは魂と斬り分けられて落下していく瘴気の欠片のみだ。

「《来よ!》《エクラディバインダー!!》」

 俺専用の亜空間。[宝物庫ほうもつこ]。
 そこから召還したるは、クラウソラスを武器加階ウェポンエヴォルトさせた姿。エクラディバインダー。

「《星光せいこうかがやけ!星光天裂破せいこうてんれつは!》」

 先の落下を始めた瘴気をまずは素早く浄化する。
 とはいえ、氷竜聖剣グラキエルエクスカリバーの範囲の方が倍広い為、
 とりあえず半分だけの浄化に留まった。

『上からは空飛ぶ瘴気モンスター、横からは浮遊瘴気モンスター、
 下からは瘴気モンスターと魔神族。
 ここが噂の地獄です?』
「解放後はラフィート王子が治めるかもしれない都市だぞ。
 滅多なことを言うんじゃねぇよ」

 こっちは無事に1層目を突破して2層目に到着した。
 メリオはどうだろうか。
 ピンチの連絡も無いことからあちらも辿り着けていると願いたいものだ。

「(ニル、風珠かざだまはどんな感じだ?)」
『(予想よりも重くなっていますわねー!
 蓄積率は40%を超えていますわー!)』
「(70%を超えたら教えてくれ。一閃で浄化を挟む)」
『(かしこまりーですわー!)』

 浄化はこっちも進める必要のある作業だ。
 だが、メインとしては彼女たちの[風珠かざだま]で集めた瘴気を浄化が目的となる。
 そして魔神族の捜索と討伐も俺と勇者の役目だ。

『建物がほとんど崩れてるですね』
「瘴気モンスターへの変換効率は不明だが、
 レンガ数個で産まれるならあんな感じに崩れるかもな、っと!」

 先ほど倒したガーゴイルの産まれたかもしれない家をのんびり観察もさせてくれないレイスをぶった切る。
 とにかく、魔神族を早い内に探さないと戦うことも出来やしない。

 俺達は風の渦で囲われた城下町内を回り始める。
 敵を倒し、浄化を行い、ニルから連絡が入れば風珠かざだまへ向けて一閃を放つ。
 暗くなる前に魔神族を補足したい。
 そんな焦る気持ちを胸の奥にしまい込んで捜索を続ける。

 夜を前に空には雨雲が集まり始めていた。


 * * * * *
「先も説明致しましたが、
 アルシェ様PTは交代を予定しておりますので、
 遠くの担当は私たちとなります。
 行きは進行を優先し全力戦闘を行いますのでよろしくおねがいします」
「了解!だが、速度は抑え気味で頼む!」

 サブリーダーに任命されたゼノウは、
 初のPTリーダーを勤めるメリー達のサポート役として他メンバーの様子も伺い進言する。

 ゼノウ様の言う通りでした。
 皆様の筋力は脚力に特化していません。
 メリーさん、速度を落とすか[風影輪ウンブラ・ロタ]の出力を上げましょう。

「皆さん、足回りを上げたいのですがいかがでしょうか?
 PTリーダーは初めてですので素直な意見をいただけると助かります」

 私は振り返りメンバー声を掛ける。
 視界には普段は揃って見慣れない、
 ゼノウ様・ライナー様・ノルキア様の顔を伺いました。

「ん~、じゃあ、はっきりと言うけどよ。
 呼吸と足の動きが合ってなくて動きづらいな。
 けど、行きだけってなら我慢するっ!」
「進みはしていますが、いつもは[アクアライド]ですので違いに戸惑っています。
 こちらもライナーと同じ意見です」

 ゼノウは言うまでもなく付いてこようと思えば来られるのは知っている。
 けれど、他2人は魔法使いではないし、
 契約精霊も無精の為に慣れている[アクアライド]でも今の移動速度には付いてこられない。

 あくまで全員で移動が出来ているのは、
 先までの戦闘に使っていた制御力を今は全員の移動魔法に割り当てているが為だ。

「では、申し訳ありませんがもう2段階出力を上げます。
 アスペラルダ最奥、アーグエングリン側に瘴気モンスターの集団が移動していますので」
「「「応っ!!!」」」

 いくつかの集団は見えておりますがまだ対処するに値しないでしょう。
 アルシェ様からのご命令は兵士たちの前進の邪魔になりかねない集団を叩くという事。
 数こそは少なくともこちらへ向かう集団はいくつか存在している。
 が、規模を見極めることが今回の命令では肝要。

「集団の間を縫うように進みます。
 遅れないように付いてきてください。
 追ってきた個体が居ても無視しても大丈夫です」
「「「了解」」」


 * * * * *
 瘴気モンスターの大きな塊接近~!

「全員停止!この場で敵を迎え撃ちます!
 ディテウスはこちらを気にせず一旦好きに戦いなさい!」
「了解!」

 瘴気モンスターのほとんどがお兄さん達へと食い付き始めてから、
 私たちは遊撃として動き出していた。
 移動中にアクアちゃんの索敵に引っかかった大きめの集団を叩いて、
 後方から急ぎ前進してくる兵士達の手助けをする為だ。

「姫様、配置につきました!」

 お兄さんの命令でクランメンバーをバラバラでPTに組み込んでいるので、
 ゼノウRTの魔法使いフランザとセーバーPTの弓使いモエアは後衛として顔を合わせる事も多いけれど、ディテウスはどのジョブもそれなりに熟すタイプとはいえどちらかと言えば前衛の人。

 前衛はお兄さんの担当・・・というわけではありませんが、
 私はあまり絡んだ事が無くてよくわからないのです。

「モエアはディテウスと同じPTなので、彼の支援は基本的に任せます。
 私とフランザは接敵する前の敵と側面から回り込む敵を対処しましょう」
「りょうか~い♪」
「了解!」

 モエアはお気楽お姉さんといった感じでフランザは真面目さんと真逆の性格をしていますが、
 どちらも仕事はちゃんとするのは知っていますから、
 同じPTとしてモエアにひとまずディテウスは任せます。

 その間にディテウスの動きを見極めて支援射撃をしたいんですけど・・・、
 なんでもござれだとそれぞれの武器で動きって違いますよね・・・?
 剣に指定しようかな?

 視認出来る敵の集団はまだ遠い。
 今のうちに数を減らしておきましょう。

「《ハイドロセイントウォーター!!》」

 ちょっと美しくないよね~、この魔法。

 新しい魔法とはいえ、
 今の魔法は本当に放水しているだけに過ぎない。
 アクアちゃんが言うように私も美しいとは思っていない。

「仕方ないわよ。
 例えばどんな形の魔法ならアクアちゃんはいいの?」

 そうだねぇ~。例えばこんな・・・とか。
 あとはこんな・・・。

 アクアちゃんのイメージを受け取った私は検討に入った。
 まず一つ目は津波のように集団を飲み込む方式。
 使い所はあると思うけど、
 今目の前にいる集団は伸びているから無駄が多いかな?

 そして二つ目は水を生き物のように動かして敵を飲んでいく方法。
 イメージはちょっと大き過ぎる竜の姿。
 アクアちゃんの成長したあとを想像したのかしら?

「1番はディテウスも居るし却下ね。巻き込んじゃう。
 2番は角度を付ければなんとか出来るけれど、
 あの規模は自由に動かす事は出来ないわね」

 そっかぁ・・・、小さい魚ならいっぱい出せるけど意味ないよねぇ~。

「5cm程度を浄化してもピンポイントで狙うのは厳しいかな・・・。
 いまはこれで我慢しましょう」

 あい!

「《フロストコメット!》」
「姫様~、集団の最後尾にオーガ種がいますよ」

 先頭を蹴散らした私の元へスキル[鷹の目]を持つモエアが報告にやってきた。
 直ぐさまアクアちゃんが左目に[ウォーターレンズ]は張ってくれたので、
 私は報告のあった個体を視覚に捕らえる。

 見た目は鬼族オーガというだけあって筋肉質ですね。
 身体から瘴気のオーラが溢れているので実際の色彩は分かりませんが赤っぽく見えます。
 身長の高さは2mを超えていて、
 角は2本あるけれど・・・頭部側面から後方へ尖るように生えている。
 腰布も辛うじて隠している訳ではなく、
 膝丈まであるズボンを履いていますね・・・。
 私の知るオーガと違いません?

「確かに図鑑でみた事のあるオーガに似ていますね。
 ランクは7でしたか?」
「そうですね~。ただ、私が戦ったオーガとかなり違ってて・・・。
 まぁでも、姫様ならなんとか出来ますよねぇ~?」

 出来なくはないと思いたいですが、
 相手したいモンスターではないんですよね。
 元より限りなく8に近い7のモンスターで、
 動きは鈍くとも攻撃力と防御力だけを見れば9とも言われる。

「今自然発生している瘴気モンスターのランクは4~6です。
 あのオーガは禍津核まがつかく製の可能性が高いので、
 一筋縄ではいかないかもしれません」
「では、アレの相手はどうされます~?」
「到着までにアインスへ連絡してみます。
 フランザとモエアは予定通りの対応を!」
「わかりました!」
「りょうか~い!」

 予定通りディテウスと敵が接触する前に2人は遠距離攻撃を開始した。
 矢と魔法が飛び交い始めた戦場を片手間に私はアインスさんへとコールした。

 ピリリリリリリリ、ピリリリリリリリ、ピリ、ポロン♪

〔はい、アインスです。いかがされましたか?〕
「集団後尾に赤いオーガらしきモンスターを視認。
 通常のオーガはゴブリン種の進化の過程を経ている為、身体は緑と思っていましたが・・・」
〔赤いオーガですか・・・。
 でしたらランク8の[クリムゾンオーガ]かと思われます。
 通常のオーガに比べれば防御力が落ちている代わりに速度に特化したオーガです。
 また、攻撃も絞られた肉体から速度が乗ったモノとなる為、
 特に貫手にはお気を付けください。並の冒険者だと即死です!〕

 速度特化のオーガ相手ならメリー達の方がよほど巧く立ち回るでしょう。
 なぜ私のところに現れたのですか?はぁ・・・。
 それに彼らを殺させない為には私が直接打ち合わないといけなくなりましたね。格上相手に。

 レベル差いくつだろ・・・。

〔メリーさんからは普通のオーガの他に先ほど、
 青いオーガを見たと報告がありました〕
「赤との違いは?」
〔青は速度が落ちた分攻撃力と防御力が上がっております。
 同じくランクは8の[インディゴオーガ]というオーガ種ですね。
 身長も3mに到達しています〕

 こっちもあっちも問題だらけね。

「まだ1体しか確認していないけれど、
 同じく動いている各国にも同様に赤鬼青鬼の情報は流しておいてください。
 あと、他国から新種のモンスター情報があれば逐次連絡をお願いします」
〔わかりました。連携を密にして対応致します〕

 連絡を切ると再び意識は完全に切り替わり戦闘状態へと移行した。

「一度浄化しましょうか」

 そうした方がいいかも~。
 気のせいかもだけど、赤鬼に瘴気が引き寄せられてる気がする~。

 何が起こっているのかわからない以上は仕事を全うすべきですね。
 私は槍を両手でしっかりと握りしめて腰と腕の稼働いっぱいまで振りかぶる。

「浄化に入ります!ディテウスは交代!
 フランザとモエアは支援を!」
「「「了解!」」」

 ディテウスがこちらを振り返り駆け出す。
 2人も彼の背後をモンスターに取られまいと必死に支援を開始した。

「《水竜一閃すいりゅういっせんっ!!!》」

 一閃はディテウスへと向かっていく。
 彼は事前に伝えていたとおりに上手く一閃を回避して再び走り始めた。
 そして、彼に襲いかかろうとしていた瘴気モンスターも、
 一閃に当たると黒紫こくしのオーラが剥ぎ取られて多少のダメージと共に動きが鈍くなった。
 その隙を使い、フランザが魔法で攻撃しモエアが弓で撃ち抜き絶命させていく。

 槍に宿した魔法はもちろん[聖水セイントウォーター]。
 その魔法から増幅された魔力と龍の魔石から溢れる高濃度魔力が合わされば、
 慣れない一閃でもそれなりに役に立つ。

 石突きを構えて突き出せば一鎚も発動出来るけれど、
 慣れている一槍に比べれば威力は心なしか落ちてしまう。

 斯くして、地面に落ちていた瘴気の欠片は全て浄化された。

「出ます!!3人はそのまま離れた位置から小物をお願いします!!」
「ご武運をっ!」
「気をつけて~!」
「すみません、お願いします!」

 戻ったディテウスと入れ替わりに前へ加速。
 岩などの段差は氷でレールを作って無理矢理乗り越えてオーガへと向かう。

 赤鬼クリムゾンオーガも私たちが目当てだったのか、
 その口はまるで笑顔のように大きく、そして醜く歪む。

 身体は引き絞るような構えを取ると、
 地面を割る勢いで急加速して真っ直ぐ私たちへと向かってきた。

「《勇者の剣くさかべ!》」

 先手必勝。

 鋭く尖る氷を射出して牽制を図るも、
 赤鬼クリムゾンオーガの腕が凄い速さで駆動したと思った時には片手に私たちの魔法は握り止められていた。

 回転も加えていたのにほぼノータイムで回転力も失われている。

『中級程度じゃダメっぽい~?』

「とは言っても大型化してもオーガ一人を相手には効果は薄いですから、
 結局槍での打ち合いになりそうね」

 真正面から接敵。
 アインスさんから聞いていた通りオーガは貫手を選択した。

 素早さはメリー達を相手に慣れている私たち。
 それでも肩から肘までの動き始めは見えていたのに、
 次の瞬間には腕全体がブレて顔の横を掠めていた。

 回避と槍での軌道変更でギリギリ接触はしなかったものの、
 オーガの指は五指とも全て鋭利な刃のように尖っていた。

 あんなのに貫かれたら絶対に無精の鎧を抜けて致命傷になっちゃうっ!!

『《アイシクルバインド!》』

「はあああああああああああああっ!!」

 足下で展開させている魔法[アイシクルライド:輪舞ロンド]で急旋回。
 オーガの動きがアクアちゃんの魔法で止まった一瞬に攻勢に切り替えて槍を振るう。

 が。

「これを受け止めるでもなく避けますかっ!?
 なんて運動神経と柔軟性・・・」

 上半身を後ろへ思い切り倒して私の槍を避けた勢いそのままに、
 オーガはバク転で下がり始めた。

『アイシクルバインドもほとんど効果がないね~。
 半端な魔法は無駄に隙を作っちゃうかも~』

「追います。加速!」
『あい!』

 離れていこうとするオーガを追って速度を上げて、
 追う道すがらに突きの構えを取る。

 捉えた、今っ!!

『《水竜一槍すいりゅういっそう!!》』

 タイミングとしてはその体勢から回避は出来ないでしょう!

 するとどうだろう。
 オーガは着地と同時に両の手首を揃え、掌をこちらに向けて受けの体勢を取った。

 普通のモンスターであれば一槍に飲み込まれて終わりだけれど、
 オーガが受けた直後に先ほども気になった鋭利な指で一槍は切り裂かれてオーガ本人には届かず周囲に群がっていた瘴気モンスターが巻き込まれ瘴気に還っていく。

「くっ!ここまで強いんですかっ!?」
『一応、高濃度魔力も巻き込んだ一槍だったんだけどなぁ~。
 瘴気の鎧は剥がせたけど、複合モンスターよりも小回りが利いて素早いと厄介だよぉ~!!』

 魔法によっては倒しうる威力は出せる。

 けれど、溜めというのは存在するし硬直も存在する。
 さらに言えばあの素早さで回避されれば逆にピンチになるのはこちらだ。

「やっぱり、槍一本に全てを回すべきかしら」
『地面を凍らせても踏み砕かれるか、爪で無効化しそうだしねぇ~。
 じゃあ、制御力は身体能力とか氷の波撃フローディングインパクトに回すよぉ~?』
「お願い。でも、龍玉りゅうぎょくはお兄さんの剣にほとんど使ってるんだよね?」

 回収しちゃうとお兄さんが竜の魔石が使えなくなっちゃう。
 作戦の本丸はあちらなので、
 こっちの都合で回収するわけには行かない。

『そだね~。残ってるだけでやるなら刃の部分だけになるよ~』

 方針が決まればすぐにアクアちゃんからイメージが伝わる。
 ちょっと見たことのない形・・・というか大きい?

「そのイメージで作るの?」
『だってアクア、剣しか練習してないも~ん。
 これなら2人の経験が活きるかなって思ったんだけどなぁ~。ダメ~?』

 う~ん。確かにアクアちゃんから伝わる武器のイメージは槍でもあり剣でもあるっぽい。
 それでも刃の部分がそれに比例して大きく、
 支える柄も長めと来ている。

 でもまぁ、身体能力に制御力を回せるなら、
 普段と違う得物も悪くはないかな。
 攻撃力もやっぱり大きそうだし。

「やってみましょう!」
『あい!《龍玉りゅうぎょく!》』

 敵が正面から一槍を受けた影響で多少の時間稼ぎにはなった。
 その短い間に方針を改めて、
 アクアちゃんはすぐに行動を開始。龍玉りゅうぎょくを呼び出した。

『斬って~!』
「はい!」

 槍の柄を短く両手で持ち、
 伸びている方へと片手をスライドさせる。
 制御力と込めた追加魔力は光を帯びて柄を進み強度と長さを増していく。

 オーガも凍てついた腕が機能し始めたのか、
 握りを確認して顔を私たちへと向け笑みを浮かべる。

「っ!」

 伸びた槍で目の前に浮かぶアクアちゃんの龍玉りゅうぎょくを素早く斬り裂くと、
 刃は蒼天そうてんに輝き一瞬のうちにその形状を変え、
 光が振り払われれば逆Vの字の綺麗で荘厳な印象を受ける穂先がお目見えした。

「行きますよ!」
『あい!』

 ガキィィィィンッ!!
 オーガの勢いの乗る爪と新しい槍・・・、いや、槍剣そうけんが正面からぶつかり激しい音と冷気が2人を包む。

「うぅぅ・・・」

 押し切れない。
 いつも使う槍に比べれば余程頑丈に作っていて、
 尚且つアクアライドも全速力で掛けているのに・・・。

『筋力不足~?』
「切り返しますっ!」

 アクアちゃんが直ぐさま反応して片足のみを交互に操作してS字に切り返す。

「ふっ!!」

 私を追う動きと視線がなめらかで無駄がない。

 突き!

 顔より当たり範囲の大きい身体を狙う。

 だが、オーガは受けるでもなく小さく回避するでもなく、
 大きくしゃがみ込んで回避した。

「何故!?でも・・・」
『ちゃんす~!《アイスランス!!》』

「GOッ!?」

 先の一槍を警戒した?
 アクアちゃんのアイスランスは見事にオーガの腹部へとHITし、
 その身体を宙へと浮かせた。

 でも、貫けてはいない。
 並の瘴気モンスターならこれで終わってるのに・・・。

 浮いたオーガを狙って伸ばした槍剣そうけんを素早く引き戻し、
 槍剣そうけんを撃ち抜く体勢に入り、丁度良い高さまでオーガが到達した瞬間・・・。


「『《シュートッ!!!》』」


 タイミングはバッチリ。
 オーガの強面に向けて撃ち放つ槍剣そうけんは寸分違わず狙い通りの軌道でオーガを貫く。

 って思ったけど、流石は高ランクモンスターか。
 両手を重ねて網目状にしてから刃を受け止めた。

 そのまま吹き飛ばされて城下町の方へと交代していったけれど、
 倒すところまでは到底届いていない。

「押し切れないわね、原因は?」
『魔法体勢も高いし効きが悪いね~。
 あとは~、槍剣そうけんを使うには向いてないモードだからかなぁ~?』

 モード?

『今はねドレスアーマーを着てるでしょ~?
 これはね~魔法を使うことをメインにした服装なの~!』
「ってことは、それを着た状態で魔法を使ってアレなら・・・」
『本当に近接をメインにしないといけないかも~?
 専用の衣装は作ってあるよぉ~!
 ますたーにも見せたことないけど~』
「ごめんね。一番に見せたかったよね」
『仕方ないねぇ~!
 ここで負けたら見せられないもんねぇ~』

 少し残念そうなアクアちゃんの声は胸の奥から聞こえてきて、
 ダイレクトに私の心にも響いてしまう。
 本当にごめんね。

 謝罪の言葉をアクアちゃんから受け取ったイメージ通りに、
 耳に付けた揺蕩う唄ウィルフラタに掛かる髪をかき上げ声を上げる。


『《|蒼天纏マテリアライズ!!》モード:ヴァルキリー!!』
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